ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三話「デビュー戦」①

……竜斗は一人、艦内後部にある格納庫の鉄橋から配置された自分の乗った空戦型ゲッターロボを憂うつそうに眺めていた。

イヤだと言ったが強引にこれから乗らされるハメになるのか……と。

 

そして隣のドックには、どうやら彼のいっていた例の別のゲッターロボと思わせるSMB二機が横並びに搬入されていた。

隣の機体は全体的に白を基調とするスラッとした体躯で第一印象はイカを思わせるデザイン。

右腕がペンチ状のアームで左腕にはこの機体の象徴ともいえる身の丈程の巨大なドリル。採掘工事でも行うのかと思ってしまう。

 

奥の機体は黄色を基調とする……どこかで見たことのあるデザインであるが。

と、彼はすぐに脳内で思い浮かんだ。

あれだ、日本製SMB、BEETタイプだ。

両肩には取り付けられた太い筒、つまりキャノン砲、両腕がよく伸びそうな蛇腹状である以外は何の特徴もないただのBEETにしか見えない。

あと彼の後ろにはBEET二機が予備で搭載されている。

 

 

後に聞いた話だが、白い機体は、

 

『SMB―GR02G陸戦型ゲッターロボ』

 

黄色の機体は、

 

『SMB―GR03A海戦型ゲッターロボ』

 

と呼ぶらしい。

 

……なるほど。三機で連携を取り合って運用するわけか。

だが、これらの機体を一体誰が操縦するのか。

(なんで俺が……他にも俺よりいい人材がいるだろ、なのに……)

 

竜斗は早乙女の言っていたことを思い出す。

 

『君には世界を救う才能がある。パイロットとしての素質がある――』

 

確かに嬉しかった。こんな何の魅力もない自分にそう言ってくれたのは彼ぐらいだ。

だけど、これは遊びではない。

架空のゲーム内ならまだしも、これは実戦で死ぬという現実(リアル)の問題が発生するのだから。

正直戦いたくない、死にたくない、そして平凡に生きたい。

今、彼の気分は最悪だった。

 

「ここにいたの?」

 

エミリアがここに来る。彼の複雑な表情を見て、彼の横に立つ。

 

「ゲッターロボね。確かにリュウトが操縦するならあのメカザウルスってヤツらをけちょんけちょんにできるかもね」

 

……軽く言ってくれるよ。自分はそれで悩んでるのに……。

 

「けどまさか水樹までここにいるなんて……」

 

話によれば、愛美は地下シェルターに行く自分達を振り切り、自分らと同じく両親を探しに行ったが見つからなかったらしい。

それで悲しんでいたと言うのだが……。

 

「大丈夫、アタシがあんなヤツを近づけさせないから。リュウトは安心して」

 

「……エミリアって昔からホント、俺を庇うよな。姉かよ」

 

「お姉さんねえ……それもいいかも♪

なんつったって、アタシとリュウトは『お尻のアナまで見た仲』なんだからね♪」

 

竜斗は思わずブハッと吹き出した。

 

「お前女なんだからもう少し上品な喩えを言えよな!!」

 

……決してイヤらしい意味ではなくそれほど親しい仲という意味なんだろう。

しかしながら彼女は、表現をどストレートにもの言うことが度々あるが、これも外国人(特にアメリカ人)の血筋なんだろうか……?

 

「リュウト、食堂に行こうよ。もうお昼ご飯だよ」

 

「う……ん?ああ、もうこんな時間か」

 

「マリアさんから食堂も自由に使っていいって言われたの。今は悩むより、お腹いっぱいにしたほうが少しは気は紛れるよ」

 

彼はそうやっていつも気遣ってくれるエミリアに凄く感謝していると同時に、男として情けなくも感じているのであった。

二人は、ここから後にし艦内の食堂へ向かう。

 

「学校行ってた時は教室で友達と仲良く話しながら弁当だったなあ」

 

「アタシは購買いってよく惣菜パンとか買ってたわ、仕方ないけどね」

 

「エミリアんちはどっちも共働きで朝早いもんなあ。

けど休校になったら昼になるとよく俺んちに来て飯食べにくるしな」

 

「だって二人とも家にいないこと多いし家で一人ご飯食べても寂しいもん。そのお礼にちゃんと洗い物とかお掃除とかおばさんの家事のお手伝いしているからね。

リュウトと家が近くてよかったあ」

 

「そういえは父さん達はこう言ってたよ。エミリアはウチの娘みたいだって。よかったな、俺ら家族ぐるみの付き合いで」

 

「うん♪」

 

ここに来て久々に笑顔で話をする二人。

食堂へ入るとそこには数人の作業服を着た男性がすでに食事についていた。どうやらベルクラスの乗組員のようだ。

 

「こんにちわ」

「おう。君達は早乙女一佐から話を聞いてるよ。ゲッターロボの初操縦で快挙を成し遂げたってな」

 

「まだ高校生らしいのにやるねえ」

 

「いやあ……その……ハハッ」

 

照れる竜斗にエミリアはニヤニヤしながら肘で彼をつつく。

 

「何だかんだでいい気になってんじゃないの♪」

 

「ち、違うよーーっ」

 

「顔に出てるよ。リュウトはほんとわかりやすいわよね」

 

「……」

 

二人は食器をトレーに入れて、昼の献立と思われるスープ入り鍋や、サラダ、飯の入った大きな金属箱の置かれたテーブルへ行く。

どうやらここはセルフサービスのようだ。

二人は食器に飯、スープ、惣菜などを並々に盛っていく。

テーブルに着くと二人揃って『いただきます』と、同時に食べ始めた。

 

エミリアは長く日本に住み、そして両親の影響を受けてか大の日本びいきであり、何よりも日本食を好む。

彼女の上手に箸を使いながら、炊いた米を美味しそうに頬張る様子から伺える。

「お前って多分、今の日本人よりも日本人してるよ」

 

「当たり前よ、生まれは違えどアタシの心はヤマトナデシコなんだから」

 

しばらくするとあの問題人物、愛美もここにやってくる。彼女は彼らのそばを通りかかるも、互いにシカト状態だ。

飯を盛り付けると、彼らと離れた席で座り、一人飯を食べる。

竜斗はそんな彼女を黙って見つめていた。そしてエミリアは彼の様子に気づく。

 

「……ミズキが寂しそうに見える?」

 

「……」

 

「しょうがないわよ。アタシ達と合わないコなんだから」

 

彼はふと見てこう思った、ひとりでいて寂しくないのだろかと。

 

確かに学校内では、所謂ギャル系でぶりっこカワイさの地を行っていた彼女は社交性が高く友達もたくさんいた(もちろんギャル系友達だが)。

家が金持ちでもあったので『マナヒメ』などと呼ばれてもてはやされていた彼女も、今はどんな心境なんだろうか。

 

「リュウト、早く食べないと冷めちゃうよ」

 

「あ、ああっ」

 

食べ終わり、二人は食器の返却棚に置いて出ていった。

 

「今からどうする?」

 

「……暇だしとりあえず艦内をぶらつこうか。腹ごなしのために」だがその時、艦内に甲高いサイレンが鳴り響く。そばの緊急ランプも赤く点滅している。

 

“北海道方向から多数の飛行型メカザウルスがベルクラスへ接近中。

直ちに迎撃態勢に移行せよ!”

 

こんな時にヤツらが攻めてきたのか、二人は狼狽した。

 

そして早乙女とマリアは艦橋内の巨大モニターでその光景を見ていた。

大空から多数の物体。竜斗が撃破したのと同じメカザウルス数機。

そしてジェット戦闘機のような持つ小型の翼竜数十機が群れをなして来ている。後方には古代の怪鳥だと思われる姿の巨大母艦一隻の部隊がこのベルクラスの方へ向かってきていた。

 

「恐らくは一個小隊規模だろう。前の戦闘でついに我々の存在に気づいたんだろうな」

 

「交戦を避けますか?」

 

「無理だな。むしろやらねば追撃されて面倒だ。直ちに本艦ベルクラスは迎撃態勢、各機関砲、大型プラズマシールド展開」

 

「了解。『艦内に連絡する。これより数分後に敵小隊と交戦を開始する。

直ちに各員は配置完了し、それ以外の者は衝撃に備えよ』」

 

マリアは冷静に艦内放送でそう促し、各乗組員は直ちに行動開始した。

 

「竜斗よ。ここが君にとって正式の初出陣になりそうだな」

 

彼はこんな時にも関わらず不敵にニヤリと笑っていた――。

 

……そしてついに、両者はぶつかった。ベルクラスは艦首の両舷に武装した多数の機関砲で弾幕を張る。

一方、各メカザウルス達は八方に展開し、実弾型ミサイル、マグマ弾、機関砲をベルクラスへ一斉砲火。

だがゲッターロボと同様の青白い膜、プラズマシールドが艦全体に展開されて全てを遮断した。

 

「シールドのエネルギー残量約85%。今はまだ大丈夫ですが、このまま攻撃され続けられればシールドを破られるのは時間の問題ですよ」

 

「…………」

 

早乙女は黙ったままだ。だが焦る様子もなく、相変わらず何を考えているか分からない人物だ。

 

「とりあえず主砲、スタンバイしてくれ」

 

「了解」

 

艦首の外装甲が左右に開き、中から円状の巨大な砲門が姿を現した。彼はモニターを見る。メカザウルスの数が徐々に増えている。それは後方の母艦から次々と出撃しているのが分かる。

それはメカザウルスの弾薬などが消耗すれば帰艦して補給を受けることもできるわけだ。

どうやらあの敵艦は武装などなく空母機能のみのようだ。

 

「早乙女さん!」

 

突然、竜斗達が彼らの元へ駆けつけた。早乙女とマリアは二人の方へ振り返る。

 

「お、君たちか」

 

「い、一体何が起こってるんですか!?」

 

「分からないか。モニターにある通りだ」

 

あの恐竜、メカザウルスの大軍が自分達の艦に辺り一面に囲んで一斉攻撃しているのを。

今はシールドのおかげで攻撃を受けても衝撃こそはないが異様の光景である。

 

「今はシールドを張っていて無傷だが、当然エネルギー残量に限りがある。

いつ破られてもおかしくない状況だ。この数ではさすがに対処しきれん」

 

「…………」

 

「これを打開できるのはあのゲッターロボだけだ。今主砲を後方の敵母艦に向けてチャージ中だ。発射まででも持たせればこちらの勝ちなんだが」

 

竜斗はその遠回しの言葉に両拳を握りしめた。

 

「僕に……また乗れというんですか……っ」

 

「あのゲッターロボを動かせるのは今は君だけだ。マリアにここを任せてもいいんだが私はあの時見た通り、ゲッターロボに耐えられない身体だ。

どっちにしろ、このままではベルクラスは撃沈は必須だ。

そうなれば私達はもちろん、君達、いや艦内の人間は全員死ぬ」

 

「…………」

 

「考えてる暇はないぞ。生きるためにゲッターロボに乗り込むか、それともこのままウジウジしながら全員海の藻屑になるか……さあどちらを選ぶんだ!?」

 

その選択を突きつけられた竜斗は歯ぎしりを立てた。

 

「……正直、僕はあなたと出会わなければよかった。こんなことになるなら……。

分かりました、乗ればいいんでしょう……乗れば……っ」

 

「リュウトっ!?」

早乙女はまた不敵な笑みを浮かべる。

 

「よくいってくれた。それでこそ男だ。マリア、今すぐ彼を格納庫へ。

パイロットスーツに着替えさせて、ゲッターロボに!」

 

「……了解しました」

 

「マリア、私が竜斗を通信で色々サポートする。戻り次第、君はベルクラスを頼む」

 

マリアはすぐさま竜斗の元へ。

 

「竜斗君、行くわよ」

 

「……はいっ」

 

しかしエミリアは今にも泣きそうな顔で竜斗をすがる。

 

「リュウト……どうして……何かあったらアタシ……っ」

 

「エミリア……大丈夫……俺、やってみるよ。このままだとみんな死ぬかもしれないし、これで助かるなら……気弱な俺でも役に立つんなら」

 

そう言い、彼はエミリアと別れてマリアと共に駆け出していった。

 

「エミリア、君はここにいて彼の無事を祈るか?」

 

「……サオトメさん、アタシはアナタほど憎く思った人はいません。オニみたいな人だ……っ」

 

涙を流し、顔を赤くして恨みをぶつけるエミリアに早乙女は……。

 

「その通り、私は『鬼』だ。

好きなだけ恨んでくれ、ただ――」

 

「……?」

 

「私は世界を、人類を奴らから救う可能性の秘めた彼を生き残らせることはいくらでも知る男だ。賭けてみないか?」

 

「…………」

 

そして竜斗とマリアは格納庫までの長い通路を駆けていく。

「……竜斗君、ごめんなさいね、こんな目に遭わせて」

 

「マリアさん……」

 

「本当は私達の手で対処しなければいけないのに、あなたみたいな一般人をこうやって巻き込むなんて……許してといっても無理だと思う……」

 

「もういいです。実は僕、乗り込むことになるだろうと薄々感じてましたから。

それに、どの道早乙女さんは僕を無理やりにでも乗せようとしたでしょう」

 

「竜斗君……」

 

「……こうなったらやりましょう。僕はもちろん、エミリアやここの人達を死なせたくないですからっ」

 

「……あなた、強い子ね!」

 

その時、ちょうどそこで愛美とすれ違う二人。

必死に走っていく彼らに彼女は不思議そうな顔で見つめる。

 

「あいつ……どうしたのかしら?」

 

気になった愛美も後を追いかけていった――。

 

そして格納庫。竜斗はパイロットスーツに着替える。

まるでライダーススーツのような材質の白色と黒を基調とするピチッとしたパイロットスーツを着込んだ彼は、意外と筋肉質な身体付きもあり、本当の軍属パイロットのようである。

そして、メガネを外し全面防護のヘルメットを被るとマリアのパネル操作で彼は再び『空戦型ゲッターロボ』のコックピットに乗り込んだ。

 

「竜斗君、あたしの言うとおりに右側の縦レバー前のパネルキーを操作して。ゲッターロボを起動させるわ」

 

外からマリアの指示を受けて、彼は的確に各コンピューターとボタンを押していく。

その素早い手つきを見ると、彼は飲み込みが早く且つ、手先が器用のようだ。

家で毎日の如くするパソコンのキー入力するような感覚で行っていた。

コックピットがライトアップしハッチが自動的に閉まった――。

 

(ウソでしょ、あいつあれに乗って今から戦うっての!?なんで!?)

 

その一部始終を陰から見ていた愛美は仰天していた。

 

そして竜斗はモニター画面上に映る、早乙女から指示を受けていた。

 

“どうだ竜斗、初出陣する感想は……”

「……はっきりいっていい気分ではないです。しかし、やるしかないんでしょ?」

 

“私が今から君を生き残こらせるために色々とサポートする。そのくらいのことはしないとな。

操縦は前と同じだ、各システム、OSも君が扱いやすいように書き換えてある。決して負けるなどと思うな、必ず勝つ気でいけ”

 

「とりあえずはそう思えるよう努力はします……」

 

“ゲッターロボにいくつかの射撃兵器を追加しておいた。ライフルもメカザウルスを撃破できるよう改造し、出力と速射性を強化してある。このように大量の敵を相手にするためのものだ、思う存分暴れてこい”

 

そして、ゲッターを載せたテーブルが自動的にカタパルトハッチの方へ移動。

 

……右手にバズーカのような巨大な重兵器、左手には長方形の四角い筒、前面には9つの仕切りを持つ火器。

所謂『ミサイルランチャー』と呼ばれる武器である。

そして今回左右の腰にマウントされた武器は、トマホークではなく早乙女曰く、改造ライフル二丁。

これでもかと言わんばかりの重装備を施されたこのゲッターロボは初戦闘時より遥かに強そうだ。

 

【空戦型ゲッターロボ、各システム、OSチェック完了。ゲッター炉心、プラズマ反応炉オールグリーン。

カタパルト射出スタンバイ、ゲッターロボ発進スタンバイ――】

 

音声ガイダンスと同時に目の前の外部ハッチが開門。

強烈な風が入り込み、直線上の通路先には光が差し込み空と雲が少し見えた。

竜斗は左右の操縦レバーを握りしめ、目を瞑り深く息を吸う。

そして気持ちを落ち着かせて今から起こる初戦にして激戦に備えて冷静になろうと自分に言い聞かせる。

 

“竜斗、準備はいいか?”

 

彼は静かにコクっと頷いた。

 

“では共に戦おう、健闘を祈るっ!”

 

ついにカタパルトが発射されて凄まじい速度で通路を通っていくゲッターロボは満を喫してついに空中へ飛び出していった――。

 

――これが僕の事実上の戦闘デビューだった。はっきり言ってこわい……気持ち悪く吐きそうになるも今はその緊張と、そして極度の興奮に身を任せたのであった――

 


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