ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十二話「大雪山戦役、中編」①

『ダイ』の艦橋内。これまで不安ばかり洩らしていたオペレーター達は驚愕と共に歓喜の声を上げていた。

主操縦幹を握るニオンは当然の如き無表情である。

 

「地上人類よ、もはや貴様らには希望などない。

このままダイによって消し炭になり大地の肥やしになるがいい」

 

基地部中央からがドラム缶のような巨大な円筒状の物体が十基、上空へ打ち上げられ南の部隊へ向かっていく。

急接近すると突然、それがなんと空中で翼竜型自律メカに変形。

ミサイル、マグマ砲を退避していた地上の部隊全てに向けて雨のように浴びせた。

 

破壊しようと多数のBEETが地上から迎撃するが素早く回避され、直撃しても頑丈でありかすり傷すら全くつかず。

それらの攻撃は止まらず無常にもなすすべなく破壊されていくBEET。

 

「なめんじゃないわよ!」

 

愛美がドーヴァー砲で応戦しようとするがその翼竜ロボットに気づかれて砲身とジェネレータをマグマで攻撃されてしまい、溶かされてしまう。

すぐにドーヴァー砲を脱着し、やっと動けるようになり上空へ内蔵火器全てを開門し、全弾発射する。

見事多数に直撃するが全く傷一つすらつかず。このメカ全ての装甲はあの『セクメト』で使用されたセクメミウス製であった。

生半可なその攻撃が怒りを買い、一斉に襲いかかってくる。

 

「こんのお!」

 

あまりのしつこさにキレた愛美はなんと海戦型ゲッターロボ特有の蛇腹状の右腕を、襲い向かってくる一体に向けて全力で伸ばし、パンチを浴びせた。右手は潰れて使い物にならなくなったが、メカも当たりどころが悪かったのか、潰れて墜落した――。

 

「こんな時に石川達はなにしてんのよお!」

 

 

その竜斗達の部隊は北側からダイに向けて四方八方から攻撃を加えていた。しかしその光景は蚊かハエが象の周りを飛び回っているようにしか見えない。

竜斗は最大出力のゲッタービームをダイへ発射するが、直撃する寸前にバリアと思われるエネルギー障壁がダイ全体に張られていて遮断された。

 

BEET、マウラー、戦闘機の計十機がダイの基地部へ急接近するも、そのバリアに触れて一瞬で爆散してしまう。

近づくことも許されぬ堅牢のバリアに攻撃が何もかも無意味と感じ始めた時、竜斗の元にのジェイドから通信が入る。

 

“竜斗君、これの外周を観察したんだが奇妙な物を発見した、ついてきてくれ!”

 

「奇妙な物……ですか?」

 

二人はダイの真上付近に移動する。

 

“モニターをアップして見ろ”

 

モニターを拡大するとダイの真上をヒュンヒュン飛び交う四つの丸く白銀の金属の球体を発見する。

 

「これは……っ」

 

ステルヴァーは人型に変形し、機首部兼用のプラズマ・エネルギーライフルを取り出しダイを向けて撃ち込んだ。

同時に真上の金属球四つから真下へ光を照射し、エネルギーの膜を作りだしダイ全体に包み込んだのだった。

 

「もしかしてこいつらは……っ」

 

“恐らく四つとも、バリア発生装置だろうな。核攻撃すら余裕で耐えうる非常に強力なバリアを作り出すようだ”

 

しかし手の内さえ分かれば、するべきことは一つ。

 

“行くぞ、竜斗君!”

 

「はいっ!」

 

二人は四つのバリア発生装置である金属球を破壊すべく突撃。

それぞれゲッタービーム、ライフル、ミサイル、機関砲で総攻撃をかけるが、球体はこのゲッターロボとステルヴァーを遥かに上回る機動力で二機の攻撃をたやすく回避、負けずに二人は攻撃するもこちらの行動が全て見通されているようで全く当たらないのであった。

辛うじて命中してもかすり傷すらついていない、あの翼竜型メカと同様にセクメミウス製である。

 

その必死な攻撃を繰り出す二機に、ニオンは滑稽に見えて鼻で笑っていた。

 

「残念だな。それが弱点と思ったか。これはガレリー様が開発した新型防御機関だ。貴様ら地上人類ごときに破壊できるものか」

 

 

『リュイルス・オーヴェ』

 

 

爬虫人類の言語で『加護をもたらす守護者』。

セクペンセル・オーヴェのデータを元に開発された、核爆発すら余裕で耐えうる強力なバリアを展開する自律型支援兵器で、セクメミウス製で造られているため単体でも強固な耐久力を持つ――。

 

「くそおっ!!」

 

狙撃しても、何をしても全く当たらない金属球『リュイルス・オーヴェ』を前についに苛立ちはじめる竜斗。

 

“竜斗君、気持ちは分かるが冷静さを失ってはいけない、気を持て!”

 

「は、はいっ!」

 

背中のプラズマソードを取り出して、まるでブーメランのように全力で投擲するが金属球は軽々と避けてしまう。

だが、当てるのは目的ではなく機体を身軽にするのが目的であり、証拠にゲッターロボの機動力が向上し、金属球のスピードに追いつけるほどになっていた。

だが、それでも攻撃が効かなければ全く無意味、傷すらつかない有り様だ。

空戦型ゲッターロボ、いやステルヴァー含めた全ての武器は自分達より遥かに小さいこの金属球の驚異的な耐久力の前には何の意味もなさなかった。

 

(ジェイド少佐のステルヴァーやゲッターロボでさえ……力不足なのか……)

 

このままでは何の活路も見いだせない、むしろそのまま敵が圧倒的な力を奮うだけだ。

 

二機のメカザウルスの口、そして基地中央に建つ柱の上の艦橋付近に張り巡らせたミサイル砲、マグマ砲台を全方位に向けて無差別にぶちまけながらついに前進を始めるダイ。

 

「いや……いや……っ!」

 

北海道という自然溢れる大地を言葉の通り蹂躙しながらこちらへ向かうダイを前にエミリアはすでに恐怖で青ざめた表情だ。その時である。部隊全員に通信が入る。

 

“我々は一時撤退する。このままでは確実に全滅するのを待つだけだ。

各部隊は安全地帯まで早急に退避、北側の部隊も同様だ、直ちに戻れ!”

 

ベルクラス、そして全機体が一斉に南側へ退避。北側の部隊もダイの射程外の遥か上空から南側が移動する。

 

「逃がすか!」

 

ニオンは逃がす気などない。二頭からのマグマ砲を退避していく部隊へ放つ。ホースからの放水のようにぐんぐんマグマが伸びていき、地上に飛び散るとそれが今度は真っ赤な大波となって彼らに襲いかかる。

 

「うわあっ!」

 

「助けてくれえっ!」

 

無情にもマグマの波は逃げおくれた大多数のBEETを呑み込んでいった……。

 

「ヒキャアッ!」

焦りすぎたエミリアの前方不注意でゲッターロボが出っ張りに引っかかり転倒してしまう。

 

「エミリア君!!」

 

ジョージは引き返しすぐさま彼女の機体を引き起こす。

 

“大丈夫かっ!”

 

「は、は、はい、す、すいませんっ!」

 

だがそこには約千度という高熱のマグマの大波がすぐそこまで迫っており、急いで再発進する二人。

 

「こういう時こそ焦るんじゃない。深呼吸だ、それだけでも多少は違う」

 

先輩の助言に素直に従い、息を大きく吸うエミリア。すると、

 

「す、少し落ちついたかもしれません……」

 

“よし、いい子だ。絶対助かるからな、頑張るんだぞ!”

 

こんな時にでも励ましてくれる彼の優しさに感謝の気持ちでいっぱいなエミリアであった――。

 

「う、うそっ!!」

 

今度はなんと愛美のゲッターロボに異変が。

何と両足に装備していたローラーホイール型推進ユニットが動かなくなり立ち止まってしまう。故障か。

 

「えっなんでなんでっ!!?」

 

突然のアクシデントにパニックに陥る愛美だった。そこにジョナサンが駆けつける。

 

“どうしたマナミ!?”

 

「両足の推進器がうごかなくなったの!このままじゃ!」

 

マグマまでの距離はあるものの、推進ユニットのない海戦型ゲッターロボは機動力は最低であり、走っても到底マグマの波から逃げられないのは確実だった――。

“マナミ、その機体から降りて俺の機体に乗り込め!”

「アンタ……っ」

 

“早くしろ!死にたいのか!”

 

言うとおりに彼女はハッチを開けるとすでにステルヴァーの手が側にあった。

 

手に飛び乗り彼のいるコックピットハッチに移動するとハッチが開きジョナサンが手招きする。

 

 

「マナミ、ハヤク!」

 

カタコトの日本語で呼ぶ彼の元へ飛び乗った。

愛美を後部座席に座らせシートベルトをつけるよう指示、自身も操縦席に座り込みシートベルトをつけ操縦桿を握る。

 

 

「いくぜマナミ!ヴァリアブルモード」

 

「えっ?」

 

その場で戦闘機に変形し急発進するステルヴァー。

「~~~~っ!!」

 

初めて見る可変機能の驚きよりも、急発進による凄まじいGがかかり顔が歪む愛美に対し、すまし顔のジョナサン。さすがはステルヴァーのパイロットといったところか。

 

「ひィーっ!か、か、加減してよお!!」

 

「?」

 

「加減しろっつってんでしょ!!!」

 

悲鳴を上げてようやく彼は理解し低速に戻しようやく安定する。

 

「アンタふざけんじゃないわよ!マナを殺す気!?」

 

「ハハハッ!」

 

笑い飛ばす彼にふてくされてしまう愛美だった。

 

「ソーリー、マナミ」

 

「…………」

 

……マグマの呑み込まれていく海戦型ゲッターロボ。

デザインでは文句ばかり言っていたが、何だかんだで可愛がっていた愛機がマグマによって溶かされていく光景をモニターから見ている愛美は、まるで友を失ったかのように大粒の涙を浮かべていた――。

 

「マナミ……」

 

言葉が通じずとも、察したジョナサンは彼女の頭を優しく撫でた……。

 

「あの金属球さえなんとか破壊できれば……っ!」

 

上空から撤退する航空部隊。竜斗は珍しく悔しさを前面に押し出していた。

 

“だが手の内が読めた、撤退してあの巨大な恐竜要塞の攻略を考えよう”……ゲッターチームにとっては初の撤退。

竜斗の心の中は悔しさばかりであった。

 

“竜斗君、そんな顔をするな。まだ負けたわけではないんだぞ”

 

「は、はい……けどこういうのは初めてで……」

 

“だろうな。だがこのまま戦い続けても確実にこちらが全滅するだけだ、サオトメ一佐の判断は正しいよ”

 

「…………」

 

……撤退していく地上人類軍を追い詰めていくダイ。

 

「よくここまでやったと誉めてやる。だが、爬虫人類の方が偉大だっただけだ」

 

マグマ砲、大型ミサイル、全ての砲門を開けて前方全てに照準を当てた――。

(これで勝ちだ!見てるかレー――)

 

だが突然、彼の手は止まった――。

 

(レー……それ以上は思い出せん…………なぜだ!!?)

 

無理に思い出そうとすると戦闘前と同じように凄まじい頭痛と吐き気が襲ったのだった。

ついには操縦席から倒れ込み、苦悶の表情で床に這いつくばってしまった。

 

「ニオン様!!?」

 

オペレーターが慌てて駆けつけるが、彼はついに胃の中の物を吐き出してしまう。

 

(……ふざけるな……なんでここまで来て私の邪魔を……キサマは一体誰だ……!!)

 

混濁していく意識の中――頭中にこびりつく謎の人物から声が。

 

(……オン、ニオン……!)

 

彼にとって凄く聞き覚えのある女性の声、暖かさすら感じる特有の勝ち気のある高い声……。

 

だがそれを聞き取る前にはすでに彼の意識はすでになかった――。

 

「司令官!」

 

「医務室へ運べ!」

 

オペレーター達は急いで彼を担架に乗せて医務室へ向かっていった……。

 

一方、突然何もしてこなくなったダイに対し、最初は早乙女とマリアは疑問になったがすぐにこれは撤退のチャンスだと感じ、急いで全員に急がせた。

 

「向こうはどういうワケか知らんがチャンスだ。

攻撃してこない内に全機、安全地帯まで撤退しろ!」

 

不動のまま攻撃すらしてこない敵。油断しているのか、それともあえて逃がしているのかどうか分からないが、とりあえず全員は今の内と言わんばかりに全速力で南下していった――。

 

医務室に運ばれたニオンは再びベッドに寝かされ、医師に診察を受ける。

汗だくになり、その苦渋の表情を見ると、何かにうなされているようだ。

 

「……そういえば戦闘が始まる前にも気分が悪いといって薬を処方させましたな」

 

「悪いものでも食べたのだろうか……?」

 

全員で彼が異常をきたした原因を考える。

ダイを主制御できるのは彼しかいない今、何としてでも治さなければならなかった。

 

「いや、ここ数ヶ月のニオン様はおかしかった。

この中隊に来た時よりも顔色が一層ひどかった――何があったのか……」

 

「精神的な疾患か……そうだとしたら厄介だぞ」

 

オペレーターがふと呟く。

 

「そういえば……」

 

 

「どうした?」

 

「……数ヶ月前、衛生兵のレーヴェがエーゲイに暴行強姦されて亡くなった事件あっただろ、あれに関係しているのでは……」

 

「あの忌まわしいあれか……確かエーゲイを粛清したのはニオン様だったよな?」

 

「その時からニオン様は謎の超能力を使い始めたと思うが……」

 

「けどレーヴェとニオン様に何の関係が……真相を知るエーゲイ含む、つるんでた者全員がニオン様によって粛清されたからな。俺達では分からない――」

 

「ともかく今はもう一度薬を投与して、回復を待ちましょう」

 

再び薬を投与されるも未だうなされる彼は果たして無事、回復するのだろうか。

 


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