ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十話「決戦前」②

――大雪山地下の第十二恐竜中隊基地。二人の恐竜兵士が通路を歩きながら、自分達の未来に憂うつを話している。

 

 

「いよいよ地上人類がこの基地に攻めてくるな……」

 

「ついに決戦か。だが我々には勝利か死か、二つに一つと言うことか……」

 

「あの海竜中隊が壊滅し、今度は我々中隊の番……ゲッター線が奴らに味方している限り、俺達は終わりかもしれん――」

 

第十三海竜中隊が壊滅してから、さらに日本各地にいる自軍の戦力がゲッターロボによって殲滅させられており、戦況は逆転していた。

そして大雪山周辺に地上人類の軍が集結している。

日本地区での決戦はすぐそこまで迫っていた――。

 

二人はその途中で厳重にロックされた巨大な鋼鉄のドアに差しかかる。

 

 

『この先厳重エリアにつき、立ち入り厳禁』

 

 

と書かれているが。

 

「そう言えばこの奥はどうなってんだ?よくここを通るがたまに呻きごえやら聞こえるんだが」

 

「どうやらそこで日本各地で捕まえてきた地上人類を集めて人体実験をしているらしいぜ。

なんでも如何に簡単に、そして大量に殺せるかのな。

細菌や化学物質まみれだから例えここの司令官でもよほど用がない限り、立ち入り禁止らしい。

証拠にそこで実験しているのは、本隊から直接派遣されたガレリー様直属の精鋭研究員でこの中隊とは管轄外だ」

 

「けどよ、俺らの食糧にすればいいじゃねえか。ここ最近の食糧難がクリアされるだろ」

 

「それも検討されていたようだが、臭くてパサパサしていてどう調理しても俺達の口に合わないらしい」

 

「食糧すらできないか……奴隷化は?」

 

「ゴール様から地上人類は残さず全滅と何度も言われてるだろ。

俺もその方がよりいいと思うのに、よっぽど毛嫌いしてんだなゴール様は」

 

「全くだ、そんなゴール様も今の日本の状況を見てさぞかしご立腹だろうぜ」

 

「まあな。そろそろこの話はやめよう。周りに聞かれると俺達白い目で見られるぜ」

 

彼らがそこから去った後、聞くにも堪えない、男女のけたたましい悲鳴や断末魔が漏れだしていた……。

 

――夜十時過ぎ。ニオンは司令室で大雪山周辺を表示したマップモニターを黙って見ている。

 

「ニオン司令官、地上人類の大部隊が大雪山に集結しています。その数は約千機以上――」

 

無数の赤い点が南に、そして北西から北に移動しているのが分かる。

 

「昨夜、我々が送り込んだゲリラ部隊の襲撃の影響か、奴らは行動を早めたようです。いかがなさいますか」

 

「直ちに基地内の全兵力を集結、戦闘準備させよ。

各メカザウルス、メカエイビスを出撃準備、対地、対空砲を起動、発射態勢にかかれ」

 

「はっ!」

 

「おい、全兵士にこう伝えろ。一歩も退くな、特攻してでも敵殲滅を図れとな。死は無駄にはせん」

 

「は、は……っ!」

 

部下はそそくさと司令室から出て行く。その後、ニオンはゴールへ通信を入れる。

 

「ゴール様、第十二恐竜中隊は今より地上人類の大部隊と交戦いたします。

おそらく例のゲッター線を動力とする機体も来ると思われその規模は日本地区最大の戦闘、決戦となるでしょう。

もし勝利できればそのまま日本地区制圧に乗り出します」

 

“……そうか、ついにこの時が。頼むぞニオン。もし助けが必要であれば本隊から援護を出すが?”

 

「その必要がありません、第十二恐竜中隊には最終兵器があります。

いくら敵に戦力があろうと攻略は不可能です。

戦況の優劣関わらず起動させ、その時は敵もろとも日本地区の全地上人類をこの世から一掃いたしましょう」

 

“ほう。だが決して過信はするなよ”

 

突然、ゴールは間を置きこう言い出す。

 

“……ニオンよ”

 

「……?」

 

“大丈夫か?最初見たときよりも一層険しい顔になっているぞ。いやまるで悪魔か何かに取り憑かれたような狂気とも感じる表情だ”

 

「………………」

 

“まあよい、では健闘を祈るぞニオン”

通信が切れると、彼はすぐに部屋の鏡で自分の顔を覗く。

 

「………………」

 

鏡にうつるその顔は、確かに彼の端正な顔立ちであるが凄く歪んでいる。目つきが悪くなり、顔色が悪い、やつれているようにも見える。正常な顔色ではないのは確かだ……。

 

(……これが私の顔か……?いや違う、少なくともここに来たときにはまだ生気があった、だが今では死人みたいじゃないか……。

私に一体何があったというのだ……っ)

 

 

 

……それは数ヶ月前に遡る。

ニオンはエーゲイらを中心に周りからの酷い嫌がらせ、差別、イジメを受け続けているも何とかやっていた。

 

それは彼の強い意志もあるが彼女、レーヴェの存在が大きい。

姉御肌でかつ包容力のあり、何より同じ痛みの解るレーヴェは彼にとってここ一番の救いで、寄りどころでもあった。

普段は上下関係は守り、夜になれば誰にも見つからないようにこっそり会っては恋人のように二人で話したりそして身体で慰めあったりしているようだ――。

まるで彼女が姉、彼が弟のような関係となっていた。

 

「海竜中隊が全滅したとなれば次はこの第十二恐竜中隊の番だ。

恐らく決戦になれば勝敗関わらず、両軍とも沢山の兵士が犠牲になるだろう」

 

「……だろうね」

 

「もしそうなればアンタの命は危ない。

……正直、レーヴェだけでも生き延びてほしい」

 

「ニオンは?」

 

「私は司令官の身だ、ここから決して逃げるワケにはいかない。

ここが陥落する時は私も運命を共にしなければならない」

 

「死ぬのがこわい?」

 

「いいや、私も地竜族の未来のためならばいつでも死ねる覚悟はある。

それよりもアンタが死ぬことのほうがよっぽどイヤだ」

 

「……アタイは心配ないよ。これでも爬虫人類の一兵士だから。

ここしかアタイに居場所がないし、逃げるつもりはない。最後まで責務を全うする覚悟だ。

だからニオン、最後までアタイもここで戦うよ」

 

「レーヴェ……すまない……っ」

 

――複雑な心情のまま二人は別れてる。レーヴェは自分の部屋へ向かう途中、突然目の前にあの男、エーゲイが下卑た笑みを浮かべて姿を現す。

 

「……エーゲイ、何のよう?」

 

「お前、さっき誰と会ってたんだ?」

 

「誰でもいいじゃないか。なんでアンタに言わなきゃならないんだよ。相変わらず下品だねアンタは」

 

彼女は無視して行こうとするが彼に遮られてしまう。その時、背後から彼の仲間数人がニヤニヤしながら近づいてくる。

 

「エーゲイ……アンタ何企んでんの?」

 

「ちいとツラ貸しな」

 

……彼女は近くの倉庫に連れ込まれて前に投げ倒される。

 

「なによ。たかがオンナ一人に集団でたかってなにしようってんの!?」

 

エーゲイは彼女の胸ぐらを掴む。

 

「知ってんだぜ?最近ニオンとよく会ってることをな。何をしてるんだ?え?」

 

「…………」

 

 

「さっき俺に下品と言ったがお前も人のこと言えねえじゃねえか。

男なら例え地竜族だろうが簡単に股開くこのアバズレがっ!」

 

「っ……!」

 

「色々と調べさせてもらったぜ。お前、元下民で娼婦なんだってな。

どれだけの男をたぶらかして、貢がされて生きてきたんだ?」

 

「エーゲイ……アンタっ」

 

「貴族の俺と違ってさすがは下民、やることが違うわな。身体を差し出して男の気を許し、骨の髄まで吸い取る寄生虫(パラサイト)だろう、この性悪女め」

 

だが、レーヴェは彼の顔を唾を吐きかけた。

 

「……好きで下民になったんじゃない。アタイだけじゃなく下民の女は生きていくためにこうするしか方法がなかった。

何にも不自由なくのうのうと育ったアンタら貴族にはその苦しみや悲しみはわからんだろうね」

 

「……レーヴェ、てめえ……」

 

「はっきり言ってあげるよ、アンタらよりニオンのほうがよっぽど優れてるってね!

一人じゃなにもできやしないクセして集団なら寄ってたかって弱いものいじめしてるようなヤツらなんかより、味方が一人もいないこの基地内で何されてもめげずに頑張っているニオンの方が立派に決まってんじゃない。エーゲイ、アンタは下民以下にクズじゃないか!!」

 

侮辱された彼はついにブチギレ、彼女の顔面に拳を叩き込み――続けて、何と彼女の着ている服を無理やり剥がしとり、狂気の行動に出るエーゲイ。

何度も、何度も顔、身体中を殴りつけ真っ赤に腫れた顔で喚くように泣きながらも喘ぐレーヴェ、間を開けず狂ったように腰を振るエーゲイ……。

後ろでは仲間もその光景に狼狽していた。

 

「え、エーゲイ、やめよう……流石に基地内で見つかるといくらなんでもヤバいぜ……っ」

 

仲間からの止めの言葉が入るもそんなのはもう彼に届いていない。

ただひたすらに怒りを彼女へ向けているだけだった。だが次第に大声を上げていたレーヴェも突然静かになり、同時に彼自身も絶頂は終着点に着いていた。

 

「はあ……はあ……っ」

 

やっと怒りが収まり、ゆっくりと立ち上がる。だが彼女は床にゴロンと寝っ転がったままで少しも動かない……。

 

「お、おい……レーヴェの様子がおかしいぜ……っ」

 

一人が彼女の元へ行き、調べる。が……

 

「……おい、息してねえぞ!」

 

心臓を調べるがドクン、ドクンと打つはずの心臓から全く音がしない。

これを知った仲間達は慌てて心肺蘇生を行う。

しかし全く効果がない、一人を今すぐ救援を呼びにいかせた。そしてエーゲイ自身はそのまま突っ立ったまま彼女を見下ろすばかり。

 

「……レーヴェ……?」

 

嫌が予感に襲われたニオンがここに走ってやってくる。

その凄惨な内部を見た時、彼はまるで痙攣を起こしたかのように身震いしていた。

「……彼女に、彼女に何をした!?」

 

ニオンの存在に気づいたエーゲイは彼を見るなり、嘲嗤う。

 

「けっ……この女が俺を貶しやがったから痛い目に遭わせただけよ。

下民でしかもアバズレのクセにこの俺をバカにしやがって……いい気味だっっ!」

 

 

 

その時だった。ニオンの視界、脳内が真っ赤になる。そして目に写るもの全てが敵、敵、敵――彼の溜まりに溜まった鬱憤がついに爆発した。

 

彼の額の触手がエーゲイを捉えた時、信じられない現象が起こる。

 

彼がもはや声とは思えぬ呻き声を上げてガチガチに固まり、そして少しづつ押しつぶされていく。メキバキと骨が砕く不協和音が鳴り響き、目、鼻、口、穴という穴全てから血が吹き出す。

ついにはエーゲイがまるでプレス機に挟まれたようにぺしゃんこに潰れてただの血にまみれた肉塊と化してしまった。

 

血塗れと化す倉庫内、返り血を浴びる彼の仲間は顔が真っ青のままその場で凍ったように固まっており、血塗れのニオンは修羅のようだ。

 

――なぜニオン含む地竜族がこれほどまでに差別を受けて迫害されたか、爬虫人類のほとんどは本当の理由を知らない。基本的に昔から地竜族は特異体質もあるが、何より傲慢な卑しい人種などと教えられてきたためである。

 

だが真の理由は、ゴールの言っていた『謎の力』……彼らの持つ特異体質でも、最も際立った『異能の力』である。

 

普段は理性と意識の壁に塞がれた奥底に封印されているが、タガが外れると普通の爬虫人類にはない超常的能力が発現してしまう。それは各人様々であるがニオンの場合は先ほど見せた『強力な念動力』である。

これが彼らを異端だと言われる最大の理由であり、その力を使い帝国の乗っ取りを畏れたゴールの祖先、つまり遥か先代の王族が彼らを下民に落とし、生殺し状態にしたのである――。

 

……軍医が駆けつけ必死の救急も報われず、そのまま帰らぬ人となってしまったレーヴェ。数多くの慕っていた仲間達がどれだけ悲しみに包まれたことか……。

 

だがニオンの怒りは治まるはずがなく、この能力が発現して以降、彼はその力を使い恐怖の独裁支配を始めた。

初めは今まで通り地竜族ということで反抗する者もいたが、見せしめとして彼の力により見るに堪えないほどに潰されて、粛清。

 

暗殺なども実行しようとするも、元々の勘が鋭いのもありもはやニオンに近づくことも出来ず幾度も失敗し、処刑される。

 

 

もはや、誰にも手がつけられず彼に逆らおうとしなくなっていた。

しかしそれでも彼の気分は全く晴れず、それどころ日を追うごとに険しくなる。まるで悪霊か何かにとり憑かれたかのように。もはや彼自身さえ何をしているのかさえ分からなくなっていた――彼は壊れてしまったのだ。

 

――そして彼には、あの時の記憶が全くなかった。

その時の記憶の一片だけでも思い出そうとすると、その時に限って激しい頭痛が襲いかかるのであった。

 

証拠に今、その記憶を頭の隅から取り出そうとするが今まで以上に凄まじいほどの頭痛と嫌悪感が彼に襲いかかり、その場でうずくまってしまう。

 

(なぜだ……なぜ思い出せない?頭の中に誰かの姿がこびりついて離れないのに思い出せない、気持ち悪い……!

私はいったいどうしてしまったんだ……っ!)

 

ちょうどそこに側近が戻り、彼の異変に気づいて駆けつけた。

 

「ニオン様、大丈夫ですか!?」

 

「触るな……っ」

 

「しかし……っ」

 

「触るなと言っているだろうがあ!」

 

瞬間、ニオンの念動力が働き部下を無意識に壁に叩きつけてしまった。

ゆっくり立ち上がりフラフラと部屋から出て行くニオン。

 

(……こんな時で司令官がこれではまずい……なんとかせねば……っ)

 

彼は医務室に入ると戦闘に向けて準備をしていた医官達が慌てて駆けつける。

 

「どうなさいましたかニオン様?」

 

「……突然気分が悪くなった、薬を処方してくれ……っ」

 

すぐに薬のニオンに飲まし、ベッドに寝かせた。だがそれでも息が荒く、うめき声を上げている。

 

(お前は誰だ……なぜ私を苦しめる……?)

 

頭の中でちらつく一人の人物、女性のようである。

ぼやけていてまともに見れないがこれだけは分かる、見たことのある女性だ。

次第にぼやけが治りはじめ、その姿が鮮明に見えてくる――が。

 

「ニオン司令官!!」

 

部下の声に起きる彼はとっさに起きる。

 

「……ど、どうした?」

 

「基地の総員が戦闘準備が整いました」

 

「……そうか。現在時刻は?」

 

「午前0時前です」

 

「0時……敵の動きは?」

 

「南、北側に。完全に挟みうちにされた模様です」

 

彼は起き上がり、基地内中央に位置する『艦橋』へ移動する。分割モニターを見ると南側は地上部隊と後方支援部隊とベルクラス、北側には戦闘機と空戦仕様のBEET部隊の大軍団。

 

「各機はいつでも出撃可能です」

 

 

 

「各メカザウルス、メカエイビス、恐竜母艦第一軍出撃せよ。メカザウルスは主に南側、メカエイビスは北側に周り迎撃。各対空砲、ミサイル砲を駆使してこちらに近づけさせるな」

 

ニオンの命令が一斉に基地内に響き渡る。

そして、大雪山噴火口、そして麓からそれぞれ百を超えるメカザウルスが次々と飛び出してくる。

 

その後に続けて山頂の火口からメカエイビスが多数出撃、朝霞で竜斗が撃破したはずの『タウヴァン』の大軍である。

その数は百、いや二百、三百を越えていた。

 

早乙女とマリアは艦橋にてその大雪山周辺に蔓延るメカザウルス、エイビスの大軍をモニターで確認していた。

 

「ついに奴らも来たか。あれでもまだ第一陣だろうな」

 

「おそらく。勝算は?」

 

「勝算?絶対に勝たなければならないんだ、我々は」

 

「そうですね」

 

「では始まるぞ、日本最大の戦いが――」

 

――ついに幕が開いた『大雪山戦役』。これに勝利できればおそらく日本をヤツらから解放できるだろう。

 

だがこの戦いはあまりにも厳しく、そして予想だにしない事実があることをまだ僕達は知る由もなかった――。

 


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