ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十九話「新たな力」②

――深夜一時過ぎ。曇りがちな天気の真下、矢臼演習場から北数百メートル離れた森林。

ガサガサと走り回る足音と、ひそひそ何か言い合っているような小声、そして無数の赤く光る瞳……あちらこちらに草からゆらゆらと動いている。

その先には自衛隊の各部隊の寝床である自衛隊特有のOB色のテントが縦、横並びに無数に立てられており、その周りを警備隊員数名が通信機で連絡を取りながら巡察している。

 

「今の所以上なし、そちらはどうか?」

 

“特に異常なし。引き続き巡回せよ”

 

その警戒員は眠くなり大きくあくびをする。

 

「あ~あっ、眠い…………早く交代時間にならねえかな……」

 

やる気のなさそうにそこから去っていく。

 

その数分後、夜の静かな沈黙が一気に破られる。

突然部隊の各車両、燃料、物資などを貯蓄する天幕、そして部隊のテントのいくつかが爆音と共に燃え上がった。

 

「襲撃だあ!」

 

寝ていた各隊員は慌てて起き、すぐに武装して飛び出ると近くの場所がすでに炎に包まれており、そして銃撃音などが辺りに響く。

そして離れた専用ポートに停着するベルクラス。

まだ起きていた早乙女は他部隊からその通信を受けていた。

 

「私も今すぐ向かう。そちらに米軍も駆けつけるだろうから合流し次第協力してくれ」

 

“了解。あと敵を捕縛しますか、それとも殺しますか?”

 

「今は取りあえず被害を最小限に抑えることを優先にしろ、特にケガ人を救助を最優先にして捕まえるのは余裕があればだ」

 

すぐさま迷彩服とヘルメット、防弾チョッキを着込み、小銃と拳銃を武装。

部屋へ出るとちょうどマリアとパジャマ姿の三人が駆けつける。

 

「何が起きたんですか!?」

 

「他部隊のいる区域で敵襲だ。マリアは司令室で通信待機、三人は各部屋で待機しててくれ。

場合によってはベルクラスを発進、ゲッターロボも出撃させる。いつでも動けるようにしていてくれ」

 

「了解」

 

「早乙女司令、気をつけてください!」

 

「心配するな」

 

軍用ジープを積載した格納庫へ駆けていく早乙女。

 

「あなた達は部屋で一時待機。何かあればこちらから指示するから各部屋の通信機を入れておいて」

 

「はい!」

 

――一方、乱戦を繰り広げる現場では多くの隊員が倒れている。生きてるか死んでいるかはわからないが。

彼らは何と戦っているのだろうか――それは人間のようで、人間ではない。

固い鱗で覆われたトカゲだが二足歩行し、両手で銃器を容易く扱うほど高度な知性を持つ生物……そう、爬虫人類のゲリラ部隊で恐らく大雪山からの刺客だろう。

彼らの持つ、人類より高い身体能力と慣れた経験から繰り出されるその戦闘能力、そして爬虫類特有の皮膚の色を変えて地面と同化し、彼らの持つ、人類より高い身体能力と慣れた経験から繰り出されるその戦闘能力、そして爬虫類特有の皮膚の色を変えてカモフラージュ効果が駆使され瞬く間に自衛隊の隊員達が血祭りにあげられてバタバタと倒れていく――。

 

だがその時、遅れて米軍の部隊が到着。その圧倒的な火力と行動力がフルに発揮される。

 

アサルトライフル、火炎放射器、軍用散弾銃、無反動砲、RPG―7、装甲車からの固定式機関砲、グレネードランチャー、手榴弾……今回、来日している米兵は海兵隊や特殊部隊上がりの者もたくさんいるため、明らかに日本人と違う豪快かつ強力の戦闘力を見せつけ、その火力を前には爬虫人類も歯が立たず。

 

「イヤッホゥーッ!」

 

ある者は高らかに叫び、ある者はくちゃくちゃガムを噛みながら余裕綽々と、ある者は寡黙に敵の殲滅を図っている――。

早乙女が駆けつけ合流した時にはすでに殲滅に終わったようだ。

 

「すでに動く敵の姿はありませんが一応、周囲に無事の隊員に警戒態勢につかせてます」

 

「各被害状況は?」

 

「各車両十数台と物資庫に被害を受け、そして各部隊にも多少の死傷者が。人数はまだ分かりません。ただ各SMBに関しては無事なようです」

 

「了解。直ちに受傷者をすぐに救助、遺体の回収、火災場所の消火に当たってくれ」

早乙女は散乱している爬虫人類の死体を観察する。炭化した死体、穴だらけの死体、爆散して原型を留めてない死体様々だ。

だが突如、早乙女は拳銃を取り出して、振り向き何発も発砲し出す。

頭でも狂ったのか……いや、違う。

 

「早乙女一佐、どうしましたか!?」

 

「起きていた奴を寝かしただけだ」

 

撃った先には、小銃を構えたまま頭を撃ち抜かれて死んでいる爬虫人類が……。

 

……この後始末が明け方まで続けられた。

朝七時過ぎ、全員があまり睡眠が取れず疲労したまま外で、今作戦の総司令官を務める早乙女を元に各状況確認と全体朝礼、そして今後についてを言い渡せる。

各部隊の端に竜斗達ゲッターチームが並び、さらに隣に別で米軍の全体朝礼が行われていた……のだが、米軍の何人かが彼らをちょろちょろ見ている者がおり、本人達もそれに気づいている。

恐らくなぜこんな場所に彼らのような少年が混ざっているのか不思議でならないのだろう。

 

数十分後、全てが終わり各部隊で解散し、早乙女以外の四人はベルクラスに戻ることに。

マリアが運転するジープで戻る道中、三人は車内で夜中の敵襲について話していた。

 

「……夜中は凄かったらしいね、部隊の人にも被害が結構出たって聞いたし」

 

「うん……アタシ達も今から常に周りを気をつけてないとね。いつ襲われるかわからないし」

 

彼らは敵の本拠地の近くにいるということ改めて再認識させられるのであった。

「そういえば二人共、なんか横にいた外人部隊にマナ達ジロジロ見られてたの感じた?」

 

「うん、チラッとみたけどこっち見てたね」

 

「アタシ達みたいな高校生が混じってるのか不思議だったんだろうね、しょうがないよ」

 

すると竜斗はハッと何かを思いついた。

 

「考えたら米軍の人達と対面することになるんだったら俺英語できないよ」

 

「あっ。マナも」

 

「アタシが通訳するから大丈夫、安心して」

 

それを聞いて二人はホッとする。

 

ベルクラスに戻り、しばらく部屋で待機していると早乙女から司令室に集合をかけられて向かう。

中に入ると、早乙女とマリアの他にニールセン、そして三人の米軍隊員がいる。

 

「来たか。では紹介する。

彼らは今回協力してくれる、米軍の新型機『ステルヴァー』のパイロットを務めるジェイド=リンカネル少佐、ジョージ=アンダーソン少佐、そしてジョナサン=チェインバーズ大尉だ」

互いに対面し見つめ合う。二人は黒人、一人は白人の米軍隊員である。

三人とも明らかに日本人と違う長身で鍛えられた体格、彫りの深い顔……本場を思わせる存在感を持つ隊員である。

 

「竜斗、特に君に関しては色々お世話になるだろう」

 

「それはどういうことですか?」

 

「新型機『ステルヴァー』は陸、主に空戦を想定して開発された機体だ。

そして彼らもアメリカ軍第一〇五特殊航空部隊『ブラック・インパルス』の戦闘機パイロットで空中戦闘に慣れている。

つまり空で戦うことの多い君にとって彼らは大先輩ということだ。よろしく言っておけ」

 

黒人隊員が握手として手を差し伸べてきたので手を差し出す竜斗。

「ま、マイネームイズ、リュウト=イシカワ……」

 

 

慣れない英語の自己紹介をする竜斗に向こうは彼を案じ笑顔で接する。

 

「私が隊長のジェイドだ。君達ゲッターチームのことはサオトメ一佐から聞いている。

色々と不都合なことがあると思うがよろしく頼む」

 

「え、え……?」

 

本場の英語を理解できず焦ってしまう。

 

「色々と不都合があるかもしれないけどよろしくだって、リュウト」

 

「ああ、なるほどね。センキューベリーマッチ……」

 

彼は心のそこからエミリアに感謝する。

 

「二人も挨拶しとけ」

彼女達も二人と握手を交わす。

エミリアは当然英語で難なく会話し、愛美は竜斗と同じく慣れない英語の自己紹介をし、そしてそっけない態度で唯一の白人隊員と握手する。

一方、向こうは愛美と顔を合わすなりヒューと口笛を吹いた。

 

「へえ、このジャパニーズガールかわいいじゃん、今度デートでも……」

 

「え?エミリア、何て言ってんの?」

 

何を言ってるのか理解できない彼女はエミリアに聞くと。

 

「……かわいいね、今度デートしないかって……」

 

「ハア?」

 

彼女はふと大きな声を上げた。

 

「悪いけどマナはムサいガイジン男と付き合う気はないの。お断りよ」

そうはっきりと言う彼女だが向こうは当然通じず。

 

「ジョナサン、またお前の悪い癖が出てるぞ」

 

「はいはい……にして俺達がこんなお子ちゃんの世話をすることになるとはねえ」

 

……互いの挨拶が終わると全員が前を向く。

 

「ではもう一人紹介するとしよう。この人はニールセン博士。ステルヴァーの開発主任者で私の師匠に当たる人だ」

 

「ホッホッホ、軍人とは思えぬかわいい子らじゃのう。だがサオトメが選んだ人間なら心配ないだろう。よろしくな」

 

初めて対面する三人。一見は服装が独特であり優しそうである柔和な老人に見えるが、一癖二癖ありそうな雰囲気を確かに持っている。

 

「ところで今君達を呼んだのはただ自己紹介させるためだけではない。

一応の作戦を君達に伝えるためだ。これを見てくれ」

 

 

モニターを写すと地図のようなもの図面が現れる。画面中央にはどうやら山と思わしきものがある。

「これが敵の本拠地と思われる大雪山だ。元々死火山だが最近地下のマグマの活性化が凄い上、ここ周辺からメカザウルスが大量に飛び出してくるのをいくつもの目撃している。恐らく内部に基地があるんだろうな」

 

早乙女が日本語で竜斗達に説明し、一方マリアはジェイド達のそばで通訳を介している。

 

「どのくらいの規模かは不明だが大量のメカザウルスがそこから出てくるということはそれだけの規模を有するということだ。

夜中の敵襲の通り、我々の動きを向こうは確実に知っているだろう。

タラタラしているとまた敵襲されかねん。

よって明日の夜中〇時を持って攻撃開始予定とする」

 

予定日よりかなり早まったこの作戦に全員が身を引き締める――。

 

「なのでこの話が終わり次第、三人は身のまわりの準備と機体の調整などを早く終わらせて少し寝ておいたほうがいい。夜十時前にはパイロットスーツに着替えていつでも発進準備できるように」

 

「……了解です!」

 

「そして作戦内容なんだが、今回君達にはそれぞれ役割があり、バラバラで行動することになる。

まず竜斗は航自と米軍の混成航空隊で山側の北側から、エミリアは地上部隊、水樹は後方砲撃部隊として南側、つまり挟み込みすることになる。そしてステルヴァーチームも同じく各部隊に振り分けられる。

隊長のジェイド少佐は混成航空部隊、ジョージ少佐は地上部隊、そしてジョナサン大尉は後方砲撃部隊として動くことになる。

竜斗側の部隊についてはまだ到着してないが、向こうからアメリカ軍のSMB部隊も参戦する、味方機の数は今まで以上になるだろう」

 

「……ということは僕達はこの人達と連携行動を取るってことですか?」

 

「その通りだ。君達は遊撃部隊である程度自由が利く。

ここで対面させたのは君達は今作戦の『バディ(相棒)』だからだ。

エミリア以外の二人については、ゲッターロボには通信システムに翻訳機能を組み込んであるから安心してくれ。互いに国の違うもの同士でやりづらいことばかりだがよろしく頼む」

 

「了解!」

 

竜斗達は三人にもう一度お辞儀し、向こうも笑顔で敬礼で返す――。

 

「あと今回、水樹の機体に『ドーヴァー砲』という専用の大砲を換装する。

一発の威力は桁違いだが重すぎて支えるのがやっとで動けなくなったり凄まじい反動など色々と弱点がある。装着は君の配置場所で行う。

色々と不具合になるかもしれんが今回だけ我慢してくれ」

 

 

話は終わり、三人は格納庫へ向かい各ゲッターロボのコックピットに乗り込んでシステム、OSの調整に入る。

しばらくしてジェイド達も自分達と同じく新鋭機のゲッターロボを見にここに訪れる。

 

「ほう、これがサオトメ一佐の開発したゲッターロボか、実に日本人らしいデザインだ」

「それぞれ例えると、さしずめ赤いオーガ、イカだな。もうひとつは日本の量産機のようだ」

 

「ヒロイックなオモチャだ。あのボウヤ達には最適だな」

 

各自が見た目だけ品評していると三人は彼らに気づき、コックピットから降りて対面する。

 

「リュウトクン、ヨロシク」

 

「こちらこそ……じゃ分からないか、ナイストゥミートゥ」

 

「エミリア君は英語で会話できるしホッとしたよ。明日は互いに頑張ろうな」

 

「いえこちらこそ。明日は足手まといにならないよう頑張りますのでよろしくお願いします」

 

バディを組むもの同士、二人は友好を深め合う中、

「マナミ~~っ♪」

 

ジョナサンはいきなり愛美を笑顔でお姫様抱っこし、驚いた彼女はじたばた暴れる。

 

「な、なんなのコイツ!?離してよ離してよ!」

 

「ハハハっ!」

 

目を点にしてその様子をただ見る二人。

 

「やめろジョナサン、彼女が嫌がってるじゃないか」

 

「いいじゃん。だってこんなお人形さんみたいに可愛いんだぜ?スキンシップさスキンシップ♪」

 

ジョージはまたかとため息をついた。

 

「ジョージ少佐、あの人は一体……?」

「ジョナサンはお調子者で根っからの女好きで、それ関係で本国で色々と問題を起こしていてな。

特に彼女みたいな東洋の背の小さい女性がタイプらしいが、仕事はきちんとやる悪い奴じゃないから許してやってくれ」

 

なるほど、初対面で彼女にいきなりデートしたいとか言っていたのはそういうことか。

 

「リュウトはああいう人にはならないでよ……」

 

 

「…………」

 

愛美の男性版のようなものだろうか。

だがこうして見ると、身長一九〇センチ以上あるジョナサンと四十センチ低い愛美ではまるで大人と子供のように見えてしまう――。

 

(……黒田一尉とは全く違うタイプの人だけど、そうやって女性に積極的にいける人って羨ましいな……)

竜斗は彼の個性に少し惹かれていた。

 

「ところで少佐達の新型機ってどういうのだろう?」

 

エミリアはジェイドに新型機について聞くと、

 

「すまないが今は見せられないんだ。明日のお楽しみということにしておいてくれ」

 

「分かりました。今は見せられないから明日のお楽しみだって」

 

彼はそう答えた。

果たしてステルヴァーとは一体どういう特徴を持つ機体なのか、彼らの期待は高まる一方だった……。

 

「いやああああん!」

 

「ドウアゲ、ドウアゲ!ハハハッ」

 

笑顔で愛美を胴上げするジョナサン。どうやら本当に愛美を気に入っているようである――が、本人は金切り声の悲鳴を上げていた。

 


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