ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十九話「新たな力」①

――十日後、僕達は北海道へ向かう。

 

後に『大雪山戦役』と呼ばれる、日本至上最大の決戦の幕が開こうとしている。

 

みんな、どういう気持ちを感じているのかそれぞれだけど、僕は――怖いけどここまで来た以上やるしかない、父さん達に会うまでは絶対に生きてやると――。

 

……矢臼別演習場。日本最大規模の広さを誇るこの演習所にはすでに北海道師団の部隊が集結していた。

 

広大な土地に待機する隊員が上空を見上げると巨大な燕が空に舞うのが見え、目を奪われる。

ベルクラスがこの演習所に到着し、専用に舗装された巨大滑空場に着陸する。

 

数分後、早乙女は艦を降りて各部隊の隊長に挨拶しにいく。

竜斗達もその後に艦を降りて辺りを見渡す。目視では先の見えないこの地平線の広大さに圧倒される。

 

「いよいよって感じだね……」

 

ちょうどその時、空から飛行機のジェット音が聞こえる。三人は空を見上げるとオホーツク海方向から黒い物体、鋭角的で旅客機並の巨大なジェット戦闘機が三機、底部のスラスターを使い横に並ぶように地上へ水平着陸する。

その後を応用に迷彩色をした、ジェット戦闘機以上のサイズの輸送機もこちらへ着陸した。

 

しばらくするとこの周辺にその飛行機群のパイロットと乗組員達と思われる団体が走って集まる。

遠目で見るとなんとなくだが、体格といい顔つきといい日本人ではなく外国人ようので、彼らはどうやら早乙女の言っていた今回協力してくれる米軍のようだ。

――三人は一旦部屋に戻り待機している間、早乙女はたった今到着した米軍に会い、各隊長に握手を交わしていた。

 

 

「サオトメ一佐、今回はよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

流暢な英語で会話する早乙女。すると――

 

「久々じゃな」

 

振り向くと、黒いハット黒いスーツを着込んだ、背の低い老外国人男性がいた。歳は七十代ほどか。

 

「ニールセン博士、お久しぶりです」

 

「相変わらずの愛想ない顔じゃのう、ホハハ」

 

コミカルな笑い声を上げるこのニールセンという男性。

挨拶を済ませ、早乙女はニールセンをベルクラスへ招待する。

 

「日本の空気は素晴らしいわい。なんせここ数年間はアメリカ政府によってほぼ軟禁状態じゃったからな久々に外の空気を吸えて爽快だ」

 

向かう途中で黒いジェット戦闘機に目を向ける。

 

「あれですか、新型機とは?」

 

「うむ、プラズマエネルギーと新エネルギー『グラストラ核エネルギー』のハイブリッド駆動で動く新型じゃ。

名を『ステルヴァー』と名付けた。なかなかいいセンスだろ?」

 

「……相変わらずアメリカ政府から法外な金額を要求したんでしょう?」

 

「もちろんじゃ。世の中金が全てだからな。もっとも、貰えばワシも仕事はきっちりこなす主義じゃ。どっちも得じゃろう」

 

「で、その『グラストラ核エネルギー』という新エネルギーは名の通り核動力ですか?また厄介な物を」

 

「なにをいうか。こちらが苦心して開発した放射能除去装置『ニュートロン・ディカプラー』を利用して、膨大のエネルギーを取り出しつつ放射能を取り除いたクリーンな新エネルギーじゃぞ。

放射能汚染問題はすでにクリアしておる」

 

「ほう、そんな素晴らしいエネルギーを確立させるとはやはり恐ろしいお方だ。これでいつでもどこでも核攻撃をより手軽にできるわけですね」

 

「イヤミかそれは。ところでわしが来日したのはただ日米共同作戦に協力するためだけじゃない。

お前さんの開発したゲッターロボという機体を見たいのもあってな」

 

「そうだろうと思いましたし、私もぜひ見てほしくて――」

 

そして二人はベルクラスの格納庫へ。ニールセンは各ゲッターロボを見たり触ったり、そしてコンピューターで各性能を表したパラメータと戦歴を見る。

 

「サオトメよ、お前はわしの弟子だ。確かに従来の機体と比べて遥かに高性能だ」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、色々と詰めが甘いな。

各駆動部、動力炉面、装甲面、武装面……見直す点もいくつかある」

 

次々にずばりと指摘されるも平然といる早乙女。

 

「……でしょうね。正直、私の技術ではこれが限界ですし、あなたから指摘してほしい部分もありました」

 

「ふむ。改造したいならこの作戦の後でやってあげてもいいぞ。

だがその時はお前さんからも金を徴収するがな」

 

「……財布と相談してみます」

 

「ホホホっ」

 

……その後、二人は司令室でしばらく雑談する。マリアもコーヒーを入れて二人に差し出した。

 

「おや、君は?」

 

「マリアと申します、ニールセン博士」

 

「彼女は元々イギリス軍所属の技官だったんですが自らゲッター計画に参加してくれたんです。

優秀なので今は私の秘書をしてもらっています」

 

「彼からよく振り回されてないか?」

 

「まあ色々と……」

「だろうな。サオトメは昔から常識知らずの不思議人間だからな」

 

「そういうあなたも私と同じ人種ですよ――」

 

「ホホホっ」

 

英語だけで盛り上がる三人――。

 

「ところでどうです、アメリカ側の状況は?」

 

「はっきり言って劣勢じゃのう。

いくつもの油田、重工地帯を蹂躙されとる。

それでもなんとか抑えこんでいるがアラスカ側の奴らの要塞らしき基地を何とかしない限り、こちらがやられるのは時間の問題じゃ」

 

「そうですか……本来なら我々も手を貸したいのですが」

 

「実はな、アメリカ軍も極秘に、アラスカ攻略のためにおぬしらのような戦艦を建造していてもう完成間近でな」

 

「ほう、それは一度拝見したいものですな」

 

 

 

「サオトメよ、おぬしもいずれアメリカに来て完成に手伝ってくれぬか。少しでも優秀な人員の手を借りたい。

あとワシの友人であるキングもお前に会いたがっていたぞ、知っているだろ?」

 

「キング博士ですか。一度顔を合わせたきりですが。

いいでしょう。その代わり、あなたのさっき言ったゲッターロボの改造を無償で引き受けてくれるのが条件で」

 

ニールセンは早乙女に向けて目をギロッと睨みつける。

これまでのひょうきんだった彼とは思えない怖い表情だ。

 

「おぬし、わしに本気でそんなこと言ってるのか?」

 

「ええ、本気以外ありませんよ。

こんなご時世に、そしてゲッターロボとベルクラスに大金を注ぎ込んだ私には余裕がないんです。

それに私の性格をよく理解しているあなたは、この私相手に都合よくいくと思いですか?」

 

「…………」

 

「もちろん私自身、あなたの性格を十分承知ですが、これだけは譲れませんね。嫌ならどちらともなかったことにしてもいいのですよ。

個人的に利害一致してるということで今回だけでも互いに無償で協力しあうのがいいと思うんですがね?」

 

臆せずどっしりと腰をかまえ、不敵にそういう早乙女を複雑な目で見つめるニールセン。だがため息を吐いてソファーに背もたれる。

 

「……相変わらず反抗的で何考えてるかわからんわい、アメリカ政府でもわしの要求をすんなりうけいれるのに。

だがそれでこそわしの認めた男じゃ。

よかろう、無償でゲッターロボの改造に協力してやろうじゃないか」

 

「では私も喜んでその戦艦の建造に協力しますよ」

 

どうやら無事、交渉は成立したようだ。

 

「にしても、おぬしに怖いものがないのか?」

 

「怖いもの?そうですね、しいて言うなら『あなた』以外にあり得ませんね」

 

「相変わらずジョークも上手いのホハハハっ!!」

 

ニールセンの笑いをツボを刺激したのか彼は高笑いしたのだった。

 

――夕食時。食堂に竜斗、エミリア、愛美が一緒に仲良く食事しているとマリアがやってくる。

 

「お隣いいかしら?」

 

「どうぞどうぞ」

 

エミリアの横に座り、盛ってきた飯を食べ始める。

 

「マリアさん、今日司令と一緒にいた外国人のおじいさんって誰ですか?」

 

 

 

「そうそう、マナも見た。なんか似合ってるのか似合ってないのか分かんないスーツを着た小さいおじいちゃんだった」

 

「あの方はね、名前はレヴィン=ニールセン博士。

エミリアちゃんと同じでアメリカ出身の兵器開発専門の権威で恐らく世界最高の技術力を持った人よ」

「世界最高……司令よりスゴいってことですか?」

 

「ええ、一歩二歩、いやそれ以上先をいく、その筋では伝説扱いのお方だからね」

 

だが三人は、何がそんなに凄いのかパッとしない。

 

「ここ数十年間にあった様々な戦争でのアメリカの勝利のほとんどは彼のおかげだという話よ。

一説には彼自身がその国に協力するかしないかで世界の軍事勢力が書き換えられると言われてるほどでどの国も喉から手が出るほど手に入れたいと言われているほどなの」

 

「そ、そんなヤバい人なの……」

 

「けどニールセン博士は……失礼な言い方だけど金の亡者らしくて、法外な金額でないと依頼を引き受けてくれないらしいの。逆に言えば大金をもらえればどの国にも協力するという人。

だけど彼を雇っているアメリカ側にとっては決して手離したくない存在」

 

「何故ですか?」

 

「アメリカは世界一の軍事大国だからその威厳を失いたくないのもありそうだけど、それにヘタな国に雇われて世界大戦を引き起こされたら堪ったものじゃないでしょ?

だから世界の安定の意味もあっていくらでも大金をつぎ込めるわけ」

 

「なるほど……」

 

「まあ近い内にあなた達も対面することになるわ」

 

「けどなんでそんな人が早乙女司令とどういう関係が?」

 

「私も信じられないんだけど、どうやら師弟関係らしいの。つまり早乙女司令の師匠よ」

 

それを聞いて三人は食べるのも忘れて驚く。

 

「へぇ~、早乙女さんはタダモンじゃないとは思ってたけどね」

 

「確かにゲッターロボみたいな凄い機体を造れるしね」

 

「そうそう、それについてみんなに話があるの――」

 

マリアはさっき二人の話にあったゲッターロボの改造について彼らに話す。

 

「……ということはゲッターロボはまだ強くなれるってことですか!?」

 

「スゴいじゃない!ぜひやってほしいわあ♪」

 

 

竜斗と愛美は胸が奮い立つ一方で、エミリアは何とも言えない表情だ。

 

「エミリアちゃん、どうしたの?」

 

「いやあ……強くしてもらってもアタシ……扱いきれるかどうか不安で……」

彼女はチームの中で一番劣ることを気にしていることに竜斗達は気づく。

 

「エミリア大丈夫だって。機体が強くなるってことはその分自分も助かる確率が高くなるってことなんだから。

ポジティブにいこうよ」

 

「う、うん……」

 

「いざとなったらイシカワが助けてくれるから。ねえイシカワ?」

 

「もちろんだよ」

 

「それにさ、そんなに気にしてるんなら努力すればいいじゃない。

エミリア、頑張り屋のアンタならそれができるっしょ?」

 

「ミズキ……っ」

 

「水樹の言うとおりだよ。

それに俺や水樹にだって何かしら劣るとこがあるし、逆にエミリアしか持ってない長所もあるよ。

体力あるし接近戦では一番上だし」

 

「アンタはチームの『癒やし』担当なんだからね。

いないと絶対にマナ達へばっちゃうから――それに」

 

「それに?」

 

「一人ヘタなヤツがいないとマナがチームで目立てないからね」

 

「ミズキっ!!」

 

「ホラホラ、悔しかったらマナより上手くなってみなさいよ♪」

 

彼女の挑発にエミリアは拳を握りしめて立ち上がり、高らかにこう叫んだ。

 

「分かったわよ、絶対にアンタより操縦上手くなってやるんだから!」

 

「ほら、ちゃんとやる気あるじゃん」

 

「あ……っ」

 

「やるな水樹!」

 

……マリアは、この三人の仲睦まじさに微笑む。

しかし、この三人を戦いで絶対に失いたくない……というまるで自分の実の子供達のように、母性的な考えを持っていた。

 




日本編の終わりぐらいに設定集を入れたいと思います。

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