ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十八話「前進」②

……今は乗り気じゃないが、すでにスタンバイしている彼女に対して断るのもかわいそうだ。

彼はすぐに私服に着替えて彼女の部屋に行く。

ノックすると、ブランド品と思わせる高級そうなバッグを持って出てくる。

 

「じゃあ行くわよ」

早乙女は不在なのでちょうど司令室にいたマリアから外出許可証を貰うと、入り口の警備員に見せて二人は駐屯地の外に出る。

無言のまま、歩く二人。竜斗はどこに行くか分からない彼女の後ろをついていく。

 

……カジュアルファッションを好むエミリアと違い、いわゆるギャル系の服装であり、髪先はロールを巻き、メイクもかなり盛っており、駐屯地では彼女だけがスゴく浮いている。証拠に駐屯地で彼女の姿を見てギョッとなる隊員もちらほらいる。

早乙女はいくら軍属でも一応高校生の身ということで身なりの規制をしていないのが幸いであり、もしあれば彼女は絶対に不満たらたらであったろう。

 

「ねえ石川」

 

「ん?」

 

「アンタ、ここに来てからすごく成長したよね。見直したわ」

 

「あ、ありがとう……」

 

「それに言っておくけどさ、アンタがマナをまたここに戻らせたことを忘れないでよね?マナを守るからって未だに覚えてるんだから」

 

「……わかってるよ」

 

近くのバスに乗って駐屯地からもっと離れてた場所へ行く。

彼もまだ行ったことのない土地をたくさん見る。

「水樹ってこういう場所結構行くの?」

 

「まあね……」

 

席に座る二人だが愛美は窓際で外を眺めながらボソッと素っ気なく返す。

乗ること約二十分後、終点に到着し降りる。

メカザウルスの被害がなく、ビルなども立ち並び結構な賑わいがある街であり、彼は見とれてる。

 

「へえ、まだこんなに無事な街があったんだ……」

 

「ほら行くわよ」

 

「ところでどこに行くの?」

 

「服見たいからセレクトショップでしょ、行きつけのトコあんの。

コスメ欲しいし、マムチューのぬいぐるみも欲しいしインテリアも――」

 

「あれだけ部屋の中を変えといてまだ欲しいの?」

女の子だな、と彼は実感する。

 

「先に薬局行くわよ」

 

「薬局?」

 

「生理中なのよね。今タンポン切らしてるから買わなきゃ。ちゃんとついてきてね」

 

「タンポン……て、ええっ!!?」

 

……恥ずかしげなくそう言うのも相変わらずと言ったところか。

彼はどこに連れていかれるか少し不安になる。

 

近くに建つ薬局に入り、彼女の求める品のあるコーナーへ連れて行かれる竜斗だったが、彼に何故だか分からぬ羞恥心が込みあがる。自分が買うわけでもないのに。彼女は選んだ商品の支払いを終わらせるとすぐさまトイレに直行する。

そしてはまたもや入り口付近で待たされる竜斗の顔は赤面だ。

「はい、次行きましょ」

 

出てくるなり早くついてこいと言わんばかりの彼女に今日は絶対にくたくたになると予想する。

 

次に向かったのはアパレルショップ……所謂セレクトショップだ。

迷わずそこに直行したと言うことは彼女の行きつけの店なのだろう。

 

中へ入るなり、「ドウンドウン」と重々しいBGMに迎えられて凝った内装と共に飾られた衣服、そして「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎える、愛美と同じようなファッションで固める女性ショップスタッフ。如何にもな雰囲気である。

「あら、いつもありがとうございます。今日はカレシさんをお連れですか?」

 

そう言われ竜斗は顔を赤面させて違うと言おうとした時、

 

「いいえ、彼はマナの友達なんです。今日は遊びに来たついでで」

 

と愛美がタイミングよく否定してくれた。二人は店内の服を見回る。

 

……エミリアも似合いそうだけどこういうのは着そうになさそうだな、と思いながら周っていると、

 

「石川もさ、エミリアのためになんか服探したら?」

 

「え、あいつこういうの着るかな?」

 

「あら、以外と気に入るかもしんないわよ。悔しいけどあのコはスタイル抜群なんだから」

 

……以前の愛美なら絶対に彼女へこんなことを言わないだろう。

 

「彼女の服のチョイスを手伝うのも彼氏の役目よ」

 

「そうかな……けど俺こういう女性の服とか全く無知だし」

 

「だと思って連れてきたのよ。少しは女の感性を知ってほしくてさ」

 

「……え?」

 

「イシカワはチームのリーダーなのよ、けどアンタ以外女なんだから後々扱いに困るんじゃなくて?」

 

まさか愛美は自分のためを思って今日付き合わせたのか……彼は驚く。

 

「マナも今日、あのコに似合いそうな服とか化粧品とか探してあげるから感謝しなさいね。まあ好き嫌いはともかく――」

 

そして、この店を出た後、化粧品店やインテリアショップに行く二人。

愛美は自分の欲しいものを探しつつも竜斗に色々アドバイスする。

そんな彼はこういう関係の知識が豊富な愛美に驚くも、自分達のために一肌脱いでくれたことに感謝したのだった(最も、彼女の買った品を持つのは彼だったが)。

 

色々、見回り買い物した二人は休憩がてらファーストフード店に立ち寄り、席について一休みする。

 

「……水樹、お前買いすぎだよ」

 

「なっさけないわね、あのくらい。あれでもまだ買い足りないくらいなんだから」

 

それを聞いて唖然となる。

ジュースの入ったカップをストローで一口すすると彼女は彼に質問した。

 

「……ねえ石川。ここ最近エミリアと何かあった?」

 

彼は不意をつかれて飲む口を止める。

 

「なっ……なんでもないよ」

 

「図星ね。マナには分かるのよ、どこかギクシャクしてんのが。言ってみなさいよ」

 

「実は……」

 

彼はあの夜のことを話す。

 

「ふぅん」

 

 

 

「俺、どうしたらいいのか分かんないんだよね、こういうの……」

 

「なっさけないわねえ。とっとと覚悟決めてヤんなさいよ」

 

「そ、そんな無責任なこと言うなよ!」

 

つい大声を張り上げてしまう彼に、彼女は。

 

「まあマナも人のこと言えた義理じゃないし、愛し方は人それぞれだからね――けど女って大好きな男から自分を見てくれないほどツラいものはないの、それだけは確実」

「…………」

 

「結局アンタは恋愛は苦手と言って、言い訳して逃げてるだけ。

そうやってずっと逃げてると、もしかしたらあのコは石川に愛想尽かして他の男に移る可能性だってある」

 

「まさかエミリアが……」

 

「あのさ、自分が言うのもなんだけど女って魔性で嫉妬深くてメンドクサい、いろんな意味でえげつない生き物なのよ。

アンタも今までにマナからイヤと言うほど味わったでしょ?」

 

「……………………」

 

「……まあともかく、二人の土台はすでに出来てんだから最終的に男のアンタがなんとかしなきゃ。そんなんじゃいつまで経っても進まないどころか崩壊するかもね」「……そうか。やっぱり俺が勇気出さないといけないのか」

 

「まあ頑張りなさい。恋愛とかの質問ならマナは受け付けるからさ……フフ♪」

 

「水樹?」

 

色気づいた目で彼を見つめてくる愛美。

 

「じゃあさっそく今日、男を磨くためにマナとラブホ行っとく?ここしばらくヤってないからタマってんだよね?」

 

「ば、バカっっ!!」

 

「キャハハ、嘘に決まってんでしょ。マナ生理中だし――それでもいいならかまわないけど?」

 

「…………」

 

……二人はその後、街中を周りながら観光する……というより、彼女に連れ回されていると言ったほうが正しいか。

ヘトヘトになっている彼とは裏腹にまだ元気な愛美。

休ませて、と竜斗はベンチを見つけるなり即座に座る。

息を切らしていると、彼女はそばにあった自販機からペットボトルジュースを買い、彼に差し出した。

 

「悪かったわね、これは今日ばかりのお礼よ」

 

「あ、ありがとう」

彼女もベンチに座り、自分のジュースの飲み込む。

 

「……お前と付き合うといつもこんなに連れ回されるんだ」

 

「マナはこれでも抑えたほうだけど」

 

「…………」

 

……彼女と今まで付き合って別れる男の気持ちが少し分かるような気がする竜斗だった。

 

「しかしまあ水樹ってさ、前と比べたらホント丸くなったと思うよ。昔みたいに一緒にいてもイヤな気持ちにならないし――」

 

彼にそう言われた彼女は途端に静かになる。

 

「……マナ、イシカワ達と一緒に早乙女さんに救助されてさ、アンタをイジメるだけイジメて降りようと思ってたら、早乙女さんに脅されてゲッターロボのパイロットにやってるし。

ゲッターロボのパイロットも最初はイヤイヤでやってたけど……あの海で戦った時に黒田さんがマナを助けるために犠牲になって、初めて身近にいた人が死ぬっていう悲しみと何より自分の無力さを知ったっていうかさ――」

 

「…………」

 

「その後、地元に戻ってもうあんな思いしたくない気持ちもあったし、何より親や友達がいるからもう絶対に向こうに戻らないと思ってたけど……パパとママはどこにもいないし、マナの友達と思ってたコ達も実はマナをスゴく嫌っていたってことを知って最初から自分に何もなかった、ただ幻想ばかり見ていたってことを知って絶望してた時、

みんながマナに一緒に行こうって言っていってくれたよね、正直マナはスゴく嬉しかった――同時に今までマナはそんなアンタやエミリア、いやみんなにいっぱいヒドい目に遭わせてきたことを考えると胸がぐっと苦しくなった……」

 

涙まじりの彼女は彼に自分の心情を伝えた。

彼女は今まで自分の行ってきた悪行に後悔していることを彼は知った。

 

「けどマナ……みんなにどう謝ればいい……わからない……っ」

 

すると竜斗は、

 

「……少なくとも俺は水樹がここまで思い込んでいたことを知ったら寧ろ、よくここまで変わったなと逆に感心するよ。みんなだって多分、水樹が良くなったって分かってるし、黒田一尉だってきっと喜んでると思う。

大事なのは今からだと思うよ」

 

「イシカワ…………」

 

「そういう俺もさ、昔と比べて凄く変わった気がする、いやエミリアも。

それも全部早乙女司令、いやゲッターロボに関わったからだと思う。

色々と感謝してるけどね」

 

「……ゲッターロボってなんか不思議よね。ただのロボットじゃないのは分かってるけどさ、離れたくて離してくれないような感じで――」

 

「…………」

 

彼も妙に納得する。

――ゲッターロボ……自分もよく思う時がある。何気なく乗り込むけど、力強い、負ける気がしなくなるような魅力を感じるし確かに早乙女司令が好みそうな神秘性をもっているのは納得だ。

だが同時に変なパワーを放っているような気がする。

それも人を根本から変えるような、オカルト的に危険な何かが――。

 

――夜。ベルクラスへ帰艦する二人。買った商品を彼女の部屋に置く。

 

「ありがとね今日は」

 

 

 

「うん、こっちこそ勉強になったよ」

 

竜斗は自室へ帰ろうすると、

 

「イシカワ、今日マナと遊んできたってことをエミリアに言わないほうがいいかもね」

 

「……なんで?」

 

「前から感じてたけど、ああいうコほどそういうのに嫉妬しそう」

 

「……?」

 

「つまりね、デートしてたって勘違いされてヤキモチ焼くってこと――」

 

「ヤキモチ…………か。うん、わかったよ」

 

彼女からアドバイスをもらい、竜斗は自室へ戻る。普段着に着替えているとコンコンとドアを叩く音が――。

すぐにドアを開けるとそこにはプンプンと怒るエミリアの姿が。

 

「リュウト……今日ミズキとなにしてたの……?」

 

「え……っ?何って……」

 

「マリアさんから聞いたわ、ミズキと出かけたって……」

 

彼女からいきなり問い詰められるが、ついさっきの愛美の忠告を思い出す。

 

「リュウト……ワタシの言ったこと気にしていると思ったから今日謝ろうとしてたのに……なのにミズキとデートなんか……」

 

勘違いされている。エミリアはその場にへたり込んで泣き出してしまった。

 

……ついさっき、彼女から言われたことがこれか……いきなりすぎるだろう……彼は当然、慌てふためいた。

 

「エミリア誤解だって!」

 

しかし彼女は全く泣き止まない……彼はどう言い聞かせればいいか困惑していた。

(ど、どうすればいいんだ……)

 

すると、ファーストフード店で愛美が言っていた言葉を思い出す。

 

『男のアンタがなんとかしなきゃ』

 

と。迷いに迷った彼はもう感情に任せて、ついに彼女の顔を両手で持ち顔を合わせて彼女とついに口づけを交わした――。

 

「…………」

 

「…………」

 

二人は硬直する、時が止まったかのように――二人の頭の中はもうパンクしそうになったが……同時にだんだんと心地よい気分になっていった――。

 

「……俺はエミリアだけだよ。今はこんな勇気しか出ないけど……ゴメンね……」

 

「リュウト……っ」

落ち着いた彼女は泣きやむ。

 

「今日、水樹に買い物の持ち係を頼まれてさ……だから俺はそれに付き合っただけ。何もしてないよ」

 

「そうだったんだ……ゴメンね勘違いして……やっぱりアタシバカだ……」

 

「俺も今までお前に何もしてやれなかったことを悔やんでたんだ……だから、ちょっぴりだけ男としての勇気を出した――これからもちょっとずつだけど勇気を出していくよ」

 

「――ありがと、リュウト」

 

二人は立ち上がり、まるで数日前の事がなかったかのように、今まで通り仲良くなっていたのだった――。

 

 

(へえ、イシカワやるじゃん。見直した――)

 

……何があったのだろうかと駆けつけた愛美だったが、今までのやり取りを見て安心し、立ち去っていった。

 


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