ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十七話「地元帰り」③

――二日後、午後七時前。

荷物をまとめた竜斗とエミリアの二人は体育館の出口に向かう。

 

「ホントにいいのかエミリア?」

 

「アタシはなんと言われようとリュウトについていくよ」

 

二人は靴を履いて体育館を後にした。

 

「……みんな、俺達がまたいなくなって凄く心配すると思うけど、絶対に生きて帰ってきてみせるから」

 

「アタシもよ。ここに戻るときはこの戦争が全て終わった時ね」

 

二人はもう一度振り向き、見慣れた光景を見納めて、決意を胸に早乙女のいる集合場所へ歩いていった。

 

二人は集合場所へ向かうとすでにそこには早乙女の車が止まっていた。近づくと早乙女が降りてきて二人の前に立つ。

 

「……戻ってきたか。本当にいいのか?」

 

「はい。やらなければいけないことができたので――」

 

竜斗は戻ると決めたその理由を早乙女に話した。

 

「……そうか。君達の両親や友達が奴らに」

 

「それだけでなくて、司令が前に言っていたようにゲッターロボで世界を救えるなら……こんな僕でも世界を救えるなら!」

 

「ワタシもリュウトと同じです。それにクロダ一尉の無念を晴らしたい思いもあります。だからまたゲッターロボに乗ります」

 

「僕達はこれからもゲッターロボに乗って戦う覚悟はすでに出来てます。またよろしくお願いします!」

 

早乙女は表情が和らぎ、相づちを打った。

 

「では私達も君達の両親や友達の捜索、救出に協力させてくれ。そしてこれからもよろしく頼む」

 

「「はい!!」」

 

「……ところで水樹は?」

 

彼女をついて聞かれると、

 

「水樹は……多分――ね?」

 

「うん……」

 

「まあ、まだ時間はある。八時まで待とうじゃないか」

 

三人は少しずつ暗くなっていく空の下で待ち、約束の夜八時になろうとしていた――。

 

「やっぱり戻ってこなかったね……」

 

「……しょうがないよ。正直イヤそうだったし……」

残念そうな表情の二人。

 

「では、行くとするか。二人とも車に乗れ」

 

車に乗ろうとドアを開けた時、早乙女は止まる。

竜斗達が通ってきた道からこちらへ向かって歩いてくる足音が聞こえる、だが次第に女の子のすすり泣くような声も。

 

早乙女はすぐさまその方向へ持ってきた懐中電灯を照らすと人影が見える。それが誰なのかがすぐにわかる。

 

「……水樹?」

 

乗り込んでいた竜斗達もすぐに降りて見るとそこにいたのは愛美だった。しかも顔を真っ赤にして嗚咽していた。

 

三人はすぐに彼女の元へ駆けつける。

 

「水樹、一体どうしたんだ……?」

彼女はその場でへたり込んでしまうまたわんわんと泣き出してしまう。一体何があったのか――。

 

 

 

――それはここに来て竜斗達と別れた後の事だ。

 

愛美は一人、家族や友達を探していた。その途中、ついに高校でつるんでいた女友達の集団を見つけ、走り向かった。

 

「み、みんなあ!!」

 

愛美の声に反応したその友達は振り向き彼女の見た瞬間、

 

「げっ……マナミじゃん……」

 

「生きてたんだ……」

 

何故か全員の顔が引きつっていたのだった。

 

「ユカ、レイナ、みんな無事でよかったあ~っ!」

 

「……う、うん。マナこそ生きててよかった、ねえみんな」

 

他の子達は相づちを打つもどこかぎこちないのは何故だろうか。

愛美はやっと自分の友達と再開したのが嬉しくて自ら主役と言わんばかりの一方的におしゃべりし、そしておだてるように彼女を持ち上げる友達。

 

(やっぱりマナの居場所はここね。早乙女さんやマリアさんには悪いけどもう戻らないわ)

 

深夜遅くまで話続けて――二日目。起きたのは正午であった。

眠たそうな顔で、彼女はもう一つの目的である自分の両親を探しにあちこち回る。が、竜斗達同様に父親と母親の姿がどこにもいない……。

 

自分の住んでいた街の人達のほとんどはここに集められていると聞いているし、そもそも彼女の両親に街に知人が沢山いるため所在を知らないということはまずない。しかし誰からも手かがりは掴めずにいた。

 

「なんで……なんでどこにもいないの……?」

 

 

 

困っていたその時、昨日、竜斗の友達が言っていた言葉を思い出した。

 

『恐竜の姿をした怪物が人々を連れ去るのを見た』

 

――正直、自分には関係ないだろうと思っていたその言葉が矢となり心に突き刺さったように急に胸が痛みだした。

結局、友達にも聞いたりしてはずっと探してみたものの全く手かがりすら掴めなかった――。

この時からか、彼女に向こうに戻るか戻らないかという選択肢が揺れ始めたのは――。

 

 

「せっかくだしどっか遊びにいこうよ、ここにいてもつまんないからさ。街に遊ぶトコとかないの?」

 

そして三日目。彼女が友達を集めてそう言い出す。

 

「えっ……街にはもう廃墟でなにもないよ」

 

「え~~それじゃあつまんないじゃん。今から外に行こう、絶対に無事な場所あるはずだって!」

 

「う、うんまあ……」

 

早速友達を引き連れてまた外へ飛び出していく。

一時間、二時間とあちこち歩きまわくがやはり廃墟だらけである。

 

「やっぱりないんだよ。帰ろうよ、ウチらもう疲れて動けないよォ!」

 

「だらしないわねアンタ達!ちゃんとついてきなさいよ!」

 

歩き疲れてへばっている友達に対して平気そうである愛美だが、これは朝霞での体力練成による成果である。

無理やりにでも連れまわすが、どこもかしこも店は無人の廃墟と化しており、さすがの彼女でさえ諦めかけてきた時、街外れのほうに小綺麗とした小さな喫茶店を見つけたのだった。

しかも『OPEN』とボードに書かれている。

 

「ほらあ、ちゃんとやってるとこあるじゃん!」

 

休憩がてら全員がそこに入るとガランとしており、店員と思われる初老の男性がカウンターでグラスを吹いている。

 

「いらっしゃい」

 

彼女達は座席に座り込むと店員の男性は冷たい水を入れた人数のグラスをトレーに入れて持ってくる。

 

「ここだけやってるんだね。おじさん一人で経営してんの?」

 

「たまにここに立ち寄る避難民がいるからね。少しでも休めるよう格安で癒やしを提供してるんだよ」

 

「ふうん。おじさんは店長の鑑だね」

 

 

 

密集地や廃墟と比べると場違いなくらい綺麗でアンティークな雰囲気を醸し出すこの場はきっとマリアがいれば気に入りそうな場所である――。

 

「ちょっとトイレに行ってくるね」

 

突き当たりのトイレに向かう愛美。用を済ませて手を洗い、ドアから出た彼女に席から友達の会話が聞こえるのだが何故か立ち止まった。向こうからは見えない壁に背を向け角からこっそり聞く。

その内容は、自分自身のことについてだが……、

「まさかマナミが生きてるとはねえ……てっきり死んじゃったかと思って清々してたんだけど」

 

「あたしもだよ。あんなウザいヤツからやっと解放されたかと思ったのにね……」

 

愛美にとっては思いもよらないことを話している。無論、心が凍りついた。

 

「ぶりっ子でワガママだし、会話になると一方的でウチらの話なんか聞かないしさ、一体何様のつもりなんだよ」

 

「金持ちだからって調子に乗りすぎだよね。まあおだてればいい金づるだしね」

 

「大体さあ、別クラスの石川イジメてた時にアタシもいたんだけど正直マナミにドン引きだったわ」

 

「わかるわかる、あんな陰険で暴力的なことしてるんじゃカレシと上手くいかないのは当たり前だよね」

盗み聞きしている愛美の顔は耐え難い怒りと悲しみで真っ赤に染まっていた。

そう……愛美は初めから友達とは思われてなかったのだった。

 

「それにマナミってヤリマンだしね。ぶっちゃけあそこまでいくとビョーキだよビョーキ、男なら誰でもいいんだ」

 

「性病はいっぱい持ってそう……だとしたらさらに引くわー」

 

確かにそう言われても仕方ないのかもしれない、それは彼女の行ってきたことの報いだ。

だがそれに気づかなかった愛美にとって今まで仲良く連み、友達と思っていた彼女達から陰でそう言われてると知ったことがあまりにもショックだった。

エスカレートする自分への罵倒に、大粒の涙が溢れていた――。

 

そんな会話をしている最中、愛美は満面な笑みを浮かべて帰ってきた。

彼女達はすぐに話を切り上げて先ほどとは一変して笑顔で迎える。

 

するとマナミは満面の笑顔で、

 

「ねえみんな、コップに水入れてあげるよ、優しいでしょ」

 

「えっ?」

 

テーブルにあった冷水の入ったポットを持つと何故か蓋を開けた。その瞬間中に入っていた冷水を勢いよく全員に向けてぶっかけたのであった。複数の甲高い悲鳴が店内にこだまする。

 

「ま、マナミっ!!?」

 

ずぶ濡れになる彼女らが見た愛美の顔は満面の笑みから一転し、まるで悪魔の如き形相へ変貌していた。

ここで自分達のしていた話を聞かれていたと気づき、わなわな震える全員に愛美は続けてポットを投げつけようとした。 が、途中で止めてそのまま力尽きたようにポットを床に落とす。

 

そこに突然の騒ぎに慌てて駆けつける店長も、ここで何が起きたか知るはずもなく茫然としていた。

 

「……おじさん、大事な店を水浸しにしてごめんなさい」

 

一人で店から出て行く愛美。自分を馬鹿にしたことに対する仕返しをしたとしても空虚だらけである。

自分には初めから何もなかったと思い知り、絶望する――。

そしてこんな時に頼りすがりたいはずの自分の両親は行方不明である。

今、自分は本当に一人ぼっちになってしまったと――だが、彼女は気づく。もう一つ寄りすがる場所があることに。

 

 

――という経緯で今、泣きながら早乙女の元へ帰ったのであった。

 

「マナ……居場所なんてなかった……」

 

 

 

へたり込んでただ泣く彼女に三人に訳など分からない。

 

「……両親は?」

 

首を横に振る愛美に三人は理解する。恐らくは彼女の両親も……。

 

「……水樹、ならまた俺達と一緒にゲッターチームをやっていこうよ」

 

竜斗はそう言いかけた。

 

「水樹はゲッターロボの操縦は俺達より上手いし、これからも必要だよ。なあエミリア」

 

「う、うん。正直戻ってこないと思ってたから凄くビックリしてる。

けどミズキがまた乗るんならアタシはスゴく嬉しい。チームでワタシだけ女だったら心細いって思ってたから」

 

「エミリアもそう言ってるしさ。水樹、お願いだよ」

 

「…………」

 

「私も君が戻ってきてくれて凄く嬉しいよ。

やはりゲッターチームは君ら以外には務まらんと思う。なぜなら君達にはそういう才能と生き残る運を持ち合わせているからな」

 

あの早乙女も戻ってくるよう頼み込んでいる。

 

「俺とエミリアはメカザウルスに連れ去れた両親と友達を助けると同時に世界を救いたいし、それに黒田一尉の無念も晴らしたいんだ。

水樹も俺達と同じ思いなら一緒にやっていかないか?」

 

「……マナ、死ぬのが怖い……」

 

「なら俺が水樹を絶対に守る。仲間なんだから!」

 

「アタシも同じよ、女の子同士助け合っていこうよ」

 

「私とマリアも君達を全力で支援し、生き残れるよう努力する、安心しろ」

 

竜斗は手を差しのべ、屈託のない笑顔でこう言った。

 

「水樹、一緒にいこう!」

 

「イシカワ……」

 

竜斗の力強い発言に促され、ついに愛美は戻ると決心し、彼の手を取り合ったのであった。

 

「またよろしくな水樹!」

 

彼女は手に入れた、ゲッターチームというちゃんと自分を受け入れてくれる本当の仲間を。

嬉しさのあまり泣き出してしまう愛美に竜斗とエミリアは大喜びで迎えた――。

 

そして早乙女はついにまとまる三人に対し、夜空を見上げて、

 

 

「見てるか黒田。ついに本当のゲッターチームが揃ったぞ」

 

……そう呟いたのであった。

 


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