ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十六話「勝利と代償」①

「か、海中のメカザウルス小隊の大半が壊滅……っ」

 

「セクペンセル・オーヴェも、三機が破壊されました!」

 

愛美の駆るゲッターロボの活躍により大打撃を受けた自分の部隊の惨状に狼狽する部下に対しアウネラは腕組みをして、焦る様子などなく一見冷静な顔をしている。

 

「上空部隊は?」

 

「……やはりあのゲッター線を動力とする敵部隊が現れてから形勢が逆転しつつあります。

アウロ様は負けじと奮闘してますが追いついていません!」

 

「…………」

 

――上空。心が軽くなった竜斗は黒田と同じく吹っ切れ、最初以上に戦果を上げ、それに伴い空自部隊全体の士気も向上、優勢になりつつあった。

そしてマリアを送りにもう一度ベルクラスに戻っていたエミリアも再び竜斗と合流した。

 

「リュウト、マリアさんを無事送ってきたよ!」

 

“よし、あとはもう――”

 

ここからやるべきことは一つ。空中のメカザウルスを全て一掃するだけになった。

 

だがアウロの駆る『メカエイビス・エイルード』の動きも急激に活発化した。

 

「空中のメカザウルス部隊へ。なんとしてでもゲッター線を使用する機体と浮遊艦を最優先に破壊せよ。

野放しにするな、我々爬虫人類の災いになるものは一切地球に存在させてはならない!」

 

空中で活動するメカザウルスは彼の号令で一気にゲッターロボ、ベルクラスになだれ込む。

「キャア!」

 

エミリアはメカザウルスに押し込まれて翻弄されてしまう。助けようとすぐさま竜斗は一点にかたまったメカザウルスを撃ち落としていくが攻撃が追いつかず。

 

“どうやら向こうは一気にたたみかけにきている。

だがここまでメカザウルスが固まっていればかえってありがたい。

ゲッターロボはビームでメカザウルスをなぎ払え。

ベルクラスは主砲であの怪物を攻撃する。この攻撃で一気に終わらすつもりでいくぞ!”

 

「了解!」

 

“念のためビームの出力を半分程度に抑えろ。

それでヤツら程度なら撃破できるだろうし、何より連射できる」

 

二人は今持てる力をフル稼働させた。

 

「ゲッタービームっ!」

 

彼女がそう叫ぶと同時に機体の腹部からビームを発射、密集したメカザウルスをなぎ払った。

 

「エミリアお前…………」

 

“エヘヘ、一度こうゆう風に叫んでみたかったの……”

 

――そういえば彼女は早乙女とチーム名について口論していた時、言い争ってはいたが二人で仲良く意気投合して『かっこいい名前』について盛り上がっていたのを思い出す。

二人は実は『少年』のような心を持っているのかもしれない。

 

 

竜斗も負けじとメカザウルスの攻撃をまるでアクロバティックのように華麗な軌道を描いて上手く回避していく。

そしてメカザウルスが自分を追跡してくるのを確認。

 

振り向き、右脚部に装備された小型空対空ミサイルポットを展開し、全三発発射し見事命中し爆発。

すかさずナイフホルダーからナイフを取り出して突撃。

爆発で怯んだメカザウルスの首へ振り込み、見事切断した。

 

そして空中メカザウルスに搭載された従来型マグマリアクター内のマグマが冷えてきており、その影響で出力低下と共に性能が大幅に弱体化し、次々と撃墜されていく。

もはや戦力的に人類側が優勢となっていた。

 

「ちいっ……」

 

その状況下でアウロには焦りが見え、操縦にもそれが顕れており、エイルードの触手の動きが大振りになり動きに無駄ができ始めていた――。

 

“大丈夫かアウロ”

アウネラ自らが彼を心配し、通信をかけてきていた。

 

「アウネラ様……っ」

 

“帰艦しろ。今のお前には疲れが見え始めている、無理をするな”

 

気をかける彼にアウロは……。

 

「心配無用です!ここまで追い込んでみすみす撤退なんて……ここが踏ん張りどころですよ!」

 

“はっきり言って、戦況は奴らのペースだ。このままではお前までやられる。

一度立て直すことも大事だ”

 

「…………」

 

“ここで無理して死ぬこともないだろ。悪いことは言わん、戻れ!”

 

「私、キャプテン・アウロは帝国に忠誠を誓う身であり、あなたと同様にキャプテンという恐竜兵士の風上に立ち、いわば騎士(ナイト)です。敵に背を向けるなどと、それこそありえません……!

 

恐竜帝国の誇り、そして爬虫人類の未来にかけて、この身を犠牲にしてでもあのゲッター線の機体を倒してみせましょう!」

 

彼から通信が途切れ、対しアウネラは複雑な表情を浮かべ、歯ぎしりを立てた。

 

「……バカが……っ」

 

エイルードは全ての触手をベルクラスへ向けてマグマと溶解液で集中攻撃を繰り出すが、ベルクラスはお構いなしに艦首を展開し主砲発射態勢に移行していた。照準をエイルードに合わしプラズマエネルギーを収束させる。

 

「ベルクラスはこれより主砲を発射する。射程内にいる各隊員は速やかに退避せよ」

 

ベルクラスの前方にいたゲッターロボとBEET、戦闘機は一目散に四散した。

アウロは前方に光る青白い太陽のような輝きを見て、もはやこれまでと悟る。

 

「……どうやら私はこれまでのようだ。

だが、ゲッター線は貴様らのような無知が扱える代物ではないことを、そしてそれを湯水のごとく扱う低俗な猿には破滅の未来しかないことを。その時は身を持って知るがいい!!」

 

ベルクラスへ向けて捨て身の特攻をかけるアウロ。

 

だが早乙女はいつも通りの平然な表情であった。

 

「主砲、発射――」

砲門から膨大のプラズマエネルギーが解き放たれ、それが極太の光線を形成し一瞬でエイルードに直撃。触手、胴体が少しずつ分解されていった。

 

「アウネラ様……命令を無視して申し訳ありませんでした……恐竜帝国、そして爬虫人類に栄光あれ――――!!」

 

アウロもまたプラズマエネルギーの塊に飲み込まれていき、光線が消える頃にはエイルードは影も形もなかった――。

 

「メカエイビス・エイルード、反応消滅しました……アウロ様も……」

 

この場は沈黙に陥った――。

 

海中では愛美の活躍もあり、海中のメカザウルスのほとんどを掃討したゲッターロボとBEET部隊はジュラ・ノービスを包囲しようと接近する。

この魚の形をした巨大艦を破壊すれば、あの牙に囲まれる驚異もなくなるし、そして敵の基盤が崩れる。

すなわち第十三海竜中隊は壊滅したも同然である。

 

「ホラホラ、一気にケリつけるわよ!」

 

“焦るな水樹!”

 

気合いがこもり、熱くなりすぎている愛美をたしなめる黒田。

彼女自身はここまで達したことがないのだろう、感情のコントロールができてない。

 

「敵部隊、本艦を包囲するつもりですアウネラ様!」

 

黙り込んでいたアウネラがついに口を開く。

 

「総員、手遅れにならない内に直ちに艦から退避せよ。

これより艦の操縦は私が全て行う」

 

「アウネラ様……?」

 

「これまでの戦闘データと『セクペンセル・オーヴェ』に関する開発書を持って本隊のマシーン・ランドへ行け。お前たちが安全圏へ脱出するまでは私がなんとか時間を稼ぐ」

 

なんと司令官である彼自らが囮となる発言に当然部下達は仰天、狼狽した。

 

「アウネラ様、何をおっしゃいますか!?あなたを見捨てることなんてできません!!」

 

「私達はいざ、このジュラ・ノービスと運命を共にするつもりです!

それに脱出するならアウネラ様ご自身が!」

 

訴える部下だがアウネラ様は平然と首を横に振る。

 

「いや行け。お前たちはまだチャンスがある。おそらく今戦闘は大敗は確実、それは全て司令官である私の責任だ。

日本地区で敗戦が続くこの状況でおめおめと逃げ帰ったら確実にゴール様に処刑されることだろう。

だが、お前達の場合は私自らの命令で脱出したと言えば助かるかもしれん。

ゴール様に会う前にガレリー様に戦闘データと開発書を渡しておけ、いいな」

 

「しかし……っ」

 

「直ちに退避せよ、絶対命令だ!!」

 

彼の怒号がこの司令部に響き渡った。

 

「行ってくれ、頼む」

 

「……了解しました」

 

やりきれない表情の部下に対してアウネラは彼らに敬礼した……。

 

「これまで私は色々と厳しい態度をとってきたが内心、皆と共にここまで仕事ができてとても嬉しく思う、本当にありがとう」

 

悲しませないように気丈に、そして今まで見せたことのない優しい笑みをとる彼。

 

「元気でな――」

部下達は涙が溢れながらも彼にビシッと敬礼、去っていった。

見送った後、この場でただ一人となったアウネラはこの中を見回して、これまでの思い出に浸る。

 

「ジュラ・ノービス、最後まで付き合ってやるから感謝しろよ」

 

そして艦の操縦席に座り、思い詰めた表情で桿を握り込む。

 

「アウロ、待ってろ。私も今行くからな」

 

――ゲッターロボとBEET部隊はジュラ・ノービスに対する包囲網を形成し、ゲッターミサイルと魚雷の一斉射撃を浴びせる。

旧式艦であるジュラ・ノービスの装甲は無理に改修を繰り返して使われたこともありかなり消耗しており、集中砲火で簡単に破壊され、あちこちに小規模の爆発が発生、沈没も目前であった。だがその時、艦後部から古代魚の形をした潜水艇が射出され艦から離れていく――。

 

「あれは……逃げるつもりか?」

 

「逃がすか!」

 

数機のBEETは逃げていく潜水艦に向け、照準を合わせた。

 

 

だが瞬間、ジュラ・ノービスから多数の魚型魚雷が一斉に発射されて自分達に襲いかかった。

 

「ただでは死なん。せめてもの、ゲッター線の機体だけでも道連れにする」

 

決死の反撃をするジュラ・ノービスは今度はゲッターロボの方へ向き、口を大きく開けて『ヒュドュン砲』を展開した。

 

「ヤバッ!」

 

愛美は急いでそこから逃げようとするが、残っていた五つの牙『セクペンセル・オーヴェ』が突如姿を現しゲッターロボへ体当たり、妨害する。

 

「水樹!」

 

黒田も助けるために駆けつけ、牙から引き離そうとするも今度は黒田にも標的にし、体当たりを開始した。

 

「アンタ達、黒田さんを離しなさいっ!!」

 

“水樹、来るな!”

 

だが牙達は再び散って陣形を組み、二人を包囲する。

 

「これで最後だっ!」

 

赤い膜が張られた時、今にも艦からフォノンメーザーが発射されようとしていた。

 

「えっ、えっ!!!?」

 

焦りに焦る水樹。

 

「君だけでも助ける!!」

 

黒田は体当たりによってボロボロとなった自分の機体を駆使し、ゲッターロボを全力で結界外へ押し出したのだった。

 

「黒田さんっ!!?」

 

“……水樹、ごめんな。ちゃんと君と向き合えばよかったよ……っ”

 

フォノンメーザーが発射され、黒田だけがいる結界へ直撃、結界内は真っ赤に染まった。

 

「黒田さんっっ!!」

 

必死で呼びかけるも通信が途切れ、レーダーを確認するも黒田の機体の反応が消滅していたのだった……。

一瞬だけ彼女は茫然自失した。

だがすぐにマグマの如き怒りが身体に湧き上がり暴れまくった。

 

「うああああああああああああっっ!!!」

 

怒り狂った彼女はジュラ・ノービスへゲッターミサイル、プラズマビームを全弾撃ち尽くし、全て真正面から――。

 

「私が死すとも、恐竜帝国は死なず!!ゴール様、万歳!!」

 

ゲッターロボの一斉砲撃を受け、司令部は大爆発を起こし、アウネラも巻き込まれていった。

艦内部の至るところにも次々と爆発、そしてすぐに閃光と共についに大爆発。

 

 

 

ゲッターロボやかろうじて生き残った数機のBEETは艦の爆発による強烈な衝撃波に呑み込んでいった――。

 

……その数分後。

 

“水樹、戦闘は終わりだ。よくやってくれた……っ”

 

離れた場所に漂うゲッターロボに早乙女から通信が入る。

しかし彼女はうんともすんとも喋らない。

 

“敵母艦の爆発の衝撃でしばらく海中に通信が繋がらなかったがやっと繋がった。無事でよかった”

 

早乙女がモニターで見るも彼女の様子がおかしい。

 

“水樹、どうした?”

 

すると彼女は、震える声でこう呟いた。

 

「……黒田さんが……」

 

“……なに?”

 

「黒田さんが……マナを助けるために……」

 

早乙女は急いで彼に通信をかけた。だが画面モニターがノイズばかりでコックピットを映さない、レーダーを見てもやはり反応が消えていた――。

 

「黒田…………っ」

あの早乙女ですら動揺し、口を硬く閉ざしてしまった。

その時、医務室にいたはずのマリアが早乙女の元に駆けつけるも、彼の様子の異変に気づく。

「司令……?」

 

「黒田が……死んだ……っ」

 

マリアは慌てて彼と同じく黒田に通信をかけ、反応を確認をするも全く反応のないことを知り、自失してその場にへたり込んでしまった。

 

――竜斗達も帰艦してからこの事を知り、ゲッターチーム全員の心にどうしようのない悲しみ、そして無力感が大きな穴としてポッカリと開けてしまった。

 

……今回は功績、得られたもの、そして同時に失ったものも大きく、竜斗達にとっても節目と言うべき戦闘であった。

 


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