ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十五話「対馬海沖の決戦、後編」②

「マリア、しっかりしろ!」

 

早乙女は通信で呼びかける中、愛美は彼の後ろ姿を見てぐっと拳を握りしめた――。

 

「……早乙女さんっ」

 

「こんな時になんだ?」

 

「……分かったわよ。乗ればいいんでしょ、乗れば……!!」

 

「……乗りたくないんじゃなかったのか?」

 

「もうマナにはなにがなんだか分かんないの……っ。

けど、今はマリアさんを助けたい……ここではあの人だけがマナを見てくれた、かまってくれた。

だからマナがマリアさんを助ける!」

 

それを聞いた早乙女は振り向いた。

 

「ではもう一度聞く。今だけでもいい、ゲッターロボに乗るか?」

 

「だから乗るって言ってんでしょ、何回も同じ事言わさないでよ!」

 

早乙女はそれを聞きたかったと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべた。

 

「よく言った水樹。では今すぐ格納庫へ行き、竜斗かエミリアのどちらかの機体に乗れ。

君の機体を海上まで浮上させ、そこで君とマリアを交代させる、黒田に協力してもらう」

 

しかし彼女はなぜか食えない顔をしている。

 

「……まさかマナを絶対に乗らせようとして――」

 

「さあ、なんのことだ?君が自ら決めたんだろ?

ホラ、グズグズしてないで早く格納庫へ」

 

「…………っ!」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして彼女は出ていこうとした時、

 

「水樹」

 

突然、彼女を呼び止めた。

 

「ありがとう、期待してるぞ」

 

「…………」

 

何も言わずに出て行く彼女の後ろ姿を見て、どこか安心したような優しい表情の早乙女――。

メカザウルスの猛攻を必死に避けて、マリアの元へ駆けつけようとする黒田の元に早乙女から通信が。

 

“黒田、どうやらマリアは気絶しているようだ。

ゲッターロボを海上まで引き揚げてくれ。水樹とマリアを交代させる”

 

「えっ?水樹が……?」

 

“さっき自分からまた乗ると言ったので格納庫へ向かわせた。

竜斗かエミリアの機体に搭乗してもらい君達と合流してもらう、いいな!”

 

“……了解っ!”

 

彼のモヤモヤが吹っ切れ気合いを込めてレバーに握りしめる。

水中であるにも関わらず恐ろしいほどの反応を見せて、敵の攻撃や突撃を完全回避しながら、見事ゲッターロボへたどり着く――。

 

「マリア助手!」

 

コックピット内を映すと彼女はぐったりしたまま動かず、気絶していた。

すぐさまゲッターロボを抱きかかえ、スクリューを使い、浮上を始める。

下からメカザウルスが自分達を追ってきているのを、すぐさま魚雷を向けて発射、直撃させ追跡を阻止する。

 

「マリア助手、もう少しの辛抱ですよ……!」

 

――ベルクラスの格納庫ではちょうどメンテナンスが終わり、再び出撃態勢に入っていた竜斗達に早乙女から通信を受けていた。

 

「水樹が……」

 

“もうそっちに着くと思う。

二人の機体にどちらかに乗せてやってほしい。

出撃して海上に出た黒田達と合流し、二人の交代を手伝ってやってくれ”

 

すると、ちょうど愛美が駆けつけ、二人はコックピットから降りて彼女と再開する。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

――三人とも沈黙。少し気まずい雰囲気が漂うが愛美がその沈黙を破る。

 

「……話は聞いたんでしょ?」

 

「水樹……どうして……っ」

 

「さあ?たまたまマナの機嫌がよくなったのかもね。ホラ、マナをどっちに乗せるの?」

 

……すると、

 

「ミズキ、アタシのとこに乗りなさいよ!」

 

エミリア自身からそう申し出る。

 

「ゲッターロボはまだシールドが使える分、安全だから。あと……」

 

「……あと?」

 

「その……ミズキに謝りたくて……」

 

「…………」

 

「……ワタシ達、顔を合わせるたびにほんと喧嘩してたね。アタシはアンタと合わないと思ったし、証拠にミズキの言動にムカッときたことは凄くいっぱいあった。

 

ちゃんと見ればアンタのいいとこだっていっぱいあると思うのに、悪いとこばかり見てワタシはミズキと向き合わずに避けて仲間外れにしてたと思う。

それはチームとして最低だよね……だから……ゴメンナサイ……っ」

 

涙声で頭を下げて謝るエミリア。

 

「水樹……実は黒田一尉に言われたんだ。俺達にチームとしての自覚が足りなかったって。

だから俺とエミリア、さっきからそればかり気にしてたんだ。

俺もそのことは正直にちゃんと謝りたい、ごめん……」

 

「…………」

 

……誠意を込めて頭を下げる二人。愛美は顔を赤めらせ、涙目になるが、すぐに目を拭いた。

 

「……ホラ、謝るのは後にして早く黒田さん達と合流するんでしょ?

マリアさんが気絶してるみたいだから早く助けてあげなきゃ。マナ達『ゲッターチーム』いくわよ!」

 

「ああっ!」

 

「うんっ!」

 

竜斗はすぐにBEET、エミリアとミズキは空戦型ゲッターロボの各機体に乗り込む。

 

「ミズキ、このゲッターロボの操縦をしてみる?」

 

「えっ……」

 

「ほらっ、乗りたいって言ってたじゃない。アタシばかり乗るのもアレだしミズキならきっと上手く扱えられるんじゃないかしら」

 

「いいの?ならっ!」

 

愛美が操縦席に座り、エミリアは後部へ移動した。その時、竜斗から通信が入る。

 

“水樹がマリアさんと交代するまで俺も二人の護衛として付き合うよ”

 

「石川……」

 

“『チーム』なんだから守らないとな。それに戦いを少しでも早く終わらせて被害を少なくしたいしさ、水樹が戻ってきたならそれができるかもしれない。行こう二人とも!”

 

――そして最初と同じくBEET、空戦型ゲッターロボの順で再出撃した。

海面へ急降下していく二機。

途中でメカザウルスに襲われるも竜斗の援護攻撃、そして愛美の操縦技術によってことごとく危機を回避していった――。

 

「ウワオっ、ミズキスゴい!!」

 

「…………」

 

すると愛美は、

 

「……ねえ。なんかコレ、マナの期待していたのと違う」

 

「……え?」

 

「カッコいいし空飛べるからおもしろそうかなと思ってたけど……なんか操縦が凄く簡単過ぎて面白くないし、なんか空飛ぶのそこまで楽しくない。拍子抜けだわ」

 

「ミズキ…………?」

 

「マナ、やっぱりいつものがいいわ。デザインは最悪だけど、操縦は比べたら向こうの方が飽きないし、断然に楽しいからね――」

 

……彼女はそう呟いた。

無事、二機は海面付近に到着しモニターを確認。

少し離れた場所で黒田のBEETが海戦型ゲッターロボを持ち上げる形で海面に浮上している所を見つけ、急いで向かう。

 

「黒田一尉、水樹を連れてきました!」

“ありがとう!コックピットからマリア助手の救助を手伝ってくれ。素早く行うぞ”

 

……どうやらマリアはいまだ気絶しているようであり、コックピットから開けられないので外部から開けることに。

 

竜斗に周辺を護衛してもらう間、空戦型ゲッターロボの手の平に水樹を乗せて、海戦型ゲッターロボのコックピットハッチへ密着させる。

水樹は外部からの開閉スイッチを押し、ハッチを開ける。

 

「マリアさん!」

 

ぐったりしたマリアを抱きかかえる愛美。だが、さすがに持ち上げるだけの力がない彼女は黒田に通信を取る。

「黒田さん、マナだけじゃ無理だから助けにきて!」

“わかった、すぐ行く!”

愛美は彼女を揺さぶる。

 

「マリアさん!マリアさんっ!」

 

何度も揺さぶると、ついにうめき声を上げ、彼女は目をゆっくり開けた。

 

「マリアさん大丈夫?マナが助けにきたよ!」

 

「……マナミちゃん……?」

 

「マナと交代するよ、もう安心して!」

 

「マナミちゃん……どうして……っ」

 

「マリアさんは……マナにいっぱいかまってくれたもん……だから――」

 

そして黒田が駆けつけ、彼にマリアを明け渡し、コックピットの座席に座り込む。

 

「エミリア、マリアさんを頼むわよ」

 

“うん、任せといて。あとミズキ”

 

「……なに?」

 

 

 

“無理しないでね”

 

「心配いらないわ。あんなキモいヤツら、マナがケチョンケチョンにしてやるから!」

 

無事、マリアを引き渡したのを見届けた彼女はすぐさま座席に座り、イキイキと操縦レバーを握り込んだ。

 

“水樹、頼むぞ!”

 

「任せといてよ!」

 

今までの彼女とは思えない、そして見せたことのないほどの真剣で気合いに満ちた態度である。

再び水中へ潜水する海戦型ゲッターロボとBEET。

ちょうどその時に一機の首長竜型メカザウルスが迫ってきており、大きな牙突き立て、噛みつかれそうになったがゲッターロボはメカザウルスの頭部を右手でガシッと掴んだ。

 

「マナが本気(マジ)になったらどうなるか教えてあげる!」

 

高出力マニュピレーターを駆使し、なんと頭部そのものを潰し、行動停止させた。

 

彼女は続けて素早い手つきで操作を繰り出し、足元のパッシブソナーに映るメカザウルス全てに照準をつけ、機体全体の全砲門を開いた。

 

「いくわよ『キモいの早く死ね死ねミサイル☆』!!」

 

冗談か本気か分からないような掛け声と共に海戦型ゲッターロボから無数のゲッターミサイルが一斉に飛び出し、全てがこの一帯にいるメカザウルス全てに襲いかかり、皮膚が溶けて海底へ次々と沈んでいく。

 

「まだまだ!!」

 

素早く次弾の装填を終え、今度は胸部を開放し中から大きく円い青いレンズが姿を現した。

内部のプラズマ反応炉が出力が急上昇し、直結のレンズへプラズマエネルギーが集まる。

 

「マナのとっておきよ!!」

 

レンズ内にプラズマエネルギーの青白い光がいっぱい輝いた時、全てが解き放たれた。

 

ゲッタービームと大差ない極太の、青白いプラズマビームが遥か先へ伸びていく。

しかしそれだけではなく、スクリューユニットを駆使し、そのまま機体がまるでコマのようなグルグル回りだした。

光線もその動きに合わせ、機体の水平方向三六○度全てに大出力プラズマビームが襲いかかる。

だが愛美は右手元のキーを巧みに押すと足元のコンソール画面に英語で、

 

『ディヒューズ(拡散)モード』

 

と表示され、胸からのプラズマビームが今度は弾丸状となり、前方左右、広範囲に渡ってプラズマ弾をバラまく。

さらに再装填したゲッターミサイル全弾もコマ回転をしながらぶっ放すという荒技を繰り出した。

 

この攻撃により海中のメカザウルスが一気になぎ払われ殲滅、そして牙型自立兵器『セクペンセル・オーヴェ』の八機の内、三機が運悪く直撃し破壊された。

海中の戦力が激減され、交代前の苦戦がまるで嘘のようであった。

 

「やはり私は君を手放したくないよ水樹。これから必要となる人間だ、竜斗達と一緒に……ククク」

早乙女はその光景、そして愛美の驚異的なゲッターロボの扱い方に驚き、そして感心した。

そして黒田は口を大きく開けたまま呆然となるも、すぐに我に帰る。

 

“黒田さん、チャチャっとやったけど、いかがかしら♪”

 

モニターを見るとあたかも朝飯前であるような余裕な表情である彼女に黒田はゴクッと唾を飲み込んだ。

 

「全く信じられないよ、君は……」

 

“フフン♪ホラ、早く終わらせるために次いくわよ!”

 

愛美の底知れぬゲッターロボの操縦センスは水中で遺憾なく発揮された。

まるで飛ぶ鳥を落とす勢いで、少したりとも機体に触れさせず次々とメカザウルスをミサイルとプラズマビームで撃破していく。

 

「マリアさんを苦しませたお返しよ、覚悟なさい爬虫類!」

 

……おそらくゲッターロボによる操縦、戦闘センスはゲッターチームの中では愛美が間違いなくダントツだろう。

 

全員の評価は同じであった。

 


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