ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十四話「対馬海沖の決戦、前編」②

――対馬海。九州と朝鮮半島に挟まれた海域。今ここは戦火に包まれていた。

 

空中、そして海中にはびこる無数の怪物、それは恐竜帝国のメカザウルス軍である。

それに対抗する航空、海上自衛隊のBEET、戦闘機、潜水艦、そして巡洋艦隊。

だが恐竜帝国側の戦力が上であり自衛隊側は劣勢に陥っていた。

 

第十三竜中隊潜水母艦『ジュラ・ノービス』と護衛する無数の首長竜型メカザウルスがはびこっていた。

 

「アウネラ様、地上人類軍が本艦前方向から左右に展開してきます」

 

「海底に沈めてやる。魚雷砲門全開門」

 

ジュラ・ノービス両舷の装甲が開き、多数のまるで海水魚の形をした魚雷が飛び出し、それらが一斉に前方左右へ泳いでいく。数々の魚雷の向かう先にはこちらへ進行してくる海上自衛隊のBEET部隊が。

背部中央と左右に展開されたスクリューユニットを駆使して水中を推進している。

 

「こちらに何か向かってくるぞ」

 

「あれは魚か……?」

 

海自パイロットがモニターを確認すると、ただの海水魚である。

だがそれが機体に突撃した時、魚は大爆発し機体は鉄屑と化して海の底に沈んでいく。

多数のBEETはそれの餌食となってしまった――。

 

空中でも、航空自衛隊のBEET『Sタイプ』部隊と戦闘機の混成隊が飛行型メカザウルスと空中戦を繰り広げているも、あちらが戦力が上で次々にマグマ弾や捨て身のような体当たり戦法で撃墜されていく。

 

「このままでは全滅するぞ!」

 

「いや待て、あれは!」

 

彼らが見る、本土方向から高速で近づく巨大な物体――早乙女のベルクラス率いるゲッターチームである。

 

「ゲッターチーム、発進準備だ!」

 

各機体に乗る竜斗達はその合図に気を引き締めて操縦レバーを握り込んだ。

 

“前と同じく竜斗から先に出撃しろ。その後に続いてエミリア、黒田、マリアの順で発進させる”

 

竜斗の乗るBEETのテーブルが先に動き、外部ハッチ前に移動。

 

――竜斗の乗るBEETは、右手にミサイルランチャー、左手にバズーカ、そして右腰にライフル、左側はプラズマ・ソリッドナイフの射撃重視である。

そして背中に装備された滑空翼とブースター『フライトユニット』はゲッターウイングと全く同じ形をしている。

なぜならゲッターウイングはこのフライトユニットを無限飛行できるよう改良した物だからだ。

 

“BEETに装着したフライトユニットはゲッターウイングと違い、途中で燃料補給が必要となる。

残量を常に確認し、少なくなったら帰艦し補給を受けてくれ。

だが無駄な行動を避けて余計な消費を抑えるのも君の役目であることを忘れるな”

 

――外部ハッチが開き、膝を曲げて発進体勢に入るBEET。

 

「石川竜斗、BEET発進します!」

 

射出され外に飛び出したBEETはすぐさまフライトユニットを展開。

迷彩色の滑空翼を広げブースターを点火。

 

“次はエミリア、いいか?“

 

「はい!」

 

栃木での戦闘と比べて臆病さが見えず、逞しさが目立つ彼女。空戦型ゲッターロボのカタパルトテーブルが動き、外部タッチの手前で止まる。

 

“君にとっては初めての空中戦だから色々と慣れないことがあると思うが、そこは竜斗や周りの部隊の援護で乗り切ってくれ。

シールドがある分、多少の被弾は大丈夫だが、決して過信はするな”

 

――そして、

 

「エミリア=シュナイダー、空戦型ゲッターロボ発進します!」

 

そしてゲッターロボもハッチから飛び出し、すぐさま空中でゲッターウイングを展開した。

「行くよエミリア!」

 

“うん!”

 

二人はすぐに空中の交戦区域に飛び込んでいった。

そして次は海中組の黒田とマリア。

 

背部にはスクリューユニット、右手に多弾頭魚雷を搭載したランチャー、そして両肩のハープーンキャノン、左手のホーネットガンを装備した、黒田の乗るAタイプのBEET。

そして海戦型ゲッターロボのテーブルはすぐにそれぞれの下降ハッチの方へ移動した。

 

“二人については自分のすべきことは分かるだろうから私から特に何もない、思う存分やれ”

 

「了。では黒田悠生、行きます!」

 

ハッチが開き、先に黒田から海へ降下していった。

「マリア=C=フェニクス、海戦型ゲッターロボ出撃します」

 

 

最後にマリアの乗るゲッターロボも一面に広がる大海原へと落ちていった。

海戦型ゲッターロボは直立不動のまま海中へ豪快に水しぶきを上げてダイブ。

沈む中、折り畳まれていたサブスクリューユニットを左右に展開、そして背中のメインスクリューユニット共々フル回転させる。

 

“マリア助手、大丈夫ですか?”

 

「え、ええっ。黒田一尉、ゲッターロボにはシールドがありますので被弾しそうになったら私を盾として使ってください」

 

“僕がそんなことをすると思いますか。

今回、あなたは守るのが僕の役目です”

「黒田一尉……すいません……」

 

“では行きましょう!”

 

黒田の力強い掛け声に少し気が楽になる。

マリアは少し顔色が悪く、恐怖からか身震いしている。

 

落下からの着水による衝撃、メカザウルスがうようよいるこの暗い海中、愛美よりもこの機体を上手く扱えないという不安と恐怖の重圧が彼女に襲いかかっていた。

彼女自身、すでに死の覚悟はできている。

だが、操縦センスの全くない自分のせいで、もしかすれば敗北につながるかもしれない、それが頭によぎっていたのだった――。

 

(そんなマイナスなことを考えたらダメ。いつも通り落ち着いて行動すれば大丈夫だから……)

 

頭を横振り、邪念を消そうと必死だった――。

 

「アウネラ様、ソナーにゲッター線反応を空中、海に複数感知。例の部隊です」

 

「……ついに来たか」

 

「アウネラ様、私キャプテン・アウロはこれより出撃し、空中のメカザウルス隊を指揮します。

アウネラ様は海中の方をお願いします」

 

「分かった。油断するなよアウロ」

 

「ありがとうございます。アウネラ様も気をつけて」

 

副官であるアウロはすぐさま艦内後部にある格納庫へ向かっていった――。

 

「僕達は朝霞から来ましたゲッターチームです、直ちに援護に入ります!」

 

“来てくれたか、よろしく頼む!”

 

竜斗達は空自の部隊と合流。すぐさま武器を構える。

 

「エミリア、絶対に離れちゃダメだよ」

 

 

 

“ええっ!”

 

二機は互いに一定の距離を保ち、行動開始する。

 

「やっぱりゲッターロボより難しい……けどっ」

 

さすがの竜斗もBEETの操縦にてこずっており、それもあり機体の挙動がぎこちない。

そしてエミリアも空中での初戦闘に焦り始めていた。

ライフルをメカザウルスに向けて撃とうとした時、

 

「ひいっ!」

 

標的のメカザウルスに被るように空自の戦闘機が横切り、危うく味方を撃ち落としてしまうところだったと怯んでしまう。

 

“慌てるな。彼らは常に周りの状況を把握している空のベテランだから上手く避けてくれる、だから余計なことを考えるな”

 

「はっ、はいっ!」

早乙女から助言を入れられて一層、気を引き締める。

 

一方、竜斗も徐々に機体の操縦に慣れてきており上手くメカザウルスの攻撃を避けながら一機ずつ的確に攻撃を命中させて撃墜していく。

 

「さすがは竜斗、いい筋をしてる。では私も負けてられないな」

 

ベルクラスも遅れてたった今交戦区域に到着する。

 

「これより本艦ベルクラスも援護に入る」

 

ベルクラスから多数の機関砲、そして海上の巡洋艦から対空ミサイルや対空機関砲の応戦が入り、この一帯は硝煙と爆炎、そしてプラズマによる蒼白の光弾入り混じる苛烈を極める混戦状態となった――。

 

「ゲッター線の機体……相手にとって不足はない。

アウネラ様のためにも相討ちしてでも撃破してくれる」

 

 

――ジュラ・ノービス後部にある格納庫において、アウロは専用機に乗り込み、システムを起動させた。

同時に格納庫内の扉全てにロックがかかり、密閉状態になった。

 

「『メカエイビス・エイルード』発艦する!」

 

艦後部の上部甲板中央左右ハッチ開き、水が一気に流れ込む。

そして中から『何か』がゆっくりと現れて海上へ浮上していく――それはなんと海水を大量に吸い込んで自分の体を膨張させていく。

 

“全機に告ぐ。海中より巨大な物体が浮上している。警戒せよ”

 

早乙女からの通信で全員が真下を覗く。

「何あれ……っ」

 

海中から現れたのはまるでクラゲかタコのような丸みのかかった巨大な物体。

近くの巡洋艦数隻が浮上した際の強力な波によって飲み込まれてしまった。

 

そして信じられない光景が全員の目に焼き付ける。

その生物にどんな仕組みなのか分からないが、なんとそのまま上空へ浮上してきていた。

 

それにより、その生物の全貌が明らかとなる。

悪趣味な紫色でクラゲかタコのような丸みのおびた胴体に醜態極まりない眼、口の顔面があり、その周りに二十を超える触手が生えており、その先端全てがトカゲのような爬虫類の顔をかたどっていた。

 

そして海水を大量に吸い込んだ影響か、周りのメカザウルスが子供のように見えてしまうほどに巨大であった。

 

「メカザウルス……か?」

 

その内部のコックピットではアウロが不敵な笑みで操縦桿を握っていた。

 

「各メカザウルスは、この『メカエイビス・エイルード』を中心に四方に展開せよ」

 

彼の命令に従い、彼の駆る『メカエイビス・エイルード』を中心に散開する飛行型メカザウルス達。

エイルードの各触手の先端部はまるで蛇がうねるような動きでそれぞれBEET、戦闘機へ向け、トカゲの口をガバッと開くと一斉にドロドロの溶解液、マグマを次々に放射。

複数のBEET、戦闘機へ直撃し次々と見るも無惨に溶けて海に落ちていく――。

 

「ああ……っ」

 

味方が次々にやられる光景を直に見た竜斗とエミリアの顔は真っ青だ。

 

“二人とも気をしっかり持て。でないと今度は君達もああなるんだぞ”

 

「「…………」」

 

“彼らは覚悟の上で戦闘に参加していた。君達は今はこの戦闘に勝つことに集中しろ。

割り切るコトを覚えなければ、これから先戦い抜けない!”

 

非情に徹し、そうアドバイスする早乙女――。

 

「全機、中央の敵浮遊艦に集中攻撃をかけろ。

撃沈すればおそらく敵軍の基盤が崩れる」

 

アウロの命令でメカザウルスの標的は全てベルクラスに向けられマグマ弾、ミサイル、機関砲、溶解液を四方八方の位置から吐き出して艦に猛攻撃が開始された。

 

「さ、早乙女司令!」

 

 

 

“心配するな。ベルクラスのシールドならしばらくは大丈夫だ。

周りのメカザウルスは空自の部隊に掃討してもらう。

それよりも竜斗はエミリアと共にあの謎の巨大メカザウルスの方を対処してくれ。空自からも何機か君達の支援に向かわせる”

 

早乙女の指示を受けた竜斗とエミリアはエイルードへ移動開始する。

多数の触手を四方八方にうねり動かしてマグマを撒き散らすその姿は醜い怪物である。

 

“スキャンしたが前のメカザウルスみたいな装甲は使われてないただの生物性の皮膚だ。

エミリア、出力を最大まで上げたゲッタービームをおみまいしてやれ。

チャージ中は竜斗達に敵の注意を引きつけておく”

 

「分かりました!」

 

ゲッターロボはエイルードより上に上昇し、すぐさま内部のゲッター炉心に大気中のエネルギーを収束させ、出力を上げ始める。

その間、竜斗と空自部隊はエイルードの周りを飛び回り、集中放火を浴びせる。しかしその丸みのおびた弾力性の高い巨大な胴体に歯が立たず、傷ひとつもつけられないほどの頑丈さを持っていた。

 

そして触手はマグマを吐くだけでなく、接近していたBEET、戦闘機にまるでムチのように勢いよくぶつけてグシャグシャに潰し、先端の口で咥え掴み、直接マグマや溶解液を注入して機体内部から融解させるなど、生物らしく有機的な攻撃を繰り出し、次々に破壊されていく――。

(……割り切ろって言ったって……なんで……)

 

必死になんとか生き残る竜斗の表情はやるせなかった。

 

(……このメカザウルスを操縦しているのが写真で見た爬虫類の人間……。

だけど、こいつは俺達人間を敵としか見ていないのか……一ヶ月前のメカザウルスと違って……)

 

……自分達は同じ地球に住む種族なのになぜ弱肉強食の生存競争をするのか、どうにか争わずに済む方法はないのか――だがその時、エネルギーを溜めていたゲッターロボに異変が。

 

“さ、サオトメ司令~~~っっっ!!”

 

早乙女の元にエミリアの助けを呼ぶ通信が。

 

「どうした?」

 

 

 

“えっエネルギーがとっくに満タンなんですがエネルギーの収集が全然止まりません!!”

 

「なにっ、なんとか解除できないか?」

“何度も止めようとしてるんですが……全然止まりません!!”

 

早乙女はこちらからアクセスして炉心への過剰収集を止めようとするが、全く操作を受け付けない。

(これは…………あの時の……っ)

 

彼の脳に浮かび上がる記憶。以前にこれと同様の現象を経験していた。

しかもそれは彼をゲッターロボに乗れないような身体にした忌まわしい原因でもあった。

 

“ちょっ、え、えっ、ヤダヤダ、どうすればいいの~~~っっっ!!!”

 

彼女はワケが分からず錯乱してしまう。

 

炉心の許容量以上の過剰出力が原因で機体から赤色の光、つまりゲッターエネルギーが外に漏れだしガチガチに強張って異常を生じていた。このままではゲッター炉心が臨界点突破し、最悪の場合内部爆発しかねない。

 

早乙女は遠隔操作で、最終手段である機体自体の緊急停止回路を起動させた。

すると炉心の出力値が大幅に減少していくのが分かった。

しかし機体の操縦も止まったのでそのまま海へ落下を始めた。

 

早乙女はすぐに停止を解除させ、機体を再び復活させる。

 

「エミリア、落ち着いて聞け。今すぐ竜斗と共に戻ってこい。

一応炉心は収束は止まったが念のために応急メンテナンスを行う」

 

「えっ、は、はい!」

 

彼は次に竜斗へ連絡を取る。

 

「竜斗、今すぐベルクラスへ帰艦しろ。

空戦型ゲッターロボが異常を起こした。それで一旦格納庫でメンテナンスを行う」

 

“えっ!?エミリアは大丈夫なんですか!?”

 

「大事に至らなかったから安心しろ。

それにフライトユニットの燃料の残量が心配だ、補給も同時に行う”

 

“しかしその間空自の人達は!?”

 

「メカザウルスの攪乱、掃討に頑張ってもらう。

無論我々も早急に戻れるよう作業を素早く行う、早く戻ってこい!」

 

“了解!”

 

二人は一旦離れてベルクラスへ戻っていく――。

 

 

 

「………………」

 

――そして愛美は艦内の自室のモニターで外の戦闘の様子を相変わらず不安そうな表情で見ていた。

 


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