ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十三話「地竜族のニオン」③

――次の日、大雪山地下基地にてニオンの司令官の着任式が行われていた。

 

「私は本日より、第十二恐竜中隊総司令官であったラドラ=ドェルフィニに変わって新任したニオン=ヴォルテクスである!」

 

台に上り、物怖じせずに声を張り上げて演説する彼は若いながら大したものだ。

一方、その下で縦列に並んでいる多数の兵士の『聞く耳もたない』とすぐに分かる顔の表情ばかりあった。

 

「皆も知っての通り、私は――地竜族である。

私自身に対して不快に思う者もいるだろうが、そんな私が司令官に任命されたのは事実であり、それを受け入れてほしい、そして私も諸君らに貢献するように必死に努力するつもりだ。

そして私に対して気にくわない者はせめて真正面から気にくわないと言ってもらいたい。

昨日、色々と陰湿な嫌がらせなどを受けたがそういうひねくれたガキのような行為をされるくらいなら直接言ってくれたほうがましである。

最後に、我々『爬虫人類』が誇り高き種族であることを再認識させてほしいと思う、以上――」

 

台から降りて定位置につくニオン。しかし、彼は額の触手が反応しすぐさま前を見る。

無数の偏見と軽蔑、そして殺気のこもった兵士達の視線が全て自分に向いていることに気づく。

 

「………………」

 

ニオンは分かっていた。

しかし彼は前から向き合い、今でもその場から離れたいくらいの辛い重圧を受け入れていた――。

 

……着任式が終わり、彼一人司令室に戻ろうとした時、

 

「ヤッホ、ニオン……じゃなかった新しい司令官!」

 

目の前に現れたのは太陽のような明るい笑顔をした、昨日彼を助けてくれたここの女兵士、レーヴェだ。

 

「……あんたか」

 

「着任おめでとうございます。これからどうぞよろしくお願いします」

 

ニオンは辺りをキョロキョロ見回して誰もいないことを確認し、ため息をつく。

 

「……自分自身、堅苦しく感じないか?普通に喋れ」

 

「うん……なら。ニオン、おめでとう!!」

 

 

 

馴れ馴れしいのはともかく、今までの爬虫人類と比べて、地竜族の自分に接してくる彼女に逆にニオン自身は警戒心を強く抱いていた。

 

『何が狙いだ?』

 

こればかり頭の中に駆け巡っていた。

 

「ニオン……あんたはこれから辛いことばかりになるだろうけどめげずに頑張るんだよ。

もし困ったことがあったらアタイもできる限り協力するから、それじゃあね」

 

レーヴェは去っていく。彼女の後ろ姿をただ黙って見つめるニオン……しかしその目に猜疑心がこもっていた。

司令室に戻り、イスにドサッと座り込み、上を見上げて溜め息をつく。

 

(……辛いことか……だがそんなもの、我々地竜族がこれまで受けてきた境遇に比べればまだ楽なものだ。

今頃仲間は解放されているだろうし、それにここで頑張れば我々にさらにいい待遇を受けてもらえる……そう思えば、これからの苦労など安いものだ、きっと……ククッ)

 

彼は気合いを入れて早速仕事に取りかかる。

まずはデスク上のコンピューターを使って、この中隊についてのデータを確認する。

今までの出来事、中隊の戦歴、各メカザウルス、メカエイビス、そして今ここに駐在する部隊と各兵士の数と個人詳細……。

 

「ん……こいつは……」

 

彼は兵士の詳細を確認しているとある二人の人物に目をつける。

一人目は自分に優しくしてくれる彼女、レーヴェだ。

 

「レーヴェ=イークァ……ほう、衛生兵か。なるほど、傷の手当てがうまいはずだ」

 

彼は納得し頷く。そしてもう一人とは。

 

「エーゲイ=ラ=アルゼオラ……こいつは――」

 

見覚えのある顔。昨日、自分にリンチをかけた集団のリーダーである。

 

「貴族で次期キャプテン候補の一人……要注意人物か」

 

苦虫を噛み潰した表情ですぐさま別のデータを移る。

この中隊基地の全体のデータに目を通すと、とある表示に彼の手を止めた。

 

 

 

「第十二恐竜中隊最終兵器……ダイ……だと?」

 

そう表示されたデータに興味を持ち、すぐさまアクセスしようとするが、機密なのかロックがかかっており開けない。

しかし気になって仕方のない彼は、司令室の資料を調べ、どうにかしてそのロックを解くパスワードを探すが全く見つからなかった。

 

……恐らく最終兵器というからにはとてつもなく強大な代物なのあろうが、それゆえに悪用されないためにトップシークレットな存在なのだろう……ということはこのロックを解け、いや存在を知る人間はごく少数だろう――。

 

……一通り見通した彼は次に、各施設の視察を開始する。

一人で行くのは危険と考えた彼は案内係を呼ぶ。

 

……やはりすれ違う殆どの兵士は彼に対してまるで汚物を見るような視線で見てくる。しかし彼にとってそういうのは慣れており、むしろ堂々とした態度で通路を歩いていく。

メカザウルス、メカエイビスの格納庫、兵士の武器庫……彼は気づいた。機体数が少ないことに。

ゲッターロボとの戦闘で多数破壊されており、それに伴い何割かの兵士やキャプテンがすでに戦死を遂げている。

そして、その補充が追いついていないことが分かった。

 

(ふむ……これで戦闘になれば敗北は必須。よし後で本隊に連絡し、少し機体や物資、そして兵士の補充を回してもらうよう要請してみるか……)

 

だがその時、真上から大量の水が彼へ降りかかった。

全身びしょびしょになった彼はとっさに真上へ見上げると、ちょうど鉄橋があるが誰もいない……しかしそこに誰かいたのは確かだ。

 

「…………」

 

司令官としての立場から見ればこれは侮辱に値する行為だが、誰の仕業が分からなければ処罰のしようがない……彼はやむを得ず無視をしてその場から去っていった。

次に彼が向かった先は各機パイロット、歩兵、砲兵のいる各攻撃小隊、偵察、補給、通信、整備などのいる部隊兵所。

しかしここで待っていたのは、自分を司令官どころか人間扱いしていなさそうな態度と視線である。

 

挙げ句の果てに去ろうとして背を向けた時、ゴミか何かを投げつけられたこともあった。

しかし彼はひたすら無視を続ける。

 

そして次に立ち寄ったのは衛生兵所。入ると目の前には救急道具を整理するレーヴェと他の姿が。

彼女も彼に気づき、ウインクでアイコンタクトを取る。

彼はムッとした顔をすると彼女は「しまった」と視線をそらす。

 

大体、基地内を見回り司令室に戻ると北極圏、つまり本隊であるマシーン・ランドに連絡を取る。

そして戦力の補充についての旨を伝え、終わるとイスに背もたれた。

 

(……にしても、とりあえず色々と見回ったが、データ上にあった最終兵器『ダイ』というシロモノがあるとは感じなかった……どういうことだ?)

 

コンピューター内に記載された、謎の最終兵器について彼の頭の内を駆けめぐっていた。

格納庫を見回っても従来の機体ばかりでこれといった特別の外見を持つ機体は見られなかった。

そもそもこの『ダイ』と言うのはメカザウルスなのか、エイビスなのか、はたまた水爆のような戦略兵器なのか、それすらも検討がつかない、考えれば考えるほどモヤモヤが募るばかりだ。

 

(まあ……それもいずれ知ることになるかもしれんし、それでも情報を掴めないのなら、ガレリー様にでも聞いてみるか……)

 

彼はため息をつく――が。

 

「…………!」

 

彼の触角が右前奥の資料が並んだ戸棚の隅に違和感を感じてビクっと反応、とっさにそこから離れた。

同時に何かが凄まじいスピードで彼のいた軌道上を通過し後ろの壁を突き刺さったのだ。そこには鉛筆サイズの矢が突き刺さっており、戸棚へ向かい調べるとそこには矢の発射装置が巧みに取り付けられていた。

さすがの彼も思わず血の気が引き唾を飲む……。

 

ここの奴らは本気だ……命がいくらあっても足りないと一瞬感じた彼はゴールにそのことを報告しようとも考えたが、彼は実行しなかった。

 

 

(落ち着け……考えたら、こんなことでゴール様に連絡するのはさすがに失礼か……それに泣きつくのは地竜族の誇りを汚す行為だ……くそっ)

 

自意識と誇りの高さゆえに結局、泣き寝入りするしかなかった――。

 

……夕食時。側近を連れて基地内の食堂に行き、一瞬も気を緩まさず列に並ぶ。トレー上の皿に料理を盛る。

爬虫人類は虫や肉が主食であり、恐らく地上人類にはおぞましく感じるであろう、ミミズや昆虫をミートしたような不気味なものだ。

司令官や副司令官などの上官クラスの席と、キャプテン含めた一般兵士達の席は別々であり、ニオン達は当然その上官の席へ行こうとする――。

 

しかし突然前からすれ違った隊員に不意打ちに足払いをくらわされて前に転ばされてしまった。当然、トレイも皿に持った料理やスープなども床にぶちまけてしまう。

そんな目に遭ったニオンを周りから囁くような卑しい笑い声が聞こえる。

ニオンはとっさに振り向くとそこに立っていたのは自分が要注意人物と目をつけていた男、エーゲイである。

 

「キサマ…………っ!」

 

「クックック……ほら、早くどかねえとみんなの邪魔だぜ、司令官さんよぉ」

 

エーゲイは下品な笑みを浮かべ、そのまま彼から立ち去っていった。

 

「………………」

 

しかしニオンにそれでも耐える。今まで過酷な状況、扱いされながらも耐えながら生きてきたのもあって、元から我慢強いのだろう。

寧ろ、彼は逆にこんな陰険な嫌がらせをする彼らに対して、『自分より遥かに劣るクズども。その内立場を逆転させてやるからな』と、見下していた。

そうすることで彼は内に溜まる怒りやストレスをねじ曲げていた――。

しかし、ほぼ敵だらけのこの基地内で絶対に気が休まることのないのも事実、このままでは近い内に気が狂うのは確実である。

 

――色々あったが何とか食事が終わり、司令室に戻るとイスに座り込む……前に、また変な液体などが塗られてないか、そして何もワナが仕掛けられてないか確認する。

 

 

 

何もされてないことが分かると安心してイスにドサッと座り込む。

大きなため息をつき、そのやつれた顔を見ると凄く疲れているのがよく分かる。

 

(とはいうも……これからずっとこんな毎日が続くのか……)

 

流石のニオンも少し気が滅入っていた。

その時、突然入り口ドアをコンコンとノックする音が。

彼はまた嫌がらせかと思い、一度は無視をする。

だが何度もノックが続く、が彼も意地を張って無視をする。

すると、

 

「司令官……司令官……」

 

小さな声だが聞き覚えのある女性の声……彼はハッとしてすぐに出るとレーヴェが立っていた。

 

「れ、レーヴェか……」

 

「ニ……司令官、いるなら返事をしてくださいよ」

 

顔をプンプンさせる彼女。

 

「……またここの奴らの嫌がらせかと思ってな」

 

「まあ仕方ないね。みんなあんたを目の敵にしてんだから……」

 

「……とにかく中に入れ。お前も私と一緒にいたら奴らに何かされるんじゃないのか?」

 

「気にしないでよ、何もされないって!」

 

「と、とにかく入れ!」

 

無理やり連れ込み、鍵をかける。

彼はすぐさま、中央のソファーに彼女を座らせて、自分も対面する形で座り込む。

 

「で、一体何のようだ?」

 

「いや、食堂でまた何かあったみたいだから心配になっちゃって」

 

「………………」

 

するとニオンは一呼吸置いて、レーヴェにこう尋ねた。

 

「なあレーヴェ、あんたは何を企んでるんだ?」

 

「え?」

 

「あんたのその、私に対して親身な接し方に凄く疑問なんだ。

私が誰もが嫌がる『地竜族』だと知ってるだろ。なんだ、私を油断させて陥れようとしているのか?」

 

「…………………」

 

「なんで黙るんだ。正当の理由があるなら言えるハズだろ?

言えないのならそうだったということになるぞ」

 

黙りこんでいた彼女は口を開く。

 

「……別に陥れようなんて思っちゃいないよ。ただ心配なだけで……」

 

「だから私はその心配する理由を聞いてるんだ。

そもそもあんた、私となんの関係があるんだ?」

 

 

 

「じゃあ仮に何か企んでるとしたら、司令官はアタイをどうします?」

 

「いや、だからと言って別に何も処罰を与えないし、そうする気もない。

寧ろ、正直に言ってくれた方が私もまだ納得できる」

 

それを聞いて彼女は

「……ニオンってアタイより若いのに強いね」

 

「なに?」

 

「今日でこんなに嫌がらせされてさ、これからもっとヒドい目に遭うかもしれないのに怖くないの?」

 

「……私、いや地竜族はそういうのは慣れてる。

それにゴール様から我々についに栄光を与えてくれると約束してくれた。

私は負けない、いつか我々地竜族を見下してきた奴らを見返してやると。そう考えれるとまだ頑張れる」

 

「けどなんか顔がもうやつれてるよ。強がり?」

 

「…………っ!」

 

茶化す彼女に腹を立てるニオン。

 

「ごめんごめん……けど実際は?」

 

「実は少しへばってる……ずっと気の張りっぱなしだったから」

 

彼から出た本音に彼女は手を叩き、立ち上がる。

 

「よし、アタイが司令官の疲れを癒やしてあげよう!」

 

「なんだと?」

 

「今からアタイの部屋にいくよ、早く!」

 

「?」

 

無理やり連れていかれるニオン。あまり人気のいないルートを使い、そして素早く部屋に入り込む。

 

すると彼女は鍵を閉めるとニオンをベッドに座らせる。

 

「…………?」

 

「……ふふっ」

 

すると彼女はなんと、おもむろに服を脱ぎはじめたのだった。

流石のニオンも仰天し慌てふためく。

 

「レーヴェっ!!?」

 

下着姿でほとんど肌を露出した状態のレーヴェ……。

 

「アタイ、今あんたを抱きたい」

 

「だ、抱くって……」

 

「もしかして初めて?大丈夫、スゴく気持ちいいことしてあげるよ。

恐がらないでどうかアタイを受け入れて」

 

「…………」

 

「誤解させないためにもね、アタイの全てをアタイのやり方で教えてあげる」

 

……そしてニオンはレーヴェに促されるままに、互いに裸になりベッド上で彼女と激しく絡み合うのであった――。

「レーヴェ…………私は……っ」

 

「……ニオンのしたいとおりにやって……そう……いいよ……っ」

 

熱気と今まで味わったことのない興奮と快感で息遣いが荒いニオンを優しく愛撫し、激しく口づけするレーヴェ。

彼女の熟練したテクニックと包容力で彼の張り詰めた緊張をほぐしていく。

 

「ねえニオン……気持ちいい……?」

 

「あ……ああっ……けど……っ」

 

「……けど?」

 

「……なんで私のためにこんな……」

 

「考えたらダメ、今はこれだけに集中して」

 

「あ……ああ……っレーヴェっ……」

 

「…………っ」

 

精が尽きて、そのまま彼女の身体に倒れてしまった。

 

「ニオン……よかったよ……ニオン?」

 

見ると彼は彼女を強く抱きしめ、静かに泣いていた。

その引き締まった身体とキリッとした顔からとは思えないそれはまるで、母親に泣きつく子供のようであった。

 

「あんた……やっぱり辛かったんだね……っ」

 

……恐らく彼は誰かに甘えることを知らずに育ったのだろう、生まれてからずっと――身内以外は誰にも心を開かず、そして歳に似合わず堅物で辛抱強いのも頷ける。

レーヴェはそんな彼を優しく抱擁した。

 

「――アタイさ、ここの兵士になる前は娼婦だったのよね」

 

「えっ……あんたが……?」

 

仰向け寝の彼女はボソッとそう言った。

 

「子供の頃、家が貧乏で父親はそんな生活が嫌で女を作って逃げてね。

下民出身だからいい働き口がないし、母親はアタイと生活のために必死こいて身体売ってたんだよ。

元々いい身体してた母親にとって、それが一番稼げる方法だった」

 

彼女が下民出身だったと知り、驚く。

 

下民はなにも地竜族だけではない、爬虫人類にも納税制度があり、払えない家系はあえなく下民の烙印を押されてしまうのである。

 

「けど母親は生活が苦しいのに無理して見栄張ってね、アタイを平民の子と同じ教育をさせるもんだから周りの子からたくさん嫌がらせを受けたり、イジメられてスゴく惨めな思いをした。

 

で、それもあってアタイはひねくれて、母親と些細なことでよくケンカして、挙げ句に家出さ。

それから色々な男と付き合って身体売って稼いだり貢いでもらって生きてきたワケ。あれだ、子は親に似るとはこういうことだね」

 

昔の暗い過去を微笑しながら語る彼女はあまり思い出したくもないのか複雑な表情をしていた。

 

「そしてアタイは兵士として志願した。履歴問わず入れたし、そして生活安定してるしね。

なんで衛生兵かっていうと、色んな意味で人に奉仕するのは慣れてるからこの職種が適任だったわけ。こんなに安定してるなら早くここに就いておけばよかったと思うよ」

 

恐竜帝国の兵士は爬虫人類、自分の種族の繁栄と栄光のために志願する者がほとんであるが、彼女のように戦争などで死なない内は生活が安定するという理由で志願する者も少なからずいるのだ。

 

「レーヴェも酷い人生を歩んできたんだな、まさかあんたも元下民だったとは知らなかった……」

 

「だからアタイはニオンの境遇が分かるんだよね。

身分による差別や嫌がらせやイジメを受けた時の気持ちとか……だからエーゲイ達にやられて、それに耐えるニオンの姿がアタイのあの頃の姿と被って見てられなかったんだ……」

 

彼はそれを聞いて彼女を疑ったことに対し、罪悪感を感じたのである。

 

「……レーヴェ、すまない……私はあんたを疑ってしまった……」

 

「いいんだよ、あんたのこと考えると人間不信になっても仕方ないと思うし……てか、アタイ司令官になんてことを……」

 

自分の立場と及んだ行為に藪からいきなりと気づいた彼女はハッと慌てるも、ニオンは首を振った。

 

「別にいい。レーヴェだけは私が司令官の立場であっても対等として、砕けて話してもいい、いやそうしてくれ。

……あんたと話すだけでも気がスゴく和らぐから」

 

「えっ……ホントっ!」

 

「ただし二人っきりの時だけだ。

周りに人間がいる前でそんなことをすれば互いに変な疑惑がもたれるからな」

 

「あ、そうか!」

 

彼女は満面に笑うと、彼も釣られて今まで見せたことのない笑顔を見せたのだった。

 

「あ、ニオンの笑うとこ初めて見た」

 

「……私も笑うなんて初めてかもしれん……これもあんたのおかげかもな」

 

……そして服を着て、部屋に戻ることにしたニオン。ドア前で彼女に柔らかい表情で礼をいった。

 

「レーヴェ……ありがとう。あんたがいれば私はここで挫けることなくやっていけそうだ。また二人っきりになってもいいか?」

 

「うん。ニオンとはこれから仲良くしていきたいし、また困ったことがあったらアタイに頼りなよ。いつでも待ってるからさ」

 

「ああっ、頼りにしてる。それじゃあレーヴェ、ゆっくり体を休めてくれ」

 

彼女の部屋を後にしたニオンの顔は、唯一の寄りどころを見つけて嬉しそうである。

 

(私とレーヴェはある意味似た者同士ってことか。どうやらここも捨てたもんじゃないかもな。

 

……ただ、私と接することで、周りの奴らからなにか嫌がらせをされなければよいのだが……まあ、その時は私が守ればいい。彼女を傷つけさせない、絶対に……!)

 

彼はそれだけが不安であった。

 

――その時、彼の後ろの曲がり角、レーヴェの部屋に近い場所からその様子をひっそり見ていた兵士がいた。それもあの男、エーゲイである。

 

「レーヴェめ……まさか」

 

感づいた彼はギリギリと歯ぎしりを立てて顔を歪ませていた――。

 


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