ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十三話「地竜族のニオン」①

……一方、命からがら生きて戻ったラドラは、今では北極圏の恐竜帝国の本拠地マシーン・ランドに送還されていた。

二度の敗北という失態を犯した彼は中隊司令官という地位を剥奪されて、そして戦犯として基地内の囚人牢に投獄されていた――。

 

「うぬぅ……まさかゲッター線駆動の機体が三機存在とは……ぬかったわ」

 

玉座に座るゴールの機嫌は最悪であった。

 

「ラドラどころかあの新型メカザウルスすらも撃ち破られるなどと……っ」

 

ゴールはすぐさま側近を呼ぶと急いでやってくる。

 

「ゴール様、どうなさいましたか?」

 

「第十二恐竜中隊司令官ラドラの後任にあの者を使ってみようかと思う」

「と、申しますと?」

 

「地竜族のニオンという男だ」

 

「なんと!彼らは最底辺に位置する下民ですぞ。そんな地竜族に中隊を任せてよいものかどうか不安です」

 

「心配するな。ニオン、いや地竜族は元々そこらの平民、貴族よりも優秀な一族だ」

 

「しかし、ではなぜ彼らはあんな酷い扱いをされて……」

 

「先代帝王の話によれば地竜族には元々爬虫人類の中でもゲッター線などの宇宙線に耐性、あと他の爬虫人類にない謎の力を持っていてな。

それゆえ地竜族の殆どがプライドが高くて反抗的だ。

それゆえ彼らは忌み嫌われて、それに堪えきれず地竜族による反乱が過去に計画されていたらしくてな。寸前に計画を押さえて鎮圧させたが彼は頭脳が優れ、油断すれば本当に恐竜帝国そのものを乗っ取り、支配するやもしれん。

それを恐れた余の先祖が地竜族を平民より下の階級である下民に落としたと伝えられている」

 

「つまり彼らは罰を受けたと……」

 

「優れた能力を持っているのにその性分ゆえに哀れよのう。

そこで、もうこの際地竜族に光を与えようではないか。

無条件で彼らを解放し、そしてニオンが日本地区を制圧した暁に高待遇で迎えようと思う。

彼らは環境が劣悪な区域で長い間生活していて相当鬱憤が募っていると聞く。

これ以上放置しておくと本当に謀反を起こしかねない、それを防ぐことも兼ねてだ」

 

「なるほど」

 

「地竜族でもニオンは特に若いながら勇敢で統率力を持つ人物だと聞く。そこで奴に中隊司令を任せてみようと思う。では直ちにニオンをここに呼び寄せよ」

「かしこまりました。ところでゴール様」

 

「なんだ?」

 

「……ラドラ様についてですが、あの方はどうなるのですか――?」

 

「ラドラか……」

 

……基地内部の端にある薄暗い囚人牢の中で手錠と足輪に繋がれて静かにしている彼の元に、ゴーラがふと現れた。

 

「ラドラ様……」

 

「……ゴーラ様?」

まるで憐れんでいるように悲しそうな目で彼を見つめていた。

 

「……ここはゴーラ様のような方が来るところではありません。直ちに戻りなさい」

 

「しかし……」

 

「……私は自分勝手な行動から二度も人間に敗北してしまい、中隊司令官からも下ろされてしまった。私は恐らくゴール様の手によって処刑されることでしょう」

 

もはや諦めているのか無気力感が彼から漂っていた。

 

「元々貴族ではない我々一族が、それこそ血にまみれるような努力によってキャプテンの名を手に入れたという輝かしい栄光は、私で終わらせてしまうことになるとは……。

私はキャプテンという栄光と共に、のしかかる多大な重圧に負けた。現実を見ずに理想ばかり掲げた私が愚か者だっただけです」

すると黙り込んでいたゴーラは口を開く。

 

「……わたしはあなたのお父上であるリージ様の重圧に負けないように行ってきた誠実な努力を知っています。

大した努力をせずになれる貴族とは違い、自分の身体を無理させてまで手に入れたあなたの苦労を、誰もが理解しているハズです。

爬虫人類の中でもラドラ様、あなたにだけは私自分の本心を伝えれる方です。

諦めてはいけません、お父様にどうかあなたを復帰できるように説得してみます」

 

「…………」

 

「ラドラ様、リージ様が口癖のようにこうおっしゃってましたのを覚えてますか?

『どれだけ報われなかろうが努力だけは絶対に怠るな。成功した者はすべからく努力して、それを忘れない者だ』と。

ラドラ様、お願いですからそんな弱気な顔を私に見せないで下さい」

 

するとゴーラは鉄格子に触れて呟く。

 

「……ラドラ様は昔はよくわたしの遊び相手になってくれました。王族という身分上、他の同年代の子とのふれ合いなど許されなかったわたしに……」

 

「…………」

 

「あの頃はまだなんの悩みもなく楽しかった。

しかし今や我々は地上に這い上がり、お父様は地上の人々を全滅させんとまるでとりつかれたように……正直恐怖を感じます」

 

……涙ぐむ彼女は体震わせる。そして一呼吸をおいて呟いた。

 

「お父様のやり方に理解できないのです。

爬虫人類も地上人類も同じ地球に住む同種族ではないですか、地上人類は私達に何か危害を加えたのですか……?」

 

「…………」

 

俯き沈黙していた彼は首を上げて彼女の方へ見つめた。

「……私はなぜゴール様が地上人類を目の敵にするか、理由はすでに知っております」

 

「理由……それはなんでしょうか……?」

 

「……地上人類はゲッター線という特殊な宇宙線によってここまで進化を遂げた種族だからです」

 

「ゲッター線……?」

 

「ゴール様から何も聞いておりませんか?宇宙より微量に飛来する宇宙線の一種でそれは太古からすでに降り注いでいたと情報です」

 

「その宇宙線が我々となんの関係が……?」

 

「……実はその宇宙線、ゲッター線こそが我々爬虫人類をマントル層にまで追いやった元凶なのです――」

 

……ラドラの話によれば白亜紀末期。全地上を支配していた爬虫人類に突然の災厄が襲った。

そう、ゲッター線が大量に地球へと降り注がれた時期があった。

元々皮膚が弱く敏感な爬虫類は、まるで放射能による被爆を受けたかのように全身を汚染されて、もがき苦しみ、そして皮膚がただれて醜い姿になって凄い勢いで次々と死んでいったのだった。

対策がなく次々に同胞が倒れていき、これ以上、爬虫人類は地上に住めないことを悟り、持てる全科学力を結集し、地下に逃げるために基地『マシーン・ランド』を建設、そしてゲッター線の影響を受けない地球の底に潜っていった。

我々爬虫人類が再び地上に帰れることを信じて――それから爬虫人類は地上から姿を消した。

しかし、そのゲッター線の恩恵を受けた種族がいた。

それが地上人類である。只の何の力も持たない祖先、いわゆる霊長類が突然ゲッター線が降り注がれた直後から驚くようなスピードで進化していった。

そして気が遠くなるような年月を経て、地上人類は本当の意味で地上全てを支配するような知能と力をつけた――それを知ったゴーラは驚愕した。

 

「……地上人類はそのゲッター線という宇宙線によってここまで進化したというのですか……」

 

「という風に聞いております。しかしゲッター線は我々でもまだ未知数すぎる宇宙線で謎が多いのです」

 

「では……お父様が地上の人々を嫌う理由も」

 

「そうです。悪気はなくとも我々爬虫人類は天敵のゲッター線で進化したそんな地上人類を理解し、そして快く受け入れると思いますか?」

 

「…………」

 

彼女の心は葛藤した。確かに我々爬虫人類からすれば不快な話である。

 

「……けど、だからと言って問答無用に殲滅するのはあまりにも酷いと――」

 

「ゴール様だけではない、大半の爬虫人類は地上人類に対して不快感を抱いているのです。

残念ながらゴーラ様が一人訴えようと何も変わらないのが現実です。それに――」

 

「それに……?」

「人間はついにそのゲッター線を自分達のエネルギー動力として手に入れてしまいました。

爬虫人類にとってはまさに害虫、脅威の存在と化したとも言えるでしょう」

 

「……何も反論できません。今のわたしはただの井の中の蛙、何も行動出来ない自分が憎いです……」

 

「……」

 

しばらく沈黙する二人――。

 

「そういえば――」

 

ラドラは先日の戦闘であった『あの事』について話した。

 

「それは……どういうことですか……?」

 

「私には地上人類の言葉を理解出来なかったがあの悲しそうな表情と叫びを聞くと……もしかすると私達と戦いたくないと言っていたのかも――」

 

ゴーラはその事実に驚きと、少しの希望か何かが芽生えた。

 

「ど、どういうお方でしたか!?」

 

「若い男です。恐らくゴーラ様とあまり歳が離れてないようにも思えた」

 

ゴーラは思わず息を飲む。

 

「わたし達の望みが絶たれたワケではないのですね、地上の人々にもそう考える人がいると分かっただけでも本当に嬉しいです!私もその人に会って話がしたい、そうすれば何かしら解決策が生まれるかもしれません!」

 

「しかしゴーラ様、そんなことをすればスパイ行為で反逆罪となり、いくら王女のあなたでも下手をすれば死罪になります。

それに言葉が通じないのにどうやって……」

 

「それは……言語に関してはガレリー様に頼んで翻訳機を作成してもらえば……」

 

「そもそもここからどうやって地上へ?誰もそんなことは絶対に許してくれませんよ……」

 

「……………」

 

結局振り出しに戻り、意気消沈する二人――。

 

一方、玉座の間にてゴールの元に現れたひとりの爬虫人類の青年。透き通るような銀の長髪、端正の整った顔立ち。水色の肌の色、眉間の左右から触手がある以外は人間の、しかも美男の人物。

しかし服はボロボロの布切れを着ていて清潔さも何もない――。

 

「お前がニオンか」

 

「…………」

 

ニオン=ヴォルテクス……彼は無言でギラっとした、憎しみと怒りの籠もった瞳をゴールに向かってぶつけていた。

 

「まあそんなに憎しみを込めた眼をするな。

ここに呼んだ理由を言おう、ニオンに第十二恐竜中隊の司令官を任せたい」

 

ニオンはその言葉に多少だが反応した。

 

「前任がやらかした度重なる失態をそなたに埋めてほしくてな、聞けばお前は地竜族でも優れた人物だそうではないか」

 

黙っていたニオンが口を開いた。

 

「……突然どういうことですか。

我々地竜族は過酷な労働をさせられて日の当たる暮らしすら許されなかった一族。

ほとんど暗闇で、そして淀んだ空気を吸いながら生きてきた。しかしそれが原因で我々の同胞が次々に病気に冒されて、苦しみながら死んでいった。

そんな状況にも関わらず、あなた達は何もしてくれなかった……っ!」

 

両拳を握りしめて歯軋りを立てる彼からは凄まじい怒りと憎しみの入り混じった恐ろしい念を放っていた。

 

「お前達にはこれまで本当に申し訳ないことをした。もう過去からのしがらみをとりたいと思い、地竜族を解放する。

そしてそなたに日本地区の制圧を行ってほしい。それが成功した暁には地竜族全員を貴族化させてやろうと思う」

 

「……信じられませんね。なぜそういうことを突然に?」

 

「信じるか信じまいかはお前の勝手だ。だがここで機会を逃せばこれからずっとお前達は何も変わらないままだ。

そう、わしは地竜族のために光を与えたのに、お前は不信とそのつまらん意地で自ら消すことになるのだぞ」

 

「…………っ!」

 

「さあどうするのだ。やるのか、やらないのか、どっちだ!!」

「……分かりました。では本当に我々を解放してくださるのですね?」

 

「疑い深いヤツだな。わしは嘘は言わん、現にわしは丸腰でお前と対面しているではないか。それにわしとお前の二人以外誰もいないこの場でわしを殺して政権を握ろうと思えば今すぐにでもできるはずだ、違うか?」

 

 

 

ゴールの何も恐れる不動の姿勢と態度から絶対的な自信が感じ取れた。

 

「……申し訳ございませんでした。私はあなたを信じます」

 

「それでよい、わしもこんな忌々しい過去から楽になりたいと思ってな。今まで本当に辛かったな、ニオン」

 

「……はいっ」

「よし。さらなる栄光を保証されたければ与えられた任務を遂行しろ。

必ずや日本地区を制圧させてほしい、あの汚い猿どもから地上を奪い返すのだ!!」

 

「承知しました!」

 

「向こうに連絡をとっておく、明日出発してくれ。

……ニオンよ。お前が地竜族ということで、恐らく周りから冷たい目で見られることになるかもしれんが、そこは我慢してくれ。

ただし、もしもお前を亡き者にしようとするような輩が現れたら直ちに連絡しろ、そんな奴は処刑してやる」

 

「そこまで気を使ってくれるとは……ありがとうございます。

周りから何を思われようが、言われようが慣れてますから心配無用です」

 

「そなたは偉いな。よし、では頼んだぞ」

 

……ゴールとの会話を終えたニオンは、身支度に自分のいた区域に戻っていく。

その途中、通りかかった兵士から軽蔑の目を向けられたり、彼の背を見てはひそひそと呟かれるも彼は言った通り気にせず平然と歩いていった。

 

(今に見てろ。絶対に我が地竜族は貴様らの上に立って見返してやるからな。そして今まで受けたこの苦しみをこれでもかというほどに味あわせてやる!!)

――そう、心の内に秘めていたのだった。

 


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