ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第十二話「それぞれの価値観」①

――数日後。朝霞駐屯地。SMB整備工場では早乙女とマリア率いるゲッターロボ専門の整備員でゲッターロボの修理を行っていた。

いつまたメカザウルスが出現するか分からない、早く完全に直す為、自分達の休日すら返上してまで急ピッチで進められていた。

 

作業服姿の早乙女とマリアはパネルコンピュータをにらめっこしながら二人で話をしていた。

 

「ゲッターロボをもってしても苦戦を喫するとは。恐竜帝国の戦力は恐ろしいな」

 

「むしろ私は、正規パイロットではない民間人の竜斗君達がいきなり乗り込んで、即席の訓練でよくここまで生き残ってこれたなと思いますね」

 

「彼らにそういう才能と運があったということだ。彼らはこれから訓練次第でさらに伸びるだろう」

彼らは修理中のゲッターロボを地上から見上げる。

 

「ゲッター線で駆動するSMB、ゲッターロボ。

宇宙空間から降ってくるゲッター線を偶然に発見した時、私は心が高ぶったね。

恐竜帝国に対抗でき、そして神秘性を持つこの素晴らしいエネルギーがあったなんて――まさに天からの贈り物だよ」

 

「そこは同感ですね。核以上のエネルギー量を生み出しながら人体には無害だなんて。

最初は信じられませんでしたわ」

 

「そして君もゲッター線に興味を持ち、私のプロジェクトに参加してくれた。

イギリス軍SMB分野の技官だった君が――」

 

「ええっ、その為にイギリス軍を除隊することになってしまいましたが……」

「許してくれ。隠す必要などないのに、国家がどうしてもこの計画に関係するもの全てを機密するといいだしたんだから。

だが君だけではない、私含めてこの計画に関わった人間全てが同じだ」

 

「いいえ、気にしてません。私の選んだ道ですから――」

 

二人はしばらく沈黙する。その後、早乙女がそれを破った。

「ところで竜斗達は今何にしてる?」

 

「確か黒田一尉の元で体力練成を行っているハズです」

「ほお、果たして彼らは黒田についてこれるかな。

彼の運動量ははっきり言って半端ではないからな」

 

「さすがにあの子達に合わせると思いますが……」

 

「さあどうかな?黒田は熱くなりすぎるときがあるからな。ところで、少し休憩をとろうか」

 

一時、作業を休止し作業員達は綺麗なタオルで顔から溢れた汗を拭いている。

早乙女は作業員の一人を呼び寄せると懐から財布を取り出した。

 

「すまないが全員の飲み物を買ってきてくれ。私はコーヒーのブラック。マリアは?」

 

「ありがとうございます。なら私はコーヒーの微糖で」

 

「ありがとうございます。一佐、ゴチになります」

 

数枚の千円札を渡され、仲間の注文を聞くと颯爽と買い出しにいく作業員。

それを見届けた二人は、近くのベンチに腰掛ける。

「――そういえばアメリカ軍が今、新たなエネルギーによる実験をしているようだが、君は知っているか?」

 

「……多少なら。再び原子力エネルギーを利用しようとしているとか」

 

「そうだ、核だ。しかしアメリカ軍もまた厄介なものを掘り起こしたな。いくら恐竜帝国相手に劣勢といってもな」

 

「……二十年前、世界各地で災害や不祥事からの様々な原因で数々の原発による放射能事故を起こし、世界が大混乱を起こした。

それで各先進国は、代わりとなる人畜無害かつ原子力エネルギー同様に凄まじいエネルギー量を生み出す新動力源の作成企画を持ち出し、それで完成、確立したのが――」

 

「――プラズマボムス。つまりプラズマエネルギーだ。汎用性が高くて扱いやすく人畜公無害、そして莫大なエネルギー量を持つ動力源でたちまち世界に浸透し、原子力は役目を終えて、火を消した。

だが、このプラズマエネルギーも、それを動力としたSMBは恐竜帝国の前にはあまり通用しなかった。

原子力エネルギーに『近い』エネルギーで最終的な出力値では明らかに劣っている」

 

「そして私達はゲッター線という希望を発見した――そしてアメリカ軍は再び核という危険な遺物を掘り起こした……」

 

「プラズマエネルギー、原子力エネルギー、そしてゲッター線……三種のエネルギーをもってして、果たして恐竜帝国に打ち勝てるのだろうか」

 

二人は再び不動の姿勢をとっているゲッターロボの姿をずっと眺めていた。

 

「なあマリア」

 

「どうしましたか?」

 

「ただ呼んでみたかっただけだ」

 

「………………」

 

……一方、竜斗達はというと。

 

「し、死ぬ…………」

 

「こ、こんなに走ったの初めてだわ……」

 

黒田の引率の元、駐屯地内で体力練成、すなわちトレーニングを行っていた。

運動服がなんとも青春を感じさせて微笑ましいが、竜斗は四つん這いになって激しく息を切らしながらバテて、エミリアは立っているものの、足がガクガク震えていた。

 

「ほら、立ち止まってないで歩きながら深呼吸だ」

 

息を切らしながらも張り切っている元気な黒田に促され、フラフラになりながらも周りをゆっくり歩く。

 

「……黒田一尉て、やっぱり自衛官だなあ……あんなに走ったのにキツいって顔してないし、体力が凄すぎる……」

 

「リュウトも見習なくちゃね……あれっ」

 

するとエミリアは辺りをキョロキョロ見渡し始める。

 

「あれ、ミズキは……?」

 

「そういえば走っている途中いなくなったよな。黒田一尉、水樹はどうしたんですか?」

 

「水樹は途中で気分が悪くなったらしくて抜けたけど……そういえばいないな。トイレかもしくは医務室かな?」

 

「なら僕が探してきます」

 

「あ、ワタシも行く。トイレ行きたかったしついでに」

 

「わかった、オレはここで待ってるよ」

 

 

二人は彼女を探しに出掛けたその頃、本人はというとあまり人気のない隅っこで座り込んでいた。

 

「……まったく信じらんない。まさかマナがこんなキツいことしなくちゃいけないなんて……っ」

 

……いわゆるサボリである。

 

(なんでか言わなくていいって言っちゃったけど、やっぱり素直にアイツの言った通りに安全な場所へ送ってもらいたいにしとけばよかったかなあ。

それにしてもパパとママは無事かな……それにユカとかなにしてんだろ……久々に会って遊びたいよぉ……)

 

うずくまり、寂しさと辛さで心泣きする。

今まで、その狂気じみた行いで竜斗達に散々陥れてきた愛美も人間、一介の女子高生である。

そんな彼女がベルクラスに居座ったのが運の尽きか、気がつけば『ムカつく』竜斗達と共に行動せざるおえなくなっていた――。

 

(そうだ、この際自分から言おうかな。マナ抜けますって……けどあのオッサンがブチギレて殺しにかかってくるかも……どうすればいいのよ!?)

 

そう悩んでたら、近くに歩く足音が聞こえ、声が聞こえる。角から覗くと、体操服姿の男女……竜斗とエミリアの声だった。

 

「あいつどこにいったんだろ……?」

 

「どこかでサボってたりして……」

 

……エミリアの予想は見事的中していた。

 

(アッタリ……にしてもアイツらいっつもいつもくっついてもう……見てるだけでムカつくわ~っ)

思わずムスッとなる愛美。

 

(フフ、悪いけどもう少しサボらせてもらいますわ……っ)

気づかずに去っていったのを見届けると、クスッと笑った。

 

午後は3Dシミュレーションマシンによる疑似戦闘訓練を行った。

制限時間内の百個ある目標の撃破、そして標的からの攻撃による被弾数で点数が評価される設定だ。その結果とは。

 

「俺、百点中九十二点だったよ。エミリアは?」

 

「………………」

 

彼女は結果表を見ながらひどく落ち込んでいる。その点数はというと、『百点中六十点』だった。

 

「攻撃当たりすぎちゃった……っ」

 

彼女を慰める竜斗を尻目に、「フンっ」と紙をクシャクシャにしてゴミ箱にすてる愛美。

捨てられた結果表に記された彼女の点数は『百点中九十六点』という竜斗を超える高得点であった。

 

――次の日の午前中、竜斗とエミリア、そして愛美のゲッターチームは艦の座学室にて早乙女とマリアからとある話を聞いていた。

 

「……これが現段階で我々の分かる奴らの詳細だ。とりあえず分かりやすく教えたが――」

今わかるだけの恐竜帝国について、真面目に聞く竜斗とエミリアに対し、愛美は眠たそうな顔であった。

 

「――何か質問は?」

 

「はいっ」

 

竜斗は手を上げた。

「なぜメカザウルスは僕達人間を襲うのでしょうか?」

 

「それなんだが、これを見てくれ」

 

彼は持っていた大きい封筒から二枚の写真を取り出すと、三人に差し出す。

内容を見た三人は目を疑い、狼狽した。

「……何これ……っ」

「ヤダァ……キモっ」

 

……一枚目は白のベッドに横たわる人間の遺体と、二枚目は綿密に組み立てた恐竜のような生物の骨の模型の写真。だが一枚目の人間は、明らかにおかしかった。

見える限りの皮膚は堅そうな緑色の鱗に覆われて、顔は霊長類ではなくトカゲ、そう爬虫類そのものだ。しかし体型は間違いなく自分達人間と同じである。

こんな人間は生まれてから見たことがない、例えるならファンタジーなどに登場する『リザードマン』がぴったり当てはまる。

 

「何機か破壊したメカザウルスを確保し、研究資料として解体していたら、コックピットと思わしき胸部の中で息絶えてた。

解剖、分析した結果、人間と爬虫類の特徴を両方持っていた。凄く興味深いよ」

 

「……つまり爬虫類の人間ってことですか?」

 

……これがメカザウルスを操縦していたのか……彼らからすれば雷が身体を突き抜けるような衝撃だが、同時に異形に対する不快感もあった。

「地球にこんな生物がいたとは考えられない顔をしてるな。

だがそんなことはない、我々人間が長い年月を掛けて猿から進化したのなら、このように爬虫類、いや別生物が私達と同じ進化を遂げても決しておかしくないんだよ」

 

「ワオ……っ」

 

竜斗とエミリアは興味津々にその写真を眺めているに対し、愛美だけは見るのもイヤなのか目を反らしている。

 

「解剖した結果、この生物の身体能力、脳は我々人類よりも優れていることが分かった。メカザウルスのような未知の技術力を持っているのも納得だ」

 

「しかし、この生物がいたのなら、なぜ今頃になって地上に……」

 

「恐らく白亜紀末期、つまり一般的に恐竜が絶滅したといわれる時期に関係してくる。

恐竜を使うのを見ると奴らはその前からすでに存在していたと思われる。そして、地上に住む恐竜が絶滅する寸前に遥か地底に逃げてそこから現代になるまで静かに潜んでいたのだろう――」

 

「………………」

 

「そこで竜斗が言った質問に答えよう。その後に登場したのが我々人類だ。

そして長い年月を掛けてここまで進化し、地上を支配し現在にいたる。

奴らがそれまで地上を支配していたとすれば、私達は奴らから見れば勝手に上がり込んだ空き巣同然の存在だ――さて、奴らは私達についてどう思うかな?」

 

確かにそうだと竜斗達は妙に納得してしまう。

つまり自分達人間から地上を奪い返すために今頃になって戻ってきたということだ。すると、

 

「司令、実は――」

 

竜斗は先日の戦闘で行った行為とその理由について語る。早乙女は依然と無表情だがマリアと愛美は彼の行動にそれぞれ驚き、呆気に取られていた。

 

「竜斗、それは本当か?」

 

「……はい。どういうわけか、そのメカザウルスは無防備同然の僕を攻撃せずに去っていきました。僕自身、言葉が通じたのではと思いましたが……」

 

「……そんなメカザウルスがいたなんて信じられんが、竜斗が嘘をつくとは思えんしな」

 

するとエミリアはすっと手を上げた。

 

「どうした?」

 

「ワタシもそれをこの目で見てましたから本当です。

それでアタシも竜斗の意見に賛成です。どうにか話し合って解決、共に生きるというのはできないのでしょうか――」

 

すると愛美は信じられないような顔をして飛び上がった。

 

「ハアっ、バッカじゃない!?マナはこんなヤツらと一緒に暮らすなんて死んでもイヤよ、早く地球からいなくなってほしいわ!!」

 

「アタシがバカですってえ!?

聞き捨てならないわ、和解できる方が一番いいに決まってんじゃない!」

 

「じゃああんたはそいつらに殺されそうになっても同じこと言えんの?『あなた達と戦いたくありません、仲良くしましょう』って!!」

 

「言ってやるわよ!!それでミズキは何よ、『地球からいなくなればいい』って!?

人間の言う台詞なのそれ!?そんなの、差別同然じゃない!」

 

「こんな時にやめろよ二人共!」

 

性懲りもなく二人は口論を始めてしまう。竜斗も二人を止めようと仲介に入ろうとした時、早乙女が口を開いた。

 

「残念だがエミリア、その望みの叶う可能性は限りなく低いと思う」

 

三人の視線はすぐに彼の方へ向いた。

 

「向こうはどうか分からないが私達人類は基本的に異形に対しての抵抗感が強い。

共存するにも種族や文化の違いからトラブルが発生しやすいだろうし、忌み嫌う者もいる。普通の人間同士でも日常茶飯事に起こりうるのに異種族ともなればさらに深刻化するだろう」

「…………」

 

「共存について、水樹の意見は確かに普通の人間が考えることの一つだ。何もおかしくはない。

だからと言って君達の意見に反対するつもりはない。

我々もその方向で行けたら一番理想的なのだが、そもそも世界に宣戦布告し侵略、破壊、殺戮しだしたのは奴ら恐竜帝国からだ。

恐らくは我々人間を滅ぼそうとしている。和平交渉は至難だろう」

 

「…………」

 

 

エミリアは意気消沈し、ストッと力なく座り込む。

 

「我々が今すべきことは日本中に蔓延るメカザウルスを掃討し、そして日本のどこかにある本拠地を潰すことだ。

でないと近いうちに日本はオーストラリアのように制圧されてしまう。こんな小さな島国に時間などかからないだろう――」

今まで黙っていたマリアが口を開いた。

 

「……司令、メカザウルスは北海道方向からの出現が殆どでした。

ということは奴らの本拠地は――」

 

「ああ、私も同じ考えだ。

最近北海道の部隊と情報交換していたのだが、どうやら大雪山辺りが怪しい……」

 

「大雪山……」

 

「これまで我々は防衛に徹していたが、今のままでは泥沼化して何の活路も見いだせない。

奴らが今以上に戦力を強化する前に進撃を開始しようと思う。我々ゲッターチームはついに前に動き出す時がきたようだ」

 

竜斗は早乙女の言葉に身を引き締める。

 

「しかし君達の今の現状では、はっきり言って攻めに入っても勝ち目などない、返り討ちに遭うだけだ。今以上に訓練を気を引き締めて行い、そしてチームとしての信頼性、連携をより確実にしろ。そうすれば勝機は生まれる!」

 

「了解!」

 

竜斗は元気よく呼応するがエミリアは俯いたままで、そして愛美はというと。

 

(……なんか話がとんでもない方向へ来ちゃったなあ……っ)

 

どうやら深入りしたくないようで、逃げようかどうか困っていた。

 

……その夜。エミリアはベルクラスの右舷甲板上に出て一人黄昏ていた。手すりに肘をかけて、この広い地下の専用ドックの遙か先をただ見つめていた――。

少し暗い表情の彼女。ため息も混じって落ち込んでいるようだ。

 

「エミリア」

 

振り向くと竜斗がいた。彼は走って彼女の元に向かう。

 

「どうしたんだ?」

「…………」

 

何故か黙り込む彼女。彼はなぜ彼女がこんな表情なのかはすぐに分かった。

 

「もしかして俺達の意見に対して司令の言ったことを気にしてる?」

 

すると沈黙していた彼女は震える声でこう言った。

 

「ねえリュウト。アタシ達ってこれからどうなるのかな……っ」

 

「エミリア……」

 

「リュウトはサオトメ司令から強引にゲッターパイロットにされちゃって、アタシはそんなリュウトを守りたいからゲッターパイロットになった。

ミズキも知らない内になぜかパイロットになった……。

それでふと思ったの、終わりがあるのかなって?」

 

エミリアは振り向き、涙を浮かべたまま彼を見つめた。

 

「初めての実戦の時、アタシ……怖かった。

サオトメ司令からは想像を絶するくらいのプレッシャーがのしかかるって言われたけどそれどころじゃなかった、途中で何度も気持ち悪くてウエッて吐きそうになったし、気絶しかけたくらい……。

それでも……終わりが見えるならまだワタシは耐えられるかもしれない……けど、サオトメ司令の言うとおり、和解できないなら、これからどうなるの……?

どちらかが先に全滅するまで戦い続けなきゃいけないの……アタシ、そんなのイヤ……!!」

 

彼女の今にも押し潰されそうな恐怖心に彼は何も言えなかった、フォローすら出来なかった。

 

「リュウトは怖くないの……?

今にでもメカザウルスが攻めてきたら戦わないといけない……そしたら自分が死ぬかもしれないんだよ?

一番酷い目に遭ってるのはリュウトなのに……怖くないの?」

 

すると竜斗は静かに頷いた。

 

「……俺だって確かに怖いしイヤだよ。はっきり言って俺達をこんな目に遭わせた早乙女司令を正直恨んでる。けど……」

 

「けど……?」

 

「エミリアは覚えてる?俺達が地下シェルターに逃げ込もうとして、メカザウルスが目の前に現れて殺されそうになった時、助けてくれたのも司令だ。だからそれに対しての感謝もある」

 

彼はエミリアの隣に行き、手すりに寄りかかる。

 

「それにさ、前にも言ったけどゲッターロボに乗るようになってから俺……なんか変わった気がするんだ。

今まで臆病だったけど……早乙女司令やマリアさん、黒田一尉に出会って訓練する内に前向きになったような気がする……それに顔を合わせるのも嫌だった水樹にも今は何とも思わなくなったんだ。

……何だろう、みんなが俺を成長させてくれたみたいで、そう考えると怖いと言うより何とかしようと思うようになったんだ、いつの間にか――だから俺はまたやってみる。爬虫類の人間と和解するのは難しいかもしれないけど、もしかしたら向こうも俺達と同じ考えを持っている人間がいるかもしれない、あのメカザウルスに乗っていた人ももしかしたら俺達と同じ考えを持っているかもしれないから。そう思うとまだ希望はあるよ」

「…………」

 

「……エミリア、もう戦うのがイヤなら俺から司令に言おうか?」

 

エミリアはとっさに首を横に振る。

 

「ううん、自分の決めたことを投げ出すことはしたくないし、それになんか心が軽くなったみたい。

アタシもリュウトと一緒に頑張りたい」

 

「エミリア……」

 

「なんかあれだね……いつの間にかアタシの方が情けなくなっちゃったみたい。

前まではワタシがリュウトを引っ張ってたのが、今じゃ逆になってる……」

 

「エミリアはよく自分に無理しがちだから今まで溜まってたストレスとかが外に出てるんだよ、いっぱい吐いて楽になろう。それに言っただろ、俺はエミリアを絶対守っていくって。けど俺一人じゃどうしようもないからやっぱりエミリア達皆の力が必要だ、力を合わせて頑張ってこう!」

 

「……うん!」

 

……その場で仲良く団欒する二人を対し、甲板の出入り口で愛美が密かに彼らを覗いていた。

 

「…………っ」

 

手をギュッと握りしめて、唇を噛み締め、そして何とも言えない複雑な、そしてどこか羨ましそうな表情をしていた。

 

(あんなにイチャイチャしやがって……やっぱりアイツらなんか、だいっキライよ!)

 

彼女は涙ぐみ、その場から去ろうとしたが、ちょうどそこに黒田と出会う。

 

「どうした水樹?」

しかし彼女は何も言わずに走り去っていく。彼はふとドアから外を覗きこむ。

竜斗とエミリアが楽しく会話している姿が見える。

 

「………………」

 

彼もしばらく二人の様子を黙って見続けていた。

 


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