巨大なタイヤとなり縦横無尽に走り回り、蹂躙するメカザウルス・セクメト。
マグマも四方八方に吹き出して周辺を呑み込んでいる。
そんな状況下で必死で回避するゲッターロボ、黒田達BEET部隊。
「この作戦のミスは許されない。全員気を引き締めろ!」
ベルクラスはちょうどセクメトのいる区域の真上に到達する。
“ベルクラスはこれより地上に向けてゲッターミサイルを発射する。
投下位置についてはデータで送る。爆心範囲にいる味方機は速やかに退避せよ”
マリアの指示が各機のコックピットに入るとその区域にいる味方は一斉に退避した。
「全機、退避しました」
「よし、ゲッターミサイル全弾発射」
ベルクラスの発射管から再送填された大型ゲッターミサイルが一発ずつ、発射された。
セクメトを中心とした場所へ次々と着弾。爆発による衝撃は地上に大きなクレーターを形成するのに充分であった。
セクメトは攻撃を受けていることに感知し、さらに活動が激化。
レアメタルでもある『セクメミウス』で造られた装甲の穴からマグマを大量に吹き出した。地上をドロドロのマグマで埋め尽くさんとする様はまるでこの世の地獄である。
「あのメカザウルスの蓄えられたマグマは底なしなのか……?」
このセクメトもゼクゥシヴと同じく『アルケオ・ドライヴシステム』を採用されたメカザウルスであり、マグマの貯蓄量は無限であった。
「よし、いくつか作ったクレーターにヤツを誘導させて、ハメさせろ!」
各機はセクメトへ向かっていく。
一定距離にまで近づいた彼らはライフル、ミサイルを撃ち込んでセクメトを挑発する。
まんまと挑発に乗ったのか急旋回し、踏み潰そうと全速力で走り出す。
「よし行くぞ。間違っても踏み潰されるなよ!」
彼らもセクメトから逃げるように全速力で地上を滑走する。
「ベ~っだ!」
モニター越しからあっかんべえをする愛美はまさに余裕綽々である。だが、
「キャアアっ!」
前方不注意というか、正面を確認しなかった彼女は、足元の瓦礫に気づかずに機体は足につまづいて勢いよく地面に倒れ込んでしまった。
“水樹、早く立ち上がれ。後ろから来てるぞ!”
「あっ!」
全力で転がるセクメトがもうすでに海戦型ゲッターロボの寸前にまで迫っていた。
「ウソっ……」
このままでは踏み潰されてしまうのは確実であった、が。
「水樹っ!」
横から空戦型ゲッターロボが全速力で海戦型ゲッターロボを胴体を掴み、その場を離れて間一髪、踏み潰されるのを免れる。
「あ……石川っ!」
“ふう、間一髪間合ってよかった!”
本当に助かってよかったと安心そうな竜斗に彼女はもやもやとした表情で、
「アンタがマナを助けるのは当たり前でしょ……」
“ああ、任せといてっ”
彼女も彼の見せた笑顔に拍子抜けした。前まで嫌がっていた相手を気遣えれるのは彼の成長か――。
彼らは一気に散開し、それぞれベルクラスの作ったクレーターの縁を落ちるか落ちないかのギリギリに沿って走り込む。
どうやらセクメトに搭載された人口知能はそれほど賢くなく、追うようにクレーターの縁に沿っていくが、その丸みの帯びた装甲が縁に滑って呆気なく落ちた。横転し、タイヤ形態が解除されてだんご虫の姿に戻る。ガシャガシャと節足が動き、起き上がろうとしていた。
「マリア、もう一度ゲッターミサイルをメカザウルスに食らわせて、ひっくり返せ」
「了解。ゲッターミサイルはあと四発で弾切れになりますがよろしいですか?」
「ああ、全部あのメカザウルスにくれてやる。派手に撃ち込んでやれ」
「分かりました」
最後のゲッターミサイルを自動装填し、発射管の向きを全て地上のセクメトに向けさせ、発射。
ミサイル全弾は地上のセクメトに降り注ぎ、見事命中した。
凄まじい衝撃でついにセクメトの胴体が仰向けにひっくり返ってしまい、クレーターにすっぽりハマってた。
弾頭内の大量のゲッター線にまみれるセクメトだが、やはり全く効いておらず平然とガシャガシャ動いている。
BEET部隊、そして愛美のゲッター各機が一斉に仰向けになったセクメトの顔へ近づき、各武装を展開、攻撃を開始。
ミサイル、プラズマ弾、ガトリング砲全弾をこれでもかというくらいに一点に浴びせる。
「エミリア、君の出番だ!」
“は、はいっ!”
『ライジング・サン』を脱着(パージ)して身を軽くし、すぐにクラウチング・スタートのポーズをとる。
「大丈夫……落ち着いてアタシ。やればできるよ」
安心させるように自ら心に言い聞かせる彼女。
同時に両踵の『ターボホイール・ユニット』が作動、車輪をフル回転させて砂煙が立ち込める。
そして竜斗から通信が入る。彼は心配そうな表情であった。
“危なくなったらすぐに助けにいくからな”
「リュウト……心配しないで、アタシやってみせるから」
そして、
「エミリア=シュナイダー、突撃開始します!」
その場から凄まじい超加速で発進した陸戦型ゲッターロボ。
凄まじいスピードでセクメトの顔に向かっていく。
「みんなよけろ!」
進行上にいた各機は攻撃をやめて、すかさず道を開けた。
そしてゲッターも左腕の巨大なドリルをフル回転させて引き上げてセクメトに向かって突撃していく。
「はああああっ!」
ついに勢いをのせた高速で回転するドリルがセクメトの窪んだ顔の装甲に穿った。金属をガリガリ削る不快音が鳴り響く。エミリアは左レバーを全開に押し込む。モニターが金属を削る際の火花で目がチカチカするも目を閉じず、全てを見届ける。
だが、肝心のセクメトの装甲はまだ少しも傷はついておらず、新品同然の金属そのものだ。本当に打ち破れるのだろうか。
「く……うっ」
無理にドリルを押し込んでいるゲッターロボに負荷がかかり、コックピットの各計器がスパークを起こし始めている。
このままだとコックピットが爆発するかもしれない、彼女の頭の中にそれがよぎった。
(もしかして、メカザウルスより……アタシが死ぬ……?)
だんだんとレバーを押し込む腕の力が弱くなる彼女。
いつもは気丈な彼女にも心の弱さがある。そう、愛美の言っていた土壇場での弱さだ――。
(だけど……アタシがここでやらないと……みんな、みんな生きて帰れないんだっ!!)
負けじと無理やり自分に渇をいれて再び左レバーをぐっと押し込むエミリア。
これは彼女の心の戦いでもある、
今、恐怖を押し殺し自分の与えられた使命を、全力で果たそうとする彼女の表情は凄まじいものだった。
――そんな彼女の成果に功を成したのか、セクメトの装甲に変化が現れる。
まるで鉄が高温で熱したかのように赤く広がり始めているのを彼女は確認できた。
このままもしかしたら……期待を膨らました彼女にはもはや迷いなくさらにドリルの回転力を少しずつ上げていく。
そして波紋のように赤く、そして広がる装甲は少しずつ膨らんでいく。
おそらく金属に溜まりに溜まったエネルギーが行き場を失っているのだろうか。だが、ドリルの方も明らかに鋭利さが落ちてきており、回転力が弱くなってきた。果たしてどちらが先に屈するのだろうか……その答えは。
「……ついにやったわっ!」
先に根を上げたのはセクメトの装甲であった。赤く膨れ上がった装甲はついに亀裂が走り、破裂し全員が一斉に歓喜を上げた。
“よくやったエミリア。直ちにそこから退避しろ!”
「はいっ……えっ?」
セクメトは発狂したかのごとく仰向け状態から大量のマグマを吹き出した。
クレーターから溢れ出て、そして飛び散り密着していたエミリアにまで降りかかった。
「っ!!」
すぐさまレバーを引き込み、その場から離れ出すエミリア。
だが飛び跳ねたマグマの一塊が真上から落ちてきていた。とっさに左腕のドリルを盾にして真上に上げた時、マグマがドリルに直撃。みるみるうちに溶けて醜い形となった。
「エミリア!」
彼女を助けようと竜斗は急いで飛び出した。
しかしセクメトから溢れ出るマグマがまるでこの地上に灼熱の海を生み出そうとしている。
「水樹も早くここから離れるんだ、飲み込まれるぞ!」
しかし、水樹は何もしようとせず突っ立ったままだった。
「水樹っ!!」
“黒田さん、いいから先に行ってて”
「えっ……」
……彼女は一体何を考えてるのか……。
「エミリア、助けに来たよ!」
“ありがとうリュウト!”
空戦型ゲッターロボは彼女の機体を掴み抱えてそのままスピードを上げて低空飛行でマグマの海から離れていく。
「エミリアはみんなと共に離れて!俺はゲッタービームでトドメを刺しにいく!」
“頼んだよリュウト!”
「ああっ!」
だが片手で機体の全重量を支えるにかなり無理がかかり、右腕がちぎれかかっている。
このままでは彼女はマグマの海の中に落ちてしまう。
一刻も早く彼女をどこに降ろそうか悩んでいると、なぜか愛美の乗る海戦型ゲッターロボの姿がこちらを向いて立ち尽くしていた。
「水樹、なにしてんだよ!早く逃げなよ!」
“石川、さっさとエミリアをマナの元に降ろして早くあのキモいのにトドメ刺してきなさいよ!”
「水樹?」
“……エミリアはマナがちゃんと無事なとこまで誘導するから早くっ!”
彼女からの思いがけない発言に二人は驚き、そして唖然となる。
“ホラ、あともう少しで終わりなんだから早くするの。ここで全てを無駄にしたらアンタを一生怨んでやるからっ!”
「水樹…………」
「ミズキ……っ」
あの自己中の塊だった愛美が自ら救いの手を差し伸べた。それだけに二人は驚き、そして喜びが膨れ上がる。
「ありがとう水樹っ!エミリアは水樹と一緒に逃げてくれ!」
“うんっ!”
竜斗はエミリアを愛美のそばに降ろすと二人はすぐさま猛スピードで黒田達のいる安全区域まで退避していった。
「あとはっ!」
もうやるべき道は一つになった竜斗はフルスピードで上空から、マグマの海に溺れているセクメトに接近。すぐさま腹部の発射口を開く。
照準をエミリアによって破壊された部位に合わせた。
「これで終わってくれえっっ!!」
腹部から再び最大出力のゲッタービームが放たれて、破壊された部位に見事命中させた。
ゲッター線を高密度に圧縮した、マグマ以上の超高熱を帯びた光線は脆い内部に突入、全てを溶かして破壊していき動力源である『ヒュージ・マグマ・リアクター』にも直撃。
メカザウルス・セクメトは動力炉の暴発により風船のように膨れ上がり、そして眩い閃光と共に凄まじい爆発を起こしたのだった。
「つ、ついにやった……やったぞっ!!」
全員はその光景を離れた場所からモニターで見届け、勝利の歓喜を上げた。
竜斗も無事に黒田達の元へ帰還し、全員が彼を盛大に出迎えた。
「僕達、ついにやりましたよ!」
“竜斗。君、いやゲッターチームはよく頑張ったよ。やれば出来るじゃないか!”
黒田から誉めの言葉をいただき照れる三人――。
「だが、今回は朝霞での戦闘以上にキツかった。恐竜帝国の戦闘力は本当に恐ろしいものだ……っ」
黒田はマグマで焦土と化したこの凄惨な地上を物悲しい目で見つめながら呟いた。
「…………」
竜斗も北海道方向に去っていったゼクゥシヴをふと思い出し、空を眺めていた。自分が危険を省みずに、身を晒して訴えたことを、そして言葉が通じたのか、隙だらけの自分に攻撃せずに去っていったあのメカザウルス――。
(考えたら……俺はスゴくバカなことをしたよな。死んでもおかしくなかった……けどチャンスはあの時しかなかったんだ……)
――そしてベルクラスに帰艦した竜斗達。彼はボロボロになった機体を収容し、降りてエミリアと互いに抱きついた。
「リュウト、アタシ達生きてるのね!」
「ああっ。エミリアよく頑張ったな!」
「リュウトもねっ」そして何食わぬ顔ですれ違う愛美にエミリアは、笑顔で彼女の元へ向かう。
「ミズキっ!」
「……なによ」
「……ミズキがあんなこと言うなんてビックリしたけど、スゴく嬉しかった。本当にありがとっ」
「…………」
エミリアは愛美に頭を下げ、感謝の意を込めてそう伝えた。
「アタシ、リュウトやミズキより操縦下手だから二人の足を引っ張ったけど、これからはリュウトについていけるように、そして迷惑をかけないようにさらに努力します。
今までキツいこと言ってゴメンね」
彼女の言葉に少しも嘘など感じられないほどに清々しかった。
愛美はそっぽ向いたまま、震える声でこう言った。
「……そうね。これ以上マナ達の足を引っ張らないようにね……」
彼女は早々に二人の元から去っていった。
二人はポカーンと愛美の後ろ姿を見ていた。
「……何があったのかな?」
「うん……いつものミズキと違うような……」
どこか今までとは違う様子の彼女に二人は不思議がってた――。