「や、やったのかっ……」
息を呑む竜斗、エミリア、そして水樹。攻撃を当てることに成功した彼らゲッターチーム。
その発揮した連携プレーは今までの彼らとは思えないほどだ。
「……えっ」
首が無くなったゼクゥシヴだが――。
「!!」
ゼクゥシヴの放った至近の押し蹴りが竜斗の機体を吹き飛ばした。
「うあっ!」
地面に叩きつけられて倒れ込む竜斗の機体。
「リュウト!」
首が無くなったにも関わらず再び動き出したのだ。
「ちい、メインカメラが破壊されたか!」
コックピットが胸部にあったためにラドラはなんとか無事であったが、どうやらカメラアイのあった頭部が破壊されたためにモニターが乱れてザーザーとノイズだらけとなっていた。レーダーを頼りに再びレバーを振り込んだ。
先ほどとは違い、乱暴に剣を振り回し始めるゼクゥシヴ。もはや悪あがきとも言える行為に見える。
「大丈夫リュウト!?」
“うん。それより水樹は!?”
蛇腹状の腕をゼクゥシヴに切り取られて同じく蹴り飛ばされた海戦型ゲッターロボはそのまま仰向けに倒れたままだった。
「大丈夫か水樹!」
“い、いたいよお…………っ”
彼女はヒクヒク泣いている。どうやら倒れた時の衝撃で身体を強く打ちつけたらしい。
「水樹、早く起きて!ヤツが来るよ!」
愛美に向かってゼクゥシヴが剣を振り上げていた、このままでは間違いなく切断されてしまう。
「ミズキ!!」
水樹へ真っ赤に熱せられた凶刃があと一歩に迫っていた……その時。
「させるかあ!!」
空戦型ゲッターロボは持てる力で横から体当たりをかまし、一緒に地面に転げていく。すぐに立ち上がると再び右腕からビーム・シリンダーを展開し発射。
ゼクゥシヴも即座に立ち上がり、避けようとするも左大腿部と腰部に見事直撃。大穴が開き、左足は見事に消し飛び再び地べたに倒れ伏せる。
「これで終わりだ!」
竜斗はトドメを刺そうともう一度ビームを撃とうとした。が、
「…………」
だが彼は何故か撃てなかった。
自分を二度も追い詰めた、強敵だったこのメカザウルスが、今では弱りきった姿に彼は哀れに思えてしまう――。
(何故だ……なぜ攻撃しない……)
死を覚悟していたラドラも攻撃してこない向こうに疑問を抱いていた。彼は胸部にある予備のカメラアイを起動し、画面に映す。
そこには右腕を突き出したまま停止しているゲッターロボの姿が。だが――
「……なにっ?」
ゲッターロボの口部分のハッチが開き、中から竜斗が姿を見せた。
「リュウトっ!?」
エミリア、特にラドラは彼のその行動に動揺する。
敵に自らの姿を晒すなどと、本来は絶対にあってはならない行為だが彼は何故……。
(若い……この機体のパイロットは……なんなんだ……)
爬虫人類のラドラでもわかる、まだ成人すら迎えてないか弱そうな幼い顔立ち、『戦士』としての風格、そして『敵』とも思わせるようなモノを持ち合わせていない男、竜斗――。
「……僕の声がわかりますか?」
竜斗は大声でゼクゥシヴへ語りかける。
「僕達は……こんな殺し合いはもうしたくありません。僕の、人間の言葉が分かるなら……どうかこんな戦いはもうやめてください!」
地上人類とは全く違う言語のためにその言葉が理解できないラドラだが、彼の悲しげな表情と必死の叫びは何かを訴えているのが分かる……。
「リュウト……」
彼女はここで、前に座学室で二人で話していたあの話題について思い出す。
『話し合ってこんな戦争を止められないか』
という話を。
彼は今、こんないつやられるかどうかも分からないという危険な状況で、あえて身を乗り出して自分なりの『和解』を試みたのだった……。
「………………」
今、ゲッターロボのコックピットを狙えば確実に彼は死ぬだろう。みすみすと身を晒すという危険でそして馬鹿なマネをしている彼に対し、ラドラも何もしなかった――。
しばらく互いの静止が続き、ゼクゥシヴがゆっくりと片足で立ち上がると、ゲッターロボに不意打ちなどの攻撃を一切せずにそのまま上空に飛び上がり、北海道方向へ去っていった――。
「…………」
ボロボロの状態で逃げていくゼクゥシヴをもの悲しく見つめる竜斗。攻撃してこなかったということは自分の話が通じていたのか、それとも――。
「あ、そうだ……水樹は!」
コックピットハッチを閉めて、愛美の元へ向かった。
「水樹!!」
すぐさま無事である右腕を使い、機体を起こす。エミリアも我に帰り、急いで二人の元へ向かった。
「ミズキ……」
竜斗とエミリアはモニターで彼女の様子を確認する。
「水樹大丈夫……?」
“………………”
優しく声をかけるも彼女は声を震わせて泣いていたのだった。よほど痛かったのだろうか……。
「水樹、アイツはもう去ったから安心して」
……すると、
「大丈夫に決まってんじゃない」
泣き声を止めて、いつも通りの強気の口調となったのだ。
“本当に石川がマナを助けてくれるか試してたの。
フフっ、安心したわ。これからもちゃんとマナを守るのよ”
「………………」
「………………」
どうやらただのウソ泣きだったようで、
二人は心底呆れた――そこに早乙女から通信が。
“ゲッターチーム、ついにあのメカザウルスを撃退したな”
「早乙女司令!」
“よくやったと言いたいが、まだ終わってない。
エミリアと水樹は知っているが、今までのデータにないダンゴ虫のような形状のメカザウルスが地上を蹂躙しながらこちらに迫っている。
おそらく新型だろう。
黒田達も何とか撹乱して持ちこたえているが全く手に負えない。早く急行して総攻撃をかけろ!”
だが陸戦型ゲッターロボ以外は腕を斬られてボロボロである。果たしてこの状態で果たして倒せるのだろうか。
だがやらなければ更なる被害が増える一方だ。
「行こう、みんな!」
「うん、ここまで来たらやるっきゃないねっ!」
「生き残るために仕方ないか……まあ何かあったら石川達が守ってくれるだろうし」
三人はすぐさま黒田 達と合流するため、急いで先へ進んだ。
「ちい、なんてヤツだ!」
一方、黒田、他部隊のBEETは『メカザウルス・セクメト』へ動き回りながら集中攻撃を浴びせていた。
まるで早乙女の言う通りダンゴ虫のごとくうねうねしながら動き、かつ巨体なために攻撃を避けられるような素早さはない。
だが、それを補うように彼らを驚愕させたのはその『頑丈さ』である。
一方的に集中砲火をしているにも関わらず、キズ一つもつかないどころかまる新品同様のピカピカの金属が光に照り返るのが分かる、寧ろ攻撃を加えていることで装甲をさらに『活性化』しているようにも見える。
黒田の乗る重装備BEETは顔に当たる箇所を中心に右手のバズーカ、右肩の小型ミサイルポット、両腰のガトリング砲で全弾ぶち込んでいるが、全くびくともせず。
「これだけ攻撃しても通用しないとは……弱点かないのか?」
そんな中、ついに彼らゲッターチームが黒田の元へ駆けつけた。
“黒田一尉、ただ今駆けつけました!”
「来てくれたかゲッターチーム……て、機体がボロボロじゃないか」
“……僕のはとりあえず腹部と右腕のゲッタービームは使えます。水樹は両腕はなくなりましたがそれ以外なら無事だと思います。
この中で一番無事なのはエミリアの機体です”
「……そうか。我々は今、このメカザウルスを包囲し攻撃をしているのだが」
三人は前方にいるセクメトを見る。
「やだあ、キモチワルっ!」
愛美はその姿に嫌悪感丸出しだ。
「BEETの携行兵器では全く歯が立たないんだ」
“では、ゲッタービームで試みます!”
「できるか?」
“最大出力でやってみます”
空戦型ゲッターロボは前に飛び出し、腹部の中央から赤く円いレンズが露出した。
「ターゲットロック!」
照準をセクメトにつけ、炉心からのゲッターエネルギーを一気に腹部へ集め、右レバー横の赤いスイッチを押し込む――極太のゲッタービームが放たれ、見事顔面部に直撃した。
「……えっ?」
最大出力のゲッタービームをまともに受けたセクメトは活動が止まらない。寧ろ、動きが活性化していた。
ビームが切れるも全員が見たのは装甲には溶けておらず、全くの無傷で活動するセクメトがいた。
「ゲッタービームが効いてない……?」
セクメトは突然、その身を縦に丸めてまるでタイヤの如き姿になった。
「来るぞ!」
そのまま高速に回転しながら前に走り出す。障害物を押し潰しながら怒涛の勢いで向かってセクメトに対し、竜斗達は急いでその場から離れて散る。
「なんだこいつは!!」
ゆっくりとスピードを落として止まり、表面装甲に無数の小さな円い孔が現す。
“地上の味方機、そこから離れろ!”
地上の機体に早乙女から突然の通信が入った瞬間、なんと孔からドロドロのマグマが四方八方に吹き出した。
セクメト周辺はマグマだらけとなり地上を灼熱地獄へ変えた――。
辛うじて空へ逃れた竜斗は散り散りになった二人にすぐに連絡を取る。
「大丈夫二人とも!?」
“ええっ、なんとか!”
“大丈夫だけど暑いよおっ!”
……どうやら難を逃れて無事のようである。
“みんな無事か!”
黒田からの安否の通信が三人の元へ。
「よかった、黒田一尉も無事でなによりです!」
“ああ。だがこのままではオレ達もいつマグマの餌食になるか、それとも踏みつぶされるか時間の問題だぞ”
四人は思わず唾を飲み込む。
まさかゲッタービームが全く効かないとは……今の自分達の持てる兵器では対抗できないとなるともはや絶望的で、このままでは一方的に蹂躙されるだけになってしまう。
“全員無事か!”
「早乙女司令、ビームが効きません、どうすれば!」
“今、あのメカザウルスをスキャン、そして分析したのだが、どうやら我々の知らない未知の金属を使用しているようだ”
「未知の金属?」
“硬度自体は高くない、我々人類の使う装甲と同程度と解った。
だが問題は、どうやらその金属は物理的衝撃、熱などを吸収する柔軟性を持ち、その吸収した衝撃エネルギーを利用して装甲の強度が増す性質のようだ”
その事実を知った彼らは仰天した。
「そっ、そんな金属なんて地球上にあったんですか……?」
“その事実がヤツの装甲だ。ともかく、我々の攻撃は全てヤツの肥やしになってしまうわけだ”
……まるでスイッチが入ったかのようにタイヤ状でゴロゴロ転がり地上のあるもの全て踏み潰すセクメト。自ら垂れ流したマグマに突入しても全く影響すら受けてない、本当に脅威である。
“だが、もう一度スキャンして分かった。
どうやら物理的衝撃から生じたエネルギーは、いくら取り込んでも一度ではなく少しずつ表面装甲に潤うようだ”
「つ、つまり?」
“全てのエネルギーは一気に装甲の強度には反映されないということだ。そのまま衝撃を与え続けるとエネルギーばかり蓄積することになる”
その言葉に竜斗は閃いた。
「ということはずっと一点に攻撃をし続けたら……」
“さすが竜斗、君もわかったか。そうだ、金属に溜まった膨大なエネルギー量は行き場を失って暴発し、装甲は破壊される”
そうなるとやるべきことは一つ、分散して攻撃するのではなく、一点集中攻撃し続けることで勝機が生まれる。だが、
「タイヤが転がるように動き回っているあのメカザウルスの一カ所に集中攻撃は至難ですよ……」
ただ攻撃を当てるのなら簡単だ。しかしこのような条件がつけられると難易度は一気に跳ね上がる。
“この戦闘の勝利のカギはエミリア、君だ”
「あ、アタシですか……?」
“我々が一カ所に集中攻撃を掛けた瞬間、すかさず陸戦型ゲッターロボのドリルで集中攻撃しメカザウルスの装甲を突貫、破壊する”
その意味に気づいた彼女の顔は一気に青ざめる。
「つ、つまりアタシ、あのメカザウルスに突っ込めってコトですよねえ……っ」
“どうした、怖いのか?”
「…………」
初戦でこんな大事な任務を任されることが想像つかなかった彼女は一気に恐怖感が強くなる。
“だが、やらねば倒すことはできずにこのまま地上の味方が全滅するのを待つだけだ。
それに何のために我々、そしてゲッターチームがいると思うんだ?”
彼女の元に竜斗、愛美、そして黒田と味方の隊員から通信が入る。
“俺達がエミリアのために活路をつくる。俺達もお前のために頑張るから怖がらないで”
“心配するな。今まで忠実に、真面目に訓練してきた君ならできると信じている。
それに怖いのは君だけじゃない、君のために突破口を作るオレ達自身もだ”
「…………」
……今度は愛美からほくそ笑むような顔で自分を見てくる。
“いつもはマナには気が強いくせに飛び降りる時といい、今といい、実は土壇場に弱いタイプ?なっさけないわね~~っ”
「………………」
“まあいいわ。ホラ、マナもアンタのために協力してあげるから感謝するのよ。生きて帰るにはあのキモイの倒さなくちゃいけないんだし――”
「ミズキ……っ」
“ホラ、すぐに気合いを入れてシャキッとしなさいよ!マナの気が変わらない内に早く行動に移すのっ!”
竜斗は彼女にこう言った。
“俺はエミリアを守るって言ったよね、そして三人は生きて帰るって。
俺達は全力でエミリアをサポートする、だから恐れず勇気を出して”
「リュウト……うん、アタシ頑張る!みんな、よろしくお願いします!」
彼女の顔色が良くなるのを見ると全員は喜び、一気に結束力を強めるのだった。
“全員に告ぐ。スキャンした結果、比較的強度が弱い所がある。ヤツの足がある左右の側面、そして顔のある正面だ。まずベルクラスのゲッターミサイルを全弾を地面に撃ち込んで辺りに大穴を作り、はまらせて横転させ、動きを止めると同時にあのタイヤ形態を解除させる。BEET部隊、竜斗、水樹は奴をうまく穴に誘導してハマらせろ。ひっくり返せれば一番理想的だ。
そして強度の弱い箇所を全機で集中攻撃し、途切れずに陸戦型ゲッターロボのドリルでメカザウルスの装甲を破壊し、竜斗のゲッタービームを撃ち込む、いいか!”
“了解!”
全員はその勝算に希望を抱いて一気に行動を開始した――。