ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第一話「その名は『ゲッターロボ』」②

竜斗とエミリアの頭は混乱した。何が起きたのだろうか――。

そして今の自分達に映る景色は異常であった。

コックピットの三六〇度全視界モニターに映る、約二百メートル上空から見下ろす景色はまさに経験したことのない夢のだった。

が、そんな甘い言葉は正反対の有り様である。

黒煙の上がる、崩れた積み木のような無秩序、そしてあのマグマによって赤と黒で汚された地上。

そしてこの時代に場違いな程に浮いているモノの群れ、それは恐竜帝国からの悪夢の贈り物、機械化された恐竜である。

そして奴らも見るは前方の遥か上空。夕焼けに重なるは人類の希望である、早乙女の開発したゲッターロボ。

まるで突然現れた赤鬼の姿をした正義のヒーローのような出で立ちであった。

 

「お前ら、気分はどうだ?」

 

操縦席に座る早乙女は茫然として固まる後ろの二人に声をかける。

 

「アタシたちの町が……」

 

「ヒドい……ひどすぎる!」

 

ゲッターでの飛行より、やはり自分達の生まれ育った場所の惨状のほうに印象が強いようだった。

 

「……まあそうだろうな。だがこのゲッターロボが起動した今、もう奴らの思い通りにはさせない」

 

冷静巾着に話す早乙女の声に秘められるは真逆の熱さ。それは今まで好き類が、奴ら恐竜帝国への逆襲、それであった。

「しっかり掴まってろよ、今から攻撃を開始する」早乙女は活き活きと操縦レバーを押し出した――。

ゲッターロボは前めりになりながら地上へ、恐竜の密集地に向かって降下していく。そして右手に携行していたライフルを構えて地上の、一体の恐竜に狙いを定める。

 

「目標ロック――」

 

モニター画面で照準が恐竜を捕捉。バレル内に青白い光が収束、それが少しずつ輝きを増していく。

それが一定になった時、バレルから解き放たれて球状の蒼い稲光の光弾が二、三発、一瞬で標的の恐竜一体に直撃した。が、強くのけぞったくらいの反応をして光弾は消滅したのだった。

 

「……わかっていたが従来規格のプラズマ兵器では、有効打は無理か」

 

『プラズマエネルギー』

 

 

原子力エネルギーに替わる人畜公無害の次世代エネルギー。

『プラズマ・ボムス』と呼ばれる反応システムによって供給される。

そのシステムをSMBの動力として発展させたのがプラズマ反応炉。そして武器として転用したのがプラズマ兵器である。

その一種として、このゲッターに携行されたこのライフル型プラズマ兵器『プラズマ・エネルギーライフル』である。

だがあくまでSMB標準装備規格であり、出力が高くないためにメカザウルスにはあまり効果がないのであった。

 

「ならば早速、新兵器を使わせてもらう。『ゲッタートマホーク』をな」

 

ゲッターは地面に着地し、両腰の側面にマウントされている、二本の折り畳まれた金属体を取り出すと真っ直ぐに展開。その形はハンドサイズの手斧のような形であるが刃はなく、変わりに柄の部分を握りしめると、刃の部分に青白ではない今度はエメラルドグリーン色の光のビーム刃を発振したのだった。

ゲッターは地響きをたてながら前方の恐竜へ向かって一気に走り出す。ヤツも右肩に装備された、『マグマ砲』の射軸を真っ直ぐ前方に変えてマグマ弾を発射。超高熱を帯びた紅蓮の弾頭がゲッターに勢いよく向かっていく。

しかしゲッターは瞬時に飛び上がり、それを回避。紅い右手に持った斧『ゲッタートマホーク』を振り上げて、そのまま勢いに任せて恐竜の前に落下していき、斧を振り下ろした。

その発振された光線が恐竜の脳天から叩きつけ、縦一線に真っ二つに焼き切ったのだった。

 

動かなくなったのを確認するとゲッターはすぐさまそこから退避、中からおびただしいマグマがまるで人間の血の如く溢れだして、機械がスパークした恐竜はその場で大爆発したのだった。

 

「なんて、強いんだ……」

 

「あ、あの恐竜の化け物が一撃で……」

操縦席でそれを見ていた竜斗とエミリアはゲッターロボの力に思わず唾を飲んだ。

 

「当たり前だろ。一撃で倒せないのなら、恐竜帝国相手に立ち向かうのは無謀だからな」

 

笑み一つ浮かべず、むしろ当然のような顔の早乙女。よほど自分の開発したこれに自信を持っているに違いない。

そして他の恐竜達もこの事態に焦りを感じたのか、一斉にゲッターロボへ向きを変えて動き出した。

「もう少しでマリアが援護に来る。それまでどこまで蹴散らせれるか、データ収集もできて一石二鳥だ」

 

もう片方の斧を取り二刀流に持ち構え、そして走り出すゲッターロボ。

それに反応し、原始の雄叫びを上げながら駆け出す恐竜ども。

そして両者は激突。ゲッターは両手のトマホークを豪快に振り回し、迫る奴らの首を刈り取っていく。

間合いを取る二体の、まるでトリケラトプスのような四足体系の恐竜の背中に取り付けられたキャノン砲から放たれるマグマ弾が、隙をついてゲッターに見事直撃……したかに見えたが、ゲッターの装甲に触れようとした時、その部分が突然蒼白い光の幕が突如発生し、マグマ弾はそれに触れた瞬間、まるで火が水をかけられたかのように消し飛んだのであった。

『プラズマシールド』と呼ばれるプラズマエネルギーによる、自動的に、部分的にエネルギー防御障壁を発生させる機構。従来の機体には装備されてなかった新兵器の一つである。

 

「いいものをくれてやる」

 

ゲッターは目の前の恐竜の顔面に腕を突き出す。殴るのかと思いきやなぜか顔面手前で寸止める。恐竜も一瞬何が起こったか戸惑う。

だが突き出した右前腕の装甲が縦にスライド開放し、中から出現したのは赤色の丸いレンズ。

次の瞬間、レンズがカッと赤色光が発生、恐竜の頭の飲み込む。

光が弱まり、見えるようになると恐竜の頭が綺麗さっぱり消し飛んでいたのである。痙攣するような動きを見せた後、恐竜は横へドスンと倒れた。

次々に最新鋭の機体、ゲッターロボの力によって破壊されていく恐竜。

今まで一体倒すだけにも手間を掛けた奴らが、この一機だけでバタバタなぎ倒されていくのは人類にとってはまさに夢にまで見た希望、恐竜側にとっては悪夢の脅威である。

 

「……スゴいね、リュウト」

 

「うん…………」

 

二人の竜斗の手の震えが止まらなかった。一方、早乙女は。

 

「…………」

 

様子がおかしい。余裕の表情は変わってないが額には大量の大汗が。

胸元を見ると白いYシャツが赤く滲んでいるが……。

 

“司令、海側より飛行型メカザウルス二体が高速でそちらへ移動中。注意してください”

 

コックピットから再び謎の女性の通信が。

 

「……マリア、あとどのくらいでここに着く?」

 

“……それが、私だと出航許可がなかなか下りなくて。しかしいまやっと発進したところで、到着には約十分前後です”

 

「……早くしてくれよ。このままだと私も持ちそうにないんだ」

 

するとゲッターは折りたたんでいた背部の紅い翼を左右に展開させた。

 

「また飛ぶぞ。舌を噛むなよ」

 

「えっ?」

 

力強く飛び上がり、遥か上空へ舞い上がる。

 

「キャアっ!」

 

「~~~っ!」

 

すっかり気の緩んでいた竜斗達は、その衝撃に翻弄させていた。

そしてすっかり夜の空となり、暗くなった景色。海側を見ると被害のない静けさが漂う。暗くて何も見えないが、コックピットでは捉えていた。

 

「な、何あれ?」

 

「……新たな、敵だ」

 

それは翼の生えた恐竜、翼竜と呼ばれる種類。こんなに恐竜が出てくるここは、太古なのかと錯覚してしまう。

迎え撃つためトマホークを構えるゲッター。

一体はまるでジェット機のような速度で、翼竜は考えもなくそのままゲッターに向かってくる。体当たりするつもりなのか。

ゲッターはすぐに上昇して直撃を回避。しかしもう一体の翼竜はくちばしのような尖った口を大きく開け、なんと直線的なマグマをゲッターに向けて勢いよく放射。シールドのおかげに直撃は免れているも単発型のマグマ弾ではなく、まるで放水しているように放射しているために攻撃は途切れず。次第にシールドの幕も段々薄くなっていった。 その時、回避され通り過ぎていったもう一体の翼竜が旋回し、背中からゲッターに豪快に体当たりをかました。

シールドが薄くなっていたのもあり、見事に貫通、ゲッターは大打撃を受けた。

 

「ぐうっ!」

 

早乙女もついに痛みのこもった声を上げた。ゲッターは先ほどの勢いを無くし、なんと墜落しだした。

竜斗とエミリアは今度は急落下するコックピット内で目を瞑りながら座席にしがみつく。

このままでは本当に墜落してしまう、と思いきや早乙女はとっさにレバーを引き上げ、態勢を整えて無事に衝撃を抑えるようにしゃがむように着地した。

 

「早乙女さん、大丈夫ですか……っ?」

 

「どうしたんですか!?」

 

二人は彼の異変に気づいた。息づかいが荒く、身体全体がブルブル震えている。レバーを握る手にも汗でビショビショである。

すぐに前からのぞき込むとYシャツが血で赤く染まっていた。

 

「イヤアーーっ!」

 

エミリアは悲鳴を上げた。

 

「早乙女さん、なんで!?」

 

すると早乙女は一呼吸置き、ゆっくりと話し出す。

 

「……ゲッターロボを開発するのに無事ってわけにもいかなかったのさ。その時にできた古傷がコーフンして開いてしまっただけだ……っ」

 

その様子を見ると、この機体を造るのにどれほどの苦労と危険があったか計り知れなかった。竜斗はゾッとした。

 

「……ところで、君は竜斗といったな?」

 

「は、はい。それがなにか?」

 

すると早乙女は何を考えたのか、こう言い出したのであった。

 

「私と操縦を代われ、竜斗」

 

「……は、はい?」

 

「聞こえないのか、私と代われといったんだ」

 

「えーーーーーっ!!!?」

 

竜斗はひどく動揺し、挙動不審となる。しかし早乙女の眼は冗談ではなく、本気だ。

 

「サオトメさん、何を考えてるんですか!?

リュウトにいきなり操縦しろと言っても出来るわけないでしょ!」

 

「操縦については私が教える。この機体は性能をフルに活かせるように操縦プロセスを簡略化してある。はっきり言って車の運転よりも楽だ。それとも勝手に動かしてもいいのか心配か?それも大丈夫だ、私の権限でやむなく乗らせたとでも言っておく」

 

「けど……」

 

「私の身体はもうもたん。ならそれより元気なヤツに任せたほうが遥かに勝算はある。竜斗、君はどこか身体に不具合なところは?」

 

「い、いえ……特には……」

 

「よし、なら大丈夫だ。なあに上手く扱えなくてももう少しで仲間がやってくる。それまで持ちこたえればいい」

 

だが、予想もしてなかった事態にビクビクと緊張する竜斗。当たり前といえば当たり前だが。

 

「……頼む。このままではこのゲッターどころか、二機すらも守れるか危うい。

そうなれば、人類の滅亡、恐竜帝国の地球征服は確定も同然だ。そうならないためにも今を乗り切らねば未来はない、竜斗。エミリアと共にこの先生きたければ今だけでもいい、武器を握れ!」

 

その言葉に竜斗はぎゅっと両手に握りしめて自分を無理やりにでも奮い立たせる。

 

「……僕は、あなたを恨むかもしれないですよ……」

 

「それでもいい。助かった後で恨み言は好きなだけ聞いてやる、その前に――」

 

「…………」

 

――この時が僕らの地獄の道へ突き進む始まりだった。さしずめ早乙女というこの人は、僕らにとっての閻魔大王である――

 

弱った早乙女を後ろへ回し、操縦席に座り込む竜斗。今から始まる、高校生では到底不可能な初体験を前に思わず緊張でガチガチになる。

 

「リュウト……」

 

エミリアは見守るような眼差しを送る。そして早乙女は後ろから指示を始める。

「……基本的な動作は左右のレバーだ。飛び上がる際は右側の足元にあるペダルを踏め――それから――」

 

次々に繰り出される指示に竜斗は目を瞑り、深く息を吸う。それは彼の癖で、情報を脳内で上手くまとめるようにする仕草であった。

 

「……ではやってみます」

 

竜斗は右ペダルをぐっと踏みこむと、ゲッターは再び飛び上がる。そして翼竜のいる位置にまで飛翔し、停止した。

 

「こわいけど……ここでやらないと」

 

レバーをぐっと押して、翼竜へ向かっていった。そして奴らも再び行動を開始。

今度は二体揃って突進を開始。ゲッターに向かって突っ込んでくる。

するとゲッターはその場で立ち止まり、両手のトマホークを構える。

超スピードで向かっていく翼竜二体。シールドが消耗した今、当たれば確実に機体が粉々になるかもしれない。しかしゲッターは回避行動を取らない、ズシリと構えたままである。

そして二体が急接近した時、ゲッターは瞬時に身体を横に翻して左手を縦に振り切った。横を通り過ぎた近くの翼竜の首が数秒後、胴体とは分断されて飛ばされていった。同時に胴体もグダッと動かなくなり、そのまま地上へ墜落していった……。

 

「ワァオっ、リュウトスゴいじゃない!!」

 

「…………」

 

初操縦でまさかの恐竜を一体撃墜するという快挙にエミリアは歓喜を上げた。しかし当の本人はガチガチである。

「ほう、筋がいいな。何かやってたのかい、竜斗?」

 

「い、いえ……っ」

 

あの早乙女もどこか嬉しそうな口調で誉めたのであった。

 

「……まあいい。次、来るぞ。このまま倒してしまえ」

 

残りの一匹は翼をはためかせて、口をパカッと開けた。

すでに攻撃パターンは分かっていた竜斗はすぐにペダルを踏み込みさらに上昇。瞬間に奴の口からマグマを放射。追ってくるマグマをゲッターは華麗に旋回しながら翼竜へ近づいていく。

 

「竜斗、教えた通りだ。とっておきの新兵器を奴らに見せてやれ。『ゲッタービーム』をな!」

 

彼はゲッターの操縦に神経を集中させている。もはやまばたきすら忘れて。

これは、自分の生まれ育った街をよくもメチャクチャにしてくれたなという奴らに対する怒りを含めて、そして生きたいと言う強い思いが入り混じった感情が彼に作用していた。

そして翼竜の背後に回った時、ゲッターは腹部の中央の装甲に円い孔が開門、中から右腕の内部にあった赤いレンズが出現した。

 

「今だっっ!」

 

右操縦レバーの側面にある赤いボタンを押し込んだ時、レンズが緑色の光が収束し、それが一気に解き放たれた。

それはゲッタートマホークと同じエメラルドグリーン色の極太の光線。翼竜は避けられず全身を呑み込まれた。

甲高い、そして汚い断末魔を上げながら機械と有機体の混ざったそれは原子レベルで分解されていき、一気に蒸発したのであった――。

「ハア……ハア……っ」

 

竜斗は緊張が切れて大きく息を吐きながら、座席シートにもたれる。

 

「リュウト、大丈夫……?」

 

「…………エミリア、俺……」

 

「……ついにやったんだよリュウト。いつもは頼りないけど今回ので見直しちゃった……エヘッ」

 

微笑ましい光景の二人。そして早乙女も見えないとこでニヤリと笑った。

 

「竜斗か……もしかしたら……ククク」

 

――そんな中、再び通信が。

 

“早乙女司令、ベルクラスただいま到着しました。残りの地上にいるメカザウルスを一掃した後、各非難民の救助を開始します”

 

「……よろしく頼む」

 

竜斗達は通信が切れた後、ふとモニターを見ると都市上空で見たことのない、信じられない物体を発見した。

 

「なにあれ……っ」

「あれも私が建造したとっておきだ。ゲッターロボを運用する目的で開発した、これと同じくゲッター線とプラズマ駆動の大型高速移動浮遊艦『ベルクラス』だ」

 

「ベル……クラス……」

 

全長は確実に東京タワーより遥かに巨大で我が物顔で空を飛ぶ、燕のフォルムを有し、洗練した艦船ベルクラス。初めて見る二人はもはや目を奪われていた。

 

“対地ゲッターミサイル発射用意。

目標、地上に展開する各メカザウルス”

ベルクラスの底部両舷に搭載された発射管が全開門し、中から約十を超える細長い物体、ミサイルが爆音と共に発射された。

それらが地上へ急降下していき、そして的確に全弾が地上で暴れまわる残りの恐竜に全て直撃した。

だが大した爆発が起きずに、なんと恐竜が一撃で木っ端みじんと化したのである――。

 

「マリア、今日より我々人類が奴ら恐竜帝国に地獄を見せる番だ――」

 

早乙女はそう言い放った。

 

 

 

――今は知らなかった。これが僕がこの先ゲッターロボに命を吹き込む操縦者になるきっかけだなんて。

今はただ、勝利の美酒に酔いしれていたのだった――

 




一話終了です。

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