ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第八話「告白」①

「今日は二人で駐屯地外に出てゆっくりと気分転換してこい」

 

――あれから二日後の日曜日、午前九時。休養し、とりあえず動けるまでに回復した竜斗とエミリアは司令室に呼び出されて、そう言われた。

 

「え……?」

 

「これまで色々あったからな。こんなんじゃあ気が滅入るだろうし、久々に思いっきり遊びたいだろう、元は高校生なんだから」

 

「休むことも仕事のうちよ。今日は何も考えずに遊んできなさい」

 

……思い出すと、自分達の住んでいた街で早乙女と出会ってから、ゲッターロボに乗って、そしてこのベルクラスに乗り込んで、ゲッターロボでの戦闘と操縦訓練、そして愛美の件と、閉鎖的な生活ばかりしていたので、そういう暇など全くなかった。

早乙女は竜斗にお小遣いの入った財布を渡す。開けてもいいと言われて見ると、万札十枚が入っていた。

 

「こ、こんなにいいんですか?」

 

「二人分だがこれだけあったら色々遊べるだろう。

一応ゲッターロボのパイロットになったことによる私達からの臨時餞別(ボーナス)だと思ってくれ」

 

そしてマリアから謎の紙手提げ袋を渡された。中を見ると二人がここに来るまえに着ていた、そしてここに来てからどこにいったから分からなくなっていた各私服だった。

 

「ごめんなさい、汚れてたから洗濯したんだけど渡すの忘れちゃって……」

 

「いえ、ありがとうございます」

するとエミリアは、何かに気づいてその私服のポケットを探り入れた。

 

「リュウト、てことはアタシ達のあれも……」

 

「え……あっ!」

 

彼もすぐに私服のポケットに手を突っ込むと何か四角くで幅の薄い固い物が当たった。それは……。

 

「あった、スマホ!」

 

すっかり忘れていた自分達のスマートフォンを取り出した竜斗達は互いに喜び合う。

二人はすぐに画面をタッチするが反応せず、電源ボタンを入れても起動しない。

竜斗は外面を見回すも致命的な傷や画面の割れ目などなく、特に異常がないのを見ると、ただの電池切れのようだ。

「そのお小遣いで充電器を買ってくるといい、ここから東側の少し離れた地区に大型家電店がある。そこの地区はまだメカザウルスの被害はないから開店していると思う。ゲームセンターやカラオケボックスとか遊ぶ場所もいっぱいある。

遠いが観光気分で周りの風景を楽しみながらと思えばいい。

あと、君達に代用の通信機を渡しておく。一応何かあったら連絡する、その時はすぐに指示に従うように」

 

ガラケーの形をした通信機を渡されて、使い方を教えられる竜斗。

 

「司令、あれを忘れてませんか?」

 

「お、そうだったな。二人に大事なこれを渡すの忘れてた」

渡されたのは二人が自衛隊で必要となる、写真付き身分証の入ったパスケースと駐屯地の出入りするための外出許可証だった。

 

「間違ってもなくすなよ。自衛隊では紛失に関しては凄まじく厳しいから君達や我々にとって色々と面倒なことが起こるぞ」

それを聞いて気が引く二人。というのも、自衛隊における物品紛失、情報漏洩に対する意識は一般社会より遥かに厳しいと言ってもよい。

なくせば休暇を返上してでも捜索せねばならず、最悪の場合懲戒処分を受ける場合だってあるのだ。

二人が出ていき数分後、コンコンとドアをノックする音が。

「入れ」

 

とある人物が入ってくる。早乙女は待っていたとでも言わんばかりの軽い笑みを浮かべた。

 

「よし、では始めようか」

 

――竜斗達は各部屋で本来の自分の私服に着替える。

無地黒の半袖ポロシャツにベージュ色のクローズドパンツ、青のデッキシューズ姿であり、難なく着こなす竜斗。

(久々に着たけどやっぱり自分の服はいいよなあ)

 

久々の自分の服の感触を味わう竜斗。

そして彼は着替えてエミリアを迎えに彼女の部屋に向かうがドアが開かない。とりあえずノックしてみると、

 

「ちょっと待ってて~~、今急いで準備して……きょえーーっ!」

 

中から、転んだのかドスンと大きい音が……。

 

「エミリア大丈夫か!?」

 

「アタタ……スボンが足に引っかかって転んだだけだから……アハハ……」

 

彼はため息をつく……。

 

(たくう、おっちょこちょいなんだから……)

 

そして十数分後、自分の部屋で待っていると「ゴメンゴメン、いこうリュウト」

やっと終わったエミリアが彼を迎えに部屋を訪れた。

高校生離れの恵まれたスタイルである彼女は、基本的にラフで着飾らない格好を好む彼女はタイトなデニムパンツとTシャツ、ソールの厚いレザーサンダルを履く彼女はいい意味でムチムチであり、特に胸や腰が際立つ容姿だ。

そしてナチュラルメイクをしている。

化粧品なんか持ち込んでたのかと彼は思ったが――そうだ、マリアさんから借りたのか。二人は仲がいいから、彼女に言えば多分貸してくれるだろう、と。

 

二人は持ち物を確認してベルクラスから降り、エレベーターで地上へ。

歩いて駐屯地の入り口へ行き、警務隊員に身分証と外出許可証を見せた。

「ああ、君達が例のゲッターロボのパイロットか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ。初めての外出か、十分楽しんできておいで。この周辺は広いから迷うなよ」

 

警務員に笑顔で見送られていい気分な二人だった。

 

「ここの人達、いい人ばかりだね♪」

 

「うん、そういえば早乙女司令が警務員の人になにか、おやつとかのおみやげを買ってきたほうがいいっていってたな。帰りにコンビニかどこかやってれば何か買ってくるか――」

 

二人はとりあえず充電器を買いに、早乙女から教えてもらった道を歩いていく。

やはり約一周間前のメカザウルスの襲来が原因でこの周辺のほとんどの建物を壊されて、SMBによって撤去されて見晴らしが良い。

まるで自分達を迎えているかのような快晴な空も相まって、水平線の如くずっと先まで続いているように見える。

 

「すごくすっきりしちゃってるね」

 

「うん…………」

 

自分達の街もおそらくこんな状態だろうと想像する。

二人はなぜメカザウルスが自分達人類を襲い、そして殺すのか理解できなかった。

 

しばらく歩道を歩くと住宅街へ。

どうやらここはまだ無事でらしくマンションやビルなどが多数建っている。

街路樹の並ぶ歩道を歩いていくと、途中で公園に差し掛かる。走り回る子供達、親子連れ、散歩するお年寄りやカップル、結構な人々が行き交うこの平穏な場所は戦時中とは思えないくらいに別の世界だと思えてくる。

 

「いつまでもこういう風景が続けばいいのにね。なんでこんな世の中になっちゃったんだろう……っ」

 

最初はメカザウルスの侵略は外国ばかりだったのが、こんな島国の日本にまで侵攻され、もう壊滅的状況になった都市もあるだろう。他の各国も次々にメカザウルスに侵略され、人類も必死で抵抗している映像を毎日のようにニュースでやっていたのを思い出す。最初は他人事のように思ってたが、日本にまで魔の手が伸びて悠長なことは思えなくなった。

 

「……けどゲッターロボに乗って、世界を救わないといけなくなったんだ。

本当にそんなの出来るかどうか分からないけど、早乙女司令が俺に『ゲッターロボと乗りこなす人間なら世界を救える』と言ってくれた。

なら今は、あの人を信じてやれるだけのことをやるしかないよ」

 

「そうだね。リュウトさ、前と比べたらずいぶんとカッコいいこと言うようになったね、やっぱり成長してきてるんだよ」

「え……いや、その――」

 

彼は照れた。

道中通りかかったコンビニエンスストアに入り、ジュースを買う。

品物不足の為か、店内商品も遥かに少ないのに値段は格段に上がっている。ご時世でも結局は金次第ということか――。

 

「ス、スミマセン……」

 

飲みながら歩いていると、ふと通りすがった外国人だと思われる背の高く、金髪の彫りの深い顔立ちの男性がカタコトの日本語で尋ねてくる。

 

「ここはアタシに任せて♪」

 

エミリアは『自分は英語できますよ』と安心させるかのようにペラペラの流暢な英語で話しかけると男性も喜んで英会話を弾ませた。

元は英語が標準語だった彼女にとっては朝飯前だ。

エミリアはあまり日本語が上手くない両親のために家族間で英会話したり、たまに両親の祖母や知り合いにも国際電話をしているため忘れることはない。

日本語も英語も出来る彼女は優秀なのではないかと思えてしまう――。

 

会話が終わると握手し、男性は笑顔で手を振り去っていった。

 

「終わったよ。あの人道に迷ってたのよ。それにアタシと同じでアメリカから来たんだって」

 

「へえ。けどやっぱりエミリアには敵わないよ。二カ国語堪能って就職とかに相当有利だよな」

 

「エヘヘ、けどリュウトと違ってパソコンとかの扱いはド下手だから、デスクワークは無理だなアタシ……」

 

「エミリアってスマホの全データを何回も消去して、俺に泣きつくぐらいだからなあ」

 

「もう、からかわないでリュウト!」

 

「ハハハッ!」

互いに茶化し合う二人は、二日前までのあの忌々しい出来事があったとは思えないほどに和やかである。久々の外出が嬉しい様子である

 

――二人は約一時間少しかけてようやく早乙女の言っていた大手の大型家電店に到着する、どうやら開いているようだ。

二人は中に入り、エスカレーターで二階へ移動する。

午前中なためか、あまり人がいない。そして家電品はコンビニと違って価格が値下げになっているにも関わらずほとんど売れていない――。

「さてと、充電器、充電器っと――」

 

スマホ用グッズ、オプションコーナーへ行き、見回る。

ここは竜斗の得意分野、すぐに沢山の種類がある充電器の中からすぐに自分達のスマホにあったものを選び当てる。

 

「はい、エミリアのはこれがいいよ」

 

「ありがとう。アタシじゃよくわかんないから、ここはリュウトの独壇場ね」

 

会計を終えると帰るのかと思いきや、彼はパソコン機器のコーナーへ向かった。

その時の目の色はいつもと違いスゴく輝いている。

彼はこういうのが本当に好きなんだろう。

 

「このノートパソコンが欲しいんだけどな……今の小遣いじゃ買えないや……ハハッ」

 

「アタシにはなにがいいのかさっぱり……」

 

よだれを垂らすように見る竜斗、そしてそのパソコンの良さが分からず頭を傾げるエミリア――。

数十分間店内を見回り外に出る二人だが、同時に腹から空腹だと知らせる音が。

 

「お腹すいた。どこか店で食べようよ」

 

「もう昼か。駐屯地からずっと歩いてきたもんな。

今日はお金が沢山あるし――エミリアはなにがいい?」

 

「ん~~、リュウトは?」

 

「オレ?どうしようかな……」

 

なかなか決まらず、とりあえず辺りをうろついていると……。

 

「リュウト、あそこは!?」

 

エミリアが目を輝かせて指を指した方向には焼肉店が。

 

「焼肉かあ……そういえば最近食べてなかったよな。そこにするか」

 

「やったあ♪」

 

二人はその店に向かい、開いているかどうか確認する。入り口に『開店中』と書かれた立て看板があるのを見ると、安心して入ってると女性の店員が出迎える。

 

「いらっしゃいませ……あれ、お二人ともすごく若く見えますね。高校生の方ですか?」

 

焼肉店には酒類も置いてあるため、とりあえず年齢確認されて正直に答える。

 

「それに女性の方は……失礼ですが日本の方ではないですよね?」

 

「あ、ワタシ日本語大丈夫ですよ。どうぞ気にしないで普通に話してください」

エミリアの流暢な日本語を聞いて驚き、そして安心する店員。

二人は禁煙席に案内されて、長イスに腰掛けると同時に店員がお冷やを持ってくる。

 

「とりあえずカンパイ!」

 

冷水の入ったコップ同士をぶつけて少し口にする。

 

「やっぱりお前、日本人じゃないから日本語をペラペラ話すのが凄いと思われるんだな」

 

「当たり前でしょ、いつから日本で暮らしてると思ってるの。

さあて、なに頼もうかな……フフッ」

 

メニューを見ながらルンルン気分の彼女。焼肉が死ぬほど大好きなのだから嬉しくて仕方がないのだろう。

一方で竜斗は皿と箸、タレと調味料を彼女に配る。

 

「リュウトどうする、食べ放題にする?」

 

「うん。エミリアはいっぱい食べるだろうし」

 

……そしてメニューが決まり、机の呼び出しボタンを押す。すぐに注文入力機器を持った店員が現れ、食べ放題コースだと伝える。

 

「エミリア、いっていいよ」

 

「ありがとう。ならええっと……まずご飯大と中でしょ、牛カルビ、豚トロ、ハラミ、塩牛タン、牛ホルモン、馬レバー――」

 

いきなりどばっと注文するエミリア。

しかし彼は全く驚いていない。なぜなら彼女は全て平らげるのを知っているからだ。

最初は彼女の底知れぬ胃袋に驚いていたがここで来るともはや慣れっこだ。

注文が終わると来るのを待つ間、雑談する。

 

「それにしてもサオトメ司令もマリアさんも粋だよね。

遊んでおいではともかく、こんなにお金をくれたんだから。」

 

「ああ。けど司令達って……休みあるのかな?なんか今日の服装、いつも通りスーツだったし」

 

「そう考えるとあの人達って大変だよね。……身体壊さないのかしら?」

 

早乙女達の生活については、仕事以外は何をしているのか全然知らず想像もできない。改めて二人の謎は深まるばかりだ。

 

「けど、スマホ使えるんなら……俺らの親に連絡できるんじゃないか?」

 

「そうだね。けどもし繋がったとしたらなんて言えばいいのかな?

アタシ達今はなんやかんやあって――自衛官になってゲッターロボに乗ってますなんていう?」

 

「そんなこといっても信じてくれるかな………………」

 

彼らにとってそこが一番の悩みどころである。あと早乙女からの許可なしで連絡していいものなのかが分からないし、そもそも向こうに繋がるかどうかも分からない。

 

「……そういえば水樹、あれからどうなったんだろ。マリアさんから聞いたんだけど――」

 

「リュウト、あんなヤツの話はもうやめてよ。思い出すだけでムカついてくるわ。

全てアイツが悪いのよ、リュウトにあんな淫らなことして弄んで……絶対に許さない。

なんか愛されないとかワケ分からないこと言ってたけどそんなのただの淫乱女の自業自得じゃない」

 

不機嫌そうな顔で彼女に対して愚痴を吐く彼女。

 

「けどさ……許せないと分かっていてもなんか割り切れないんだよね」

 

「……あんな目にあっても、ホントお人好しだねリュウトは。けどそこがリュウトのいいとこかもしれないけど――」

 

「……そ、そうだよな。俺ってやっぱ変だよな」

 

「…………」

 

雑談している数分後についに下ごしらえされた各種生肉の入った皿が運ばれてきた。

「さあ、焼くわよ。あ、今日はリュウトが焼肉奉行してよ」

 

「え?なに、焼肉奉行って?」

 

「この焼肉する場を仕切る人のことよ。つまりリュウトに肉を焼く係やってってこと」

 

「俺がかよ」

 

日本人の竜斗でも今日初めて知った日本語を使う彼女は、それほど日本語を勉強していると言うことだ。

今の日本人より日本人してるとは彼の弁だが、確かにその通りなのかもしれない――。ジュウジュウ焼く音がよだれが出るくらい食欲を誘う。

 

「いただきます!」

 

焼けるなりパクパク食べ始める。二人は相当腹がすいてたのか見る見る内に肉と飯がなくなっていく。

「リュウトもいっぱい食べるね!」

 

「お前に比べたら大したことないけどね」

 

「けどリュウトがここまで食べるとこ見ると、元気そうでアタシ嬉しい!」

 

「エミリア……」

 

「リュウト、どっちがいっぱい肉食べるか勝負しない?」

 

「え……?」

 

「勝ったほうが自分のお金から代金払うことにしよっか」

 

「……勝てるかなあ?」

 

「ほら、弱気にならないの!」

 

「……なら、望むところだ!」

 

二人で大食い勝負をやり始めたが果たしてどちらが勝つのか。

 


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