高度一万メートル上空に達したリリエンタールは水平飛行に入る。いつもゲッターロボで見慣れている光景でも機体が変わったら視点も新鮮みがある。
(凄い・・・アルヴァインとはまた違った力を感じる・・・)
それよりも竜斗はリリエンタールのポテンシャルをこの身に感じていた。出力をまだ半分も出していないがそれでもかなり強力であった。ニールセンの言った通り、出力をフルパワーにしたら・・・リミッターを外したらどうなるのか・・・考えるだけで背筋が凍る。その時、再びジェイドからの通信を受信する。
『どうだ、初めての戦闘機による高空飛行は?』
「・・・正直言ってゲッターロボと違って色々と違うので違和感ばかりですね。けど凄くいい経験になると思います」
『その意気だ。ところで私達は君より先に進んでいる。
速度を落として君に合わせようか?』
「いえ、僕が少佐達に追い付いてみますよ」
『分かった。では待っているぞ』
竜斗は少しだけなら速度を上げても大丈夫だろうと少し出力を上げた――が、
「!!?」
突然、リリエンタールの加速度を増して速度が跳ね上がった。それによる負担がコックピット内の竜斗にズシンとのし掛かった。慌てて竜斗は出力をゆっくり落としていき事なきを得る。
(ちょ・・・ちょっと上げただけなのに・・・危ないところだった)
彼は今、激しく息を切らして身体中冷や汗にまみれている。これがオリヤを殺したリリエンタールの力か・・・と再認識させられた。
(けど・・・今のでちょっとは感覚は慣れたかも・・・)
身をもって知ることに正直、恐怖と不安しかない。しかし前向きになり、ここまで来た以上は無理矢理にでも機体についていけるようになるしかないと決めてあえてまた出力をゆっくり上げた。
(ぐうっ・・・・・!)
やはり少し出力を上げただけで一気に急加速しコックピット内はガタガタに揺れて生命の危機に反応してアラートまで鳴り出している。正直言って、加速度と直線的な飛行速度だけならアルヴァインすらも越えているだろう。この機体の力は彼の想定を軽く上回っていた。
(このままじっと耐えるんだ・・・ここから慣らしていかないと――)
段階を踏まえて今の速度を維持する。歯ぎしりを立てて踏ん張り続ける彼は次第に強張った表情と身体が緩んできている。それは着実に慣れてきている証拠だ。
(・・・よし、ここまでならもう大丈夫だ――!)
そしてついに今の速度に見事、彼はついてきている。まだまだこれは小さな一歩であるが本人からすれば偉大な一歩である。今回ばかりは自分を誉めてやろうと心にそう呟いた。
そんなことをしている間にすぐ目の前にブラック・インパルス隊の乗るステルヴァーの群れに追いついていた。
『来たぜ、今回のエースがよ』
隊列を組んで飛行する戦闘機形態のステルヴァー。ブラック・インパルス隊のメンバーも後ろから近づいてくるリリエンタールに注目していた。
「遅れてすいません。たった今到着しました」
『いいってことよ。それよりも本当にお前、リリエンタールを操縦してんだよなあ・・・』
誰もが信じられないような思いをしているが仕方ないことだろう。
『なんともないか?』
「はい。たださっき出力少し上げただけで加速度が跳ね上がって驚きましたが何とか」
『無理すんなよ。ここで死んでもらっちゃ困るんだからな』
心配の声を掛けられる中、ジョナサンはとあることに気づいた。
『なんだよ竜斗!お前核バズーカ持ってんじゃねえか!』
それに気づいた各メンバーも一斉に目の色を変えて注目。
『ついにお前も核を装備したくなったか!全く隅に置けないな!』
「違いますよ!本当はリチャネイドとオールストロイでいいと言ったのに博士がリチャネイドがないからって無理矢理持たされたんだですよ!」
『リチャネイド?今回持ってきたのってジョージとハリスぐらいじゃないか?』
『ああ。まだ余りがあったハズだが』
「それってつまり・・・」
大体は気づいていたがやはり嘘だったか。それにしても見えすぎた嘘を言ってまで核を持たせたいとはニールセンもクレイジーな男である。今頃彼は基地でコーヒーをゆったり味わいながらほくそ笑んでいることだろう。
「僕は絶対使いませんからねっ!」
『なら竜斗、後で俺に貸してくれよ』
と、ジョナサンが嬉々と申し出る。
『使うのはいいが時と状況を考えて使えよ。この前の戦闘でお前、着弾地点の距離計算を間違えたせいで味方機まで巻き込む寸前だったんだぞ』
『わあってるよ。ちゃんとお勉強してきたから安心しろってっ!』
『お前より竜斗の方が絶対扱いが上手いじゃねえの、ハハハ!』
「そ、そんな、僕にはとても扱い切れませんよ。喜んで大尉に譲りますよっ」
『間違ってもこんなとこで撃ち込むなよ。その瞬間、本当の意味で俺達は天に召されるからな』
『いいんじゃねえか、馬鹿は死ななきゃ治らんだろうからな!』
『おい、馬鹿は俺のことかよ!』
『つか俺ら全員馬鹿だろ!こんなクソみたいな話ばっかしてんだからよ!』
メンバーのほとんどが「ちげえねえや」と爆笑の嵐が巻き起こる。そんな様子を竜斗は「このノリについていけないや」と呆れていた。
『もうすぐで作戦領空圏内に入るぞ。全員、おしゃべりはそれまでにして作戦に集中しろ』
ジェイドのコブシの聞いた低い掛け声と共に先程までのおちゃらけ振りから一転して全員が真剣そのものになった。これだけで全員が気持ちを入れ替えるのは流石であるが掛け声だけで彼らを一気に統率させるジェイド。個性派揃いのブラック・インパルス隊のリーダー格を務めているのは伊達ではなかった。
『準備はいいか?』
「はい。すでにできてます」
『よろしい。君は操縦が慣れるまで私の僚機としてついてくれ、フォローする。各機も彼のフォローを頼むぞ』
『インパルス2から12了解!』
『よし。インパルス0、私の後方につけ。各機は左右に展開、いつでも戦闘できるようにしておけ』
リリエンタールは先頭のジェイド機の後ろに移動、他の機体は左右に広がり横隊となる。
『やはり敵さんが待ち構えていたか』
レーダーにはかなりの数の反応がアマゾン川上空に停滞しているのが分かる。それぞれ気を引き締めて先を見据える。どんどん近づいていくと反応のこちらへ動き始めている。
『全機作戦行動開始。攻撃態勢に移行しろ』
『了解!』
反応に向かうように降下していく。そして近づくは飛行型のメカザウルスとメカエイビス。見慣れた機体やデータにない新型機も含まれていた。
『行くぜ、ヴァリアブル・モード!』
戦闘機から人型に変形する各ステルヴァーはライフルを構えてメカザウルスに突撃していく。
『インパルス2、3、5、8、10、交戦』
激突する両勢。各機のそれぞれ持つ火器から放たれる弾とエネルギー、マグマがぶつかり合う。
『インパルス6、後方より敵が迫っているぞ。インパルス12、フォックス2――』
自身も戦闘を行いながら空中管制を務めるジェイドは集中力と頭をフル回転させている。普通に考えるととんでもない所業だが、それができるからこそ彼はブラック・インパルス隊のリーダー格たらしめている理由なのだ。
(俺もやらなきゃ!)
竜斗も見ているだけではとジェイドを掩護する形でメカザウルスの群れに飛び込んでいく。
リリエンタールの胴体底部に装備したプラズマキャノンを駆使し的確にメカザウルスを撃ち落としていく。
『やるな竜斗君』
機関砲で牽制攻撃しながらプラズマキャノンで撃ち抜いていくリリエンタール。メカザウルスの猛攻をジェイドからの指示とレーダーを駆使して予測しながら的確に回避していく竜斗も今、頭をフル回転させている。
(やっぱりゲッターロボと扱いが違うから難しいけど嫌でも慣れてやるぞ!)
ゲッターロボと違う操縦管制と感覚で戸惑いながらもすでにもう乗りこなしつつある。
『おい、竜斗のヤツ、もうあのジャジャ馬に慣れてきているぜ』
『流石はゲッターチームのリーダー、俺らも負けてられねえぜ』
各人、竜斗の奮闘ぶりに驚くと同時に勢いをさらに上げた。
しかし敵側も調子に乗らせまいとさらに攻撃が激化
。地上からの対空砲撃も始まった。
『地表からロックされているぞ。回避行動をとれ!』
ばら蒔かれて押し寄せてくる弾のカーテンにステルヴァーは再び戦闘機形態に変形しその高機動力を生かして華麗に回避していく。そして体勢を取り戻し、超高速で急降下しミサイルと爆雷による大規模な空爆を行い、地上の対空兵器を吹き飛ばす。
そしてリリエンタールも隙を見計らい、羽翼部に取り付けられたミサイルを一発発射した。地上へ急降下していきその途中で弾頭部が炸裂、内蔵された子爆弾が一斉に地上に降り注ぎ密林一帯を巨大な爆炎の渦に呑み込んだ。
(な、なんだこれ・・・)
そのあまりの威力に目を疑う竜斗。他のメンバーの地上
に巻き起こる火の海の光景に注目する。
『まさかあれ、ギリガンじゃねえか?』
『そのまさかだな。ヒュー!』
このミサイルは『ギリガン』というコードネームを持つ多用途広域炸裂ミサイルという兵器である。本来は敵拠点などの広域制圧に用いる兵器であり本来は戦艦や基地などに装備されるものだがニールセンが機体の高性能を追求し無理矢理リリエンタールに搭載したのだ。戦闘機の兵装にしてはあまりにも強すぎると流石に周りから反対する声が多かったが彼は全く耳を貸さなかった。そして核バズーカと違い、特にセーフティがかかっていない分ある意味タチの悪い兵器である。
(まだ地上に味方がいなかったから良かったけど・・・)
事前に説明を受けていた竜斗も直接、その効果を目の当たりにして思わず唾を呑み込んだ――。
『各機、地上より高エネルギー反応を確認。気をつけろ!』
インパルス7の機体へ向かって遠く離れた密林の一角かからライトのような赤く光り、高エネルギーの弾丸が突き抜けるように向かってくる。しかし咄嗟に機体を翻し直撃は免れたが、尾翼部を擦り煙が上がった。
『インパルス7、大丈夫か?』
『ああなんとか、だが弾が凄まじく速い!』
しかし間を入れず、さらにステルヴァーとリリエンタールに狙ってピンポイントで撃ち込んできているが流石は高性能機とそれに乗り込むパイロット達。マニューバを駆使して全て紙一重で避けている。
『あそこか、頼むぞジョージ』
『分かった!』
ジョージ機は人型に変形してすぐにリチャネイドを展開、長い砲身を振り下ろして発射源に照準を合わせる。砲から放たれたプラズマを帯びた弾丸が密林の一角に撃ち込まれ巨大な爆発が起きた。
『命中したか?』
『いや、まだ高エネルギーが確認、来るぞ!』
着弾地点から離れた場所から高エネルギーの弾丸が休む間もなく次々と飛んでくる。今度こそはと再びリチャネイドを構える。が、それを邪魔しようとメカザウルスの群れが押し寄せてくる。メカザウルスから放たれた一発のミサイルが不意にリチャネイドに着弾し破壊されてしまった。
『くっ!』
襲いかかるメカザウルス達。その時、
『ジョージ!』
そこにジョナサン機が駆けつけ両腕に内蔵した小型ミサイルを全てメカザウルスに撃ち込み撃墜させた。
『助かったぜ!』
『あとで酒おごれよ!』
ジョージ機はライフルを持ち構えて、ジョナサンと共にメカザウルスの掃討を開始。二人のコンビネーションは凄まじくあっという間に大量のメカザウルスはアマゾンへ落ちていった。