ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

185 / 187
番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~」③

(そんなとんでもないものだったなんて・・・知りすぎるんじゃなかったな・・・)

 

ジョージ達と別れ、竜斗はリリエンタールに乗るかどうか悩んでいた。あのニールセンの開発したものだ、普通ではないのは理解していたが、まさかいわく付きだなんて思っても見なかった。

いくら改良したとは言え、聞けばオリヤは相当な戦闘機、SMBのベテランパイロットだったらしいがそんな人物でさえ乗りこなせなかったのだから経験共々、まだ浅い自分では間違いなく彼の二の舞になるのは大体想像がつく。

 

この際、諦めるかニールセンのいう通りマウラーを借りようかなとも考えた。しかし作戦に参加したい気持ちのほうが強く、それにマウラーはステルヴァーとは操縦管制は違うらしいし、何よりアルヴァインとステルヴァーのような高性能機と比べると性能差が有りすぎて不安になってくる。

かと言って、今日中に決めてこなければならないしいつまでも悩んでいる暇がない。

 

「竜斗君?」

 

「あ、少佐」

 

ちょうどそこに通りかかったジェイドと出会う。彼はすぐに竜斗の顔から何か悩んでいることを察する。

 

「何かあったな。もしよろしかったら教えてくれないか?」

 

二人は近くの休憩所の椅子に座る。そこで竜斗は彼に話すとやはり彼もジョージ達と同様にその事について苦い顔つきになる。

 

「リリエンタールか・・・また嫌な名前を聞いてしまったっ」

 

その様子を見ると思い出したくもないようである。

 

「オリヤでさえ歯が立たなかった機体だ、私でも乗りこなせる自信は正直ない。現にステルヴァーはあの事故を反省点としてデチューンして造られてるからな」

 

「少佐でさえそういうのなら僕にはもっと無理ですよ。けど、オリヤって人はそんなに凄かったんですか?」

 

「あいつは私と同じブラック・インパルス隊の中でも古株の一人でな。間違いなくパイロットとしての質はトップクラスだったよ。ただいい奴には違いないんだがかなり時間にはルーズで、気まぐれだったりといい加減な性格の自由人で私とは反りが合わなかったな。

上の人間から悪い意味で目をつけられていたけどブラック・インパルス隊は実力主義だから外されることはなかった。オリヤは本当の意味で実力だけでこの隊にいた男だよ」

 

確かに職業軍人のような気質のジェイドとは合わなさそうなであるが、聞けば聞くほど興味の沸く人物である。

 

「しかしあいつはパイロットとして取り組む姿勢は凄く真面目だったのは皆知っているし評価している。だからこそあの事故が起きたこと、そして死んだことには正直信じられなかったさ――」

 

ジェイドからはどこか悲愴感が滲み出ている。合わなかったと言っていたが何だかんだで仲間としての意識が強かったのだろう。

 

「そんな人でさえ乗りこなせなかったのなら僕には到底無理です。やっぱり乗るのは諦めます・・・」

 

やはり自分には無理だと認識し落胆する竜斗。すると少し間を置き、ジェイドが口を開く。

 

「確かにそうするのは正解だろう、わざわざ危険を冒してまで乗ることはない」

 

「・・・・・・」

 

「しかしな、私は何故かこう思うんだ。君なら乗りこなせそうだと」

 

「えっ?」

 

ジェイドは立ちあがり、窓際に行き外に広がる滑走路を眺める。

 

「少し前までの竜斗君なら間違いなく私は君に乗るのは絶対にやめろと言っていただろう。しかし今の君は違う。ゲッターロボの力を引き出せなくなり乗れなくなってもステルヴァーでもマウラーでも乗り、戦いたいと言い張り私は積極的に教えた。そしたら君は私、いや皆の予想以上に早い期間でステルヴァーのノウハウをほとんど身につけた。はっきり言って異常な適応力と理解力だ」

 

「僕はただ皆に遅れを取りたくないから必死で・・・」

 

「それにこれまでの君の戦闘の様子を客観的に見てきた私には分かる。君は生まれながらにして戦闘機、SMBパイロットとしての天賦のセンスを持ち合わせたとんでもない逸材だとな。もしかしたら私はおろかジョナサン、オリヤを越えているかもしれん。

全く・・・日本のいう小さな島国の、しかも本来軍属ではないただの高校生の君にまさかそんな才能があるなんて・・・私含めた周りのパイロット達は正直嫉妬してしまいそうだよ」

 

するとジェイドは右拳をぎゅっと握りしめ、身体を震わせる。まるで悔しさを噛みしめるように。

 

「しかし、だからこそ私は君に賭けているんだ。あのいわく付きの機体、リリエンタールを乗りこなせるかもしれないとな。竜斗君ならオリヤの無念を晴らせることができるかもしれんとな」

 

「少佐・・・」

 

「私は別に無理して乗れとは言わないしけしかける気もない。正直私もあの機体には嫌な思い出しかないから関わる気はないし竜斗君にも乗ってもらいたくないのが本音だ。

だがこれだけは言いたい。君には私達も恐らく想像をつかない絶大な可能性を秘めていると断言できる。君は謙遜だから気づいていないかもしれないがこれまでにちゃんとそれを立証できるほどの戦果と実績、そしてなにより私達がそれを見ている。

もし君も自分の可能性を試してみたいと思うなら乗ってみることもいいんじゃないかな、結局乗るか乗らないかは君自身が決めることなんだからな――」

 

ジェイドと別れた後で、竜斗は自室に戻り悩みに悩んだ。そして、そこから導き出した答えとは――。

 

「来たか竜斗君、さて答えを聞かせてもらおうか」

 

夜。ニールセンの元に現れた彼の顔は先程の不安そうな顔から一転、心に決めた真剣そのものだった。

 

「僕はリリエンタールに乗ります」

 

迷いなく言い切る竜斗に彼はギロっと鋭い視線をする。

 

「本当にいいんだな。後には引けないぞ?」

 

「乗ります。自分の力でリリエンタールを乗りこなせれるかどうか試してみたくなったので――」

 

するとニールセンの険しい表情が和らいだ。

 

「分かった。では明日もう一度わしのところに来い。機体について詳しい説明をする」

 

そう伝え、竜斗は礼をして去っていく。その後ニールセンは一人リリエンタールの元に赴き機体の車輪部を優しく触った。

 

「わが息子よ。久しぶりにお前に乗りたい奴が現れたぞ。竜斗と言う日本人の高校生じゃ。だがな、オリヤの時のようなことはやめてくれよ。あの子は、この先間違いなく必要となる人間だからな――」

 

と、まるで我が子に話しかけるのように呟いた――。

 

「正気か竜斗君!」

 

次の日。リリエンタールに乗ることをジョージ達に伝えると当然、狼狽える。

 

「本気かよ・・・オリヤの時みたいに無惨に死ぬかもしれないんだぞっ」

 

「・・・確かに怖いです。けど怖がっていたって何も始まらないですからね。それに今の僕がどこまでやれるのか知りたくなったこともあるんです」

 

勇ましいのかどうなのか、呆れに呆れるジョージ達。

 

「竜斗君、勇敢と無謀は別問題だぞ。もし君に何かあったらどうするんだ?君は仮にもゲッターチームのリーダーじゃないのかっ」

 

「その時は水樹がきっと引き継いでくれます。あいつもゲッターチームのリーダーに相応しいと思いますから。それに博士曰くアルヴァインは前のより遥かに扱いづらくなるらしいです。リリエンタールを乗りこなせないようなら僕はアルヴァインを乗りこなすことはできないと思います」

 

「しかし・・・っやはり不安だよな」

 

「確かにいくら改良してあるからって安心できねえよ。あんな事件を目の当たりにしてはな――」

 

「じゃあ今回竜斗君をブラック・インパルス隊の臨時メンバーとして入れてみたらどうだ?」

 

そこにジェイドが現れ、そう提案する。

 

「リリエンタールはステルヴァーの試作機で戦闘機形態と同様の性質を持っている。ならステルヴァーをよく知る我々と一緒に同行させてフォローしてやればいいんじゃないか?その方が彼もやりやすいだろう」

 

「少佐・・・」

 

竜斗は「是非ともお願いします」といい、彼も頷いた。

 

「分かった。早乙女一佐や上官にも私から言っておこう。竜斗君、今回はよろしくな」

 

ジェイドは一呼吸置き、全員にこう告げる。

 

「こんな所で言うのもなんだが今回の作戦内容については、先程分かったことだがやはりアマゾンにメカザウルスと思わしき機影が発見された。なので戦闘は余儀なくされるだろう。いつも通り空と地上の二手に分かれることになり我々は空爆がメインとなるが恐らくは空中戦闘も覚悟しておいたほうがいい。地上で行動する味方機を考慮して無闇な爆撃は避けて目標物だけにピンポイントで攻撃してくれ」

 

聞く話ではかなり気を使う戦闘になりそうであり、いつも派手に攻撃してきた者にとってはかなりやり辛い戦闘になりそうだ。

 

「詳しくはまた後ほど伝えるが取りあえず大筋はこうだ、各人準備しておけよ」

 

ジェイドは去っていく。そのすぐ全員は竜斗の方へ向く。

 

「まさか竜斗が今回だけとは言え俺達のチームに入るのか・・・こりゃあ面白いかもなっ」

 

「しかもあのリリエンタールに乗ってとは・・・俺達は一向に構わないが竜斗君、本当にそれでいいのか?」

 

すると彼はやる気に満ちた表情で力強く頷いた。

 

「はい。少佐達となら僕も喜んで参加したいです。色々迷惑をかけるかもしれないですけど今回だけよろしくお願いしますっ」

 

それを聞き入れ、全員は快く彼を受け入れた。

 

「よっしゃ。竜斗がそういうなら俺達も喜んで迎えてやろうじゃねえか」

 

「ああ、何せあのゲッターチームのリーダーなんだからなっ」

 

「ではよろしくな竜斗君。あのいわく付きを乗りこなせるのなら間違いなく『英雄』になれるぞ、君の力を是非見せてくれ」

 

「こちらこそっ」

 

互いに握手を交わし、今回限りのチームメイトとしての健闘を祝いあった――。

 

「なんと?竜斗君が乗ると申したか!」

 

早速、リリエンタールの整備に入るニールセンと数名のスタッフの元にキングが信じられないような顔をして現れる。

 

「ああっ。彼は何の迷いなくワシに言いよったわい。ならワシは全力を持って不備がないよう整備してやるわい。キング、邪魔だからあっちへ行っとれ」

 

だが彼はムキになり、すぐにコックピットに乗り込み計器類をカチャカチャいじり始める。

 

「ならワシだって竜斗君がちゃんと生きて帰れるよう全力を持って調整するぞい。ワシにも手伝わせろ!」

 

「アルヴァインはどうするんだ?」

 

「そんなもん後回しじゃ!」

 

仲良く整備する二人を尻目に早乙女とマリアは遠くからその様子を眺めていた。

 

「さっきジェイド少佐から話を受けたよ。今回に限り、ブラック・インパルス隊のメンバーとして作戦に参加すると」

 

「竜斗君・・・本当に大丈夫なんですか?」

 

マリアもリリエンタールのいわく話を聞き、当然不安だらけの表情をしていた。

 

「彼がそう決めたなら私は止めやしない。彼はもう一人前の男なんだから彼を信じてやろうじゃないか」

 

「しかし・・・竜斗君にもしものことがあれば・・・」

 

「マリア、私はこう思うんだ。竜斗ならきっと乗りこなしてみせると。彼には私達の想像もつかないパイロットとしての才能を秘めているに違いない。それは彼の戦果などがすでに証明している。まあ、あとそれに」

 

「それに・・・また自分の勘ですか?」

 

「ご名答っ」

 

不敵な笑みを浮かべる早乙女からはどこか嬉しささえ感じる。そんな彼に呆れるマリアもまた、内心不安ばかりだが竜斗の底知れぬ未知の才能に対する強い興味を抱いていた――。

 

「えっ、石川が結局参加すんのっ?」

 

ベルクラス内の女子トイレの洗面所。エミリアと愛美にもすぐにその話が耳に入った。

 

「機体どうすんのよ?」

 

「そこは分かんないけど・・・今回はゲッターチームじゃなくてジェイド少佐達がいるブラック・インパルス隊のメンバーとして出るらしいよ」

 

「あいつ、そこまでして出たいのかしらね・・・戦い過ぎて気が変になっちゃったのかしら?」

 

呆れに呆れる愛美だった。

 

「けど、リュウトが出るって知って少し安心しちゃった。違うチームだとしても――」

 

嬉しそうなエミリアに対し、愛美はどこか腑に落ちない、いや不安そうな表情だ。

 

「ねえエミリア。マナさ、時々石川に対して怖くなるときがあるの」

 

そう漏らす愛美に手を洗うのをやめる彼女。

 

「え?リュウトが怖い?どうして?」

 

「今回のことでもそうだけど、あいつってあんなに好戦的だったっけ?少なくともマナの知る高校の時の石川とは思えないんだけど?」

 

その疑問に対しエミリアは、

 

「・・・確かにリュウトは本当に変わったよね。昔と比べてもう別人みたいに感じる。けどそれはサオトメ司令やゲッターロボに出会ってからの環境や戦い、周りの人達の影響だと思うしそれにみんなのために必死なんだと思う。リュウトは本当に責任感が強いから。だから気にすることはないよ、寧ろ良いことだし」

 

「・・・確かにそうなんだけどさ。それに石川から何か得体のしれないモノを感じることがあるのよね」

 

「それってつまり・・・?」

 

「石川って普段の雰囲気を見てると一見、本当に大人しめの優男だけど蓋を開けてみればかなり多才な人間なんだよね。器用で要領も凄いからゲッターロボはおろかマナ達が乗れないSMBすら簡単に乗りこなすし、あの爬虫類の人間とすぐに仲良くなれるぐらいにコミュ力高いし、それにゲッターチームのリーダーをやっててマナ達は少しも不満を抱かないでしょ。それって凄いカリスマ性も持ちあわせているってことよね?」

 

「あ・・・ミズキに言われて今気づいたけど確かにリュウトって考えてみればとんでもない才能ばかりを持ってるよね・・・っ。何で今まで一緒にいて全然気づかなかったんだろう?」

 

「でしょ?だからさ、そんな才能の塊みたいな石川って一体どこまで行くんだろうと思っちゃってさ――」

 

「うん。何だかリュウトがリュウトじゃない気がしてきた・・・」

 

愛美の意見に同意すると同時に、竜斗に対して得体のしれない恐ろしささえ感じてくるエミリアであった。愛美は少し怯えるエミリアの肩を笑顔でポンポン叩いた。

 

「なあんてね。エミリアよかったじゃない、そんな凄いカレシ持っててマナ羨ましいよ~っ♪」

 

「・・・・・・」

 

「石川の才能は少なくともマナ達に危害を与えることはないし、寧ろ役立つんだからちゃんと喜ぶべきよ。ねっ」

 

「・・・そうよね。素直に喜べばいいんだよね、ははっ」

 

・・・そう言いつつもぎこちない笑い方をするエミリアだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。