ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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番外編⑤「中南米戦線~密林の悪魔~」②

一方、早乙女はこの後開発ドッグにて改修を受けているアルヴァインの元に訪れる。そこでは作業着姿のニールセンとキングがスタッフにあれこれ指示をしている。高齢とは思わせないその元気ぶりは立派である。

 

「どうですか?アルヴァインは」

 

「見て分からんのか、大忙しじゃよ。貴様があれこれ要求するからな」

 

「どうもすみません」

 

「けっ、心では思ってないことを言いやがって」

 

しばらくして休憩に入り、休憩室で三人は紙コップにいれた熱いコーヒーの啜りながら雑談する。例の事件と作戦、ゲッターロボ、そして先程についての話題にも触れる。

 

「ほお、二人とも女の子なのに勇ましいものだな」

 

「ええっ、竜斗が今回出れないことを考慮して作戦の参加を各人の任意にしたんですが」

 

「で、竜斗君は?」

 

「出れないと分かっていて仕方ないと思いつつもやはりくすぶってる様子ですね。やはりの本人の責任感が働いてるんでしょう」

 

「ゲッターチームのリーダーじゃからな、竜斗君らしいっちゃらしい」

 

すると、早乙女がこう切り出す。

 

「・・・アルヴァインの改修はやはりまだかかりますかね?」

 

「少なくともあと二週間近くはかかるな。動力機関の変換だけならまだしもそれに伴いアルヴァインの兵装も各管制も変えねばならん。正直言って彼が扱えれるかどうかすら分からんぞ」

 

「サオトメのおかげでわしらはゆっくりすることもままならん。年寄りを少しは労らんかいっ」

 

「そういうわりには作業中、嫌な顔をしてませんでしたが?」

 

何だかんだ言いつつも二人はこういう仕事が好きなのだろう。嫌々ではなく寧ろ夢と希望に溢れる若者のような精気溢れていた。

 

「で、それがどうしたんじゃ?」

 

「さっきも言いましたが竜斗も作戦に出たいみたいなので始まる前に改修が終われば――と思いまして」

 

「諦めろ。改修が早く終われるならワシらは今苦労しておらん」

 

「ステルヴァーは残っとらんのか?」

 

「ステルヴァーはブラック・インパルス隊の分しか造っとらん。そんなに参加したいなら軍に頼みこんでマウラーとか戦闘機でも・・・ん?」

 

何故かニールセンの口は止まり、何か考えているのか黙り込んでしまう。

 

「・・・博士?どうしました?」

 

「サオトメよ、竜斗君は確かステルヴァーの操縦訓練を受けたと聞いたが?」

 

「え、ええっ。ジェイド少佐の元で。ほとんどマスターしたらしいですがそれが何か?」

 

「ふむ・・・」

 

ニールセンの何かの思惑を感じとる早乙女とキング。

 

「一応高性能の機体がないわけではない。ワシが開発したステルヴァーの試作機があるがそれを竜斗に乗らせてみるか」

 

「そんな機体があるんですか。初耳ですよ」

 

「ああ、どのみちアルヴァインの操縦管制もステルヴァーと同様にせねばならんかった所だ、ついでに操縦感覚を慣れてもらうのにもちょうどいい。もし竜斗君が今作戦に参加する気が、あと覚悟が本当にあるなら今すぐ連れてこい。機体を見せてやる」

 

「わかりました、直ちに聞いてみます」

 

早乙女は立ち上がると颯爽と竜斗を探しに行く。一方のキングは何故かニールセンをギロッと睨みつけているが何故だろうか。

 

「おい、まさかアレを竜斗君に乗らせるつもりじゃないだろうな?」

 

「そのまさかよ」

 

「貴様、正気か?」

 

「ふん、わしはただ機体を提供するだけじゃ。乗るか乗らないかは彼が決めることじゃよ」

 

二人には何やら険しい空気を感じさせる会話をしていることをいざ知らず、早乙女は竜斗の元に向かい先程のことを伝えると竜斗は思いがけぬ誘いについ心が高揚し目を輝した。

 

「ぜひお願いします!」

 

彼の返事から一寸の迷いを感じられなかった。早乙女と竜斗はすぐにニールセンの元に向かう。

 

「ニールセン博士!」

 

「来たか。ではついてこい」

 

四人が向かった先は、基地の戦闘機用格納庫の片隅にあるとある戦闘機。黒と黄色を基調とした見るからに不吉を思わせる戦闘機であり、主翼が前向きになっている所謂エンテ型と呼ばれるフォルムである。

 

「正式名称は『SFEX―02』。一応コードネーム兼愛称でリリエンタールとそう呼んでおる、わしの開発したステルヴァーの試作機じゃ。今回竜斗君にはアルヴァインの代わりにこいつに乗ってもらおうかと思っておる」

 

竜斗は初に見る独特克つ斬新なデザインをこの目で見て、思わず唾を呑み込んだ。

 

「こいつの操縦方法はステルヴァーと同じじゃ。君はステルヴァーを操縦できると聞いたから大丈夫じゃろう?」

 

「はい、一応は・・・」

 

「竜斗君に言っておくがこの機体はとんでもないじゃじゃ馬じゃぞ?」

 

「えっ?」

 

突然、横にいたキングが口を挟む。

 

「飛行テストの段階で一人死人が出ておる。君はそんな機体に乗るのか?」

 

彼の『爆弾発言』を当然耳を疑い、戦慄する竜斗。

 

「キング、余計なことを言うな。竜斗君はアルヴァインを使いこなせるんだから大丈夫じゃろう。それにあの時よりも改良してあるから死ぬことはない。まあ・・リミッターをかけているがな」

 

「・・・・・・」

 

「一応、ギリギリ人間が耐えうるレベルにまで調整してあるがそれでも完全に大丈夫という保証はない。下手したら先人みたいに扱えられずに死が待っておる。君はそんな危険を冒してまでこの機体、リリエンタールに乗り込む覚悟はあるか?」

 

正直、恐怖で身震いする竜斗。こんな危険な代物に自分が乗るのかと思うと狂気の沙汰である。

 

「乗るか乗らないかは君が決めることじゃ。嫌なら参加を諦めるか軍からこれより安全なマウラーをなどを借りるのもええ。今すぐ決められないのなら今日じゅうには決めてくれ、整備しなければならんからな」

 

取り敢えずここで解散し、竜斗は格納庫から後にした。残った三人は彼の後ろ姿を眺め何かを感じとっている。

 

「相当悩んでる様子ですね」

 

「まあ竜斗君は知らないだろうが、あの事故を知る者なら間違いなく乗ろうとは思わんだろうな」

 

「博士、それについて詳しく教えてもらえませんか?」

 

「ああ――」

 

一方、竜斗はジョージ達ブラック・インパルス隊の面々に会い、そのことを話すと誰もが唖然となる。

 

「搭乗は絶対にやめておいたほうがいい」

 

と、ほぼ全員が口を揃えて言った。

 

「リリエンタールはじゃじゃ馬どころじゃない、パイロットの安全性を無視したとんでもない欠陥機だぞ。博士は竜斗君にあんなものを紹介したのか・・・」

 

「けど、ニールセン博士はギリギリ乗れるように改良してリミッターをかけたって言ってましたが・・・?」

 

そう言うが彼らは非常に渋い顔をしている。よほど何かあったに違いない。

 

「あのう・・・そのリリエンタールの飛行テストで死人が出たって聞きましたが本当なんですか?」

 

その質問に対し、沈黙するジョージ達に竜斗は何かを察した。

 

「すいません、もしかして聞いてはダメでしたか?」

 

「いや、いいんだ。君は何も知らないから気になって仕方ないと思う。実は前にオリヤという俺達と同じブラック・インパルス隊員がいてな。その時はまだジョナサンがいなくてそいつが一番SMBの操縦技術がダントツに上手かったんだ。で、それを見込まれてリリエンタールのテストパイロットに選ばれたんだが――」

 

聞く話によると、発進し高空まで達するまでは順調だった。しかしそこから推進力を上げた瞬間、まるで機体が暴走したかのような突発的に音速域にまで急加速した。オリヤは当然慌ててなんとかしてコントロールして止めようとしたが停止するどころかさらに速度は上昇、そのままコントロールを失い機体は速度に耐えきれず空中分解を起こして墜落したと言うのだ。

それを知った竜斗の身体に強烈な悪寒が走った。

 

「竜斗君、オリヤの最期の通信はどんな言葉だったと思う?」

 

「・・・・・・・」

 

「『目が潰れた、内臓が飛び出す』だよ。実際、あいつの遺体は正直凄惨なもので見れたもんじゃなかったよ」

 

「じゃあ博士に紹介してもらった機体は・・・?」

 

「リリエンタールは計二機造られてる。オリヤが乗ったのは一号機で、あれは二号機だよ。しかしそんな凄惨な事故を起こした上に外見はともかくカラーも相まってまるでカラスのようにも見えるだろ?そのことから不吉やら呪われていると噂立って誰も頑なに乗ろうとしないまま放置されてたんだ」

 

「ちなみにオリヤが死んでその穴埋めで急遽入ったのが俺だよ」

 

と、ジョナサンがそう言う。

 

「確かにニールセン博士がちゃんと改良しているなら問題はないとは思うがリミッターをかけてるってことはつまり根本的に問題は解決していないということだ。それを差し引いても俺達はあの機体の事故を目の当たりにしたから正直オススメできない。君はそんな機体に乗ってまで、オリヤの二の舞になるかもしれないと言う覚悟の上で参加したいのか?」

 

竜斗の心は大きく揺さぶられる。早乙女に誘われた時は正直気持ちは高揚した。しかし実物を見て詳細を知れば知るほど深追いするんじゃなかったと後悔し始めていた――。

 

「――そんなことがあったんですか」

 

早乙女もニールセン達から事故について詳細を教えてもらい、腕組みして深く息を吐いた。

 

「それにしても博士、そんな狂気じみた機体を造ったり竜斗にそれを乗せようとしてたとはあなたは本当に悪魔みたいな人だ」

 

「こいつは基本的に機体ありきでしか考えとらんからな。ワシでさえやらんことをしやがるから本当にタチの悪いヤツじゃ」

 

「けっ、わしは兵器開発の権威じゃ。高性能を追求して何が悪い?それにわしはただ彼が参加したいと言ったから高性能の機体を紹介してやっただけのこと。乗るかどうかは最終的に本人が決めることじゃ」

 

完全に開き直っているニールセンに呆れる早乙女とキングだった。

 

「しかしあのオリヤでも扱えきれんかった機体を竜斗君に扱えられるのか?」

 

「さあな、そこは彼の技量次第じゃ。一応安全性も見直し改良したが機体全体を今の技術で改良して性能が更に上がっとるから結果的にほとんど前と変わってはおらん。リミッターをかけてあるから大丈夫だとは思うがもし解除したら例え頑丈なパイロットでも命の保証は到底できないな」

 

「つまりそれは――」

 

「下手をしたらオリヤと同じ運命を辿るじゃろうな。いや、それ以上の惨劇になるやもしれん」

 

彼の無常な結論は二人を取り込みたちまち沈黙の場へと陥らせた――。


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