――中南米。多くの鳥が囀ずる広大な緑で覆われた密林とまるで蛇のようにうねるように流れる南米のど真ん中を横断する巨大なアマゾン川。人類が地球上のほとんどを開拓し尽くし宇宙空間にも進出したこの時代でもまるで未開地と思わせるほどの大自然が残るこの地は例えるなら聖域である。その密林に光る謎の赤い眼・・・その鋭い眼が捉えているのは遥か上空、飛行機雲を引く四機の偵察機。
『現在、問題のアマゾン川上空だが特に異常は認められない』
『このまま調査を続行する』
最近、この空域に通りかかった機体が突然と消息不明になるという事件が相次いでいる。墜落したのかと現地に赴くもその形跡がいくら探しても見当たらないのだ。そこでテキサス基地から調査隊が派遣されたのだが特に空、地上からも敵や兵器の姿形が確認されない。
『もし少しでも何か異常があれば報告せよ』
それぞれバラバラに散りくまなく調査する各機。あたかも神隠しでもあったかのように味方が姿を消していくこの不可解な出来事をこれ以上放置することはできない。パイロット達は血眼になって捜索する。その時、広い密林の片隅から赤い光が発した。それがちょうど直線上にいた一機の偵察機を一瞬で覆った。機体は一瞬で蒸発し、他のパイロットがそれに気づくのに数秒かかった。
『アルファ3がロスト?何が起こった!?』
『気を付けろ、地上から攻撃を受けている!』
しかし休む暇もなく密林から赤い光を放った瞬間、強力な熱エネルギーの塊となって一機、また一機と直撃してパイロットに脱出させる隙も与えず機体ごと蒸発させた。
『地上から高エネルギー兵器による狙撃か!』
残った一機は直ぐ様急旋回し、テキサス基地に戻ろうとするが再び間を入れず地上から高エネルギーの塊が飛び交う。しかし原因が分かったパイロットは何としても生きて帰り報告せねばと神経を集中させて蛇行飛行しながら回避に徹し、それが功と為し見事、安全圏へ逃げていく。
「ち、取り逃がしたか。まあいい、ガレリー様から託されたこの新型機『リィリィーン』の操縦テストはここまでだな」
赤い光を放った場所には一機のメカザウルスが重鎮している。身の丈以上ある巨大な砲兵器を携え、どことなく見覚えのあるその姿・・・細部は異なるがラドラの愛機、ゼクゥシヴと酷似している。
「だがやはり新型機とだけあって凄まじい。これがガレリー様が開発した新型動力機関『リューン・ドライヴシステム』か・・・」
その機体のコックピットではパイロットが予想以上のポテンシャルを直と知り興奮に満ちている。
――グヴァンドルド=シェリア。このアマゾン一帯に駐屯する第二十四恐竜中隊長であり、ラドラ、リューネスと同じく平民出身のキャプテンである。
彼の乗る新型メカザウルス『リィリィーン』の後ろから二機のメカザウルスが忍びよる。
『中隊長、基地への帰還をお願いいたします』
「ああ。おそらく奴ら地上人類は近い内にこちらに攻めこんでくるだろう。いつでも迎撃できるように準備しておけ」
『了解。それともう一つの報告があります。先ほど本隊より補給物資と例の新型機が到着いたしました』
「そうか。ではそれらもテストを兼ねてその時に実戦投入する。不具合がないよう機体の整備、調整を念密に行え」
そして彼らはその場から後にし深い密林の中に消えて行った――。
一方、何とか帰還した偵察機のパイロットは所長のリンクに通信では伝えきれなかったことを全てを報告し、直ちに緊急会議が開かれる。
原因が分かった以上アマゾンに赴きその兵器の破壊、及び敵の殲滅を図る作戦自体は満場一致で可決された。
しかし広大なアマゾンからどうやって探し出すか、いっそのこといぶりだすことも踏まえてアマゾン一帯を燃やしつくす案もあれば大規模な自然破壊はさすがにまずいと難色を示す者もおり議論は飛び交っていた。しかしこのままでは被害が拡大し、自由に南米に行き来することが出来なくなり最悪互いの協力が得られなくなり更には向こうが孤立し制圧されてしまいかねないなど弊害が沢山出てくる。
そういうことを考えると多少の被害を覚悟してでも障害の根源を絶たなければならないとリンクはそう告げ、彼らを納得させた。
その会議の結果、三日後に作戦を決行することに決まり、それぞれの部隊に伝達された。それは竜斗達ゲッターチームにも告げられた。
「――ということだ。細かい詳細は後に分かるが今回はアマゾン一帯ということで広大な密林と川という君達には未経験の地での戦闘になる。なので参加は各々の任意に任せる。自信がなければ作戦に出なくていい。無理矢理出撃させて君達を失うわけにはいかないんでね」
「マナは出るわ。初めてだからこそ経験しときたいし」
と、やる気に満ちた彼女がさっそく名乗り出る。一方のエミリアは少し戸惑いを見せている。すると、
「アンタ、怖いの?」
と、ちょっかいを入れる愛美。
「こ、怖くなんかないわよ!」
「あら、声が震えてるけど?」
「大丈夫だから!司令、アタシも出ます!」
いつものように彼女の強がりであり、早乙女とマリアはあまりいい顔をしていない。
「君がそう言うなら止めはしないが本当に大丈夫か?」
「エミリアちゃん、無理して出なくていいのよ。出ないからって気負いすることはないわ」
と、マリアが優しく宥めるも本人は首を横に振る。
「アタシもこういうのを経験しておかないと後々困るかもしれませんから。寧ろいいチャンスだと思います」
「まあ、何だかんだいいながらも君はこれまでにちゃんと実績を残しているワケだからな。よろしい、君も参加だ」
「あ、ありがとうございます!」
そして残る竜斗は何故か複雑の表情で黙りこんでいる。エミリアと愛美は怪訝そうにそんな彼に注目する。
「石川、あんたは参加しないの?」
「・・・俺だって本当は参加したいよ。けど・・・っ」
「どうしたのリュウト・・・?」
不思議がる二人は対し、早乙女は口を開く。
「竜斗は今回、参加できない。理由はアルヴァインが『複合エネルギー機関』に変換するための改修を受けているからだ」
二人もそれを思い出し「あっ」と声を出した。
「アルヴァインの改修にはまだまだ時間がかかるから竜斗の乗る機体がない。予備のBEETも水樹のアズレイに使ってしまったからな。というわけで今回は二人だけの参加と言うことになるから覚悟しておいてくれ」
「そ、そんな・・・」
竜斗だけ出撃できない、つまり今回はゲッターチームのリーダーがいない状況になるという未経験の作戦にエミリアは急激な不安に陥る。
「今回の地形上、単独行動はまずい。二人は関しては離れず行動しろ。はぐれたりしたら危険だからな」
「まあこればかりは仕方ないわね。イシカワは高みの見物でもしてなさい。エミリアはちゃんとマナが面倒を見るから心配しないで」
「ちょっと、面倒ってなによ!」
「面倒ってアンタの世話に決まってんじゃない。どうやらマナが今回のチームリーダーになりそうだし」
「いつアタシがアンタに迷惑をかけたのよ!自惚れもいい加減にしてよっ」
「なら今回、エミリアがリーダーやってみる?マナをちゃんと正確に指示して無事生きて帰らせてね」
それを聞いてやはり気負いしてたじろぐエミリア。
「もし何かあったらアンタが全て責任を負うんだからね?そこ分かってる?」
「・・・・・・」
「確かに今回ばかりは水樹がリーダーになったほうがいいな。未経験なことが多すぎるが水樹、任せても大丈夫か?」
「しょうがないけどやるしかないわね。本当はいつも通りイシカワにやってほしがったけど代理ということで務めるわ」
「では決まりだな。詳しい情報と作戦内容については後日伝える。あともし気が変わって出撃したくないのなら正直にいつでも言いに来てくれ」
解散し、司令室から出た三人。エミリアは凄く落ち込んだままだ。
「気にするなよエミリア。確かに今回ばかりは水樹に任せたほうがいいよ。俺も司令と一緒に立ってここから指示しようと思ってるし大丈夫だって」
「うん・・・」
そんな二人のやり取りに愛美は眼を細めて見ている。明らかに不機嫌な顔をしていた。
「アンタっていつも偉そうなことをいうわりには大役任されそうになるとそう弱気になるのね」
「違うわよ、ただ今回リュウトがいないから不安で!」
「それってつまり石川がいなければ何にもできないってことよね?」
痛い所を突かれて怯むエミリア。たが更に愛美は追撃する。
「そんなんじゃいつまで経っても成長しないよ。こういうこともあるって想定しとかないと。少しはイシカワを見習いなさいよ、ちゃんと変わったじゃない」
「・・・・・・・」
「マナはやるっていったらやるって割り切るの。だから
ちゃんと責任を持ってやるわ。最もアンタはどうなのかは知らないけどエミリアも参加するって言ったならさっさと割りきってよね。作戦の時まで引きずるんなら早乙女さんに言って辞退してきたほうがいいわよ――」
そう告げて彼女は去っていく。キツく言われたエミリアは既に目が涙で溢れている。
「リュウト・・・アタシどうしたらいい・・・?」
「・・・水樹のほうが正しいよ。いつも全員揃って出撃するのは限らないんだしそういうのに慣れないといけないと思う。そもそも今回は強制じゃないみたいだけどエミリアが自分から参加するって言ったならそこはちゃんと責任を持ったがいい」
相変わらずドライな言い方であるが確かに正論である愛美の意見に同意する竜斗。すると彼女は竜斗にこう言う。
「アタシ・・・ホントは怖いの。ミズキの言う通り強がって言うんじゃなかったって今後悔してる。けどだからって自分だけ出ないってのもイヤなの。ただでさえリュウトとミズキに劣るワタシなのにこれ以上足手まといになりたくないって気持ちがあるからつい・・・」
「エミリア・・・」
と、本音を伝える彼女に竜斗は頭を優しく撫でてあげた。すぐに目をこすり彼に涙混じりの笑みを見せる。
「けどもう大丈夫。リュウトに本音を言ったらいくらかはすっきりしちゃった。ちゃんと作戦に出てミズキと一緒に頑張ってくるから心配しないでね。リュウトはゆっくり休んでてね」
エミリアも彼から去っていき一人残された彼も複雑な気持ちだった。自分の機体は今改修されているため出撃したくてもできない、これはどうすることもない。しかしやはり不安である。
彼女達の心配となによりゲッターチームのリーダーである責任感と自分が出れないことに対する残念さと焦りが心の中でぐちゃぐちゃに混ざりあって何ともいえない不快感が混み上がっていた。しかしどうすることもできないので結局愛美の言っていた通り、割り切るしかなかった。
竜斗はそんな思いの中、歩いていく。ちょうど曲がり角の所を通りかかった時、
「大変ね、アンタ達も」
突然の声に驚いた竜斗はすぐに横を見ると愛美が腕組みしながら壁に持たれかかっていた。
「水樹、もしかして聞いてた?」
「ええっ、この耳でばっちりと」
デリカシーがないなと呆れる竜斗。
「水樹、ごめんな」
「なんでイシカワが謝るのよ?」
「いや、エミリアのことで・・・」
「まあマナも少し大人げなかったなと思ったわ。エミリアも悩んでるのに無神経なことを言ってしまって・・・」
彼女なりに反省している様子は新鮮みさえ感じる。
「気にするなよ、今回ばかりは水樹のほうが正しいって思ってたし――」
「今回ばかりってなによ!」
「ごめんごめんっ。けど確かにいい経験だと思ったからさ。俺も経験しときたかったけどこういう時に出れないなんて運がないな」
「むしろ運があるじゃん。死ななくて済むんだから」
「ぷっ、なんだよそれっ!」
二人はこの会話に可笑しくなりクスクス笑う。笑い終ると竜斗は愛美に何かを託すかのように真剣な目を見せる。
「水樹、今回俺抜きで二人だけだけど絶対に無理するなよ」
心配そうに見ると竜斗を察し、安心させるように軽い笑みを見せる愛美だった。
「だから心配しないでって言ったでしょ。何もマナとエミリアだけじゃないし味方が沢山いるんだからいざとなったら助けてもらうわよ」
「あと・・・エミリアを頼んだよっ」
「任せといて。それにあの娘だって早乙女さんの言ってた通り、これまでも何だかんだでちゃんと結果残してるんだから今回も大丈夫よ。イシカワにはアルヴァインが使えるようになったらいっぱい頑張ってもらうんだから今の内に休めときなさい」
「ああっ」
二人からはとてつもない信頼感を感じさせる思いがひしひしと伝わっていた。