――人間、自信がつくとなんでもできそうな気持ちになる。今の僕はまさにそのような気持ちになった。それが吉と出るか凶と出るか。それは結局自分と運次第だ――。
「うああああっ!!」
発射間近に迫るエゥゲ・リンモへ猛スピードで突撃していく空戦型ゲッターロボ。それを阻止すべく残りのメカザウルスも行かせてなるものかと妨害してくる。
「邪魔だあ!」
メカザウルスに構わず、紙一重で避けていく竜斗。立ち止まった時、敗北を意味する。それほど一刻の猶予はないのだ。しかし向こうも必死なのは当たり前。群れを作り巨大な壁になってゲッターロボに立ち塞がった。
だがその時、ゲッターロボの後方からプラズマ弾、ミサイルの塊が前に降り注ぎ、メカザウルスを一撃で吹き飛ばした。
『全機、竜斗君の妨害になる物を全て排除せよ!』
何と仲間達が駆けつけてメカザウルスを掃討していく。
「皆さん、危ないですよ。今すぐ逃げて下さい!」
『いいや、君に全てがかかってるんだ。俺達がただ見てるだけと思ったら大間違いだぞ。これくらいの手伝いはさせてくれ』
『死ぬ時は一緒に行こうぜ。あの世に行っても大勢なら閻魔様にたくさん言い訳できるからなっハハ!』
『皆さん・・・ありがとうございます!』
正直、皆を巻き込むとは心外だったがこれほど頼もしい味方はいない。これでメカザウルスを気にせず砲身へ一直線で向かっていける、竜斗、いや全員は一片の活路にすがり最後の最後まで諦めなかった。
そしてジェイドも彼らと一緒になってメカザウルスの掃討にあたっている。その最中、ゲッターロボをしきりに見ている。
(竜斗というあの少年・・・もしかしたらとんでもない逸材かもしれん)
あんな今にも分解されそうなボロボロの状態で高速飛行しながらメカザウルスに全くかすりもせず回避するゲッターロボを操縦する彼、竜斗の将来性の高さを評価していた。
(あと僅かだ、持ってくれゲッターロボ!)
メカザウルスの決死の猛攻を振りきりついにエゥゲ・リンモの砲口部に到着した。その巨大な怪物の口の奥には青白い極光、プラズマの塊が蓄積しているのが見える。
竜斗は右ペダルをグッと踏み、炉心の出力を一気に上げると同時に身を抱える姿勢をとるゲッターロボ。
「例のゲッター線の機体がエゥゲ・リンモの砲口前に!」
「何?直ちにリナリスを発射しろ。一緒に吹き飛ばしてやる!」
砲台内部の作業員は発射ボタンを手を置いて力を入れた――。
(間に合ってくれえっ!!!)
出力が最大値になり、ゲッターロボは腹を突きだした瞬間、中央のレンズから高密度のゲッター線の光線が一直線に砲身内に入っていき、突き抜けていく。膨大なプラズマの塊に衝突したが軽々と突き破り、リナリスに直撃。大爆発して爆風と炎が砲口から吹き出してゲッターロボを覆ってしまった。
「うわああっ!」
出力を使い果たし、さらに爆炎の追撃を受けて完全に機能停止してしまったゲッターロボとその衝撃で頭を強く打ち気絶してしまう竜斗。壊れた人形となって地上へ墜落していく・・・が、そこに一機の戦闘機が猛スピードで到着し、
「ヴァリアブル・モード!」
その戦闘機がなんと人型に変型し、絶妙なタイミングでゲッターロボを下から機体ごと受けとめてキャッチ。その機体に乗るのはジェイドであった。
エゥゲ・リンモはあちこちで小規模の爆発が起きており、徐々に全体に伝わろうとしていた。
「敵レールガン砲台が崩壊しています、今度こそ終わりです!」
「よし、直ちに全機撤退せよ!」
砲身が分解し落下していくのを見て危険を察知、動かない空戦型ゲッターロボを抱えてすぐに飛び去っていくジェイド機は仲間と合流しすぐにベルクラスへ戻っていく。
「エゥゲ・リンモが・・・・・・」
あの巨大な砲台が爆発しながら崩壊していくその光景を見ていたリョド達は悲壮感が漂っていた。その時、
『リョド・・・将軍・・・っ』
向こうから通信が入り、全員がモニターに映すと責任者が血塗れになりながら無念の顔を彼らに見せた。
『申し訳・・・ございません・・・でした。あと一歩のところで・・・』
「それよりも他の者は無事なのか!」
『私以外はもう爆発に巻き込まれて・・・ここもすぐに吹き飛びます・・・』
「お前だけでも早く退避しろ!」
リョドがそう促すが彼は首を横に振る。
『・・・もう、どこの入口も塞がれていて逃げ道はありません。それにここで責務を全うし死んでいった者達を見捨てることはできません。私もこのエゥゲ・リンモと運命を共にします・・・!』
「・・・・・・」
『リョド将軍・・・私含めてこのエゥゲ・リンモに携わった者全員は貴方の元で働けたことに満足であり思い残すことはありません。せめて私達の魂は恐竜帝国、爬虫人類が必ずや地上征服の為の糧として未来永劫捧げましょう・・・恐竜帝国、爬虫人類に栄光あれえっっ!!』
その瞬間、内部の爆発が彼を覆い尽くしモニターが途切れてしまった。途方もない費用と年月を掛けて、第一恐竜大隊の全てを懸けたエゥゲ・リンモ、ミュウベン小隊含めた多くの人材を失い、絶望から誰もが沈黙し静けさが漂うオペレーションルームに間を置かず、今度はゴールが直々にモニターに現れる。
『リョド・・・っ!』
恐らく作戦の一部始終を見ていたのだろうか、誰も見たことのない憤怒した恐ろしい顔はここにいる殆どに畏縮させた。しかしリョドは忽然とした態度で膝をつく。
「ゴール様、この作戦の失敗は全て私の責任です。覚悟はすでに出来ております、処刑なりなんなりと!』
と、告げる彼にゴールは見つめたまま口を開かない。すると、側近のファブマと部下達は慌てて弁解に入った。
「ご、ゴール様!リョド将軍を処刑するなら私が身代わりとなります!どうか将軍だけはお助け下さい!」
「将軍がいなければこの大隊は成立しません、どうかそれだけはご勘弁を!」
必死に将軍の命乞いをする彼らにリョドは「そんなみっともないことはやめろ」と、一喝する。
「ゴール様、部下達がこんなことを言っておりますがこの責任は私が取ります。しかしこれだけは言わせてください。この作戦で死んでいった者達は皆、恐竜帝国の、爬虫人類の為に責務を全うしました。そんな彼らが散らした命だけは決して無駄にしないで下さい」
そう述べたリョドに間を置いて、黙っていたゴールは口を開く。
『もうよい、戒めとして補給物資の制限などの多少の罰は与えるが命までは取らん。リョドよ、引き続きこの大隊の指揮をとるがいい』
「ゴール様・・・」
『お前はわしに忠実な、そして大事な家臣じゃ。いくらわしとてお前を捨てることはできない。だが次は朗報を期待しておるぞ』
と、呆れたような顔をしつつもまんざらではない顔でそう告げた。
『お前達、良い指揮官と部下を持ったな』
と、一言添えると通信が切れてしまった。暫く沈黙に陥った後、
「我々は助かったのか・・・?」
「そうみたいだな」
緊張が切れて気が抜けた全員はほぼ同時に溜息を吐いた。
「しかしこれからが大変だぞ。今回の一件で間違いなく我々第一恐竜大隊の権威が地に落ちたと考えていい。恐らく冷遇の時代を迎える」
「ミュウベン小隊含めた多くの優秀な人材とメカザウルスを失って・・・立て直せるのか・・・?」
と、誰もがそう考え落ち込む。するとリョドは、
「お前達、先ほど私がゴール様に言ったことを忘れたのか?「この作戦で死んでいった者達の命だけは決して無駄にするな」と。それに冷遇されようとどうなろうと這いつくばってでも諦めずに生きていればなんとかなる」
「将軍・・・・・・」
「この作戦の失敗はこの先の成功の糧にすればよい。せっかくゴール様に助けてもらったこの命・・・皆、始めからやり直しだ、心機一転してこの第一恐竜大隊を今以上に発展するよう一丸となって努力するぞ!」
「将軍・・・はいっ!」
そう声を張り上げると全員は「ウオオー!!」と高らかに右腕を突き上げて心を一つにした。再びかつての威厳を取り戻すために必ず――高揚する皆の様子を見てやっと穏やかな顔になるリョドは一人、その場から離れていく。
「将軍、どこへ?」
「少しばかり席を外す」
そういい残し、彼は出ていく。そして誰もいない通路まで行くと突然、壁に手を当てて俯く。そして目を閉じるとなんと一筋の涙が・・・。
(すまぬ・・・死んでいった者よ・・・お前達の死は決して無駄にせぬ。だからゆっくりと眠れ・・・)
決して部下の前では見せない身震いして嗚咽するリョドの姿は普段からは考えられない様子であり、それは彼がいかに部下思いなのかがよく分かる。今の彼は悲壮感にうちひしがれていた――。
「終わったなっ」
「ええ・・・」
「帰ったら報告書の山やゲッターロボ、ベルクラスの修理で忙しくなりそうだな。今の内にこの壮大な景色を楽しんでおこう」
「それよりも巡航ミサイルの無差別爆撃による被害で日本各地の復興が一番大変そうですが・・・」
エゥゲ・リンモが崩壊して火の海と化している無機質の小島を見て、本当に厳しい戦いだったと、しかし確かに『収穫』も確かにあったと感傷に浸る早乙女とマリア。
「竜斗はまだ目覚めないのか?」
「はい。精密検査をしましたが特に異常はありませんでしたので、ただ頭を打って気絶しただけです。暫くしたら起きるでしょう。今エミリアちゃんとマナミちゃんが彼に付き添っているので心配ないですよ」
「それは良かった」
軽く笑う早乙女から安心したという気持ちが感じられる。
「にしても奴等は全くとんでもないものを造り上げたな」
「ええ。敵のあまりにも強大さに正直臆してしまいました。これから向こうの攻撃が激しくなると思うと・・・」
「それでもやらねば我々人類に未来はない。確かに我々にとってあまりにも劣勢で途方もない戦いだが世界で戦う仲間達、そしてゲッターロボと竜斗達ゲッターチームがいる限り必ず希望はある、いや持たねばならんのだ――」
早乙女は遥か海の地平線を眺め、少しすると口を開いた。
「マリア、そろそろ私達は前に動くぞ」
「ということはついに?」
「ああっ。日本での奴等の本拠地と思われる北海道の大雪原に進撃する。それまでにゲッターロボとベルクラス、竜斗達三人の最終調整、そしてできるだけ大勢の味方の手配を済ませるぞ」
「了解しました!」
一方、ジェイド達アメリカ空軍部隊は空戦型ゲッターロボをベルクラスに還してすぐに別れて本国に戻っている最中であった。
「まったく奴等もあんなクレイジーなモンを造りやがって・・・」
「けど俺の『息子』より小さいがな。本気になったらマジであの砲身より凌駕するぜ?」
「バーカ!てめぇのはどう見ても野菜スティックぐらいしかねえじゃんかよお!」
下品な軽口を叩きゲラゲラと笑う彼らをよそにジェイドはただ一人、無表情だった。
(大変だったが、ジョージやジョナサン達にいい土産話ができたな――)
彼は空戦型ゲッターロボと竜斗のことについて考えていた。まだまだ未熟で戦い方は荒いがあれほどの逸材をもし空戦闘に必要な要素を徹底的に身につけさせ洗練できるなら・・・そう考えると思わず胸が高鳴る一方で自分の地位を脅かす絶対的な存在になるかもしれないという恐怖と不安が混ざる。そんな複雑な気持ちを胸に遥か先のアメリカへと飛んでいった――。
「リュウト!」
「エ、エミリア・・・それに水樹も」
医務室のベッドに寝ていた竜斗は眼を覚まし、エミリアと愛美はすぐに駆け寄る。身体を起こすとエミリアは嬉しさのあまり抱きつき、苦笑いする。
「俺・・・あの後どうなったの?」
二人は自分達の勝利で全て終わったと告げると竜斗は安心して溜息をついた。
「今回ばかりはもう本当に死ぬと思った・・・」
「うん・・・アタシも負けるかもって考えちゃったぐらいだから・・・」
思い出すだけで頭が痛くなるほど苦戦した証拠だ。しかし愛美は腕組みしながらこう言った。
「あら、マナは別にいけると思ってたわよ?なぜなら・・・」
「なぜなら?」
「さあて何かしらねェ~~っ。マナ、アンタが目覚めたしもう行くわ」
いじわるに答えず、彼女は出入り口の前に立つ。すると、
「石川、アンタすごいね。今のアンタならマナは絶対についていくから――」
そう告げて愛美は去っていった。竜斗は思わず照れ臭くなる。
「そうかな・・・俺、そんなに良かった?」
「うん。アタシ達だけじゃなくみんなリュウトのことで驚いてたよ。不可能に近いことを可能にしたって」
「・・・そんな、俺は別にすごいことしてないよ。ただ凄く必死だった、それだけだよ」
謙虚にそう答える彼。その実、巡航ミサイルの詰まったコンテナの迎撃、ミュウベン小隊との交戦、その隊長で『天空の戦乙女』と呼ばれた女性エースパイロット、リィオとの一騎打ち、エゥゲ・リンモのリナリス発射の阻止・・・目まぐるしく苦しい連戦続きで殆ど覚えていなかった。正直勝てたのが信じられないくらいだ――。
そして彼はまだ知らない、自身に秘められた才能は後に幾多の戦いにおいて勝利に貢献するが同時に自分、そして周りの大勢の人間を振り回すことになることを――。
この番外編はここで終わりです。文章力の無さや内容の稚拙さを改めて実感しました、すいません。また新しいエピソードを構成中なのでお楽しみに。