早乙女とマリアのこのエゥゲ・リンモのどんな兵器かを理解した。これはミサイルコンテナを電磁加速で撃ち出す超巨大のレールガン砲台・・・いやマスドライバーに近い兵器だと言うことを。
「奴らめ、こんなとんでもないものを建造していたのか」
早乙女は自らこの兵器をスキャンし分析に頭脳をフル回転させる。カラクリが読めた以上、弱点は必ずあると。
(ここまで巨大なレールガンだと砲身が焼けつくほどの膨大な熱量が出る、すなわち冷却装置があるはずだ。恐らくミサイル攻撃が止んだのもそれが原因だろう。それらを探し出し破壊すれば・・・しかし)
もし解決策を見つけたとしても問題はそれを実行できるのか、と早乙女に不安がよぎる。今の自分達の戦力はエミリア達の乗るゲッターロボ二機とベルクラスしかいないのに対し、向こうは空、陸、海全てにメカザウルス、そして防衛用の固定砲台を張り巡らせており圧倒的だ。何の策なしで突っ込めば間違いなく集中攻撃を受けて蜂の巣にされてしまうのがオチであろう。
かといって、グズグズしていてもまた砲撃が繰り返されて日本はさらに被害を受ける、時間の猶予は全くない。
『司令、アタシに出撃許可を下さい!』
『早乙女さん、マナも出るわ』
突然、二人からの申し出が。恐らく竜斗に感化された影響だろう。しかし早乙女はこの状況を前には流石に承諾は出来なかった。
「君達はこの状況が分からないか。それに空戦型ゲッターロボと違って君達のゲッターロボは行動範囲が限られている。間違いなく死ぬぞ」
『だからと言ってこのまま見ているだけなんですか!』
『石川が今、必死で頑張っているのにマナ達だけずっと待機だなんて!』
彼女達の気持ちが十分に分かる。この切羽詰まった中、緊張感と焦り、何とかしないといけないという正義感が今にも飛び出したくてたまらないのだろう。だがだからと言って何の打開策もなしに行かせるほど早乙女は無鉄砲ではない。そんな時、レーダーを見ていたマリアが「え?」と声を出す。
「ベルクラスの後方より接近する反応を多数確認!」
「メカザウルスか?」
「いえこれは・・・味方機の反応です」
モニターに映し出すとそこにはなんと百、二百を越えるBEET、戦闘機、そしてアメリカ軍の主力機であるマウラーの日米の混成隊がこちらへ駆けつけてきた。
『早乙女一佐、たった今我々は到着しました。これより援護に入ります!』
「来てくれたか君達!しかし日本の方は大丈夫か?」
『ちゃんと防衛する戦力は残してきたので心配しないでください』
「ここに来る前に敵の迎撃に遭わなかったか?」
『来る途中、彼らアメリカ空軍の部隊と偶然合流してたのでもう我々が片付けときました。後方はもう大丈夫です』
味方がこんなに駆けつけてくれたことに早乙女達にとってこれほどうれしいことはない。これだけの戦力があれば何とかいけるかもしれない、彼は今にも気持ちが沸き上がりそうだった。
『サオトメ一佐、私ジェイド=リンカネル少佐以下アメリカ空軍編成隊も微力ながらこれより援護に入ります』
アメリカ軍の代表から英語の通信が入る。黒人であり角刈の強面であるが非常に落ち着いた印象を持つ男性である。
『すみません。恩に切ります』
と、丁寧口調の英語で返す早乙女。
「よし、我々はこれよりあの巨大レールガン砲台を攻略する」
朝焼けの大攻防戦が今始まる。陽光に照らされまるでスポットライトを浴びるように海面が光り、まるでこの時にために用意された舞台のようだ。一方、向こうはそんな綺麗事は似合わない無秩序に配置されたメカザウルス、今にも爆発しそうに獣の雄叫びがこの海域に響き渡る。
「私達は直ちにあの砲台を解析し、弱点を探す。君達はそれまでメカザウルスの掃討にあたってくれ。なお、絶対にレールガンの射線上に入るな。情報はわかり次第逐次伝える」
『了解!』
「全機、攻撃態勢に移行。敵を一匹残らず叩き潰せ!」
早乙女に命令が下り、各機は一斉にエゥゲ・リンモに向かっていった。それに反応してメカザウルスも一斉に動きだし、一気に急接近していく。
BEETは武器を構えて群がるメカザウルスに火線を浴びせ、海に落としていく。
「よくも日本にこんなとんでもないモノをいくつもプレゼントしてくれたな、たっぷりと礼をしてやるぜ!」
恨み節を込めながら容赦ない攻撃を次々と加える自衛隊パイロット。さぞかし腹が煮えくり返る気持ちだったのだろう。
その時、アメリカ軍のマウラー、そして戦闘機が頭上を通りすぎ、高速飛行しながら機関砲、プラズマ弾、ミサイルを撃ち込んでいく。
敵からの弾幕が降り注ぐ火中に「イヤッホー」と高らかに声を上げて突っ込んでいき海上、そして小島に居座るメカザウルス、固定砲台にミサイルを撃ちこむ者も。そんな中、『蝶のように舞い蜂のように刺す』を体現した華麗な飛行をしながら敵を翻弄し、ピンポイントで撃ち落とす一際目立つ戦闘機。
「相変わらずだな、ジェイドは」
仲間か認める彼は複雑な軌道をしているのに顔色何一つ変えずに淡々とこなしていく。さらにそこから各仲間に要所要所で的確に指示するのだから流石である。
それぞれが身を削る攻防を繰り広げる中、ベルクラスでは早乙女とマリアが必死に解析が行われている。
「よし、これであのレールガンを何とかできる」
ついに解明した早乙女はすぐにエミリアと愛美、そして戦闘中の味方に通信する。
「解析が終わったから全員よく聴け。あのレールガンは中央一直線に伸びる溝から弾薬を装填するようだ。そしてあの砲台の乗る小島に約二十の冷却装置と思わしき物体が確認できた」
『それを破壊すればいいんですね?』
「ああっ、全て潰せれば砲身が焼けつき自ら破壊されるだろう。今から全機にその解析データを送る」
味方機全機にそのデータを転送し、早乙女は二人に注目、指示を出す。
「エミリアは小島に降りて味方機と共にその冷却装置を破壊に専念してほしい、できるか?」
『大丈夫です、こんな時ぐらい役に立たないと!』
やる気に満ちた張りあるの声で返事する彼女に彼は優しい表情で「よし」と頷く。
「水樹、君はみんなとは違う任務を行ってもらう。データを見た通りあの小島は海底まで伸びる昇降機のようなもので支えられている」
「てことはつまり、あれは沈んだり浮いたりするってこと?」
『察しがいい。恐らく砲台を沈めて隠すためのものだろう。そしてその制御装置と思わしき物体を海底付近で確認した。それを破壊してくれ。そうすればこれは二度と海底に沈めることが出来なくなる。すまないが君一人しかいない」
『任せといてよ早乙女さん、向かってくるメカザウルスなんかみんな返り討ちにしてやるから!』
自信満々に答える愛美に早乙女は「さすが頼もしい」ともはや心配する気はなどなくなった。
「では先に海戦型ゲッターロボを降下させる。水樹、準備はいいか?」
『いつでもいいわよ。あと気をつけてねエミリア!落ち着いて行けば大丈夫だから』
『ミズキ・・・アンタも絶対に無理しないでっ』
女同士で励まし合った後、降下用ハッチが開き海戦型ゲッターロボは滑り落ちながら海へ落下していった。
「エミリア、次は君の番だ」
ベルクラスは小島へ前進、空中に散開するメカザウルスも襲いかかるがすぐに弾幕を展開し寄せ付けない。足場の悪い所が多いがそれでも比較的平地を探しだし、そして砲口の左側にある沿岸部に降下地点を決めた。
「エミリア=シュナイダー、陸戦型ゲッターロボ、出ます!」
降下用ハッチが開き、テーブルが傾き滑り落ちながら地上へ向かっていく。落下速度が上がる途中でパラシュートを開き、ゆっくりと降りていく・・・と思いきや、地上で防衛していた一体のメカザウルスが陸戦型ゲッターロボに狙いを定めており、マグマ砲をパラシュートに撃ち込んだのだ。
「えっ、えっ!?」
パラシュートが燃え上がり、機能を失って落下速度が上がり始めていく。
「きゃあああっ!」
墜落を始める陸戦型ゲッターロボ。下ではメカザウルスがまるで鬼の首を取ったかのように待ち構えていた。落下の衝撃でコックピットがガタガタに揺れ、彼女はパニックに陥り始めていた。その時、タイミングよく早乙女から通信が入る。
『エミリア落ち着け、陸戦型ゲッターロボにはこういう時のことを想定してちゃんと降着機能を備えてある』
「降着機能!?」
『頭から落ちない限りは高い所からでも衝撃の大半を吸収してくれる。それよりも真下にいるメカザウルスに一発かましてやれ』
「は、はい!」
言われるままに左のドリルを高速回転させて、メカザウルスに目掛けて落ちていく。メカザウルスもゲッターロボがドリルを向けながら自分の所に落ちてきているに驚きつつも逃げる様子もない。なら受けてたとうと言わんばかりに。
(怖がっちゃダメよ、みんな必死に頑張ってるのに自分だけ怖じけづいちゃからねアタシ!やればできるんだからっ)
恐怖を押し殺すために自分にそう言い聞かせる彼女。間近に迫る両機。ゲッターロボかメカザウルスか、果たして。
「・・・・・・」
ドリルがメカザウルスを脳天から貫き、ミンチのように粉砕されてマグマが四散する。地面に着地した瞬間、ゲッターロボの脚が自動的に百八十度折れ曲がり、衝撃を吸収した。
「ワオ・・・本当に大丈夫だった」
多少コックピットが揺れたが落下の時と比べたら凄くマシであり、彼女は「ちゃんと生きてるんだ」という実感身に沁みている。
『大丈夫か?』
「はい。サオトメ司令の言った通りでしたっ」
『よし、これからもいけるな?』
「任せてください!」
マグマが溢れるこの場をすぐに離れて、冷却装置を破壊しに疾走する陸戦型ゲッターロボ。それを早乙女は暖かく見届けている。口には出さないが彼女のことを考えるとやはり心配なのだろう。その姿はまるで父と娘のようだ。
「リヒテラ発射準備。イニシエート・ローディング」
再装填を開始するエゥゲ・リンモ。しかし早乙女達はそれを見逃すはずはなかった。
『敵レールガン砲台、発射シーケンス開始!』
それを受けて、アメリカ軍戦闘機が砲身下に突入して溝の中に爆撃を開始。見事、ミサイルコンテナ弾に直撃させて破壊した。
『ミサイルコンテナ弾は装填前の移動時に破壊しろ』
攻略の一歩を踏み出した全員は「勝てる」と希望を見出だし高揚し、士気が一気に上がる。一方でエゥゲ・リンモの構造と仕組みが解明されて、攻略開始する早乙女達に徐々に焦りが見え始める恐竜帝国軍。
「一基破壊!」
「こちらも一基破壊!」
それぞれがメカザウルスや対空砲台の猛攻を掻い潜りコックピットのマップモニターに表示された冷却装置に攻撃し、着々と破壊していく。
「はああっ!」
妨害するメカザウルスをドリルとライジング・サンに内蔵した火器を駆使して蹴散らしながら冷却装置へ辿り着いた陸戦型ゲッターロボはすかさずドリルで穿ち、破壊した。
「やったわ!」
嬉しくて思わず声を上げるエミリア。そして次の冷却装置へ向けて小島内を奔走する。
「ホラホラ、そんなんじゃマナを止められないわよ!」
そして海中では愛美の乗る海戦型ゲッターロボはこちらへ向かってくるメカザウルスを、宣言通りに内蔵した全ての火器でことごとく返り討ちにしている。さすが彼女といったところか。
「暗くなってきたわ、メカザウルスがどこから来るか注意してなきゃ」
コックピットのソナーを最大に活用して周辺を警戒しなごら海底へ降りていく。
エゥゲ・リンモを攻略までもう少しと差し掛かった時、
ヴェガ・ゾーンのオペレーションルームでは動揺している者は一人もおらず、寧ろ落ち着いていた。まるでこれも想定内だと言わんばかりに。
「エゥゲ・リンモに『リナリスを別ルートで装填せよ』と伝達せよ」
オペレーターはすぐに向こうにそう伝え、再び動き出すエゥゲ・リンモを無表情のまま見届けるリョドは一体何を考えているのか。
(リナリス・・・本当は使いたくなかったがこうなるともはや仕方がない。地上人類よ、すまんがこれもゴール様の命令なのだ――)
今の彼はどこか罪悪感に苛まれたような雰囲気がにじみ出ていた――。
リナリスという謎の兵器がエゥゲ・リンモに地下ルートから装填されていることを流石に知らない早乙女は勝利を信じて各機に指示を出し続ける。
(このままなにも起きなければあのレールガンを止められる。だが問題は・・・)
彼はエゥゲ・リンモとは別方向に視線を向けて不安感を抱く。それは、自分達を襲ったミュゥベン小隊を引き付けてベルクラスから離れていった竜斗の安否であった。