一方、エゥゲ・リンモは砲撃をしておらず佇んでいる。小島中に配置されたライトに照らされたそれはこの周りに何もない夜の海上で一際目立っており遠くからみても明らかに分かるだろう。
「エゥゲ・リンモ、オーバーヒートにより冷却に入ります」
砲身から「フシュウ」という排熱する音があちこちで聞こえ、海中では冷却のために海水を大量に取り込んでいる。
「冷却完了次第、砲撃を再開――」
「将軍、日本地区よりエゥゲ・リンモへ接近する反応を一つ確認。それからゲッター線反応を検出」
誰もがそれがゲッターチームだとすぐに理解する。しかしリョドはこれも想定内であり焦る様子はなく相変わらずの忽然な態度でレーダーを見つめている。
「直ちに海上部隊に迎撃するよう伝達せよ。ヴェガ・ゾーンの各部隊も直ちに出撃。エゥゲ・リンモの防衛、及び迎撃部隊の援護にまわれ」
基地からおびただしい数のメカザウルス、メカエイビスが一斉に飛び出してそれぞれ空、海からエゥゲ・リンモへ向かっていく――。
「前方に反応を多数確認、メカザウルスです」
伊豆諸島沖で高速航行中のベルクラスの向かう先には空と海に大量のメカザウルスが既に迎撃態勢に入っている。
竜斗達は全員、これが間違いなく恐竜帝国の仕業であると確信し謎が一つ消えた。
「奴らに構っている暇はない。引き続き最大全速で強行突破するぞ。シールド最大展開」
ベルクラスはさらに速度を上げて突進する。それに対しメカザウルスもこちらへ進軍してくる。
「総員、衝撃態勢に入れ」
ついに互いは激突。ベルクラスは前方に妨害するメカザウルス、エイビスに体当たりをかまして吹き飛ばしていく。
「各機臆さず一斉攻撃、絶対にエゥゲ・リンモに近づけさせるな!」
ベルクラスを何としても破壊しようと全方位からマグマ砲、ミサイル、機関砲、果てには体当たりしてでも進行を妨害する迎撃部隊。しかし最大全速で前進するこの巨大な艦の前には横からドンパチをやらかしたぐらいではビクともしない。
「よしこのまま突っ切るぞ!」
先の迎撃部隊を振りきり、どんどん進んでいくベルクラス。向こうも追いかけてくるがどんどん加速するベルクラスに全く追い付かず。その頃、
「全く頼りない奴らだ。ではアタイ達の出番だな」
エゥゲ・リンモの領空内を抜けていき北へ航行するあの翼竜型新型戦闘機が計六機、キャプテン・リィオ率いるミュゥベン小隊の一行が『矢じり』を象る陣形を保ちながらベルクラスの向けて飛行していた。
「ミュゥベン小隊、各機状況報告せよ」
『サイマァ2、スタンバイ!』
『サイマァ3から6、スタンバイ!』
小隊全員に異常がないかを確認し、まるで待ち焦がれたかのようにニヤリと不敵の笑みをこぼすリィオ。
「準備はいいか、この命知らず野郎ども!」
『隊長、アンタのほうがよっぽど命知らずっスよ」
『そんなんだからいつまで経っても結婚相手がいないんですよっ』
「うるせえ!!帰ったら覚えておけよっ」
今から戦闘に入るにも関わらず、物怖じせず笑い声に溢れ全然緊張の欠片もない。だがそれだけリラックスしている証拠であり彼女らミュゥベン小隊が如何に歴戦の猛者の集まりなのかを示していた。
「我々ミュゥベン小隊の任務は全力を持ってこちらへ近づいてくる例のゲッター線を動力とする奴らを破壊し、エゥゲ・リンモへ行かせないのが目的だ。各機は攻撃態勢に移行、目標を叩き潰せ!」
『サイマァ2、了解(ラジャー)!』
『サイマァ3から6、ラジャー!』
「よし、ミュゥベン小隊全機突撃!」
『メルモ・セイイェ(熱いキスをくれてやる)!!!』
翼竜の翼のような主翼を斜め後ろに尖らせ、まるで飛燕の如く鋭角的になる否や、推進器がフル稼働し急加速。それは音速(マッハ)となり、さらにそれ以上速度を上げていく。そしてベルクラスのレーダーはそれらを見逃さず感知していた。
「司令、ベルクラスの進行方向より急接近する機影を六つ確認・・・え、これは?」
「どうした?」
「機影の飛行速度は・・・マッハ8を越えています!」
モニターに映るはついにこちらへ到達したミュゥベン小隊の新型戦闘機、『メカエイビス・スニュクエラ』がマッハ8を越えるとんでもない飛行速度でベルクラスを通過していくがすぐに弧を描くように旋回した。
「これがゲッター線を使用する奴らか。てめえらにはなんの恨みもねえがこれも任務なんでな、悪く思うなよっ」
スニュクエラは一斉にベルクラスへ攻撃を開始。機首部先端に装備している二連装の銃口から小さなマグマ弾を機関銃のように高速連射してベルクラスに浴びせる。ミュゥベン小隊はたった今、ゲッターチームと交戦(エンゲージ)した。
「こちらも前進しながら応戦、絶対に立ち止まるな」
ベルクラスからも全方位へ機関砲撃を開始、弾幕を張りながらエゥゲ・リンモへ向かっていく。ミュゥベン小隊全機はその圧倒的な機動力から成る華麗な空中戦闘機動(マニューバ)を披露しながら軽々と付いていき追撃していく。
「オラオラァどおした!」
「そんな隙間だらけの弾幕じゃあ俺らを捉えられないぜ?」
スニュクエラからの対空ミサイル攻撃、マグマ機関砲による怒濤の連撃が止まらない。ベルクラスはシールドを張っているので今は耐えているがこのままではいつエネルギー切れを起こすか分からない。
「マリア、こいつらは今まで戦ってきた敵の中でも一番厄介な奴らかもしれんな」
あの早乙女でさえそう認めているほどだ。その時、リィオの乗るスニュクエラの底部にとり付いている、胴体とほぼ同じ長さの大型ミサイルが発射されてベルクラスのシールドに直撃、大爆発した。
「全機、あの艦のバリアが解除され次第、フェイナルタを撃ち込め」
『ラジャー』
ベルクラス内部に被害は受けなかったものの、爆発時の衝撃によりグラグラ揺れる。
「対艦ミサイルかっ!」
「司令、このままでは発射源にたどり着く前に!」
緊迫した中、竜斗から通信が入る。
「どうした竜斗?」
『司令、僕に出撃許可を下さい。空戦型ゲッターロボで何とかしてみますっ』
彼からの提案に早乙女は迷わず首を横に振る。
「ダメだ。こいつらは今まで戦ってきたメカザウルスとは一線を画す強敵だ。恐らくゲッターロボを持ってしても太刀打ちできないだろう。それに今、ベルクラスは高速航行中だ、その中での出撃はあまりにも危険すぎる」
『しかしこのままではベルクラスが・・・っ!』
「あともう少しでミサイルの発射源に到着する。待て!」
確かにエゥゲ・リンモへの距離はあとわずかだ。しかしミュゥベン小隊の猛攻は止まらず、向こうも行かせることを断固許さないようだ。
「このままではシールドが持ちません!」
「くっ!」
窮地に陥る中、突然格納庫のハッチが開き強風が入ってくる。持てる火器を全て装備した空戦型ゲッターロボのテーブルがハッチに移動、カタパルトに連結した。
『リュ、リュウト!!?』
『アンタ何考えてんのよお!?』
当然、エミリアと愛美から通信が入るが当の本人はすでに戦闘態勢に入った顔つきだ。そして険相な病状をした早乙女からも通信が入ってくる。
『竜斗、どういうつもりだ!』
「後で説教でもなんでも受けます。僕はこれより出撃します」
『死ぬ気か!!』
「今はそんなことを言ってる暇はないでしょう!ベルクラスが今にもシールドを破られそうなのに、そうなったらみんなは・・・僕は黙っていられません!」
『竜斗・・・』
「最低でも僕が囮になって敵をベルクラスから引き離されれば・・・僕を信じてくださいっ!』
早乙女は驚くと同時にどこかうれしい気持ちでいっぱいになる。あの気弱で頼りなかった竜斗が今はまさに正義感溢れる男の顔になっていることに成長したなと実感できた。
『わかった竜斗。だが無理するなよ』
「司令・・・ありがとうございます!」
空戦型ゲッターロボは軽く屈伸し、発進態勢に入る。そして、
「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ発進します!」
カタパルトが射出されてついにベルクラスの外に飛び出したゲッターロボだが高速航行中の艦から無理矢理出撃したため凄まじい衝撃で吹き飛ばされてしまうも竜斗はすぐに操縦レバーとボタンを押して体勢を持ち直した。
「りゅ、竜斗君が出撃!?この高速飛行中にです
か!?」
それを知ったマリアも信じられない顔をして狼狽している。しかし早乙女は嬉しそうに少し笑みを見せていた。
「竜斗、ちゃんと男に成長してたんだな、ククッ」
「司令・・・」
「彼を信じよう。我々は必ずミサイルの発射源に到着し、そして破壊するぞ、諦めるな!」
早乙女の力強い言葉にマリアも応えるように頷いた。
「ベルクラスをこれ以上やらせない。俺が相手だ!」
ついに竜斗の駆るゲッターロボがミュゥベン小隊と接近。挨拶代わりと言わんばかりに左に携行したプラズマ・エネルギーバズーカを構えて巨大なプラズマ弾を発射、射線にいた一機へ向かっていくが読まれており軽々と機体を翻して回避、弾は遥か空へ飛び去っていく。
「おいでなすったな、例のゲッター線の機体。相手にとって不足はねえ!アタイとサイマァ2、3はこの機体、4、5、6は敵艦をやりな!」
それぞれ半々に分かれるミュゥベン小隊各機。リィオ率いる分隊は一斉で空戦型ゲッターロボに攻撃を開始する。竜斗も負けてたまるかと、モニターにスニュクエラを捕捉し右に携行するミサイルランチャーを構えて一気にミサイルを発射。
しかし彼女達はその華麗且つ想像を絶する機動力からのアクロバティックな飛行で難なく避ける。
(くっ!追尾性能の高いミサイルなのに一つも当たらないなんて・・・)
その時、リィオ機から発射されたマグマ弾がミサイルランチャーに直撃し、ミサイルに引火して爆散、竜斗は驚き怯んだ。しかし間を入れずサイマァ2からの対空ミサイル一発が左のバズーカに直撃しこれも破壊された。
(うわっ!休む隙もない!)
ゲッターロボはすぐに左右腰に装着した二挺のライフルを持ち構える。
(こうなったら少しでもベルクラスからこいつらを離すんだ!)
竜斗はレバーとペダルをフルスロットルし、超高速でベルクラスから離れていく。リィオは「フン」と鼻で笑った。
「アタイ達を自分の艦から離そうってんだね。面白い、乗ってやろうじゃねえか。全機、あの機体を追うぞ!」
『隊長、艦はどうするんですか!』
「あんなの、アタイらに掛かればいつでも撃沈できる。それよりもミュゥベン小隊の真価をアイツに見せてやろうじゃねえか。自分が如何に格下で無力な存在なのかを身に刻みこんで絶望の崖っぷちに立たせて落とす、あの艦に乗ってる連中にもその様子を見せしめてやるのさ」
高揚しており窮鼠をいたぶるが如く残虐性が滲み出ているリィオに部下達は内心、「まあた悪いクセが出てやがるな」と思っていたが逆らうワケにも行かず直ぐ様、ベルクラスから離れていく各機。
「メカザウルス達が竜斗君を追って艦から離れていきます」
「よし、今の内に前進だ」
二人は竜斗を信じて、ベルクラスを前進させる。既に日の目が見えて、光が差しこみ朝になりつつあり段々と、着実にエゥゲ・リンモに近づいていく。
「前方に無数の反応確認。モニターに映します」
モニターに映し出された光景はベルクラスにいる者全員を驚愕、呆然とさせた。
「ワオ・・・何これ・・・」
「何なのこのデカブツ・・・」
エミリアと愛美が面食らっているが早乙女とマリアも同じであった。
「こんなモノでミサイルコンテナを飛ばしていたのか・・・」
ついにエゥゲ・リンモをこの目にする早乙女達。空、陸、海には夥しい数のメカザウルスがエゥゲ・リンモの防衛に入っており全く隙がなくそのスケールに圧倒されてしまう。
『早乙女さん、何なのアレ!』
「恐らくミサイルの発射源だ。しかし――』
その時だった、エゥゲ・リンモの冷却が終わり再び膨大な電力が砲身に満たされていく。
『リヒテラ発射準備。イニシエート・ローディング』
再び巡航ミサイルを詰め込んだコンテナ弾がベルトを伝って通っていき砲台内に入っていった。
『リヒテラ装填完了、発射スタンバイ』
アナウンスが響き、『ギュオオっ!』というフル稼働の音と同時にエゥゲ・リンモ全体が活性化。
『発射五秒前、四、三、二、一、発射!』
その瞬間、砲口から莫大なエネルギーが放出されたと共にコンテナ弾が再び日本へ発射されたのだった。
ベルクラスは運よく射線上にはおらず、被害はなかったもののしっかりとその一連の流れと分析は行われていた。
「司令、この兵器は――」
「――レールガンかっ」
二人は確信した。