――数日後。夜中。ヴェガ・ゾーンのオペレーションルームではリョドとファブマの指揮の元、大勢の部下がそれぞれ各コンピュータの操作席に配置されモニター一点を凝視している。
「これより作戦『ギュルアンカブ(大地に死を蒔く)』を開始する。エゥゲ・リンモを浮上させよ」
リョドの発令と共にオペレーターからの指示が通信される。それからしばらくしてオーストラリアより北約三千キロの海域。海ばかり見渡す限り地平線の海上より巨大な水しぶきを上げて現れるは金属で出来た人工的の小島に乗る、全長十キロはある想像を絶する巨大な砲台・・・ゆったりと斜めに伸びる砲身の先は・・・方角的に日本へ向けられていた。
『リヒテラ発射準備。イニシエート・ローディング』
砲身直下の溝に一直線に伸びるコンベアベルトが動きだし、端の弾薬庫のハッチが開くと細長い長方形状の金属箱、それらを計四本に束ねた巨大な塊が姿を現しベルトを通じて長い道のりの先にある砲台へと運ばれていく。
それと同時に砲身内ではマグマを動力して発生させた膨大な電気が全体に伝わり、うねるような鈍い稼働音が小島に響き渡る。
『リヒテラ装填完了。発射スタンバイ』
その物体が砲台内部に入っていき、直ぐにアナウンスと共に稼働音がいきなり『ギュオオオ!』と活性化した。
『発射五秒前。四、三、二、一、発射!』
瞬間、エゥゲ・リンモの巨大な砲口から青白い極光が吹き出した。一見それだけにしか見えないが彼らは単なる遊びでこんな大がかりなことをやっているわけではない。そう、それは文字通り、大地に死を撒き散らす雨の素がたった今、日本へ向けて発射された。
「リヒテラ、再装填開始。終わり次第直ちに第二射、第三射と休まず発射せよ。各オペレーターはリヒテラの軌道を追跡!」
一連の光景を見届けたリョドは間を置かず、直ちに発令。同じシーケンスが再び繰り返されるのであった。
――この日、日本に本当の激震が走る。誰もが眠っている安堵の時間に突如、死をもたらす雨が降り注いだ。それはまるで天の、神の怒りでも起きたかのように。
僕、いやみんなも眠っていた所を叩き起こされ、その時には駐屯地は大混乱になっていた。いや、今は日本各地でもこちらのようになっているだろう。
僕はどこから攻撃されているのかという恐怖と疑問もあったが早く被害を防がなければ、と言う気持ちが勝っていた。
これから僕達は長く辛い、そして厳しい体験を味わうことになる――。
「こんなタイミングで何なのよ一体!!?」
慌ててパイロットスーツに着替えた竜斗達は各ゲッターロボに乗り込みすぐに起動させる。緊張と焦りからか、夏の夜だというのにもう既に冷たい汗をかいている。エミリアに至ってはもはや顔が青ざめて震えていた。そんな中、艦橋にいる早乙女から通信が入る。
『三人とも、今日本各地で多弾頭ミサイルによる爆撃が行われ相当な被害を受けている』
「一体どこから攻撃されているんですか!?」
『今、マリアがそれをサーチしている。少し待てっ』
マリアがコンピューターを使い、必死で発射元をしている。サーチ範囲を一気に広げてくまなく調べていく。そして、
「ミサイルの発射元を確認しました。日本より南下約四千キロの海域からです!」
早乙女がその結果をそのまま伝えると三人は耳を疑った。そんな遥か遠くからミサイルを撃っているのか、と。
『入ってきた情報から推測するとミサイル群の飛行速度は超音速かそれ以上と思われる。そのため迎撃は至難だ』
「そんな・・・どうするんですか!」
「どうするもこうするもミサイルを何とかしてこれ以上の被害を防がないと!」
打開作について口論になりつつあるも、またすぐにミサイルがとんでもない速度で飛んで来ているのに悠長なことはしていられない。その時、
「こちらに急接近する反応を確認!数は複数。恐らくミサイルです!」
「何?竜斗、水樹、君達は直ちに出撃してくれ。二人でミサイルを撃ち落とすぞ」
『でもそんなのどうやって!』
『ムチャよ、そんなスピードで向かってくるミサイルを捉えるなんて!』
「向こうもミサイルならこちらもミサイルで対抗する。追尾能力の高いそれぞれのミサイルを持って空、陸から全力で撃ち落とすぞ」
早乙女の提案にたじろぐ愛美に竜斗は、
『やろう水樹、今はこれしかない!司令を信じよう』
『石川・・・』
『大丈夫、俺達はゲッターチームだ。これまでも何とか乗り越えてきたんだ、だから!』
竜斗の覚悟が十分伝わる決意を聞き入れ愛美は、
『・・・わかった。石川、力を合わせてミサイルを撃ち落とすわよ!』
ついに彼女も覚悟を決めてくれた。
「ありがとう二人とも。君達なら必ずやれると信じているぞ」
二人は出撃しようとした時、エミリアから通信が入る。
『リュウト、ミズキ・・・アタシ、何の役にも立てなくてゴメンね・・・ゴメン』
声が震え眼が涙で潤んでおり今にも泣き出しそうな彼女に二人は、
『大丈夫だ。単に陸戦型ゲッターロボはそういうことをするようには造られていないだけでエミリアは役に立たないってことを俺は少したりとも考えたことはないから。俺はお前がいることで今までも、そして今も凄く救われてるからだからエミリアも大切なゲッターチームの仲間だ。今はゆっくり休んでて』
『そういうこと。アンタは高見の見物でもしてなさいっ』
心配しなくていい、と思わせる強い勇敢げな表情を見せつける竜斗と愛美。彼女も暗い表情が一気に和らいだ。
『・・・ありがとう二人とも。頑張ってきてねっ!』
彼女からエールをもらい、二人も力強く頷いた――。
「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ、発進しますっ」
「マナ、海戦型ゲッターロボ、行くわよ!」
ベルクラスから二機のゲッターロボが飛び出し、それぞれのルートで地上へ上がっていく。
「マリア、ミサイルを対処し次第竜斗達を帰還させてすぐにベルクラスを発進、ミサイルの発射源を叩きに最大全速で向かうぞ」
「了解!」
外に出たゲッターロボはそれぞれ空と陸に配置する。すでに駐屯地内にはBEETが複数、ミサイル迎撃のために火器を構えて配置していた。
「なんだ、これだけいるなら案外楽そうじゃないっ」
愛美は自分達だけではないことに安堵した。一方の竜斗は安心しておらず神経を張り巡らせてミサイルの破壊にだけ集中していた。
「ミサイル、来ます!」
各機のモニターに確かに複数のミサイルを捉えていた。レーダーを見ると確かに凄まじいスピードで近づいているが流星という例えには到底及んでおらず、明らかに速度は落ちている。
「いくよ、水樹!」
「絶対落としそびれないようにね!」
空戦型ゲッターロボは携行するミサイルランチャーを構え、海戦型ゲッターロボは内蔵するミサイルポッドを展開、迎撃態勢にはいった。
(けどおかしい・・・確かに凄いスピードだけど迎撃できないってほどでもないような気がする・・・)
これならなんとか撃ち落とせるのではないかと、流星というのは目撃者が焦りなどからそう見えた単なる誇張ではないのか、とさえ思える竜斗――その時、
「えっ!?」
突然、向かってくる一つのミサイルからさらに十を越える反応が生まれ、それらは四方八方に散りそれらが流星の尾を引きながらそれぞれ地上一点に落ちていく。
「ウソ・・・っ」
地上に着弾した瞬間、巨大な爆炎があちこちで巻き起こる。『大地に死を蒔く』光景を目にした全員が一体何が起こったのか理解できず唖然となった。それは早乙女とマリアもしかり、
「司令、これはまさか・・・!」
二人は段々と理解していく。今日本各地に落ちているこのミサイル群は如何に恐ろしいものなのかを。
「全機、あれはミサイルコンテナである。分散されると破壊はより困難になる。その前に何としても撃ち落とせ!」
早乙女の号令に各機は一斉砲撃を開始。ミサイル、プラズマ弾、機関砲、ありとあらゆる弾による弾幕が夜空に展開する。
「うわああーーっ!!」
竜斗、愛美も死に物狂いでミサイルコンテナを破壊しようとミサイルを撃ち込む。弾幕が功を成し、見事ミサイルコンテナに直撃し空中で爆散した。しかし休む間もなく第二、第三のミサイルコンテナが凄まじい速度で飛んでくる。
コンテナが空中で開き、中から束になった羽翼付きのミサイルが空中に放り出されると為すままにジェットエンジンで急加速し、地表めがけて推進する。
「コンテナの中身は・・・巡航ミサイルの塊か!」
各機それぞれはミサイルコンテナ、拡散する巡航ミサイルの破壊に必死にかかるが、それぞれ弾薬切れなどで追いつけなくなくなってきている。
「数が多すぎます、このままではこちらも被害が!」
次々に飛来するミサイルコンテナが開き、巡航ミサイルがまるで雨の如く駐屯地へ向けて落ちていく。
地上の機体は弾薬を惜しまず撃ち続け破壊、数を減らしていくが残ったミサイルのいくつかがなんと海戦型ゲッターロボの頭上に・・・。
「いやあ!!」
このままでは直撃は免れない、愛美は思わず悲鳴を上げた。
「水樹!」
その時、竜斗の空戦型ゲッターロボが真上に現れて右腕を突きだしビームシリンダーを展開、素早くゲッタービームをミサイル全てに撃ち込み、爆散させた。
「大丈夫か水樹!?」
「石川・・・遅いじゃない・・・っ、けど、ありがとねっ」
愛美の心から感謝の言葉を、彼は快く受け取った。ちょうどこの時、遥か先のミサイル攻撃が止まったのか反応が途切れていた。全員はどこか不気味だと安心できず、警戒するが早乙女はこれをチャンスの時だと捉えていた。
『竜斗、水樹、今すぐベルクラスに帰艦だ。直ちにミサイルの発射源を叩きにいくぞ』
「えっ、けどまたミサイル攻撃が来たら!」
心配する竜斗の元に.BEETのパイロットから通信が入る。
『心配するな。ここは俺達が守る、君達はすぐにミサイルの発射源の元に向かってくれ』
『この危機を打開できるのは君達ゲッターチームしかいない、早く行くんだ!』
「皆さん・・・分かりました。ここは頼みます」
「みんな、絶対に死なないでね!」
彼は頷き、それを了承した。竜斗と愛美はすぐにベルクラスに戻ると艦のドックゲートが開きベルクラスがついに発進。星々の瞬く夜空に飛び出し、発射源のある遥か南方へ力強く飛翔していく。
「ベルクラス、最大全速!」
「了解!」
これ以上、ミサイル攻撃の再開がないことを一心に祈るのであった。そして何が何としても日本各地に恐怖と絶望、そして死を振り撒いた元凶の破壊することを全員は心に決めた。
―正直、謎だらけで不安で仕方がなかった。だけど僕達は立ち止まることも引き返すこともできない。何故ならこのままでは日本は次の朝の陽の目を見ることができなくなるかもしれない、だからそんなことは絶対にさせない。僕達は覚悟を決めて、遥か南の先に君臨する、巨悪の権化であるとんでもない建造物へと挑んでいった――。