「今度の土日、泊まりがけで私達で温泉に行かないか?」
……早乙女がそう提案した。
いきなり過ぎて全員が彼に気味悪がったが、
「別におかしいことはない。戦いと訓練だらけの毎日だと気が滅入るだろうと思ってな。
私のお気に入りの温泉があるんだがどうだ?
山奥であまり人がいないからゆっくりできるぞ」
……まあ確かに訓練の繰り返しとメカザウルスの掃討に追われる日々で確かに気疲れしているのも確かだ。それにゲッターチームだけでどこか出掛けることもなかったし、全員が賛成した――しかし、これには裏があることには今は誰にも気づかなかった。
――その当日、早乙女がレンタルした大型車で出かける五人。マリアは助手席に、三人は真ん中の席に並んで座っていた。
「司令が温泉に連れてってくれるなんてホントにびっくりだよ」
「マナも、最初「えっ?」と思ったけどね。やるじゃん早乙女さん」
「うん。アタシ、本場の温泉なんて初めてだから楽しみだなあ。きっと日本独特の景色や雰囲気を味わえるんだろうなあ……」
竜斗達三人は車内で楽しくお喋りしていた。すると、愛美は竜斗に何か疑うような視線を送る。
「イシカワ、絶対やらないとは思うけどもし覗いたら見物料とるからね」
「はあ?やらないよそんなバカなこと……」
「へえ、顔赤くなってるけど?」
「水樹がそう言い出したからだろ!」
「じゃあやっぱりそういうの想像してたんじゃない!」
「二人共やめなよ。けど……確かにリュウトがそんなことしたら幻滅しちゃうかも……」
「だから、やらないって!」
「別に見てもいいよ、それほどマナ達の裸が魅力ってことだし。
けど見るからにはそれなりの見返りをさせてもらうから、ムフフフフ」
「…………」
そして前では早乙女とマリアが話をしている。
「意外でしたよ。司令がこんなサプライズを用意してくれるなんて」
「ああっ、たまにはな。いくら私とてたまにはゆったりしたいしな。
まあ君達も『思う存分』自身を解放して楽しんで、疲れを洗い流してくれ」
「司令、思う存分とは?」
「……別に意味はない。君も毎日気の張りっぱなしで疲れているだろうから向こうでそういうのを解放してさらけ出してくれってことだよ」
「は、はあ……」
――誰もまだ気づいていなかった。早乙女がまさかあんなことをするとは本人以外に誰も……。
県外に出て、人里離れた山道を登っていく、周りは完全に森だけでそういう温泉らしきモノは見当たらない。
誰もが段々と不安になってくる。
本当にこんな所に温泉などあるのかと。砂利道に入り、ガタガタ揺れることもあったがそうした中で数十分後、彼は車を止めた。
「ついたぞ」
止まったその前には、舗装された巨大な土地に、まだ新築ともいえる屋敷のような一軒家が確かにある。看板もちゃんと『旅館』と書かれていた。
「約十年程前に出来た温泉旅館なんだが、見てわかる通り山奥に立てられているため滅多に人がこないんだ。
しかしそれを逆手に取って、人がいないからゆっくり出来ると一部の人間には大人気な温泉スポットなんだ、政治家や有名人の御用達でもある」
全員が「へえ」と納得し、感心する。
止まっている車は端に並んで止まっているのしかない。おそらく従業員の車だろう。
駐車場に車を止めて彼らは荷物を持ち、地に降り立つ。
「ウワオ……こんな場所に温泉があるなんて感激っ」
その山奥の風景と澄んだ空気が彼らを歓迎してくれる。早乙女も車から降りてトランクに入れた巨大なバッグを持つが、何故か金属音が互いにぶつかり合う音が聞こえている。
「司令、この中に何が入っているですか?」
「これか。仕事用のノートパソコンとかその他諸々だ」
「え……なんで温泉にそんなものを?」
仕事を忘れてくつろげと言っていた本人が仕事用のパソコンを持ってくるのはいかがなものか。
「……実は仕事で必要な書類作成がまだ終わってなくてな。もう少しで終わるからここで片付ける気で持ってきた。
なあに、一時間あれば全て終わるから気にするな」
「は、はあ……大変ですね」
その理由に竜斗は納得しこれ以上は深追いはしなかった――。
旅館に入り、受付を終わらせると着物を着た従業員に部屋へ案内される。旅館独特の和室が何とも日本独特の雰囲気が味わえる。
「では、お風呂に行きますか」
「はいっ!」
先に女子組が入浴の準備をして部屋から出て行く。
部屋に一人取り残される竜斗。そして何故か早乙女の姿が見当たらない……。
だが数分後、すぐに早乙女が部屋に入ってきた。
「司令、どこに行ってたんですか?」
「トイレだ。女性陣は?」
「先にもう温泉に行きました」
「そうか。では我々も行こうか――」
彼も着替えを持ち、部屋へ出ようとする。
一方、早乙女はバッグを置き、中をガチャガチャいじっている。
「竜斗、先に行ってくれ。私も中身を整理して準備してからいく」
そう言われ、彼だけ男風呂へ向かった。綺麗なこの旅館にいると、今までいたベルクラスや駐屯地特有のあの無機質さとは真逆の雰囲気を実感し、安らぎを感じていた――。
脱衣場で服を脱ぎ、誰もいないと言うのにハンドタオルを下半身に巻く竜斗。彼のクセなのだろう。
近くにあった体重計に乗り、自分の体重を見る。
「全然増えてない……最近よく食べてるんだけどなあ」
訓練して、体力練成して、そして夕飯はよく食べるようになったのに全く体重変わってないことに不思議に思う。太りにくい体質なのか。
だが、最近これを気にしているエミリアに話せば絶対に自分に嫉妬するだろう。
露天風呂のある外へ出ると自然の済んだ空気に独特のお湯の臭いと熱気、ひんやりとした石造りの床、竹細工で出来たイスや柱、檜で出来た縁……まさしく温泉だ。近くの洗い場で体をお湯で洗い流し、温泉へ。
足で湯加減を見て、入れると分かるとゆっくりと足だけ浸かり縁に座り、ゆったりと雰囲気を味わう。
「いい場所だなここ……っ」
……しかし、この男風呂にいるのは自分だけで何か寂しくなってくる。
それにしても早乙女は一体何をやっているのだろうか――。
そんな時、脱衣場の出入り口が開く音がして彼は振り向くと裸になった早乙女がついに入ってくる。
「しれ――――」
だが彼の口は止まった。確かに早乙女だ、しかし手に何か持っている。
右手にラジコンのコントローラーのような送信機と思わせる機械と左手にも何か持っており、彼と合流する。
「どうだ、ここの雰囲気は?」
早乙女からそう聞かれるが、そんなことよりも彼の持っている謎の機械にばかり注目してしまう竜斗。やはりラジコンコントローラーと虫……トンボに模した精巧に造られたロボットだった。
「し、司令……これは何ですか?」
「これか?高性能小型カメラ付きの手作りラジコンだよ」
「けどなんでそんなものを?」
アイコンタクトで女風呂の方へ視線を向ける早乙女。それに釣られて竜斗も見ると、だんだんとその意味が分かってくる。
「司令……もしかして良からぬことをしようとしてませんか?」
その問いに彼はドヤ顔になる。
「君の今思っていることが正解だよ」
……まさかの覗きを決行しようとする彼に、仰天し大声を出してしまいそうになるが瞬間物凄い形相で睨まれて阻止されてしまう。二人は向こうに気づかれないように小声で話し出す。
「司令ってそんな趣味があったんですか……?」
「いや、私は見るつもりはない」
「じゃあなんで……?」
彼は竜斗と同じく足だけ温泉につけて縁に座り、コントローラーの電源を入れて、送受信のための周波数を合わせるためにコリコリとツマミを弄っている。
「盗撮した映像を編集、加工してディスクに焼いて、その手のマニアに売りつけるのさ」
「………………」
「少しでもゲッターロボやベルクラスの維持費を稼ぐためだ。
私はこれらの開発建造で多額の借金を抱えているんだ。
正直、本業だけでは賄い切れない、これは副業だ」
「しかし、こんなことで稼げるんですか?」
「いや、意外と売れるんだ。
今までマリア、他女性クルーを盗撮していたのを売っていたのだが、特にマリアは英国美人だからな、その手のマニアにはすごいすごい。
それでも雀の涙だが『塵も積もれば山となる』だ」
……ちょっと待て、そんな最低な行為を今までやり続けていたのかと驚愕し、そしてドン引きの竜斗。
「そして今回、エミリアと水樹というオールスター揃いだ。いつも以上に稼げるだろう」
「……もしそれが向こうにバレたらどうするんですか、下手したら捕まりますよ……!」
「竜斗、いいことを教えてやろう。バレなければ犯罪じゃないんだ――それに」
「……それに、なんですか?」
「風呂場だけと思うなよ。
ここだけの話だが脱衣場、女性用トイレにも防水性超小型高性能カメラを仕組んである。
しかもマニアなら絶対に興奮する超絶神アングルでだ――」
……竜斗はこう思った。この人は下卑だと――軽蔑する気持ちでいっぱいだ。
「ちなみに竜斗、もし君がこれをバラしてみろ……どうなるか分かるだろうな」
まるで鬼の如き形相へ豹変する早乙女に恐怖を、そしてもう後戻りは出来ないとも感じる。
「……あなたがこんなにゲスい人だと思いませんでした……」
「何とでもいえ。私は目的のためなら手段を選ばんし、何を言われようが気にしない」
竜斗は次第に何か気づいてた。それは、
「もしかして僕ら全員を温泉に誘ったのは……」
「大正解。それに、いくらここに来る客が少ないからだとしても、全くいないのはおかしくないか?
何故なら今日は私達の貸切だからだ。ここの従業員や女将は知り合いでな、私が頼んだらあっさりそうしてくれたよ。
まあ他の女性客がいなくて残念だがこの方がかえって安全だ」
……これで全てが分かった。そしてバッグの中身が何なのか、そして早乙女だけ部屋やここに来るのが遅かったのか……これも彼が『盗撮』のために仕込んでいたからだった。
「長話は無用だ、早くしないと彼女達が風呂から上がって撮影が出来ん。
この時のために作ったこの『デバガメくん28号』は外見、重さ、羽根音、全てが本物のトンボに似せて作った傑作だ」
……というか盗撮をするためにそんなモノを作る頭脳や資金があるのなら他の稼げるやり方を考えられるんじゃないか……竜斗はますます早乙女の行動思考が理解しがたくなる。
「僕、何があっても絶対に知りませんからねっ」
「気にするな、私個人でやる」
そしてトンボ型メカの電源を入れ、コントローラーをいじると「ブーン」と高速に羽根を上下に動かし浮遊を始めた。
コントローラー中央の液晶モニターはメカの眼に映る景色を高画質で送信してきてくれる。
巧みな操作によって本当のトンボのように動き、これなら確かに彼女達は本物と錯覚するだろう。
そしてこのまま高く飛翔し、何の躊躇なく垣根を超えて女風呂へ入っていった。
「お、いるいるっ」
モニターに映るは温泉に浸かりゆったりしているマリア、彼らと同じく足だけ浸かるエミリア、そしてほてたのか外の竹細工で出来たイスに座る愛海がそれぞれ温泉を楽しんでおり、その魅力的な裸体を惜しみなくさらけ出している。
特にエミリアと愛海の二人は年頃の女子高生であり、その豊潤な胸、腰のくびれ、プリンとした臀部はまさに男性なら興奮すること間違いなしだ。
「あ、トンボだ」
エミリアに発見されるも全然盗撮用メカとは気づかれておらず、すぐに無視される。
にしてもエミリアの身体は日本人にはなし得ないほどのナイスバディぶりでマリア以上に固定ファンが付きそうである。
「全然気づいてないな、よしよし」
早乙女は全く興奮などしておらず飄々とした態度で操作している。
何故ならこれは彼にとって、金稼ぎのネタなのだから。
――一方、竜斗は関わりたくないので離れた場所で浸かっている。
だが彼も気になるのか早乙女の方へチラチラ見ている。
「見たいのなら来い、エミリアの裸が高画質で見れるぞ」
「…………」
早乙女に気づかれているも彼はその場所から動こうとしなかった。
確かに向こうの夢の世界を見たい。正常な男だったら少しはそう思う、それは竜斗だって同じだ。
だが自分も共犯者になるのではという背徳感もあり、それが強かった。
そんな竜斗に構わず、淡々と操作する早乙女はさらに接近しようとトンボを下降させる。
しかし彼女達はトンボがこっちに飛んできたという認識しかなく、全く気づいていない。
だがその間に彼女達の恥ずかしい映像ばかりが取られていく、胸、臀部、秘部……彼女達にバレたら確実に訴えられること間違いの映像が――。
だがそうしているとさすがに怪しまれるので適度に離れた場所へ飛んでいくなどトンボらしい行動を取り続け、それは彼女達は温泉から上がり脱衣場へ入っていくまで結局バレなかった。誰もいなくなったことを確認し、トンボを自分の元へ戻す。
「――これでよし」
彼は脱衣場に行き機具を念のために隠すように置き、再び戻ると後は普通に温泉に浸かりゆっくりする。
「一仕事終えた後の温泉は気持ちいいな」
「…………」
「竜斗、もう一度言っておくぞ。『口は堅く閉じておけ』」
「……はい」
もしバラしたら早乙女のことだ、いかなる手段で報復してくるか分かったものじゃない――ここは自身は見なかったことにするしか選択肢はなかった。
それからはごく普通に旅館のご馳走を食べたり、内部の娯楽場で卓球したり、古いがゲームセンターを珍しがったり遊んだり、部屋で楽しく会話しながらと、旅館独特のゆったりとした雰囲気を味わった――。
竜斗はもう一つ不安があった。そう『女性用トイレ』である。
彼処にも早乙女の仕組んだカメラがあると言う話なのだからできることなら彼女達にトイレへ行かないで欲しいと思うが、そこは人間の生理現象、そうはいかないのは当たり前だ。
しかしこれをバラした所で確実に早乙女から何されるか分かったものではない。
身の安全を考えてこれも聞かなかったことにするしかなかった――それに関わっていないのに、足を突っ込んで深入りするのはごめんだ――彼の優秀な思考がその選択へと導いたのだった。
そして次の日、チェックアウトして帰る際、早乙女が「先に車に乗っててくれ、私が忘れ物がないか見てくる」とマリアにカギを渡して戻っていった。
彼女達三人は分からないだろうが竜斗は分かっていた。『ついでに各カメラを回収しに行ったのだ』と。
……それからしばらく待ってていると、早乙女が戻ってきた。
「すまない遅くなって。では行こうか」
……こうして早乙女の行為がバレることなく全てを終えて帰っていった。
それから彼は撮った各カメラ映像をパソコンを駆使して顔が分からないように、そして時間などの編集、加工していく。その時の早乙女のの外面は完全に無表情だった、興奮することもない。完全に仕事だと割り切っていた。
脱衣場の方はともかくトイレでの映像ではマリア達三人、そして女性従業員の『恥部』のオンパレードだ。
一部『お見苦しいもの』や一部マニアなら大歓喜するようなシーンがあったが、彼は表情を一切変えずに淡々とこなしていく、はっきり言って不気味である。
「――よし、完成だ」
――約二日間、それも暇の時間を使って完成した例のディスクを早速、まさかの自ら設立したアダルトサイト(管理人匿名)にそれを載せると買い手が多数出現し、注文が一気に入った。
手際よく全て手続きが終わるとこれでようやく一仕事が終わり満足げにため息をついて、背伸びした。
大成功だ――だが、後にこれが大問題になろうとは――。約二週間後、司令で仕事をする早乙女の元に恐ろしい形相をしたマリアが駆けつけてきた。
「司令……あなたまさか良からぬことをしてませんか……っ!?」
「はっ?」
マリアは積み重なったDVDパッケージを彼の目の前に差し出した。
それは販売用アダルトDVD……それも早乙女本人が撮影した映像を加工したあの温泉での、いや今までの盗撮したDVDだったのだ。
「とある男性隊員の所有物なんですが、その彼が映像を見て「これ、もしかしてマリアさん達じゃないですか?」と申告してきたんです……私は正直見たくもありませんでしたがそう言われると確認する他ないので見ました。
確かに映像内に映る温泉、女性トイレ、脱衣場があの温泉旅館のと余りにも似すぎていますし、登場する女性達がどう見ても私達に一致しているとしか思えないんですが……」
「…………」
「それに……他の隊員にも「これベルクラス内じゃないですか?」とも申告してくれたのでそれも確認しました。
背景が完全にベルクラス内にあるものと同じなんです、一体これはどういうことですか?」
ついにバレたか。だが早乙女は焦る様子もなく平然としている。
「温泉旅館の……季節による周りの景色、温泉の配置を見てもあの時の風景が一致していますし、客は確か私達だけだったようなのに……ベルクラスにしてもこれは完全に男性の所業ですよね?
そう考えると、こんなことをできるのは司令か竜斗君に絞られるんですが、竜斗君に聞いたら「死んでもそんなことはやらない」と断固否定していたので司令なんじゃないかと――どうなんですか!」
睨みつけながら問い詰めるマリアだが早乙女は物怖じすらしていない。
「私はそんな趣味はない、そんなゲスなことをするワケないじゃないか」
平然とそう言い切る彼だが、対し彼女は怪訝な思いだった。
「……司令、隠すつもりなら私は起訴も辞さない覚悟でいますよ。
エミリアちゃん達にはまだこの事は言ってないですが、もし知れたら彼女達は私のように嫌悪感を抱き、悲しみ、怒り狂うことでしょう……何か知っているのなら言うべきですよ?」
「だから違うって。私だって今初めて知った、一体何をいえばいいんだ?
そもそも他の者の仕業と言う可能性を切り捨てて私や竜斗の犯行だと……憶測が過ぎるんじゃないのか?」
「…………」
「違うか?それでも疑うなら私の部屋、身体、全てを見せてやろう。私も冤罪をかけられるのは流石にイヤでね」
「……い、いえ、確かに。いささか軽率でした……」
「私も犯人探しに協力する、安心しろ」
「は、はい……ありがとうございます……っ」
彼女は渋々ながら納得し部屋から去っていく。
上手く撒いた早乙女はまた仕事を再開――その約一時間後、この場に誰もいないことを確認すると引き出しを開いて、室内のモニターを展開するために使うリモコンを取り出す。
しかしそれの裏側にある隠しブタを開くと『赤いボタン』が。
それをポチッと押すとベルクラス内がドンと爆発したような音と共に激しく揺れた、その数分後マリアと竜斗達が慌ててこちらへ駆けつけてきた。
「司令、何かあったんですか!」
「いや、今調べてるんだが……特に変わった所はない。なんだったんだろうな?」
結局、原因が分からないままマリア達は去っていく中、竜斗だけは踵を返して早乙女を見る。
目のあった彼はそのドヤ顔を見せつける。
その顔から伝わってくる思いを受け取ると竜斗は「この人、どこまで計算通りなのか」と唾を飲んだ――そして全員去った所を見届けるとため息をついた。
(『立つ鳥跡を濁さず』ってな)
――証拠隠滅。そして例の自作アダルトサイトを覗こうとするとサイトが壊れているのかエラー表示に現れて入れない。
そして足のつかないように買い手、全員のパソコンなどに誰も対処不可能で、本体自体を壊しかねない超強力の自作コンピューターウイルスを流し込んでいた――これも全てリモコン裏の赤いボタン一つで全て発動するように仕込んであった。
抜け目のない早乙女だ、こう言う事態もバッチリ想定しているのである。
(さてと、もう盗撮は止めとくか――次はどういう金儲けをしようか、武器や麻薬の密売のほうが儲かりそうだな)
……などと諦めていないどころか、さらにやり方が悪質となっていくか――。
(なあんてな、流石にこれはマズいな。さて、どうしようものか――)
珍しく笑みを見せて色々と思い浮かべてみる早乙女――凄く不気味であった。
しかし、彼も心の内では見つかった際に焦った……ではなく、寧ろ喜んでいた。
バレるかバレないかの『スリル』を味わっていたのだ、だから次もそのスリルを味わうために敢えて、確実な手段がいくらでも思い浮かぶのにあえてすぐバレるような間抜けな手口を考えて組み込もうとしていた――なので次も犯罪行為にしようと考えていた。
……やはり早乙女はゲスな人間であった。