ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十四話「創造主」③

「なんだあれは……」

 

突然海中から現した謎のそれは、甲殻類と思わせる固そうな殻を持った銀色の人型の身体にエイリアンとも言える、地球上の生物とは思えない奇妙な頭部……そして背中には羽根のような六本の触手が突き出てうねうねと動いている、見ただけで危険性を感じさせる物体、なによりそれがエクセレクターと同程度の身長であることだ。そんな物体が彼らの前に立ちはだかったのだ。

 

「んっ?」

 

背中のうねうねと動く触手が突然止まり、前方へ向けて突き出された途端、残っていたブラック・インパルス隊のステルヴァーが一瞬で『ボン』という音とともに破裂――ジョナサン以外の機体は全て消し飛ばされた。

「お、お前ら……っ」

 

彼らの生体反応がなくなり、自分以外の仲間が全て、一瞬でこの世から消えてなくなったことに愕然となるジョナサン。

 

「なんだこいつは……?」

 

「え、得体の知れない何かを、危ない何かを感じます……」

 

早乙女達もその威圧感か殺気のようなものを感じ取れ、圧倒されている。それは竜斗達も同じであった。

 

「メカザウルス……?」

 

「いや、恐竜のように見えないけど……」

 

「なぜか知らないけど寒気が……」

 

その尋常ではないこのオーラがそれから放たれており、全員が圧倒されている。

 

「な、なに……!?」

「頭の中に何か入り込んでくる……!」

 

その謎の物体から、強力な思念波が竜斗達全員に流れ込んできており、生物本人らしき声と、ある映像(ビジョン)脳内へ強制的に流れ込んできていた。

 

『我々はこの星、地球を創造した者達である――』

 

「!?」

 

地球を創造……突然と、嘘とも思えるようなスケールの大きい事実をテレパシーで伝えるこの生物。しかし『我々』とは一体なんなのか――だが思念波を受け続ける彼らに更なる映像が脳内に入っていく。

 

『我々はかつてこの青き星、地球が生まれるよりも遥かに太古の昔、この銀河系宇宙を離れた星系に住んでいた――』

 

その星は地球より黄緑色の惑星であり、地球と同じ成分を持ち、どんな生物も住みやすい特徴を持っていた。

そしてそこに住む知的生物は、甲殻類系生物の人型にしたような姿であり地上人類、爬虫人類の二種の地球人類とは比べ物にならない高度な文明を持ち繁栄の限りを尽くしていた。

 

『だがそれも突然ある日、終止符を打たれてしまった……そう、あの我々の天敵であるあの宇宙線、災厄とも言えるゲッター線が星に降り注いだのは――』

 

その星に大量に降り注がれたゲッター線により、耐性のない彼らは見る見るうちに、まるで重度の放射線障害のような症状が現れて次々と死に絶えていったのだ。

 

『我々だけではない、そのゲッター線は無差別に数々の星に降り注ぎ、そこに住む者達も全員、そのゲッター線の耐性が全くないため滅亡していった――あたかも、積み上げた積み木を崩すようにゲッター線は情け容赦なく、幾多の星に住む無数の無関係な者達の命まで奪ったのだ』

 

絶滅に瀕した彼らはすぐさまそのゲッター線の研究に全てを費やし、そして理解したのだ。ゲッター線に耐性を持つ……いや、ゲッター線が耐性を与えた、つまり選ばれた生物はその恩恵を受けて飛躍的に生物的に知能、身体能力、そして理性、遺伝子……全てが優性に働き、子孫にも見事に受け継いでいくこと、つまり凄まじい進化を促すことが分かった。

 

『まるで神の所業とも言える宇宙線……だが我々のような耐性のない者にとっては悪魔のような存在。そこで我々は決めた――』

 

彼らは今、持てる文明の技術を全てを費やしてとある計画が進められて行われた、

それはゲッター線がそこまで降り注がれないような遙か遠い外宇宙の未開の惑星に降り立ちそこで新たな生物を作成、長期間かけて、ゲッター線に打ち勝つよう進化させる、というモノだ。

 

『我々の技術力なら新生物を造りだしてさらに人工進化をさせることなど容易いこと。

沢山の犠牲を払ってゲッター線の成分、弱点を掴むことに成功した我々は、ついにその計画を実行するためにこの創造用兵器の開発が進められた――』

 

そして彼らは造り上げた――ゲッター線に関する知識、そしてそれに対抗するためにありとあらゆる計算と事象を想定された対策からの惑星、生物全てを作成できる能力を持った、いわば人工的な神とも言える兵器が――。

 

『しかし我々には時間がなかった。ゲッター線の影響力は我々開発陣にまで及び、身体を蝕み始めた、残り僅かな命と悟った我々はその兵器に自分達の意思までも埋め込み完成させた――』

 

完成したその兵器は宇宙へ飛び出して、彼らの望むノウハウを持つ優秀な『種』を蒔くために途方にないほどの時間を費やした長旅の末、自分達の思想に適応した惑星へと辿り着いたのだ。

 

『できたばかりのその惑星で生物はまだ生まれてなかったが我々の住んでいた星と似ており、さらに大気や地質成分も良質と分かった。

ここが最良だと我々はこの惑星をベースとして作成を始めた――』

 

映像がここで途切れて全員が意識が戻るが、誰もが信じられないような顔を浮かべていた。

 

「まさか、この兵器が降りたったその惑星というのが……っ」

 

そう、彼らの住むこの地球である。すると再びこの生物からのテレパシーが響いてくる。

 

『そこで我々が様々な生物を作成して試験したが、その中でもザラザラとした鱗を持つ変温動物……この星の言葉でいう爬虫類が一番最適な能力を持つと分かり、それをベースとした新種族、爬虫人類を造り上げた。

そして他の生物は爬虫類、爬虫人類に役立つために使役する、所謂家畜や奴隷のために残した。

最初は順調に進化していき、時間はかかるがいずれゲッター線に耐性を持ち、打ち勝つ能力を持つ高度な知的生物として繁栄を築かせるハズだった……が』

 

生物は恐るべき威圧感をエクセレクターに浴びせた。

 

『そうだ、貴様が……ゲッター線がこの地球に降り注いだのだ。

全ては想定外だった、進化途上にあった爬虫人類は当然ゲッター線に耐性も対応の術も持っておらず、我々にも大きな痛手を被り結果、我々は傷を癒やすために深く地中に潜る以外に選択肢はなかった――だが、その大量のゲッター線を浴びた別の生物が急速に進化していったのだ、それは――』

 

「まさか……それが俺達だというのか……っ」

爬虫人類とは、地上人類とは……そしてなぜこの地球上に住むに二種の地球人類がこうやって憎み合い戦うことになったか、この生物の話を聞いて全てを理解した竜斗達。

自分達、地上人類はそういう過程で生まれたイレギュラーな存在であることにも気づき多大なショックを受けた。

 

『我々は身体を癒やすために眠りにつくことになり、爬虫人類は知能や身体能力はともかく、ゲッター線に耐性を持つための遺伝子的な進化の過程を完全に失われた。

その間に貴様らはこのゲッター線が降り注ぐ惑星に堂々に住み、恐るべき進化を遂げた、あの忌々しいゲッター線に選ばれた貴様らがおぞましく憎いのだ!

ゲッター線が降り注がねば今頃、爬虫人類は我々が望んだ理想の生物になりえたのだ!』

 

その時、生物は背中のうねっていた六本の触手を羽根のように展開した。

 

『そしてやっと傷を癒えて復活した我々が、作成過程に生じた『バグ』による産物である呪われし貴様らを全て駆逐する、滅せよ!』

 

――この生物であり兵器でもある、爬虫人類が崇拝する主神、または創造主と呼ばれるゼオ・ランディーグが地球上に住む竜斗達含めた、地上人類全てに裁きを下すため、滅ぼすために戦闘態勢に入るとこの一帯、いや世界各地に雷、嵐、猛吹雪などの異常気象が発生、大混乱が巻き起こっていた。

 

「来るぞ!」

 

早乙女の一言で各機は散開するが、ゼオ・ランディーグはエクセレクターのように姿を消した。

 

「なっ!」

 

後退するジョナサンの駆るステルヴァーに先回りし、背中の触手で胴体から突き刺して捕縛した。

 

「ジョナサン!!」

 

“マナミ……っ!”

 

その光景を目撃した愛美は慌てて彼を呼び叫ぶ。

 

「竜斗、ジョナサンを助けて!」

 

「うん!」

 

ステルヴァーをゼオ・ランディーグから引き離そうとエクセレクター1がすぐさま突っ込んでいくが、ジョナサンの突き刺した触手には強力なパワーが集中していた。

 

“来るなお前らっ!”

 

「ジョナサン!?」

 

“ごめんマナミ……どうやらお前との約束は守れないようだ……だけど死ぬな、マナミ――”

 

 

ジョナサンのその言葉を最後に、ステルヴァーは仲間と同じように『ボン』という音と共に破裂、残骸やパイロットすら見あたらなかった――。

「嘘でしょ……っ」

 

 

「た、大尉まで……っ」

 

まるで時間が止まったかのようにエクセレクターの動きが止まり、戦慄している。

 

「ジョナサン……………マナをお嫁さんにしてくれるって約束は……どうするの……」

 

全てが終わった後に彼と一緒に人生を歩むと誓った愛美にとって、最初は信じられず現実を脳が拒否していたが次第に途方もない絶望、悲しみが押し寄せて、彼女は慟哭してエクセレクター、この北極圏にこだました……。

 

「ジョナサン大尉の生体反応……消滅……っ」

 

「なんてことだ…………っ」

 

……すでにこの場にいる先発隊はエクセレクターとヴェクサリアスのみとなったしまったが、それよりもゲッターチームにとって付き合いが古く、そして時に戦い、時には楽しく遊び、そして愛美の最も愛したジョナサンまでもが、このゼオ・ランディーグのよって引導を渡され、そして一足先にジェイド達のいる場所へ逝ってしまった事の対するショックが大きかった――しかし向こうにしてみればそんなことなど知ったことではない、ただ虫けらを潰したことに過ぎないのだ。

 

「竜斗!」

 

「!?」

 

早乙女の一喝によってハッと我に帰った竜斗はすぐさまレバーを動かして姿を消した瞬間、ゼオ・ランディーグも姿を消した。

 

「うわあっ!」

 

「きゃああっ!!」

 

数百メートル先で姿を現したエクセレクターが遙か遠くへ押し飛ばされていくと同時に姿を現したゼオ・ランディーグは今度は早乙女達の駆るヴェクサリアスに視線を向けた。

 

「マリア、来るぞ!」

 

「はい!」

 

ヴェクサリアスは全砲門をゼオ・ランディーグ一体へ向けて一斉攻撃を繰り出す。

ビーム、ミサイル、機関砲、ありとあらゆる火線が射線上に飛び交う。しかしゼオ・ランディーグは全くそこから動こうとせず、かと言い防御態勢すらとらず、敢えて自らヴェクサリアスの攻撃を棒立ちで受け止めていた。

火線に巻き込まれるも平然としており、背中の右側の触手の一本がピクッとヴェクサリアスへ指すと、先端部が一瞬「カッ」と光った。

 

「なっ!」

 

何か鋭く光る何かが、シールドを張るヴェクサリアスのバリアを無視し、中央上部を貫通して大爆発が起こった――。

 

「ヴェクサリアスが!!」

 

「司令、マリアさん!!」

 

態勢を整え戻ってきた竜斗達は、なすすべなくヴェクサリアスがやられている姿に仰天、大慌てだがすぐさまヴェクサリアスから通信が入った。

 

“三人共、私達はなんとか大丈夫だ……!”

 

「司令……っ」

 

だがここまでやられては、先ほどまで圧倒されていた竜斗達ももはや我慢の限界が来ていた。

「沢山の人達を、ジョナサン大尉までも殺し……俺はもう許せない!」

 

「ええっ、このままじゃアタシ達だけじゃなく地球上にいるみんながあいつに殺されるわ、遠慮せずやりましょう!」

 

怒りや恨み、使命感と正義をやる気、そして力へと変えていく竜斗とエミリア。

 

「マナミ!」

 

「…………」

 

「アンタも元気出して、やる気をだして三人の力でみんなの、そして大尉の仇を討つの、そしてこのアタシ達の住むこの世界を守るのよっ!」

 

「エミリア……」

 

途方に暮れていた愛美に彼女の喝が入り、彼女は泣きはらして赤い顔から止まらない涙と鼻水を拭い、「ええっ」と返事して頷いた。

 

 

 

「二人共、準備はいいか!?」

 

「大丈夫よ!」

 

「うん!!」

 

「俺達の全力を出し切るんだ、行くぞ!」

 

三人の心が一つになり、気合いを最高潮に高ぶった瞬間、エクセレクターもそれに呼応し、出力が急上昇していき、機体から真っ白に発光した。

 

「はあっ!」

 

エクセレクター1はヴェクサリアスに集中攻撃しているゼオ・ランディーグにへ瞬間移動で突撃、割り込むように蹴り飛ばし、休まずトマホークを二本取り出して追っていく。

 

「もうお前が誰だろうと絶対に許さない!必ず倒してやる!」

 

「覚悟しなさい!」

「ジョナサンの仇、絶対にブッ殺してやるんだから!」

 

三人の気迫が籠もったエクセレクターの斬撃でゼオ・ランディーグと押し込むが、向こうも触手を駆使して激しい攻防戦を繰り広げる。

 

「マリア、艦はまだ大丈夫か?」

 

「ええ、今は何とか……しかし、もう戦闘は不可能です……っ」

 

ゼオ・ランディーグの攻撃によってもう撃沈寸前にまで追いやられたヴェクサリアスは辛うじて浮遊しているような状態だ。

だが早乙女は何かを決意して「今がその時だ」と頷いた。

 

「マリア、『アレ』を使うぞ」

 

「アレ……まさかこの状態でですか!?」

 

「ああっ、ついに運命を決する時がきた――」

 

愕然となり、息を呑む彼女だが、早乙女の言う『アレ』とは一体なんなのか……?

 




次で最終話に入ります。

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