ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十四話「創造主」②

(ゴーラ……せめてあなただけでも……!)

 

殺意の塊と化したラドラもゴーラという一片の思いだけは消えることはなかったのだ。

 

「まさか……ゴーラちゃんも無事なのか……?」

 

「あの子も……っ」

 

その言葉に竜斗達も少しだけ希望が芽生える。

 

「ラドラさん、ゴーラちゃんはどこに、どこにいるんですかあ!!」

 

しかしラドラには竜斗の問いかけにも応じず、ただゲッターロボを破壊するのみしか考えていない――。

 

「ラドラさん……?」

 

しかし、感受性の強い竜斗は彼の攻撃を直に受けて流している内、レイグォーシヴから何やら重苦しい負の気を感じていた。

(ラドラさんが……泣いている……苦しんでいる……っ)

 

竜斗はしっかりと感じる。自分とは別の、とてつもない重圧を背負っている何かを感じ取っていた。

 

「竜斗、どうしたの!?」

 

愛美がそう聞くと、竜斗は悲しげな表情を浮かべている

 

「ラドラさんが……凄く苦しみもがいているみたいに感じるんだ」

 

「何ですって?」

 

「リュウト……どういうこと?」

 

彼の意味深い発言に注目する二人。

 

「あの誇り高く物分かりのいいはずのラドラさんがなぜここまで豹変したのか……あの人から凄まじい怨念のようなものを感じる。

痛み、悲しみ、疑心、重圧――全てがぐちゃぐちゃに混ざり合ったような感じが今のラドラさんのように感じるんだ」

 

「リュウト……」

 

「だったら僕は――」

 

レイグォーシヴから少し引き離してエクセレクター1は二本のトマホークを二刀流に持ち構える。

 

「ラドラさんを苦しみから解放させてやる、そしてゴーラちゃんのことも聞き出す!」

 

そう決意した竜斗は気を引き締めて、鋭い目つきをした――。

 

「ついたぞ!」

 

「こ、ここは……っ」

 

マシーン・ランドより約一万メートル直下の地底にある不可侵域。

専用エレベーターのみで行ける爬虫人類の聖地と呼ばれる場所。

ゴールが祈祷していたあの広大な空間と奥には祭壇のような妖しげな設備と巨大な神像が奉られている場所に二人は来ていた。

 

「ここは……王族やごく一部にしか行けない不可侵域のはずでは……っ」

 

ジャテーゴは無理やりゴーラを神像の祭壇前に連れていく。

 

「ゼオ・ランディーグ……ついに復活の時がきたか」

 

「え……復活とは……?」

 

「言った通りだ、この神像に隠された真実を発動させるこの時がきたのだ」

 

「この神像に…………一体何が……?」

 

するとジャテーゴはナイフを取り出すとゴーラにそれを向けた。

 

「え、え…………」

「少しばかりお前に痛い目をあってもらおうか?」

 

「い、いや、いや!!」

 

抵抗するゴーラを取り押さえて、祭壇に彼女を手のひらを置きナイフの鋭い先端を当てた――。

 

「いやああああああっ!!」

 

ゴーラの悲痛の叫びがこの内部にこだました……。

 

「はあっ!!」

 

「ぐおああっ!!」

 

外では相変わらず二機による、気を緩ますことのできない剣と斧による凄まじい近接戦を繰り広げており、早乙女、ジョナサン達は自分達でも相手にできるメカザウルスの掃討を行っている。

 

「もうほとんど残ってねえ、一気に片付けるんだ!」

少しずつ北極圏にいるメカザウルスの数も激減していき、優勢となりつつある。そして竜斗の方もエクセレクターの力を持ってしてラドラの駆るレイグォーシヴを圧倒しつつあり、押し込んでいく。

 

「がは……っ」

 

エスカ・アズィーラと呼ばれる強化システムの代償としてついにラドラの口と鼻から夥しいほどの血が吹き出す。

 

(わ、私の身体ももう持たん……だが一太刀だけでもっ!)

剣を大振りして隙が増えていくレイグォーシヴに竜斗は段々と弱体化していることに気づく。

 

「ラドラさん!」」

 

縦に大振りした隙を狙い、剣の持つ右腕を素早く切り落とすエクセレクター1。

「ぐっ!」

 

後退するレイグォーシヴは切り離された右腕を回収して、剣を左手に持ち替えて構える。

 

「ラドラさん……」

 

もはや明らかな不利であるこの状況にも関わらず、なおも戦おうとするラドラに竜斗はもはや哀れにしか感じられず、見てられなかった。

 

「私の命が尽きようとも最後まで!!」

 

「っ!」

 

レイグォーシヴが瞬間移動で再び姿を消した時、竜斗は覚悟を決めてトマホークを振り上げた――。

 

「うあああっ!!」

 

振り切った瞬間、目の前にはバッサリ斬られて真っ二つになりかけて皮一枚で繋がったレイグォーシヴの姿が。血の代わりにマグマが身体から流れ出して海に滴り落ちていく。

 

「ああ……っ」

 

ついにやってしまった、と茫然自失する竜斗の元に通信が入る。

 

“り、リュウト君……”

 

「ラドラさん……」

 

息絶え絶えの声をしたラドラがいつものような優しく暖かみのある声で彼に語りかけてくる。

 

“頼みがある……ど、どうか……ゴーラを、あの方を助けてやってくれ……”

 

「ご、ゴーラちゃんは今どこに!」

 

“ここから……真下の深海にある我々爬虫人類の、恐竜帝国の本拠地である、マシーン・ランドに捕らわれ……今にも殺されるかもしれない……”

 

「そ、それは……なぜですか……」

“ゴーラは人質に取られ……私が君達に負けることがあればあの子も直ちに殺される……あの子がいる限り、君達と共存を望める可能性がある、だから早く……っ”

 

 

彼の最期の頼みを聞き入れた竜斗達……。

 

「わ、分かりました……っ」

 

それを聞いたラドラも、先ほどのような鬼のようでなく、ちゃんと人としての暖かみのある安らげな声となった。

 

“ありがとう……これで……私は全てから解放される……私は君達に負けたが……同時に最高の栄光を手に入れたのだ……”

 

「…………」

 

“リュウト君……君とは最初から別の形で会いたかったよ……っ”

 

最後の彼の言葉が途切れてすぐにレイグォーシヴは力無して海へ墜ちていき面に達した瞬間に爆散して水しぶきが噴き上がった――。

 

「メカザウルス、パイロットの及び生体反応が消滅……」

 

「ラドラ君……なぜ君まで死ななければならなかったんだ……非常に残念だ……っ」

 

最後の最後に敵として立ちはだかったとは言え自分達、特に竜斗の理解者であったはずのラドラ。

ある意味幸薄だったとも言える彼の生き様にせめてあの世で安らかに、そして幸せになれるよう黙祷を捧げる二人。

 

「ラドラ……まさかお前まで……っ」

 

マシーン・ランドの開発エリアではラドラまでも敗れ去った光景をモニターで見ていたガレリー率いる開発陣は完全に絶望しており、膝をつく者も現れた。

 

「……神よ、もはや我々爬虫人類には希望などないのですか!このまま日の目を見ることなく、地上に揚がることなく滅び去る定めなのですか――!」

 

ガレリーは爬虫人類の信ずる神にそう問う――。

 

“司令、直ちにゴーラちゃんを救出しに行きます!”

 

「なにっ!?」

 

“ラドラさんから最後に託されました。自分が負けたから今にもあの子は殺されるかもしれないと、だからこれよりゲッターチームはこの直下、恐竜帝国の本拠地のあると思われる深海に潜ります!”

 

 

それを聞いた早乙女は気を取り直して頷いた。

 

「よし、必ずゴーラを助けて保護してくるんだぞ。

ただ何が起こるか分からん、気をつけてな!」

 

“はい!”

 

通信が切れ、早乙女達にも少し希望が生まれる。

 

「ゴーラちゃんが……無事だったとは……」

 

「しかし、あの子が生きているのなら、救い出せるのなら今、そしてこれからにも十分希望はある!」

 

まだゴーラが生きているのなら、無事であるのならせめてもの救えれば……それは彼女に対する可能性もあり、そしてそれを託したラドラに対して自分達の出来る彼の『願い』を叶えることでもあるのだ。

 

「リュウト……」

 

「アンタ……」

 

心配する二人を尻目に竜斗は涙を流しながらも気はしっかりしていた。

 

「ゴーラちゃんが危ない、何としても救うんだ!」

 

二人も竜斗に賛同して力強く頷いた。

 

「オープン・ゲット!」

 

ゲットマシンへ分離して三機は海面に急降下しながらエクセレクター3へ合体態勢に入った。

 

「愛美!」

 

「任せといてみんな!」

 

そして、

 

「チェンジ、エクセレクター3!」

 

海に突っ込むように三機は合体してエクセレクター3に変形、すぐさま真っ暗の深海へ沈むように潜っていく。ゴーラだけでも救ってみせる、これだけに全てを賭けて――。

「フハハ、これで主神復活の用意は揃ったぞ!」

 

不可侵域。ジャテーゴによってゴーラの手のひらを少し切られナイフに一滴ほどの血が付着した

 

「つ…………」

 

本人の手はスッと軽く切られただけであまり大した傷ではないが、それよりも何が始まるのか不安で仕方がない。

 

「心配するな、お前は死なせん。なぜならゴーラ、そして私は生きた素体となるのだからな」

 

「そ、素体…………」

 

そして、何とそのナイフで自らの手を切りつけ、ゴーラと自分の血を混ぜ合わせている。

 

「主神の復活には私達王族の血が必要なのだ、これだけでも充分足りる――」

 

不敵な笑い声を上げるジャテーゴにゴーラは、

 

「あ、あなたはなぜ私や恐らくお父様ですら知らないそんな知識を一体どこで!?」

 

「それは機密情報だ。ただ言えることは私は誰よりも勉強家なだけなのだよ」

 

「……しかし主神を復活などと、そんな到底夢としか思えないことがなぜ現実に行えるのですか!?」

 

「論より証拠。今から見せてやる、そして理解するがいい!」

 

自分達の信ずる大いなる存在、神を復活させるなどと、端から見れば間違いなく狂信者か邪教徒としか思えない彼女の行動に全く理解できないゴーラ。

 

「ジャテーゴ様、ラドラ様が打ち破られゲッターロボがマシーン・ランドへ向かってきます!」

 

こちらへ赴いた側近からの報告にゴーラはまさか、と急激な不安に陥った。

 

「まさかラドラは……っ」

 

「ラドラ様は……ゲッターロボに敗れ、戦死なされました……」

 

「そんな……ラドラが……ラドラが……っ」

 

自分が愛し、かつ唯一の味方であったラドラさえも失ったゴーラはついに絶叫して泣き崩れてしまった。

 

「無駄話をしている暇がないな。ではすぐさま主神を復活させようぞ!」

 

ジャテーゴは祭壇の中央の小さな窪みに混ぜ合わせた二人の血を一滴垂らした瞬間、この不可侵域がグラグラと揺れだして、硬直していた神像に変化が――。

 

「おお……ついにこの時来たりか……」

下がっていた神像の腕が上がり、祭壇前に巨大な手を差し伸べている。

ジャテーゴは絶望に打ちひしがれ、途方にくれて泣き伏せるゴーラを無理やり引き連れて乗り上げると二人を乗せた掌が胸元に持って行き、まるで掃除機のように唐突に吸い込まれていった――不可侵域は一気に崩れ出して側近は上から落ちてきた瓦礫に潰されてしまう。

 

「おお、これが主神ゼオ・ランディーグか……」

 

内部に突入した二人は別々に上下に生体ユニットとして配置された時、神像の目が真っ赤に光った。

 

「司令、北極圏直下より膨大なエネルギー反応確認、計測不能です!」

「なんだと!?」

 

エクセレクターのようなエネルギーを関知し、冷や汗が流れる二人。それはゲッターチーム三人にも同じく感知しており、深海から異常な空気を察していた。

 

「な、なんだ一体!」

 

「嫌な予感がする……一体なんなの……」

 

「ちょ、みんな下を見て!」

 

すぐそこまで近づいていた、海底に沈澱する巨大で気味の悪い突起物ばかりが突き出ている恐竜帝国の本拠地であるマシーン・ランドと似たような形の建造物が突然、海底地震のような揺れと共に巨大な裂け目が発生し、マシーン・ランド達が裂け目へと呑み込まれて落ちていく……。

 

“直ちにそこから離れろ三人とも!”

 

「司令、これは一体!」

 

“分からんが、そこにいては君達も危ない!早く上がってこい!”

 

「しかしゴーラちゃんが!」

 

“いいからっ!”

 

早乙女から退避命令が下されて、やむえず浮上を開始するエクセレクター3。

 

「直ちに北極圏から退避しろ!」

 

ジョナサン達にも退避命令を出してすぐさま離れていく。後はエクセレクターが上がってくるのを待つだけだが遅すぎて焦りを感じさせる早乙女達。

 

「竜斗達はまだか……」

 

「いや、来ます!」

海中からゲットマシン三機が飛び出して、エクセレクター1に合体した。

 

「司令、一体何が……」

 

“北極圏直下の地底から計測不能レベルのエネルギー反応を確認した”

 

「計測不能レベル!?」

 

その事実に三人は仰天した。

 

“恐竜帝国の本拠地は?”

 

「突然、海底に裂け目が発生して全て沈んでいきました……っ」

 

一体何が起こっているのか分からない彼らは憶測と疑問ばかりが飛び交っていた時、

 

「何か、海中から浮上してきます!」

 

突然、残っていた北極圏の氷に亀裂が入り、そして全て砕けていく。その中心部から何かが現れてエクセレクター達のいる上空へゆっくりと昇ってきていた。

 


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