――次の日、僕は黒田一尉による操縦訓練を無我夢中でやり込んだ。昨夜の『アレ』を忘れたいが如く。
黒田一尉から「人の話を聞いているか!」と叱られることがあったが、僕自身は何が何でもあの記憶を消したかった。
もうアイツからあんな目を合うのはコリゴリだ。だがすでに泥沼にハマってしまっているのを知るのはすぐである――。
その夜、司令室では早乙女と黒田の二人がソファーに座り、マリアの入れたコーヒーを飲みながら話をしていた。
「竜斗はどうだ?」
「確かにいいモノを持っています。真面目で凄く呑み込みが早いですから、これなら短期間で操縦技術全般をマスターするでしょう、ところでエミリア君の方はどうです?」
「……彼女の生真面目で一生懸命さは凄く伝わるが、センスはやはり竜斗と比べるとイマイチだな。
まあ始めたばかりだし、気長に見ようじゃないか」
すると黒田は腕組みをしてどこか腑に落ちないような表情をしていた。
「どうした?」
「あ、いや。竜斗君、実は今日、寝てないのかやつれてたようなんですよね。
それなのに結構暴走気味な所もあってペース配分を間違っていたところもあって。彼ってああいう子なんですか?」
「いや、基本的に控え目で慎重なタイプだとおもうが。
人の話をよく聞くから、彼ほど指示出しやすい人間はいないが、もう少し男らしく野性味があってもいいんじゃないか」
「言えてますね。竜斗君、私みたいに体育会系とは逆の雰囲気ですから。ところで彼らに体力トレーニングや射撃訓練をさせるんですか?まだそういうのは聞いてないんですが」
「ああ、パイロットは頭だけじゃやっていけんしな。
射撃は竜斗、体力はエミリアの得意分野だろう。
長距離走や筋トレは彼女が竜斗を引っ張る姿がよく頭に浮かぶよ」
「ハハッ――それで思ったんですけど二人って付き合ってるんですかね?」
「さあな。だがあれだと付き合っているというより姉弟みたいだ、純粋すぎる」
「二人ともまだ汚れを知らないようですしね。ところで艦内にいるもうひとりの女の子は一体……?」
「名前は水樹といって高校のクラスメートだが彼女は竜斗が大嫌いで、暴力を振るったりしてイジメている」
「え……っ、彼女が竜斗君を……」
「彼女の意志でベルクラスに残ってるがその理由は私にも分からん。
だが彼女は危険だ。あのまま置いとくといずれ彼を壊しかねん――」
「……なぜその水樹が竜斗君をイジメるんでしょうか?彼女から聞かないんですか?」
「さあ。彼女と全く絡まないし。周りの人間の話でも態度がデカすぎて絡みづらいらしいな。
それにマリアも言ってたが「本心を絶対に見せようとしない、腹を隠してる」らしい」
「腹黒いってことですか――僕の苦手なタイプの女の子ですね」
「ともかく、今はエミリアが彼を水樹から守っているが何をされるか分からんな……もしもの時は」
「時は……?」
――その頃、竜斗はというと。
「……二度と俺に関わらないでくれ……っ」
愛美に再び部屋に呼び出された竜斗は本音を打ち明ける。しかし彼女は腕組みをしながら平然としている。
「石川、マナはいつまでもドーテーなアンタのために協力してあげたのよ。逆に感謝してほしいよね」
「……何が感謝だよ。何が目的か知らないけど、俺の身体を弄んで……あんなの……レ、レイプみたいなもんじゃないか……あんなの望んでなかった……っ!」
「レイプねえ……フフフ、アハハハハハっ!!」
突然、高笑いする愛美。
「アンタあれ、レイプって言える?あんなお粗末なほーけいチ〇コボッキさせて、二回もイッといて、レイプって言い張るの?」
「う、訴えてやるからな!!」
「勝手にやれば?女と違って逆の場合はレイプと判断されないのがほとんどなのよ、そこはオンナのコの特権――♪」
「~~~~~~っっ!!」
怒濤のあまり、両拳を握りしめて身体中を身震いさせる竜斗だが、愛美はまた普段のようなブリっ子の笑みを浮かべた。
「まあイシカワ、そんなに怒んないの。怒ると身体に悪いよ、それに……」
彼女はまた彼に接近し、ポケットからあのスマートフォンを取り出した。
「な、なんで持ってんだよ、エミリアに壊されたハズじゃ……」
「あれ~~?マナんち金持ちなの知ってるわよね、パパとママ名義で二つ持ってんの、マナイイ子だから二人とも優しいの♪」
彼女は親から過保護で育てられた人間であり、ワガママで自己中な性格になった要因の一つである。
「これ何か分かる?」
「!!!?」
スマートフォンの画面に映るおぞましいそれは、あのリンチの画像以上に彼の身体の芯まで激震させた。
「結構キレイに撮れてるでしょ?
挿入中にチャッカリ撮っちゃいました、エヘ☆」
昨夜の本番の最中、彼女によって撮られた所謂『ハメ撮り』された写メであった。
「これエミリアちゃんに見せたらどうなるかな~っ?
自分の大事なリュウト君がマナとこんなえっちぃことやったなんて知ったら……見せよっかなあ」
竜斗はそれを取り上げようと動きかかるも、読まれているのか彼女はサッと胸の中に入れた。
「取れるもんなら取ってみなさい?もっとも、そんなことしたらどこに触るか分かるでしょ?
もしそれでマナが悲鳴を上げて出ていったら誰が不利になるか、一目瞭然よね?」
「く……っ!」
こんなのを彼女が見てしまったら、恐らくショックを受けるどころではすまなくなる……やはり彼に対する脅しのタネとして使う卑劣な彼女であった。
「見せられたくないなら……分かってるわね?あっ、他にもなにかやってもらおうかなあ♪」
「………………」
「イシカワ、あんたはどうあがいてもマナに逆らえないカワイイ『奴隷』よ。よ ろ し く ね♪」
絶望する彼はその場で崩れて伏せてしまった。
そんな彼の背中を足で踏みにじる愛美。その顔はまさに悪魔のような恐ろしい顔であった――。
――僕は結局、強くなれないのか。
こんなヤツに思うツボにされて……これからどんなイヤな命令をされるかどうか分からないのに。
それに、相談しようにも恥ずかしくて誰にも打ち明けられない。
水樹に『アレ』されたなんて……特にエミリアには口が裂けても言えやしない。
……今の僕は凄まじく高い壁にぶち当たったのだった――
――次の日の朝、エミリアが竜斗と一緒に朝飯を食べようと部屋を訪れる。
しかし、彼はまだベッドで寝ていた。
「リュウト起きて、朝ご飯食べにいこ」
そばに駆け寄り、寝ている彼を揺さぶる。
「ん――――っ」
のっそり身体を起こし、ベッド横に置いてあるメガネをつける。が、
「ひっ!」
「り、リュウト?」
彼は起こしに来た彼女を見た瞬間、顔の筋肉が引きつった――。
「ど、どうしたの?」
「エ、エミリアか……なんでもないよ……ハハっ」
「顔色悪いよ。なにかあったの?」「い、いや……いきなりエミリアがいたからびっくりしただけだよ……気にしないで……」
「…………」
ドクン、ドクン、と彼の心臓が鼓動を打ち、負担をかける――。
私服に着替えて、外で待っていた彼女と共に食堂へ向かう。
「どお?クロダ一尉から教えてもらって?」
「……確かに怒る時は怒って怖いけど教え方うまくて、話しやすいしいい人だよ、エミリアは?」
「……やっぱり要領悪いから全然ダメダメ。サオトメ司令やマリアさんに迷惑かけてるけど今に見てて、きっとリュウトに追いつくぐらいにうまくなるから!」
「……あんまりムリすんなよ。お前はそういうトコがあるからな」
「リュウト、アタシを心配してくれるの?すごくうれしい♪」
「ハハ……っ」
健気で元気なエミリアと話すと幾分心が軽くなる、彼はこの場がずっと続けばいいと思った。
そして――この先アイツと出くわさなければいいと――。
食堂へ着き、二人は食器に朝飯を盛る。麦飯に味噌汁、サラダ、玉子焼、魚、ヨーグルト、フルーツ……などなど食生活のバランスが整った和洋食献立だ。
そしてパンと牛乳ももちろん用意されており、はっきりいってホテルのモーニングセルフのようである。
朝は小食の傾向である竜斗はパンと牛乳とフルーツ、対するエミリアはもちろん朝からがっつりと和食である。
「お前、よく朝からそんなに食えるよな……尊敬するよ」
「だって朝から食べとかないと後がキツいでしょ?逆にリュウトのはこれで持つのか心配だわアタシ」
彼女がいつも元気な理由が分かったような気がする、頼もしいわけだ。
「食べてもどうせ全部ウ〇チで出るわけだし――」
竜斗は食べていたパンを吐き出し、むせた。
「エミリア、おまえなあ――!!」
「あ、ゴメン!ご飯中に下品だった……」
彼女のそういう所がたまにキズである。
しかしエミリアといい愛美といい、彼の身の回りの女性は何故こうも、オブラートに包まずにストレートにそのまま言えるのか。食事が終わり、二人は身支度と訓練の準備のために一旦部屋に戻る。午前中は座学室で早乙女から、自衛隊で必要な書類を書いて、午後からいつも通りに操縦訓練だ。
、時間があるので気晴らしに散歩しようと外に出る。が、
「おはよう、イシカワ♪」
「!!?」
愛美だ、あの女が待ち構えていた……。
「今夜、したいの♪部屋で待ってるからちゃんときてね♪」
「…………」
彼はゾッとし唾を飲み込む。
「返事しないの?これどうしようかな?」
あの写メがあるスマートフォンをわざわざ胸の谷間に挟んで見せびらかす。
ここで無理やり取り上げようとして、愛美に悲鳴を上げられたら自分が痴漢を働いたと完全に悪者扱いされる……彼には手出し出来なかった。
「……わかったよ……」
「わかったよ?違うでしょ?『分かりました、ご主人様』でしょ?」
「………………っ!」
調子に乗り出す彼女に凄まじい怒りがこみ上がるが、それを爆発させることはなかった――。
「……分かりました、ご主人様……っ」
彼女の顔がニコニコになり、彼の頭をわざとらしく大げさに撫でた。
「よくできました♪さすがイシカワ、話が分かるわね、だ~い好きっ♪」
――彼女はスタスタと去っていくと彼はその場でへたり込んでしまう。その時の顔はものすごく青ざめていた……。
午前中の書類記入においてもそれが引いて、
「竜斗、間違えが多いぞ!」
「す、すみません……」
早乙女から厳しい指摘を受ける彼は、顔色が恐ろしく悪い。
「おまえ、どこか悪いのか?」
「い、いえ――――」
「リュウト、まさかアイツにまたなにかされたの?」
早乙女と共に書類を記入していたエミリアに彼の異変に気づき、心配されるが彼は造り笑顔をする。
「ち、違います……ちょっとトイレに言ってきていいですか?」
許可をもらい、外を出る竜斗はフラフラとトイレに向かい、個室に入るとそこでうずくまった。
(こわい……こわいっコワい!!)
頭をかかえてガタガタ震える竜斗、しかし誰にも言えないこの状況……彼はひたすら耐え忍ぶほかなかった。
(なんでこんなに弱いんだろ……っ)
――そしてトイレから戻る竜斗、早乙女達は彼に視線を向ける。
「大丈夫か?」
「……はい、なんとか」
「…………」
エミリアはやはり彼に対して、何か引っかかっていた。
愛美が彼にまた何かしたのだと、でないとこんな悪い顔色にならないと、彼女はそういう勘には優れるのだ――。
そして――その夜、恥辱と屈辱を味わう恐怖に押しつぶされそうになる彼は愛美の部屋に向かった。
「石川、待ってたよ♪シャワー浴びてきたよね?」
――怯える彼は無言にコクっと頷いた。
「じゃあ、ショータイムのはじまりィ♪」
……竜斗は彼女の指示で全身裸にさせられてベッドに寝させられる。
そして同じく全裸となった愛美は、今度は……四つん這いになり彼に尻を向けて、フリフリ振り始めたのであった――。
「マナね、ココが性感帯なの。イシカワに舐めてほしいなあ……♪」
彼の目の前にあるのは、見たくもない尻の穴の下にある、女性特有の卑猥で不気味の形をしたモノ……こんなモノをナメろなんて……考えるだけで吐き気を催し、血の気が引いた。
「ホラ、じらさないではやく~~ぅ♪」
妖麗の如き甘い声で煽る愛美だが、竜斗は怯えるように震えたまま動かない。
「……早くしないと――」
「☆○*§%@!!!!!」
なんと竜斗の露出したアレをぎゅっと握りしめる愛美。
彼女の長いネイルが食い込み、激痛で彼は悶絶し、泣き出してしまった。が――。
「早くしないと、今度はもっとキツくなるよ。奴隷が主人の言うこと聞かなきゃダメでしょ?」
嗚咽する竜斗はついに……。
「あ、あん……いい、いいよ、そこ、いい……もっとナカもなめて……」
気持ちよくて喘ぐ彼女とは逆に顔色が悪くなる一方の彼だった。
(うえっ……変な味するし、ネトネトしてる……き、キモチワルイっ…………)
一瞬、胃の中の物がこみ上がり、戻しそうになるも、ここで吐いたら恐ろしいことが起こる……やせ我慢し、再び胃に押し戻した――。
一方、彼女はその体勢で彼の『アレ』をでくわえ込む。所謂『シックスナイン』と呼ばれる体位である――。
「……あれえ、勃たないね?どうしたのかなあ?」
快楽よりも彼女の『アレ』に対する生理的嫌悪感が強すぎて興奮どころではなく完全に萎えていた。
そんな彼女は急に態度を変えてベッド上に立ち上がると、竜斗の『アレ』を本気で蹴り上げたのだった。
痛々しい悲鳴を上げてのたうち回るが、そんなのお構いなしに怒の表情を浮かべる愛美。
「フン、こんなんじゃやる気失せたわ。
もういいよ、そのカッコウで出ていけ」
「…………」
うずくまり泣き顔の彼は、涙を流しながら彼女を睨みつける。が、
「……何よその反抗的な目は。ああムカつく!!」
彼女は彼の顔面に足を乗せてぐりぐり踏みにじった。
「悔しかったらかかってきなさいよ?それともまたエミリアちゃんに助けてもらう?
そんなんだからアンタはね、一生弱虫なのよ。
いじめられてもすぐあのガイジンオンナの助けを期待する。
情けないと思わない、男のクセに?」
「…………」
竜斗は何も言い返せなかった。
確かにその通りだ、強くなりたいと思っていても根本的には何も変わってない――。
彼は悔しさのあまり睨むのをやめてまた泣き顔になった……。
「さっさと出ていきなさい、今日はもういいわ。
これ以上アンタを傷物にするとマナが疑われるからね、けど明日は覚悟しておいてね……」
――竜斗を追い出した愛美は裸のままベッドに寝転ぶと枕に顔をうずめる。
しかし、すぐにふと顔を上げた時の彼女の表情はなぜか悔しさのこもった複雑な表情をしていたのだった――。
「ハラたつ――」
そう一言呟いた。
……そして服を返してもらえず裸のまま追い出された竜斗は、誰にも見つからないよう祈りながら部屋へ向かった。
幸い、夜中だったので誰も通路におらず、そして夜中に巡回している警備員にも運良く見つからずに部屋に辿り着いた。彼はシャワー室に駆け込むと、そのまま崩れるように伏せて激しく吐き戻してしまった。
何が出なくなっても今度は血の混じった胃液が出て腹がキリキリと痛み、喉がヒリヒリ痛み出す。
(もうイヤだ、強くなんかなれない。もう消えたい――)
彼は大きな声を上げて泣き崩れてしまった――。
六話終わりです