第四十三話「栄光のキャプテン・ラドラ」①
――北極圏、マシーン・ランド。ジャテーゴは次々に入ってくる、エクセレクターによって覆された戦況を聞き入れてその顔は完全に怒で染まっている。
「第二恐竜大隊も全滅……」
「…………」
「もはや恐竜帝国の戦力はもう残り僅かです、どうしますか?」
このまま戦いを継続をしても間違いなく勝てる見込みなどなく、そして間違いなく敵は総力をあげて本隊であるここに進撃してくるのは一目瞭然だ。そうなれば、帝国が武力によって滅びゆくのは時間の問題で、選択肢は一つに限られる。
「ジャテーゴ様、降伏という選択肢も考えたほうが……」
側近からの妥当の提案に対し彼女は……。
「いや、降伏など絶対に認めん。そうするくらいなら死を選ぶ」
「なんですと……しかし、先ほどもおっしゃいましたがこちらの戦力は……」
「私がしないと言ったらしないのだ。心配するな、まだこちらには本隊の戦力、そして切り札があるからな、フハハ――」
「切り札……とはっ?」
「そのままの意味だ。どの道ヤツらに勝ち目などない。恐竜帝国の、爬虫人類の恐ろしさをあのサルどもに思い知らせてやる、フハハハハッ」
こんな状況にも関わらず、笑う余裕綽々なジャテーゴ。彼女の言う『切り札』とは一体……。
「直ちに全世界にいる各隊を直ちに北極圏に撤退、集結するよう伝達せよ」
「はっ!」
「フフフ、決戦の時が近い――」
――ジャテーゴの伝令を受けた、世界各地に散らばる残り少なくなった各部隊は本隊、すなわちマシーン・ランドへ一斉に飛んでいく――各人はおそらく負けるかもしれない、と少なからず不安を抱いていた。
「我々は総力を結集して奴ら、恐竜帝国の本拠地、北極圏へ強襲を実行しようと思う――」
テキサス基地司令部では、ついに恐竜帝国との来るべき最終決戦に向けての作戦会議が、基地の新所長に就いたマーティンを中心に行われており、そこにはゲッターチーム全員、ジョナサン、アレン、そして各隊長達が集っている。
「世界各地で戦闘していたメカザウルスが突如、北極圏へ集結しているとの情報だ。
恐らくは恐竜帝国本拠地の防衛に入るつもりだろう、堅牢な守りを敷いてくると思われるし何が起こるか分からん。
万が一のことに備えることも考えると全てを送り込むわけにもいかない。そこで本拠地へ強襲をかける選抜隊を決めたいと思うが――」
「はいっ、僕達が行きます!」
と、竜斗が真っ先に手を上げて名乗り出た。
「エクセレクターなら、どんなことが遭っても乗り越えられる力があると思います、僕達ゲッターチームを選抜隊に入れて下さい」
「それでは私達の艦ヴェクサリアスも選抜隊の旗艦として赴こう」
早乙女も名乗り出て、「オオッ!」と歓声が巻き起こる。
「では全員に聞く、竜斗君達が選抜隊に入れていいか?」
満場一致で拍手が叩かれるとマーティンは「ウン」と頷いた。
「では、彼らゲッターチームを選抜隊として決定する。他には――」
「俺も行きますわ」
ジョナサンもすかさず手を上げると次々に手を上げていく各隊員達――そして、エクセレクターを中心とした百近くの選抜部隊が決定される。
「準備にどれだけの時間がかかるか?」
「明日にでも。恐竜帝国が戦力を再び蓄えない内に、弱体化している内に早ければ早い方がいいっ」
「では明日の正午より選抜隊による恐竜帝国の本拠地、北極圏への強襲をしかける。最後の決定案だが皆はどうか?」
誰もがそれに賛成し、再び拍手が巻き起こる。
「よし、ではこの内容通りに実行する。おそらく恐竜帝国、爬虫人類との間に始まった世界大戦に終止符を打つ最後の戦いとなるだろう。
選抜隊、そして各地防衛隊がそれぞれが全力を尽くし、そして世界に昔のような平安が訪れることを私は信じている。各人の健闘を祈る――」
互いに真剣な顔つきで敬礼。誰もが明後日という日が訪れるために、そして掴み取るために祈るのではなく自ら行動することを決めた――。
解散した後、愛美はすぐにジョナサンの元へ向かうと二人は喜んで抱きつき、真の再開を喜び合った。
「ジョナサン、おかえり!」
「ただいまっ」
その光景に誰も微笑ましく思った。竜斗とエミリアも彼と久し振りの対面をした。
「大尉……」
「もう大丈夫なんですか?」
「すまなかったな竜斗、エミリア。やっと全てを受け入れて気持ちを入れ替えることができた。これからは休んだ分を取り戻す勢いで働くつもりだよ。それよりもアラスカ戦線以降、色々なコトがあったが、何よりも竜斗達がシベリアで敗退したと聞いて心配していたんだが大丈夫だったのか?」
竜斗はその後について、自分が死にかけていたことを、そしてその生死の境目で見た夢のことについてをジョナサンに話す。
「そうか……お前も大変な目に遭ったんだなっ」
「ええっ、少佐達が夢の中でこう言ったんです、『私達がついているから心配せず前を、未来を歩いていけ』と。
それから僕の迷いも全て吹っ切れたような気がしたんです、だから――」
それを聞いたジョナサンは安心したかのように穏やかな笑みを見せた。
「それを聞いて俺も迷うことはなくなったよ。
お前はある意味ジェイド達、いや死んでいった人間達の遺志を持った生き形見であり証人なのかもしれないな」
「大尉……」
「明日は互いに頑張り、そして必ず生きて帰ろうな。竜斗、エミリア、マナミ、いやゲッターチーム!」
「「「はい(うん)っ!!」」」
二人は握手を交わして篤い友情、友、そして明日の最終決戦の健闘を祈った。
「ゲッターチーム!ミー達も参戦するからよろしくネ」
「兄さんの言うとおり、最後の最後までよろしくね♪」
「君達の力が世界を救う力となることを信じているよ、互いに尽くせるよう頑張ろう」
「こちらこそっ、必ず明日で戦争を終わらせましょう」
同じく選抜隊に入っているジャックとメリー、アレンも激励と労いの声をかけてくれ、いっそうやる気が上がる竜斗達――。
「エクセレクターのベリーストロングなパワーに凄く期待してるヨ!」
「だから兄さん、そんな誤解されるようなヘンな日本語は止めてよ!」
「ハイハイ、アンダスタンっ」
「だからねえ!」
二人の冗談か本気か分からないようなコントじみた会話に竜斗達は心から笑い、重く張り詰めた雰囲気が一気に和んでいった。
――僕達はついに、地上人類、爬虫人類との間に始まったこの数年間の大戦の終幕の舞台へ躍り出る。互いの存亡、誇り、そして未来をかけた最終決戦へのカウントダウンが始まった。
その夜、竜斗は新しくなった新艦ヴェクサリアスの右甲板上で、明日への様々な思いを込めて快晴の夜空を眺めていた。
「リュウト」
ちょうどエミリアが彼の隣にやってくる。
「ついに明日で全てが終わるかもしれないんだね……長かったね」
「ああっ、だけど多分、向こうも決死の反撃を仕掛けてくると思うから激しい攻防戦になるかもしれない」
「大丈夫よ、あのエクセレクターの力があればきっと――」
「それに……俺、少し気がかりなことがあるんだ」
「え、なに?」
「ゴーラちゃんとラドラさんについてだよ、あれからどうなったか心配で……」
あれからの二人の動向が全く分からなず、安否について沈黙する竜斗達。
「……もしゴーラちゃんやそのラドラさんが無事ならリュウトはどうする?」
「もし無事なら何とかして助けてあげたい。ホワイトハウスでもお世話になったからお返ししたい……けど……」
「けど……?」
「万が一……万が一、生きていると仮定してゴーラちゃんはともかくラドラさんが敵として立ちはだかってきたなら……」
絶対にないとも言いきれず、心配でたまらない竜斗。
「……リュウトはその時はどうする?」
「あの人は洗脳とか操られてない限りはちゃんと話が通じると思う、だから最後まで説得してみる。けどそれでも応じなかった場合も考えられる……」
「その時は……まさか……」
竜斗は思いつめた表情で前を見る。その時はこの手でラドラを――しかしそう考えられるとかなり鬱になりそうであまり考えたくない。
「まあ結局、これは俺の憶測に過ぎないよ、無事かどうかも分からないのに……」
するとエミリアは竜斗の方に向いて安心させたいために優しく微笑む。
「アタシとマナミは何があってもリュウトの味方だから心配しないでね」
「エミリア……っ」
「アタシはこれまで泣き言や弱音ばかり吐いてたからね。だから最後ぐらいはいいとこ見せたいからちゃんとリュウト、いやチーム全体を支えていくつもりだから――だから明日はよろしくね」
彼女の決意を聞いて段々重かった気が軽くなっていく。
「ありがとう、エミリア――お前が彼女でいてくれて本当に嬉しいよ」
「アタシもリュウトが彼氏で本当によかった。
アタシはまた誓う、生まれは違えど一生日本人として、リュウトと共にずっと日本で一緒にいて、結婚して、赤ちゃんを産んで、子供を育てて――死ぬまでずっと一緒だよ」
「俺も同じだ。好きだよ、いつまでも――」
二人は月明かりの夜空で深い口づけを交わして、明るい未来を手に入れて、そして永遠の愛を誓い合った――そして一方、愛美とジョナサンは彼女の部屋のベッドで久々に『愛』を営んだ後、横になりながら話をしている。
「ジョナサン、あの時、嫁さんにしてくれるって言ってたけど本当なの?」
「ああ本当さ、マナミを一生愛していくつもりだ。マナミは?」
すると愛美は照れているのか珍しくもじもじしている。
「マナ、今まで付き合ってきた男にそんなこと言われたことなかったからちょっと恥ずかしくてさ……」
「ありのままでいいんだよ、俺はマナミが大好きで他の女は全く見えないから全てが終わったらマナミと結婚して君の子供も欲しいし、家族として絶対に幸せにしていきたい。これは俺の本音以外に何もない、マナミは?」
と、真剣な顔ではっきりと告げる彼にマナミもこれ以上ない満面の笑みをしてこう告げる。
「ならマナも死ぬまでジョナサンを愛していきたい、アンタの子供をいっぱい産んで、立派に育てて、家族と共にいつまでも一緒にいたい!」
「マナミ……やっぱり日本人の女性、特に君は最高な女性だっ」
「ジョナサンも人生で最高の男、出会えてよかった……っ」
二人もまた裸同士で深く抱き締めて濃厚な接吻をし、永遠の愛を誓い、そして分かち合った――。
「恐竜帝国とついに最終決戦の時、来たりか……」
ニールセンとキングはヴェクサリアスの格納庫にてゲットマシンの整備、調整を行っていた。
「なんかさみしくなるのお……」
「ああ、始まりあれば終わりがあるが、逆に終わりから始まるものもある、そんなものじゃ――」
自分の腕の見せ場が明日で全て終わるとなれば、生涯兵器開発者としてこれほど虚しいことはなかった。
「キングよ、全てが片付いた後、これからお前はどうするんじゃ?」
「さあな。もしや隠居するかもしれん」
「嘘つけよお前!」
即刻に突っ込まれるキングの苦笑う様子を見ると図星のようだ。
「まあ世界各地に紛争があるしのう。
そしてこれからもまた戦争が起こりうるじゃろうからワシらみたいな人間は常に必要となる、たとえこの戦争が終われど仕事はあぶれんじゃろうて――」
「……そうじゃな。争いは、神が人間に高度な知恵と理性を授けられた代償として架せられた、謂わば永遠の呪いのようなものだ」
「いや、試練だな。我々人類の飽くなき進化のために、未来を生きていくためには我々みたいな汚れ役は割と必要なのじゃ」
「ああ。不健全さの全くない世の中は健全さは目立たないし、そして余りにもつまらんしな」
「その通り。さてと、私話はそれくらいにしてさっさと終わらせて二人で酒を飲み交わそうか」
「ああっ」
ワイワイと楽しくやりながら自分の『子供達』の整備と調整に勤しむ二人だった。
「司令、どうぞ」
「ありがとう」
司令室ではマリアが自製のコーヒーを入れて机に座る早乙女に差し入れている。
「ついにこの時が来たか」
「ええっ、これまでに色々ありましたけどね」
「ああ。思えば全ての始まりはゲッター線を偶然発見してからだったな。
ゲッターロボを作り、竜斗達との出会い、そして別れなど紆余曲折を経てついにここまで来た――」
これまでの出来事を振り返り、深くため息をつく二人。
「ゲッターロボと何よりそれを操る三人、竜斗、エミリア、愛美というここまで導いたと言い切れる優秀な人材が揃ったのはまさに奇跡というべきか、あるいは――必然か」
早乙女はマグカップから湯気の立つ熱いコーヒーをすする。
「だが……ここまで来たにも関わらず、未だにゲッター線の全貌が掴めん」
「司令……」
「いや、一部の一部しか知らんのかもしれん、いやそれ以下か。
これまでの不可解な現象からして果たして私が生きている内に全てが解明出来るのだろうか……いや、無理だろうな」
恐らく人類の叡智に及ばぬ物だとも思えてきており、頭を悩ます早乙女。
前に自分達にとって手に入れてはいけない、謂わば『禁断の果実』とも喩えたがまさにそうなのかもしれない、と――。
「竜斗達は……これからどうするつもりだろうな」
「彼らにはもうすでに家族や友人など頼れる人が……っ」
暗い表情を落とすマリアに早乙女はコホンと咳をする。
「そういえば君は言わなかったか、大雪山戦役の後に君は彼らを養子にしたいと」
「は、はい、今でもそう思っています!」
「もしこの戦いが終われば聞いてみないか。私達の養子にならないかと」
彼もついにはっきりとそう乗り出してくれた早乙女に彼女の驚く。
「あの子達がもしそれでもいいと言ってくれれば私がすぐに手続きしてくる、その前に今の日本が機能していればの話だがな」
「司令……」
「私も彼らに出会ってから急に君みたいに父性に目覚めてしまってな。全く、この私がな――」
と、そう言う彼は照れているその姿に微笑ましく思うマリアだった。
「司令……色々とありがとうございますっ、やはり私にはあなた以外に最高のパートナーなどいませんわ」
「マリア……」
――二人もまるで恋人同士のような熱い口づけを交わした。
それぞれの思い、本音、思惑、誓い、分かち合い、告白……それらがこの決戦前夜の間に全て集約されて各人の迷いや恐怖、不安はなくなり、来るべき明日に対する勇気、希望だけは順調に膨れ上がっていく――そして、ついにその時が来た。
「ヴェクサリアス、発進する!」
「了解!」
次の正午。ヴェクサリアスがテキサス基地から浮上、そして各機も次々に発進して選抜隊はついに北極圏へ出発する、この世界大戦の終止符を打つために――これより両軍の、互いの全てを賭けた北極圏での最終決戦が始まろうとしていた。