『だからもう休め。後はみんながやってくれるから安心しろ。それよりも両親や俊樹達、少佐達が竜斗を待っている、お前にとっての本当の楽園に行こう』
そう囁かれて竜斗はゆっくり立ち上がり彼の方へ歩き出した――。
『よし、それでいいんだ。もうお前は苦しむことも、悩むことも傷つくこともなくなるんだからな』
悪魔のような卑しい笑みをして手を差し伸べる闇の竜斗に、彼もゆっくり手を出した――が。
『行ってはいけない』
その時だった。聞き覚えのある低い男性の声が後方から聞こえ、放心していた竜斗の意識を回復させた。
『竜斗君!』
竜斗は差し伸べた彼の手を払い、振り向くと目の前にはなんと……。
「しょ、少佐……っ!」
目の前にはなんと、死んだハズのジェイドの姿が確かにそこに存在していた。
『何をしているんだ、君はこんなところで終わるような人間じゃないっ』
穏やかながら威厳のあるジェイドの叱咤を受ける。
「しかし少佐……僕は……僕はただの偽善者です……中途半端な自分のせいでみんなに多大な迷惑をかけてしまった……もう生きていても……」
『本気でそう思うのか?君によって救われた人間だって沢山いるんだぞ。その中に君の大切な仲間がいる』
「仲間……」
『エミリア君や愛美君、それに早乙女司令やマリア助手……君がいなければみんなどうなっていたか分からない。
そして君と共に戦い生き残った隊員達、そして世界中で今を生きる人全ても君の活躍に必ず関与している、だから君が迷惑をかけているなんてことは決してないんだ』
「しかし僕は……この手で大量のメカザウルスやそれに乗っていたパイロットにまで手をかけてしまった…………」
『今の君、いやゲッターチーム全員は特殊ながらもれっきとした軍人だ。
そして敵のパイロットも軍人であり戦地に赴き、それぞれの利害のために、互いの平穏、誇りのために戦うのが仕事なんだ。
殺す殺されるは軍人としてつき必ずつきまとう、避けられない契約内容であり、どちらもそれを覚悟の上で行っていることなんだ!それは私やジョージ、そして黒田だってそう言う覚悟の上で戦ってたんだ』
「………………」
『エミリア君達は君の帰りに首を長くして、必死に祈りを捧げて待っている。皆をこれ以上悲しまないために目を覚ますんだ!』
すると、ジェイドの後ろにはジョージ、黒田、両親、友達……この戦争で死んでいった彼の大切な、かけがえのない人達が竜斗へ安心、そして前向きにさせてやると言わんばかりの力強い笑みを放つ。
「み、みんな……!」
『ここにいる私含めた全員は竜斗君へこの母なる地球で元気で生きていく、そして輝く未来へ歩いていくことをすべからく願っている――全員が今から君が前に歩き出せるよう力を、道筋を与える!』
彼らはそれぞれ左右に移動するとその間に光のレールが現れて、その先に恒星の如く輝く光を彼へ照らした。
しかし彼はその光のレールに踏み入れるのが怖いのか、足をなかなか前に出そうとせずビクビクしている。
『竜斗君、怖いのか?』
「僕……不安なんです……このまま前に進むべきなのか……後戻りできなくなるような気がして……」
『確かに引き戻ることはできないし、私達も今更生き返ることもできない。
だが君がこれまで培った技術、経験、そして私達の遺志、それらを糧にして自分の未来を切り開いていくために前へ進むことは誰だって出来る、君ならなおさらだ!』
「………………」
『大丈夫。例え前に進むことが怖くなっても心配するな、なぜなら君にはエミリア君、マナミ君、そして早乙女一佐、マリア助手……かけがえのない素晴らしい仲間が、そして私達が君の背中をずっと支えてやるし見守っている、だから遠慮なく自分の信念と希望を胸に誇りを持って前に歩いていけ。
そして君、いやゲッターチームが大空へと羽ばたき、混沌としたこの世界に光を与える光明の存在になれると確信している。だから絶対的な勇気と信念、そして決意を抱いて遠慮なく歩いていけ石川竜斗!』
その力強い言葉が彼の身体を突き抜けていき、これまでのネガティブだった負の感情が吹き飛んだ。それに伴い希望に溢れた前向きの力強い意気の表情へと変化していく。
「分かりました。少佐達の言うとおり、もう俺は迷わない、落ち込まない、そして必ず俺、いやみんなの力でこの世界に光を、未来をもたらしてやるんだ!!」
強く声を張り上げた彼の断言を聞き入れたジェイド達全員は『よくぞ言った』と全て先の光に飲み込まれていき、竜斗よ早くこいと言わんばかりに一層輝き出す。
『竜斗君、そしてゲッターチームに力と名誉、そして加護があらんことを――』
「ありがとうみんな……よし!」
あれだけ踏みとどまっていた竜斗がもう迷いなく前に歩き始めた時、
『竜斗……っ』
今度は闇の竜斗が心配なのか不安げな顔で呼び止める。
先ほどまで本人へ悪態をついていた彼もまた、竜斗の一部なのだから本体の竜斗が心配でたまらないのだ。
「ごめん、またこれからも俺は沢山傷ついていくかもしれないけどみんなをこれ以上悲しませたくないから、やるべきことがあるから、まだそっちに行くわけにはいかないんだ。
だから……無責任だけどもう少し耐えてくれないかな?」
振り向いて彼に向かってそう告げる竜斗。
「大丈夫、もう俺は挫けないし諦めない、気を強く持ってこれからを生きていくし、もう身体になるべく負担をかけないように心掛けるから心配しないで、どうか俺を信じて見守っていてくれないか?」
はっきりとそう告げる竜斗に、彼はしばらく無言になった後、フッと軽い笑みを返す。
『分かったよ。そこまで決めたんならお前の好きにすればいいさ』
「お前……」
『俺もお前とは表裏一体の立場であり一心同体でも、一部でもあるんだから本体のお前がそう断固に決めたんならそれに従うさ。心身とも俺が上手く言っておくからよ』
と、すんなり納得してくれた彼に竜斗は「ありがとう」と感謝した。
『竜斗、頑張ってこいよ』
「任せといて!絶対にこの悲劇を終わらせてみせる。俺、いやゲッターチームが!」
互いに激励と別れの会話を交わした後、闇の竜斗はそのままスッと闇の中に消えていった。
「エミリア、愛美、司令、マリアさん、今戻るから待っていてくれよ!」
竜斗は光の照らす方へ一直線で迷うことなく駆け出していった――。
「…………っ」
彼は突然、目が覚める。視界がぼんやりとしているが次第に目の前には真っ白で無機質な金属の天井がはっきりと見える。
独特の薬の匂い、白くフカフカなベッド上にいる、彼はすぐに病室のベッド上だと分かった。
「リュウト、リュウト!!」
ずっと付き添っていたエミリアも彼がついに目覚めたことに気づき、仰天して身体を寄せた。
「……エミリア……」
かすれた声でエミリアの名を呼ぶ竜斗だが、意識が戻ったことをさらに実感し、喜ぶ彼女だった。
「やった……リュウトが……リュウトの意識が帰ってきたよお!!」
彼女はすぐに全員へ、彼が目覚めたことを伝えるとすぐに一目散に駆けつける愛美達。
「りゅ、竜斗!!」
「竜斗君……!」
「まさか、奇跡が起きたのかっ!」
全員はこれ以上ない至福の時を分かち合い、そして大いに喜んだ。それはまさに祭りの場のようだ。
「リュウト……おかえり……っ」
嬉し泣きしながら彼に寄り添い続けるエミリアに彼も笑顔で答えた。
(あれ…………)
右手に何か違和感がある。
「多分、少佐がリュウトを起こしてくれたのよ」
エミリアが右手に持つジェイドの遺した手紙とエンブレムワッペンを彼に見せると、先ほどまで見ていた夢の内容に対し、竜斗は「そうだったのか」と納得した。
「竜斗、どれだけマナ達が心配したか……わかってんの……っ」
叱るようにキツくあたる愛美も次第に緊張と安心でその場で崩れて嬉し泣きする姿に彼も「ごめんな愛美」と心から謝った。
(みんな、ありがとう……俺、本当に生きててよかったよ……)
それから竜斗は今までの死にかけは一体何だったのかと疑問になるくらいに、そして最新医療技術もあり、めざましいほどの回復を遂げていき、もうすでにベッドから降りて動けるほどにまで戻っていた――。
「みんな、ごめん。あの時暴走してしまって……」
シベリア戦において、自身の失態について今更懺悔する竜斗。
「もういいさ。こうして君が戻ってきてくれたんだから」
「ええ、竜斗君に負担をかけ過ぎた私達にも責任があるわ。次からそんなことはないようにするから安心してっ」
早乙女とマリアは笑顔でそう返す。
「エミリア、愛美。俺は今回ので反省したよ、これからはちゃんと二人に悩み事を打ち明けることにするから」
「うん、だってアタシ達は全てを共有していくっていったじゃない、遠慮せずにアタシ達に甘えていいんだからね!」
「やっと分かったかしら、これからあんなことのないように気をつけなさいよね。
マナ達は竜斗がいないとダメなんだからもう自分一人で悩みこまずに無理しちゃダメよっ」
「うんっ」
ゲッターチームで仲良く会話している最中、突然と緊急警報が鳴り響いた。
竜斗含めた全員はすぐに司令部に向かうとすでにメリオを始めとする、沢山のオペレーターが必死で各座についてコンピューターとにらめっこしている。
「どうしましたか!?」
「司令、ついに世界中に散らばるメカザウルスが一斉に動き出しました、その数はおよそ……十六万!」
十六万という、想像を絶するような恐竜帝国の圧倒的戦力を聞き、ゾッと寒気が襲う竜斗、エミリア、愛美……アラスカ戦線でも二万いくかどうかの数だったが、まだそれの約八倍近くの敵戦力に果たして勝てるのか疑いたくなる。
「どうするの!?ゲッターロボはルイナスだけでマナ達のはもうないのよ!」
「あ、そうか……もうアルヴァインはあの時、破壊されたんだよな……じゃあ俺達は」
「ルイナスもあのままだし…………それにこんな戦力を前にどうやって……っ」
自分達に戦える力がないことを再認識し、絶望に打ちひしがれる三人だったが、早乙女は「頃合いだな」と頷いた。
「いや、君達には最後の切り札がある!」
「切り札……?」
「今から見せる。全員私についてこい!」
早乙女についていく竜斗達、切り札とは一体なんなのか不思議でたまらないが今は黙ってついていくしかない。
そして開発エリアに向かうとあの三機の戦闘機『ゲットマシン』と初対面する竜斗達。
「こ、これは……一体」
「なんなのあれ、早乙女さん!」
これらは何なのかと、しきりに質問する彼らに早乙女はこの時を待っていたと言わんばかりに、自信を持ってこう答える。
「あれは……ゲッター計画の最終系にして真のコンセプトとも言うべきモノだ」
「ゲッター計画……じゃああれもゲッターロボなんですか?」
「ああ。厳密に言えばまだあれらではゲッターロボとは言えないがな――」
三人はその事実に驚愕を受ける。
「けどゲッターロボでないとは……」
「まずゲッター計画の本来の目的を教えようか。本当のコンセプトとは『単機でいかなる状況や地形にも対応し且つ、戦略兵器級の圧倒的戦闘力を持って、劣勢の戦況を覆す』ことにある――」
彼らはそこで早乙女から真の事実を知る。
それを一番最初に開発しようとしたが資金不足と技術不足により頓挫したこと、そのコンセプトを簡易化して開発されたのが今まで竜斗達が乗っていたゲッターロボだということを。
そしてこれまでのその簡易型ゲッターロボの戦闘データを元に、ニールセン達世界中から集められたエンジニアや科学者のエキスパート達、つまり人類科学の粋によって途中放棄していたこの未完成品に手をつけて、ついに完成させたのがこれらなのだと――。
「じゃあこの三機の戦闘機が……ゲッターロボの真の姿ということなんですか?」
「ゲッターロボだけではない。恐らくSMB、いや我々地上人類の今持てる英知を総結集して開発された兵器全ての極致、集大成とも言える」
「集大成……」
「型式番号『SMB―EXGR01S、02G、03A』、これまでのゲッターロボを、いや全てを超えるという意味が込められており名付けて……『エクセレクター』だ」
「エクセレクター……」
ゲッターロボを超えるゲッターロボ、『エクセレクター』……その名と早乙女の煽り文句からは物凄い強烈な力が伝わり、衝撃を受ける竜斗達……。
「だが今の君達では恐らくエクセレクターを使いこなせない」
「えっ、なぜですかっ?」
「これまでのゲッターロボとは全く違う性質、操縦管制を持つからだ。君達にはこれを乗るための最終訓練を受けてもらうぞ」
「けどそうしている間にメカザウルス達が……」
「君達の乗っていたゲッターロボとはほとんど別物だ。完璧に乗りこなすまで覚えるしかない。それに竜斗も完治していないのにどうやって乗るつもりだ?間違いなく死ぬぞ」
正論を言われて彼は反論できず。
「これから世界状況がどうなっていくかわからないが、少しでもこの機体のノウハウを自分のモノとするためにやるしかあるまい。
時間はかかるかもしれんがこの機体を乗りこなすには体力、知恵、戦闘経験がモノを言うし、それにこの三機の戦闘機をエクセレクターへと持っていくにはチームワークと団結力、巧みで高度な連携プレーが必要となる。
今、それを備わっているのは世界で唯一、君達ゲッターチームしかいない。すなわち君達だけにしか乗りこなせない最終兵器だからだ!」
「僕達だけの……」
「最終兵器……」
「ウワオ…………っ」
「君達のこれまでの戦いや訓練、経験はこれに乗るための布石でもあったのだ――」
その言葉は三人に衝撃を与えると共に、勇気と希望、そして光が授けられる。
自分達だけしか動かせない唯一の機体で、この戦況をこれだけで打開できるゲッター計画の真意、そして最終兵器であるエクセレクター……それを聞かされたら三人にはもはや『何が何でも動かしてやる』という決意と気迫以外になにもなかったのだ。