ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」③

――僕はその時、自身の夢見た理想郷にいた。

爬虫人類と和平を結び、戦争や紛争など、傷つき合うことのない世界中の人達が手を繋ぎ合う幸福の世界に。

エミリアと愛美、司令とマリアさん、そして父さん、母さん、俊樹達友達、黒田一尉やそして――ジェイド、ジョージ少佐達の、大切な家族やこの戦いで犠牲になった人達が微笑んで僕を迎えてくれたのだ。

僕はこれ以上の幸せなどなかった、そして永遠にこの世界が続けばいいと思っていた。しかしそれは結局夢であり、虚像でしかない――。

 

「リュウトさん!」

 

「リュウト君!」

 

「ゴーラちゃん、ラドラさん!」

 

もう争うことのなくなったこの輝かしく幸せの世界の花畑で三人は合流して幸せを分かち合う。

 

「ついに僕らはもう戦わなくていいんですね!」

 

「モチロンです、私達はどれだけ夢見たことか……」

 

「これもリュウト君のおかげだな、本当に尽くしてくれてありがとう!」

 

三人は笑顔で手を繋ぎ、グルグルと楽しそうに回っている。

 

(また父さん達と暮らせる、また全員と一緒に暮らしていけるんだ……永久に――)

 

まるで天国のように心が完全に癒やされ、そして澄み切っておりこれまでの疲れなど全て吹き飛び笑い声が溢れている――が。

 

(…………あれ?)

次第に何か目の前が視界がグニャグニャと歪曲しており、ゴーラ達の声も段々と、ゆあんゆよんと聞くに堪えないような雑音が混ざっている――。

 

(え……えっ……?)

 

今まで澄み切っていた空、世界の風景全てにまるでガラスのようなヒビばバリバリと入り、地面、そしてついには彼女達にもまでヒビが入っていた。

 

(な、なんだよこれ……っ)

 

その異様で、得体の知れない恐怖の光景が彼の目に次々と飛び込み先ほどまでの笑顔が全て消え失せて真逆の恐怖と不安、そして疑心の混ざり合い濃くした、つまり絶望に染まりきった顔で声が枯れるくらいに絶叫した――瞬間、ヒビの入った世界は全て粉砕されて粉々となり、真っ黒な闇と化したこの場の遥か下まで落ちていく。

唖然となっている竜斗は辺りを見渡すが先ほどとうって変わり光など一切ない、先が全く見えない闇の地平線。

今、自身の立つ地面も真っ黒であり、浮いているようにも見えるが確認できない。

 

「な、なんだここ……」

 

確かに先ほどまでいたハズの人間の姿が見当たらない、「誰かあ!!」と必死で声を張り上げても誰も返事を返してくれない。

 

「…………」

 

まるで自分が取り残されたような、閉じ込められたような、静まり返った閉鎖的な空間から来る恐怖と不安、そして息のつまるこの息苦しさ……竜斗はその場から抜け出したくて一目散に駆け出した。

 

(出口はどこだ……!)

果てしなく遠いのか、近いのか、方向が間違っているのか、息を切らしながらどれだけ走っても何も変化はない。

むしろ、四方八方が一筋の光もなければ道標すらない闇の中であるこの空間は今いる位置も分からないこの場から動き出せていないとも感じる――。

 

「俺……何してるんだ……っ」

 

彼は走るのを止めてこれまでの出来事を追憶する。

確か、求め描いていた理想郷がついに実現し、迎え入れてくれて永遠の至福を楽しんでいた……いや、それ以前に遡り必死に思い出す。

 

「あ……そういえばあれからどうなったんだ!!」

 

彼はついに思い出す。あのシベリアで繰り広げた戦いのことを、そして――敗北してベルクラスに帰艦しようとした時にニャルムの駆るマーダインのミサイル攻撃を受けて吹き飛ばされた後……それから全く記憶になかった。

 

『やっと思い出したんだな、竜斗』

 

後ろから声が聞こえたので慌てて振り向くとそこには……。

 

「え……なんで……っ」

 

そこには自分が立っている。髪形、顔立ち、輪郭、体格、身長、服……そう自身そのものが寸分違わず目の前に立っていた、まるで鏡に写したように。

ただ……違う所と言えば、少し黒ずんでいるように見えるのと、そしてつり上がり非常に印象の悪い目つきである。

 

「俺…………俺なのか……」

 

『そうお前だよ、竜斗自身だよ』

 

声質まで同じであるが、自分がいつも話すようには思えないほど不快感を感じさせるような口調であり、そして向こうの本心が見えない。

『何者だと言い出しそうな顔をしているな、俺はお前の心の闇から創り出された存在だよ』

 

「闇…………?」

 

『お前はこれまでに沢山傷つき、心にも深い傷を負い、しかしそれを治すことなく更に傷口を広げた。その結果、腐った傷口から生みでた膿のような存在が俺だよ』

 

「………………」

 

『心身共にもう耐えられないと、そして死にそうだと、いい加減にいたわってくれと悲鳴ばかりだ』

 

闇の自分から伝えられるその事実に、竜斗はこんなにまで自分を追い込んでいたのかと知り、反省する。

 

「それは俺が悪いな……ごめん……っ」

 

『その気持ちがあるならもう全てを諦めて楽になろうぜ、永久に――』

「そ、そう言うわけにはいかないんだ!まだ戦争が終わってないし、それにエミリア達が待ってる!」

 

『お前はよく頑張ったんだ、誰もお前を責める奴なんかいないよ、だからもうゆっくり休め』

 

「イヤだ!まだ全てが終わってない!!」

 

頑なに拒む竜斗に闇側は呆れたように深くため息をつく。

 

『普通の高校生だったお前がなぜそこまで世界的にこんな大それたことなんかに手を伸ばして、結果的にこんな死にかけるような目に遭ってまでまだ頑張ろうとするんだ?』

 

「そ、それは爬虫人類の人達と仲良く、それにジェイド少佐達の約束が――」

 

『その少佐達、いや今までお前らのために死んでいった奴らはお前が必死で頑張ったら何かしてくれるというのか、褒美をくれるというのか?』

「…………」

 

『誰だって死ねばそこで全て終わりなんだよ、どんな約束があろうがその約束を交わして死んでいった連中が墓から、天国から見ていてくれるのか、いや違うね。結局は自己満の領域だ、そんなことも分からないのか?』

 

「ち、違う!!それに爬虫人類の人達との――」

 

『それもただの夢物語に過ぎん。お前、夢と現実を勘違いしていないか?』

 

「…………」

 

『お前達の両親、友達、仲間……大勢の大切な人間をあんな凄惨に、平然と殺せるような奴らがどうして俺達地上人類と仲良くなれるのか、疑問だね俺は。

そしてホワイトハウスでのテロといい、現在といい、明らかに状況が悪化しているじゃないか。あの和平だって成功していてもただの一時的なものに過ぎない、結局早乙女の言っていた通りに破綻する運命だった。

地上人類、爬虫人類、いや人間は神じゃない、出来ないものはどうあがいても出来ないんだよ』

 

「だ、だけど……」

 

『ロマンティックで想像力が豊かなのは素晴らしいがお前はそろそろ社会人の仲間入りだろ、現実というものをいい加減に受け入れろよな竜斗――』

 

反論出来ずに黙り込んでしまう竜斗にさらに追い打ちをかける。

 

『お前だって無理だって薄々とは気づいていたんじゃないのか?どうやっても結局は互いに相容れない運命だと』

 

「そんなことはない、現にゴーラちゃんやラドラさんだって俺達と共存を願っていた!」

 

『その二人だけで他の者は?それ以外の者はみんな反対の性質だよ。

あとエミリアや愛美だってあいつらに親や友達を爬虫人類の実験体にされて絶対に許さないと言っていたはずだが?二人だけじゃない、同じ境遇を持つ他の人間は同じことを考えてるよ。

ヤツらと仲良くなりたいと思うのはお前か、痛い目を見ず表面しか知らない甘い考えを持つ馬鹿ぐらいだ』

 

「………………っ!!」

 

自分のやってきたことを全否定するかのごとく軽々しく一方的に話してくる醜い闇の自分に段々と腹が立ってくる。

 

『大体、共存したいとそう言うお前はどうなんだ、メカザウルスやそのパイロットを何十、何百、何千と殺したゲッターロボを操縦したその両手にどれだけの怨念がついている?

全員が安らかになるように祈ってやったのか、いや、中にはお前が怒りや勢いのままに殺した者も大勢いるだろう――』

 

「そ、それは……」

 

『正直になれよ、この偽善者が』

 

「偽善者……」

 

『お前のやってることは所詮、偽善なんだよ。

半端な力、知恵、なにより明確な勇気や決意がないくせに無駄に手を差し伸べようとするから返ってみんなが迷惑してるのが分からないのか?』

 

「う、う…………っ」

 

『お前のせいでどれだけの人間の命を、運命を振り回したと思ってんだ、調子に乗って善人面してんじゃねえよこの偽善者が――』

 

彼から発せられた、偽善者というその言葉が頭に何度も響き渡り、放心したかのように力無く膝が崩れる竜斗――。

 

 

 

 

(リュウト、アタシがちゃんとキレイにしてあげるからねっ)

 

エミリアはベルクラスの何故か彼の部屋にいた。まるで現実逃避をするかのように、気を紛らわすかのように無心で、掃除機をかけたり水拭きしたり彼の部屋を隈無く掃除している。

 

(ホコリだらけにしてたらリュウトが戻ってきた時に困るしね、ちゃんと戻ってきた時に……)

 

 

しかし途端に彼女の手は止まってしまい、彼がもう二度と意識が戻ってこない場合が脳裏に走り、恐怖と不安に脅かされてガチガチと震える。

 

(いや、そのこと考えたらダメよアタシ、愛美の言うとおり自分のカレシを信じなきゃ!!)

今の彼女は前向きと後ろ向きの気持ちが天秤のように左右に動き、情緒不安定となっている状態であり、それでも気を保とうと頭を振って取り直し続いていた。

 

「うん…………?」

 

ベッド横のデスクに何か置かれている物に注目する。それはくしゃくしゃとなったジェイドの残した手紙の中身とブラック・インパルスのエンブレムワッペンである。気になった彼女は失礼だと思いながらも読んだ。

 

(スゴいわ少佐……リュウトにこんなのをちゃんと残してたんだ……っ)

 

ジェイドの用意周到ぶりに感心すると同時に、竜斗がどうしてそこまで頑張れるのか、彼の原動力が分かったような気がする。

 

「エミリアちゃんいる?!」

 

その時、マリアが何故か息をゼイゼイ切らして深刻そうな顔でこの部屋に駆けつける。

 

「エミリアちゃんがベルクラスに戻ったからって聞いたから慌てて飛んできたんだけどあなたの部屋にいないからもしかしたらって……」

 

「ま、マリアさん、どうしたんですか……?」

 

「りゅ、竜斗君の容態が急変したの、危篤な状態だから早く来て!!」

 

「ええっ!!?」

 

――エリア51に突然、緊急サイレンが鳴り響く、その場所はなんと竜斗の病室――医師達が駆けつけるとなんと竜斗の心拍数が低下しており心臓が止まりかけており、付き添っていた愛美はもうワケが分からずあたふたしていた。

直ちに医師達がその場で彼の延命治療に入り、その後に続いて早乙女とニールセンとキング、エミリアとマリアが駆けつけ、最悪の結果になりえるその光景に立ち会い、誰もが絶望の淵に立たされた。

 

「竜斗が……竜斗がぁ……」

 

嗚咽しながら泣きよる愛美をエミリアが受け止める。

 

「竜斗はもう助からないの……マナそんなのやだよお……っ」

 

これまで自分よりしっかりしていた愛美が、こんなにまで顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして泣くその姿を見てエミリアは何を思い立ったのか、愛美を横にいる早乙女に渡して治療を受ける竜斗の元に駆け寄った。

 

「なんだね君は!」

 

必死に治療する医師を掻き分けて、竜斗の動かない右手にジェイドの手紙とブラック・インパルス隊のエンブレムワッペンを持たせてギュッと無理やり握らせた。

 

「リュウト、アンタは本当にそれでいいの!?少佐の約束を、爬虫人類と仲良くなるって誓いを果たさないままで本当にいいのォ!!?」

 

泣き叫びながら竜斗へそう伝える。

 

「お願いだから起きてよリュウト……っ、アタシ達を置いていかないでよ……っ」

 

彼女は、今にも願ってもない結末へ秒読みに入った彼へ、どうにか停止するように嘆願しながらその場で崩れ伏せてしまった――。

 


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