ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」②

あの戦闘から一週間が過ぎて――ここはエリア51の医務エリア。世界中の、そして最新の医療技術が集結している場所でもある。

そのエリアの病室ではベッドに生命維持装置を取り付けられて未だに眠る竜斗。一応、治療は成功し集中治療室から抜け出したが、頭、首は包帯だらけで酸素マスクをつけられて身体中には薬物と栄養剤の入ったカテーテル、そして心拍数を取るための機器を取り付けられたその姿は完全に重病人であり、その横に石のように動かず座り込み付き添うエミリアと愛美。

その外では早乙女とマリアは未だに目覚めない彼の容態に、少しも気を許さない心配をしていた。

 

「竜斗君……なんでこんなことに……っ」

 

「……頭を強くぶつけたらしいから脳挫傷の危険性があるといっていたが……もう峠を越えた今、その危険性はないと言われたが安心ははっきりいってできないな。それに頸椎も強く打ちつけているとも言われた――」

 

恐らく、最後の攻撃を受けた後、吹き飛ばされた頭部が格納庫に叩きつけられて転がり、そして壁に衝突した際に起きた事故だろうとは二人とも分かっていた。

 

「……脳挫傷、または頸椎損傷なら間違いなく危険です、生還率は非常に低いですし、下手をすれば植物人間になりうることだってあり得ます……意識が戻ったとしても社会復帰できるかどうかも怪しいですし……」

 

「あの戦闘後、すぐさまエリア51に飛び、そしてここの医療技術全てを投入して無償で治療をしてくれたことに、君含めて医療に携わった人達に感謝の気持ちでいっぱいだ。後は……彼次第か」

 

「ええ……っ」

 

 

二人は大きく深く息を吐いて、焦る心を落ち着かせようといっぱいだ。

 

(竜斗……君はまだここで終わるような人間ではない。頼むから目覚めてくれ)

 

今はただ心の底から彼の容態の回復を願うことしかできず、かつてない無力感を味わう早乙女だった。

 

「司令、そういえばあの機体の開発については現在……」

 

「完成間近らしい。だが今はそんなことに構ってる暇はない……」

 

 

「あ……すいませんっ」

 

言葉を濁す早乙女に感づいたマリアは、自分は無神経だと反省する。

 

「司令、これから私に出来ることはありますか?」

 

「もし君に心身共に余裕があるなら二人を安心させて休ませてやれ、あれからろくに寝てないだろうからな」

 

「了解」

 

直ちにマリアは去っていく。早乙女は再び深く呼吸して吐き出し、自身の内に溜まりに溜まった重い気を少しでも追い出そうとする。

 

「竜斗君は大丈夫かのう」

 

早乙女の元に作業服姿のニールセンが現れて彼の容態を聞くが彼は首も振らず無言だった。

 

「そうか……だが、かわいそうじゃのう竜斗君は――」

 

と、彼に憐れみの言葉をかけるニールセン。

 

「お前達から色々聞いたが、これまでに悲惨な目に遭おうとそれでもここまで必死で頑張ってきたあの子がな……それにしても神はあの子らに恨みでもあるのか?」

「神…………か」

 

「まあワシは神なぞ信じておらんしそんなこと言ってもしょうがないな。

それに戦場に駆り出て戦っている以上はこうなることは十分想定の内。寧ろよく、これまでに三人共無事生き帰れたなとつくづく思うなワシは」

 

「確かに…………」

 

「運がいいだけでは済まされないことだ、彼らの実力もあると思うが、ちゃんと手足揃って生きて帰れることだけでもよしとしなけりゃいかんぞい」

 

……その後、二人は開発エリアに向かい、完成を控えて最終調整を行っている、ウインチで縦吊りされた例の三機の戦闘機へ見上げる。

すでに外装は全て取り付けられておりそして白銀と薄紫のカラーコーティングされている。

一番左側は機体上部に二門の長い砲身が平行にマウントされた最も戦闘機に近い型、中央は鋭角的、そして右側はブースター部位がコックピットより一回り肥大化したようなフォルム……現存する世界中の戦闘機と比べて丸みや鋭角の多く凄い個性的なフォルムである。

 

 

「現時点でこの各ゲットマシンを操れるのはゲッターチーム以外に考えられないのだが、竜斗君がもし回復しなければ……もはやこれを動かすことは叶わぬことになるな」

 

 

それと同時に、開発費や時間、労力など、開発した苦労が全て無駄になると言うことを意味し、もう幾ばくもないニールセン、そしてキングにとっては成し遂げかけた人生、いや人類の集大成とも言える作品が脆くも崩れ去ってしまうことを考えただけで落ち込みかけてしまう。

 

「いや、もしその時は、私が竜斗の代わりに――」

 

「やめておけサオトメ。お前、一番最初のゲッターロボにも耐えられんようなヤツがこんな殺人マシンに乗るなんざ正気の沙汰とは思えんよ、間違いなく死ぬぞ」

 

「それでもやらなければならないんです、でなければ……竜斗が浮かばれませんっ!」

 

 

普段のような能面の彼からとは思えないほどに気張って叫ぶ早乙女にニールセンは拍子抜けする。

 

「お前、そんなに情に熱いヤツだったか?」

 

「前にも私に父性が芽生えたともおっしゃいましたが、それが最近になってさらに顕著になっただけですよ」

 

「……まあ、今はとりあえず彼の容態が回復するのを祈る以外に他はないな。

それよりも今のベルクラスをさらに改修したいと申していたがこれ以上何を改修するんだ?」

 

「前のシベリアでの戦闘においてあのバリア装置を持つメカザウルスが複数いましたしそしてそれらによって我々ゲッターチームはそれらに有効打を一切与えられずに完封なきまでにやられて敗北しました。

そして恐らくそれを標準装備としたメカザウルスがこれから多数現れると予想しています。そうなればもしこの艦が孤立した場合、間違いなく太刀打ちできずなすすべなくやられるでしょう」

 

「ふむ、だからそれを艦単独になっても対処するために……か」

 

ニールセンは白い髭の伸びた顎を指でなでながら考え込む。

 

「よし分かった。もうこの際、キング達と色々やってみるとしよう。

もう新型ゲッターロボの開発はもう終わりだし、幸いテキサス艦の建造で余った予備の部品もあるしそれを何とか組み込めるようにして利用するか」

 

「博士、ありがとうございます。もうなにから何まで世話になって――」

「その代わりこの後……まあ戦争が終わった後でもたくさんその礼ははずんでもらうよ、流石にここまで無償ってわけにはいかん。

ワシにもエンジニアとして、そして武器兵器の商売人としてのプライドもあるからな」

 

「分かってます――」

 

二人は腕組みして、深くため息混じりに三機の戦闘機『ゲットマシン』を眺める。

確かに竜斗の心配もあるが、それと同時にこれらも果たして日の目を見ることができるのか――それは二人が技術者として、精を込めて作り上げた『子供達』の親として晴れ舞台に出したいという想いも確かにあるのだ――。

 

「ホント、マナ達の苦労なんか知らないくらいにスヤスヤと寝てるわね」

 

一方で、エミリアと愛美は未だに起きる様子が微塵もなく、静かにベッドで眠り続ける竜斗を前に、暗い表情を落としている。

 

 

「リュウト…………」

 

彼の容態が一向に五里霧中であり、そして自身もなすすべがなく看ることしかできないこの状況で、愛する彼にもし何かあったらと不安と恐怖、そして悲しみから震えるエミリア。

「なんでリュウトだけこんな目に……っ」

 

一方、愛美は無言でベッド横のデスクに飾られた花瓶のしなれた花を取り替えている。

 

「リュウトは助かるよね、絶対に助かるよね!?」

 

「……マナにそう言われても……今は竜斗を信じるしかないよ」

 

「もしリュウトにこのままずっと意識が戻らなかったら、もしリュウトにもしものことがあったら……どうしよう……アタシ、アタシ……」

 

ここに来てから何度も何度も涙を流したのにまだポロポロと涙を流れ出てぐずついているエミリア。

 

「アタシ……アタシ…………リュウトがいなきゃ……もう……生きていけないよ……」

 

「ほらエミリア、そんな弱気にならないの、今は竜斗が元気になることだけ祈りなさいよね」

 

依然とした態度の愛美に彼女は疑問でいっぱいになる。

 

「なんでマナミはそんなに冷静なのよ、リュウトのこんな状態に何とも思わないの!?」

 

「エミリア………………」

 

「大体なんでリュウトだけがこんなにまで酷い目に、辛い目に遭わなければいけないのよ!

絶対におかしいわよ、なんでチームの中で一番必死で苦労してきた……なのにどうして神はリュウトばかりイジメるのよ!今までアタシは神を信じてきたけどやめてやる、金輪際もう祈らない、絶対に許さないんだからっ!!」

 

 

キイキイとヒステリックになったかのようにわめき散らす彼女にした愛美は突如、エミリアの胸ぐらを掴みぐっと引き寄せて睨みつける。

 

「アンタがそうやって喚いてたって何も起こらないでしょうがあ!!ここは病室なんだから静かにしなさいよお!!」

 

「喚きたくもなるわよ!!リュウトが戻ってきてくれないとアタシはもう……もうやだやだやだやだ、もうこんなのいやああ!!!」

 

「うるさァい!!アンタは竜斗の彼女でしょ、少しはカレシを信じて前向きに考えることができないのォっ!!?」

 

「信じてたって何も起きないじゃない!!!」

 

「なんですってえ!!!」

 

ほとんどヤケクソに近く、互いに怒鳴り散らし、取っ組み合い、喧嘩の一触即発のような状態となってしまう二人。

 

「マナだって……マナだって……竜斗が助けることができるならこの命だって投げ出たり何だってするわよ……けど、今は見守ることしかできないから……どうすることも出来ないから……」

ついには愛美さえも今まで耐えていた我慢の限界が来て、その場でへたり込んで子供のように泣き出してしまい、それにつられてエミリアも泣き出してしまい静かにすべきはずの病室は二人の甲高い泣き声の合唱の場と化してしまう。

 

「大丈夫二人とも!!」

 

ちょうどその時、その声に駆けつけたマリアがこの場の惨状に慌てて泣き喚く二人を抱き寄せて頭を優しく撫でてあげた。

 

「大丈夫だからね二人とも、竜斗君は必ず回復するから。ほらあなた達もちゃんと元気を出すのよ、そんな悲しそうな顔してたら竜斗君も悲しむわよ」

 

母親のように優しく宥めるマリアにすがりつく子供のようなエミリアと愛美――しかし竜斗はそんな彼女達の泣き声を無視するかの如く、なんの変化も見せることはなかった。

 

(竜斗君、あなたが彼女達の悲痛の声を響かせても起きないとは今どんなにいい夢を見てるの……?

だけど、みんなあなたがまた戻ってくることをすべからく待ってるのよ、だから、目覚めてちょうだい――)

 

しかしその願いも虚しく何日立っても彼は目覚めることはなく、一向に全員が不安となっていく――そんな中、

 

「世界中のメカザウルスが突然、活性化しつつあります」

 

「なにっ!」

 

司令室では所長のメリオ達がモニターに映る世界図に散らばる赤い円点が全て点滅している。

すなわち元から動いたものは言わずもがな、全く動かず駐在していたメカザウルスの群までもが一斉に動き出し、さらに今までなかったメカザウルスの反応がアリの如く沢山モニターに浮き出ている。

 

それを知ったメリオはすぐさま早乙女達にその事を知らせる。

 

「……恐らく恐竜帝国は総力戦を仕掛けてくるつもりだろうな、シベリアでの敗退から日が浅いことを考えると――」

 

恐竜帝国にとって、最大の敵であるゲッターロボを打破したことで勝利を確信し、ついに乗り出してきたと予想する。

 

「現在、メカザウルスの戦力数は?」

 

「……恐らく現在のメカザウルスの数はざっと十万近くはあるかと。さらに増加する可能性もあります」

 

「最低十万……か、それでも現在の我々の現戦力数では間違いなく覆せないな」

 

十万……アラスカ戦線でも増援含めても二万近く、シベリアにもほぼ同数の数だった。それよりもさらに増えることと、世界中にいる世界連の味方全戦力数、そしてこちらの主力となりえた人材も先の大戦でほとんど失ったことを考えると、もはやこちらが圧倒的に不利であり、予想していたことが現実となる。

「私達はどうしますか?」

 

「中破したルイナス以外にゲッターロボがない以上、今の我々ではどうすることもできん」

 

「しかしこのまま黙ってみてるワケには……」

 

確かにその通りだ。だが早乙女はそれでもまだ望みはあった。

それはこの時のために開発した新型機……これさえ動かせれば、操ることができれば間違いなく向こうとの戦力差を覆せる、それほどの絶大な力を持つ機体であると確信している。だが――それには恐らく竜斗の力が必要となるのだが当の本人は未だに夢の中に籠もりきっている状態だった――。

 

「司令!」

 

早乙女はいても立ってもいられずすぐさま竜斗の病室に向かい、中に入る。

 

「司令!」

 

「早乙女さんっ?」

 

息を切らして深刻な顔をした彼から、エミリア達はただならぬ何かを感じ取った―。

「竜斗……」

 

目を閉じて彼の呼ぶ声に何も応じず、そして言わぬ早乙女は心の中でこんなことを思い放つのだった。

 

(神よ、あんたは一体何がお望みなんだ!

助けてくれと、手を貸してくれとは言った覚えはないが邪魔だけはしないでくれ!

竜斗、いや三人の子達は……親や友達、黒田やジェイド、ジョージ少佐達などかけがえのない仲間を大勢失い、そしてたくさん傷ついてきたがそれでも、それでもめげずに互いに励まし合い、自分達の力でここまで乗り越えてきた。

それなのにあんたはまだ生け贄を欲しがるのか?しかも今度はよりによって、一番頑張ってきた竜斗の未来まで奪おうとするのか――どれだけ傲慢で身勝手で、残酷なんだ、あんたは!

そんなに人間の命が欲しいなら、そんなに運命を弄ぶのが好きなら――私をくれてやる、だからもう彼らにこれ以上苦しみを与えるな!)

 

――自分は牧師でもなければ、信じてきたわけでも祈ってきたこともないが、そんな彼らを頑なに、そしてとことん追い詰めようとする如き『神』の所業にいい加減腹に据えかね、啖呵を切る早乙女だった――。

 


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