ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十二話「大空へ羽ばたく、天使翼を持つゲッターロボ」①

「あのゲッターロボをジュラシック・フォースが!」

 

「はい、三機の内一機は中破、残り二機は大破したとの情報が。パイロットの生死は不明ですが」

 

マシーン・ランドの王の間ではその吉報に大いに喜ぶジャテーゴ。

 

「我々爬虫人類の天敵であり、恐竜帝国をことごとく邪魔をしたあのゲッターロボが……ついに!」

 

彼女は上機嫌に甲高い笑い声を響かせる。

 

「もはやこの戦争は我々の勝利も同然、全てが終わり次第ジュラシック・フォースの面々には参謀へ昇級の褒美を授けようではないか、ハハハ!」

 

勝利を確信した彼女は立ち上がり、高らかにこう告げた。

 

「これより我々恐竜帝国は全戦力を持って、全地上人類の殲滅を行う大作戦を開始する。各隊にそう伝言せよ!」

 

その事実を彼女の後ろで待機するラドラの耳に入り、もはや希望がないと暗い表情を落とした。

 

(リュウト君……っ)

 

その事実がマシーン・ランド内に知れ渡り、天敵がいなくなったことを喜ぶ者がほとんどだった。が、中にはラドラのように悲しみすすり泣く者もいた――。

 

(リュウトさん……皆さん……)

 

牢屋に入れられたままのゴーラはその事実に悲しみと絶望を味わい、床に泣き伏せている。

 

(お父様も、リョド様も、味方が次々に処刑され……もう何もかも希望がなくなってしまった…………っ)

いまや完全にジャテーゴの支配下に置かれ、自分の味方となってくる者などいるのかすら分からない。

 

(理想ばかり抱いていた私はただの大馬鹿者…………私はもう絶望と悲しみに押しつぶされそうで、もう死んでしまいたい……誰か、どうか私をひと思いに――)

 

希望がないと彼女は生きているのも苦痛なほどに悲観していた。

 

「ハハハ!よくやったな、ザンキ達ジュラシック・フォースよ!」

 

「いえいえ」

 

デビラ・ムー内のバットの豪華な装飾がなされた部屋にて、戦闘の勝利、そして何よりゲッターロボを完封なきまでに叩いたことを評して、上級酒の入ったグラス同士を鳴らして飲み交わし、祝い合うバットとザンキ。

 

「ジャテーゴ様はお前たちを大変賞賛しておったぞ、戦争が終わり次第褒美を与えるとな」

 

「ほう、それはどんな褒美でしょうか?」

 

「そこまでは分からんがゲッターロボを打ち破ったからには相応の賞美をもたらされるに違いないぞ」

 

「それは嬉しい限りで」

 

「甥のお前含めた最も優秀な四人をよこしてくれたゴール様に感謝したい所だがな……まあ、至福のこの時に暗い話をするのはよそう。

このぶんではお前達は私達各将軍の参謀につけるのももうすぐかもな、ハハハ――」

 

二人が祝い酒を飲み合っているこの部屋の天井に、揺らいだように何かが動くような気がした。

そこから雫が一滴、テーブルに置かれたバットの酒の入ったグラスに落ちたが話の夢中、そして勝利の美酒に酔いしれており本人は全く気づかいてない――しばらくして、ほろ酔い気分のバットが新たな酒のボトルを取りにザンキに背を向けた時だった。

 

「ぐあっ……」

 

突如、バットはその場で心臓部分をぐっと押さえて苦しみ、悶絶しだした。真っ青な顔をして、息を切らし冷や汗がダラダラと流れ出ている。

 

「ざ、ザンキ……、助けてくれ……」

 

「ククッ、ざまあねえな」

 

悶えるバットは顔を上げると目を疑う。何故なら『助けてくれる』はずの甥が、下品な笑みで自分を見下しているばかりで助けようとしないからだ。

「オジキ、俺はあんたの部下になるつもりはないんでね」

 

「なっ……なに……っ」

 

「俺は参謀になる気はない、飛び級して早く将軍になりたかっただけさ」

 

ザンキは叔父である苦しむバットの顔をグリグリ踏みつけた。

 

「俺は知ってるんだぜ、アンタは随分前から心臓疾患を患っていることをな」

 

「お、お前……まさか……っ」

 

「そのまさかよ。アンタの酒に心臓に負担をかけるように、早死へ向かってちいと加速させただけのこと。

今までアンタの命令を渋々と聞いてきたがそれも今日限りだ」

 

「ザンキ……、キサマ……っ!!」

 

 

ザンキの裏切りとその事実を耳にしたバットはかつてない怒りと悲しみに今にも爆発しそうなほどであったが、彼に制裁を与えるほどの力と体力はなく身体を起こすことも出来ず、呼吸をするのも一苦労な有り様であった。

 

「冥土の土産に教えてやるぜ。将軍だけじゃねえぜ。いずれあの性悪女のジャテーゴも潰して恐竜帝国を俺の支配下に置くつもりだからこれはその最初の一歩だ――というわけでもう死ねよ、俺の『尊敬』するオジキ、バット将軍」

 

すると突然、うつむせのバットの背中に『ドン』と強烈な打撃音が響いたと同時に、彼は白目を向いて動かなくなった。

ひっくり返して心臓に耳を当てて確認するがすでに動いておらず。

「……ついにやっちゃったね、バット将軍を……」

 

ザンキの横に突然、浮き出るようにニャルムが姿を表した。

 

「……将軍、あたしが天井に同化して張り付いていることに、そこから劇薬を落としたことに気づいているかどうか本当に不安だった……っ」

 

「だから酒を飲ませて少しでも注意力を散漫したんだよ」

 

「……けど検死で調べられたらどうする、薬を使ったってバレたら……」

 

「大丈夫。それも考えて成分が分からなくなるように薬を厳選したんだ。それよりもリューネスは?」

 

「……今、入り口付近について見張ってる」

 

「よし。ニャルムはリューネスと合流して今すぐここから離れろ、後は俺がやる」

 

ザンキは、事がバレることに酷く怯えるニャルムの額に、安心するよう軽い口づけを交わして言われた通りに出て行く。しばらくした後、ザンキは隠し持っていた手袋をつけてバットの使っていた酒入りのグラスを持ち、事切れている本人の手の横にグラスごと落としつけ、部屋の片隅にある緊急用のボタンを押すとすぐに衛兵が駆けつける。

 

「ば、バット将軍!!」

 

中に入ると冷たくなったバットに必死にさすり呼ぶ、青ざめて焦りに焦るザンキの姿に仰天する衛兵達。

 

「将軍が、将軍が私と共に飲酒中に突然倒れて動かなくなった、直ちに医務室へ運べ!」

 

「は、はっ!」

 

衛兵達が直ちにバットを医務室へ運んでいく。その付き添いでザンキも一緒についていく。

その途中で何食わぬ顔でリューネスとニャルムに顔を合わせると、彼はニヤリとドヤ顔を見せ、流石の二人も彼の底知れぬ『野心』に一瞬、寒気が襲ったほどだ。

 

(よしよし、これで俺にお咎めなく上手くいけば目的の第一段階は終了だな……先は長いが慌てず確実にやろうか……ククク)

 

一方で、マシーン・ランドの牢屋にて、泣き疲れて、まるで人形のように壁に背もたれたまま失意しているゴーラの元に、

 

「ゴーラ、ゴーラ」

彼女はその声を聞き入れ、虚ろな顔をゆっくり上げるとラドラが立っていた。

「……ら、ラドラ!」

 

彼女から生気が戻り、すぐに鉄格子越しで互いに手を掴み合った。

 

「よくぞご無事で、大丈夫ですかっ?」

 

「私は大丈夫です、それよりもラドラが酷い目に合ってないかが一番不安でしたが……無事で本当に良かった……っ」

 

互いが無事なだけで凄く喜び合う二人だが、すぐに暗い表情を落とす。

 

「私はジャテーゴ様直属の親衛隊長として任命されました……今やあの方の言いなりです」

 

「……あの方が、命を奪おうとした私を未だに殺さないのも、ラドラを手中に置くためでしょう……でなければジャテーゴ様にとって私は邪魔な存在、あの時間違いなく処刑しているでしょうから――」

自分はそのための人質だと確信する二人。

 

「あなたに情報があります。リュウト君達ゲッターチームが、ザンキ達ジュラシック・フォースに完封なきまでにやられたと――」

 

「……はい、存じております……っ」

 

「そしてこれからのことです。ジャテーゴ様はゲッターロボという大敵がいなくなったことを期に、これより恐竜帝国の全戦力を持って地球に蔓延る全地上人類を殲滅するべく総力戦を開始すると聞きました。そのことに対し爬虫人類ほぼ全員が賛成の意を唱えていると……」

 

「な、なんですって……」

 

「戦力を蓄え次第開始するとの話ですが恐らくすぐにだと思います――」

 

自分達の思い描いた願い、そして掴みかけた夢が脆くも崩れ去り、そして完全に地上人類はおろか、爬虫人類まで破滅の道に突入したことを意味する情報だった。

 

「い、今すぐこの場で私をひと思いに剣で突き殺しなさいラドラ!」

 

「ゴーラ!な、何をおっしゃいますか!」

 

「私さえいなければあなたは立ち上がることができる!そしてあなたに従う者も必ずいるはずです。それらと共にジャテーゴ様の野望を阻止してください!」

 

「ゴーラ……!」

 

嘆願するゴーラを前に怖じ気づいて瞳が震えているラドラだった。

 

「お願いです、このままでは間違いないなく地上人類はおろか、私達爬虫人類も終焉を迎えることになるでしょう。

私が思うにジャテーゴ様ではとてもじゃなく帝国を正しき方向へ導くことはできません、帝国の崩壊を食い止めることにも繋がるのです!」

 

「……ではその時は誰が帝国を……」

 

「それはラドラ、あなたです!誠実且つ信念があり気高く知識もちゃんと持ち合わせる、そして人望もあるラドラならっ」

 

「……私は王族でもなければ貴族でもなんでもない、ただの平民の身です。ゴーラ様が前におっしゃったような徳を自身に持つとは到底思えないですし、誰もが反対しましょう……」

 

流石の彼も凄く困惑するも、彼女は自信を持って首を横に振った。

 

「私は前にお父様からお聞きした事実を伝えます。私の婚約者を……ラドラ、あなたにすると」

「…………!」

 

ラドラの心に雷のようなもの凄い衝撃が今走り突き抜けた。

 

「お父様は私の婿をあなた一択、それしか考えられないと。私とラドラ、そしてジャテーゴ様を摂政とすれば帝国で歴代最高の善政をしいてくれるに違いないと、お父様は自信を持って太鼓判を押してくれました。

無論私も、あなたが夫となってくださるならこれ以上の喜びなどありませんっ」

 

「ゴーラ……」

 

「しかしもうそれは叶わぬこと……だからせめてものあなたが立ち上がり、そしてこの爬虫人類の帝国をあなたの手によって正しき道に導くのです。だから早く、早く私を!」

 

全ての事実を彼に伝え、自分の命と引き換えに必死に嘆願するゴーラ。

 

ラドラ自身もこの事実を聞いて嬉しくないはずがない、政権を握りたい?いや違う、自分もゴーラとずっと先に、共にいられることに――だが彼は立ち上がると彼女に背を向けた。

 

「ゴーラ……私は、どうしても、どう考えてもあなたをこの手で殺すことなど出来るハズがごさいません……っ」

 

「ラドラ……あなたはっ――!」

 

「――臆病者と、軟弱者と言いたいのなら好きなだけ言ってください……。

しかし、ゴール様はあなたが死ぬことだけは絶対に望んでいないですしそれに……私はあなたが死ねば確実に壊れてしまうことでしょう。

あなたが無事なだけでも私はこんな腐り始めた帝国でもちゃんと気を持っていられる、そんなあなたを私はどうして手をかけることができましょうか……っ」

 

「ラドラ!!」

 

彼はゆらゆらとふらつくように、寂しく去っていく。

 

「ラドラ……なぜ分からないのです……このままでは進展なんか全然しないのに……」

 

と再び泣き伏せてしまうゴーラ、そしてラドラも牢屋から出た瞬間に通路の壁に寄りかかり、ついにのしかかる多大な精神的負担に我慢の限界がきて泣き出してしまった。

 

(どうすればいいですか父さん……俺はもう心が痛くても気が狂いそうです……どうすれば……)

 

彼はもうこの世にいるはずもない、そして答えの返ってくるはずもない父リージへ救いを求め、すがる気持ちでいっぱいであった――。

 


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