――その時の僕は完全は自分を見失っており、いつもなら見えているはずの周りの状況が全く見えていない有り様だった。
自身の内に溜まりに溜まったフラストレーションをなくすために憤りに身を任せて、まるで野蛮人の如く戦った。
だが、その行動の代償として思わぬ惨劇をひき起こそうとは――。
「将軍、これを!」
中心の立体モニターで外部を移すと、南方向から自分達の敵である地上人類のSMBの大軍、そして天敵である三機のゲッターロボとベルクラスが先頭でこちらへ進軍する姿が映し出される。
「あれは……例のゲッターロボという機体です」
「うむ、ついにこのシベリアに現れたか、我々爬虫人類の天敵ゲッターロボめ!
全部隊に直ちに迎撃を開始、敵軍の殲滅を図れ。
そして今戦闘はあの日本、アラスカ戦線にて大敗の起因であるゲッターロボが参戦している、最優先で攻撃、破壊しろとな!」
「はっ!」
「そしてジュラシック・フォースに伝えろ、お前たちの力を駆使して何としてもゲッターロボを首をとってこいとな!」
デビラ・ムーからおびただしい数のメカザウルスが発進、すでに外で待機していた各機と合流し南方向へ一斉に行動を始めた。
「おい、今回あのゲッターロボがいるってよ!」
「そりゃあ相手に不足しねえな、楽しみだぜ!」
「……うん、早くぶち殺したい……っ♪」
早速出撃して、向こうが押し寄せてくる南方向にすぐさま向かっていくジュラシック・フォース。仲良し三人組はゲッターロボを相手にすることに意気揚々だが、クック一人だけはいつもと同じく無表情だった。
(……確かゴーラ様、ラドラと仲の良い地上人類の子がゲッターロボのパイロットか……そんな子と戦うのは辛いが、これもまたそういう運命か……)
竜斗のことだ。彼もまた親友のラドラと仲良くなった地上人類の子と戦い、殺さなければならないことに抵抗感があるも、キャプテンとして、ジュラシック・フォースの一人として命令には逆らえまいと、どの道避けられない戦いだと、無理やり自身に言い聞かせたのであった――。
「マナミ、リュウトは大丈夫だよね……?」
進行中、エミリアは彼の心配から愛美にそう聞くが、
「あいつが大丈夫って言ってんだから大丈夫でしょ!」
と、やはり彼女もまだ怒りが収まってなくぶっきらぼうにそう伝える。
「そんなに心配なら本人に直接聞いてみなさいよ」
「……うん、けどなんか今のリュウトが凄く怖くて……それに今回イヤな予感がするのよ」
「…………」
実のところ、愛美もいつも以上の不安に駆られていた。
「エミリア、マナも戦いながら常に監視するけどもし竜斗に何か異常を感じたら知らせて、早乙女さんに連絡してあいつをベルクラスに戻すようにするから」
「うん、分かった」
――そしてついに互いが接触し、激しくぶつかりあい、火花を散らす。
SMBや戦車の無機質な地を踏む音、駆動部を動かした時の金属同士がかすれる音、そしてメカザウルスの醜態な雄叫びがこの広大なシベリア全体にこだまする。
それぞれプラズマ弾、ドロドロのマグマ、マグマ弾、各ミサイル、機関砲、無数の火線が広範囲に飛び交っていき、密着する機体同士は互いの持つ剣やナイフ、そして鋭い牙や爪、殴り合いなど近接用武器での白兵戦の応酬を重ねていく。
「日本のゲッターロボに負けるな!」
ロシア軍のSMBである『ヴォルグ』はBEET、そしてマウラーのような無骨でフォルムであり、携行するライフルから高出力の小型プラズマ弾をばらまき、メカザウルスを撃ち抜いていき、そして右腰部のナイフホルダーから高周波振動ナイフを取り出し、メカザウルスを容易く切断していく。
「ロシア軍やゲッターロボにおくれを取るな!中国軍の力、今こそ見せてやる!」
中国軍のSMBの骸鵡もプラズマ・エネルギーライフル、右肩のミサイルポット、そして特徴的である巨大な青竜刀をブンブン振り回して豪快に一刀両断、そしてなぎ倒していく。彼らはまるで自分達が国のために優位に立とうと誇示しているかのように。
「ベルクラス、全弾一斉射撃!」
「了解。『これよりベルクラスは地上のメカザウルス達を一掃する、射程内にいる味方機は直ちに退避せよ』」
ベルクラスも艦全体に内蔵した各ミサイル、四門のプラズマビーム砲で地上を空襲しそれにより直撃、または巻き添えを受けて次々に消し飛んでいくメカザウルス。
地上、そして空中からもメカザウルスによるベルクラスへの一斉攻撃が始まるがプラズマシールドで艦全体を防護、全てを一切遮断した。
「主砲発射スタンバイ。射角を八十五度に合わせろ」
ベルクラスの艦首が開き、大口径のプラズマビーム砲が姿を現し、内部から青白い光、プラズマエネルギーが収束した――。
「撃てっ!」
砲口から極太で大出力のプラズマエネルギーの光線が斜め上寄りで遥か前方へ伸びていき、射戦上、そして周囲のメカザウルスを飲み込み、そして消し飛ばしていった。
「はあっ!」
「オラア!」
ルイナス、アズレイに乗るエミリア達も勇敢に立ち回り、戦い続ける。
アラスカ戦線で大量のメカザウルスを相手にするのは慣れたのか、エミリアですら臆することなく、そして張り切って奮闘する。
「エミリア!」
「マナミ!」
二機は敵の密集地の中心に移動、互いに背を合わせて脚部の車輪ユニットを駆使して細かくクルクル円周を描きながら各火器で全方位に火線攻撃し、一気に殲滅していく。
「やるじゃないエミリア!」
「マナミもねっ」
「じゃあどんどん行くわよ、女子組の力をヤツらに見せてやりましょう!」
「うん!」
この女性陣はゲッターロボの性能も相まって、中国、ロシア軍の部隊に勝るとも劣らない戦闘力を発揮した。
地上で各機が奮闘する中、そして空中では。
「うああああああっ!!!」
竜斗の駆るアルヴァインは確かに空中のメカザウルスを飛ぶ勢いで落としていくが、いつもの理性的な戦闘ではなく、ほとんど勢いに任せた豪快だが、隙がありすぎる行動ばかりだ。
「ちくしょおおおおおっっ!!」
今の彼は戦闘に集中しておらず、これまでに破壊した、破壊された沢山のメカザウルス、SMBの無残な姿、そして死んでいった人達がまるで溜まりに溜まった恨み、悲しみ、憤怒、無念などの負の感情で構成された亡霊が全て彼にのしかかり、思考を圧迫していた。
それから振り払うかのように、逃げるかのように「暴走」して戦う竜斗――。
(もう疲れた……何も何もかも…………どうせもう希望なんてないんだから……)
と、諦めかける竜斗だが、
(けど少佐との約束……それに黒田一尉やジョージ少佐、俺達に色々尽くして死んでいった人達を期待を裏切るわけには……)
今の彼は、闇と光ともいえる二つの正反対の思いが揺れ動き、そして翻弄され、さらに彼の冷静さを失わせる要因ともなった。
「竜斗君…………っ」
「…………」
早乙女達も戦う最中、そんな彼のまるで蛮族のように、勢いに任せたその乱暴な戦いぶりに、さらに不安を掻き立てられていく。
「いつもみたいに冷静さを保て竜斗、このままだと君は自滅するぞ!」
と、忠告を受けると竜斗は、
“ちゃんと戦ってるじゃないですか!!”
と、反抗的にそう返してくる彼に面くらう二人。
「竜斗……お前……」
“何も文句言わずに……これまでも、今までも何も文句を言わずにちゃんと戦っているじゃないですかっ……!”
竜斗の内から喚くような悲痛を感じる二人。今、彼がもがき苦しんでいることを……。
“……大丈夫ですから、ちゃんと冷静で戦ってますからもう僕を心配しないで下さいっ!”
「おい竜斗!」
「竜斗君!!」
竜斗が無理やり通信を遮断しもう一度繋ごうとしたが全く繋がらない。完全な心身的の異常を起こす竜斗に、そして彼自身に起こりうる本当の危険を察した早乙女は直ちに地上の女子組に連絡を繋ぐ。
「二人とも、直ちに竜斗の監視しながら、援護に入ってくれ」
“今マナ達もちょうどそれを行ってるところよ!”
“リュ、リュウトは今そんなに酷いんですか?”
「彼を直ちに休ませたほうがいいのだが彼が向こうから通信を遮断して私達からもう受け付けない、完全に暴走している」
それを聞いた二人は仰天し、直ちに彼に通信を繋ごうとしたがやはり受け付けず。
「リュウト、リュウト!!!」
「こんな時にふざけんじゃないわよ竜斗っ!!出なさいよもう!!」
だがどれだけやっても全く竜斗へ繋がらなず、特に怒りで上っていたが次第に血の気が一気に冷める愛美。
「サオトメ司令、全然リュウトに通信が繋がりません!」
「どうすんですか!あいつをすぐ取り押さえようとしても空を物凄いスピードで飛んでるからどう考えても無理ですよ!」
実は、早乙女も直ちにアルヴァインに搭載された緊急停止回路を作動させたいが今、高度で音速移動しながら戦っているのでここで停止させれば、間違いなくその速度で地上へ急降下して叩きつけられてしまうので間違いなく即死は免れないだろう。
“撃ち落とすわけにもいかないし私達にも今はどうすることもできない。
二人にさらに過酷を強いられてしまうがすまない、竜斗を常に見張っててくれ。あのままだと彼はいずれ自滅してしまう”
事の重大さに二人は思わず沈黙してしまった。
“私達も何とか手を尽くしてみる、君達も協力してくれ!”
早乙女の頼みに二人も迷わず頷いた。
“ありがとう。私達ゲッターチームは団結して竜斗を説得し保護、そして現状況を何としてでも乗り越えるぞ、いいな!”
「「はいっ」」
――何としてでも暴走する竜斗を助けると、早乙女達はそれぞれ行動を開始する。
早乙女とマリアは彼に通信を何とか繋ごうと諦めずに必死で送信をする。
「竜斗君が……なんでこんなことに……っ」
今回になって急に変貌してしまった彼に哀れと悲しみを感じるマリア。
「おそらく……今まで溜まりに溜まったストレス、悲しみ、怒りなどの負の感情が今ここで暴発したんだろうな。
これは竜斗のせいではない、寧ろ彼はこれまで様々な苦難の連続に遭いながらよく耐えていたと思うよ、それに全然気づけず放置していた私達にも責任があるんだ――」
「……司令っ?」
「私は……私は竜斗を無事助けれるのなら私の命を捨ててもいい、彼を無事救えれることができるのなら……竜斗の代わりにこれまでの、そしてこれからも待ち受けているであろう苦難を全て背負ってあげたい。彼のもう一人の父として、彼を――」
マリアは信じられない光景を目にして唖然となった。
あの早乙女が、今まで我が道を突き通し本心が読めなかったあの早乙女が、今の竜斗に対する哀れみと悲しみから涙を流していることに。
それはまるで本当に父親のように――。