ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十一話「ジュラシック・フォース」③

――その頃、僕は失意した毎日を過ごしていた。あの事件以来、何もかも振り出しに戻ってしまったこと、今までやってきたことが、掴みかけていた夢が全て水の泡となったしまったことに。そしてゴーラちゃんやラドラさんが安否さえ不明。僕の心は嫌な事、不安ばから駆られていて僕は少しずつ堕ちてきていた――そんな時だ――。

 

「シベリア地区のロシア、中国連合軍から私達ゲッターチームに救援要請が入ったので直ちに向かうことになった」

 

「シベリア…………」

 

「今現在、世界中でも特に激戦区となっている所だ。大雪山戦役、アラスカ戦線での活躍を見込んで君達の力を貸してくれとのことだ」

「…………」

 

いつもなら前向きな竜斗であるが今回は非常に暗く複雑な表情を落としている。早乙女とマリアは彼を見て瞬時に今の心境を察知していた。

 

「出発は明後日、それまでに用意しておけ、いいな」

 

「「はいっ!」」

 

エミリアと愛美は元気よく返事する中、やはり彼だけは返事がない。

 

「……竜斗、大丈夫か?」

 

「は、はい……大丈夫ですっ」

 

慌てて返事をする竜斗に二人はため息をついた。

 

「竜斗、確かに君が酷く落ち込んでいるのは十分に分かるし気持ちも理解できるがそろそろ現実を受け入れろ。

君はゲッターチームのリーダーだろ、二人を不安にさせることは絶対するな」

「わ、わかりました……気をつけます」

 

素直に頭を下げて謝る竜斗に早乙女とマリアは黙って彼を見つめる。

三人を解散させた後、早乙女は席に持たれるように座り込みため息をついている時、マリアが特製の熱々のブラックコーヒーを入れたマグカップを彼に差し出した。

 

「ありがとう。しかし竜斗、あの事件のことに相当きてるようだな」

 

「ええ。竜斗君を今のままで戦闘を行わせるのは間違いなく危険です」

 

「………………」

 

マグカップを少しすすり、軽く息をつく早乙女。

 

「なあマリア、竜斗って本当に優等生気質だよな、良いも悪いも」

「はい、私もそう思いますね」

 

「竜斗もエミリアや愛美のように私達に反論、反抗してくれれば多少は彼も気が晴れるかもしれんが、彼は違う」

 

「ええ。あの子は真面目で素直ですし、基本的に私達の言ったことを受け入れてきちんと守ろうとしますからね。スゴく良いことなんですが……」

 

「男なんだから遠慮せずに二人みたいにたまに反抗的になってもいいのにな、私もその方が張り合いがある。

だが彼は私達から叱咤をそのまま受け入れて反論せず、全て自分が悪いと思い込む。手間がかからんことは確かに良いことだが、それをほとんど自分の抑え込もうとするからなおタチが悪い――」

 

 

 

二人はエミリアと愛美の気の強い要素を竜斗にも少し分けてあげてほしいとも思うのだった。

 

「それで話は戻しますが、竜斗君を今の心境で戦闘に参加させるのははっきりいって危険です――」

 

早乙女はコーヒーを飲み干すと、立ち上がり窓側に向かい外を見る。

 

「……今、ゴーラ達は無事なのだろうか。それさえ分かれば竜斗もそれだけでもだいぶ安心するだろうがな」

 

「…………」

 

「和平は決裂してさらに戦況は悪化の一途を辿る一方だが、あの二人がいる限りまだ希望はあると私が思う。せめて二人の安否さえ分かることが出来れば……」

 

今、ゴーラとラドラにおかれている状況を知るよしもないが、無事であってほしいと祈るばかりの早乙女とマリア。

 

 

「司令、ところで新型ゲッターロボの開発状況は?」

 

「順調だよ。ニールセン、キング博士、そして全世界から集められた優秀なエンジニアと科学者達が総結集している上にエリア51という最高に設備の恵まれた場所で開発しているからな、完成には時間がかからないだろうとは思う。だが問題は――」

「――もしかしてパイロットですか」

 

「ああっ、今の彼らでは各機を操縦できたとしても絶対にゲッターロボまで持ち込めずカマ掘って終わりだ。だが現状で彼ら以外で扱える者達など到底いない、なんとかせねば――」

 

一方で、竜斗は二人に「ごめん、今は一人にさせて」とただ一人分かれて部屋に戻っていき、そんな彼の暗い後ろ姿をもの悲しい視線を送っていた。

「……流石の竜斗もこたえてるわね、あればかりはマナ達にはどうすることも出来なさそう……」

 

「リュウト……」

 

二人も早乙女と同じく彼の現状にため息をついた。

 

「たくう……だから言ったじゃない、あんなの上手くいくわけがない、爬虫人類の罠かもしれないだって――」

 

「…………」

 

「けどマナは……もう絶対にあいつらを許さない。あの場にいた罪のない人達を殺した上に、竜斗までも踏みにじったこの恨み、絶対に倍にして返してやるから!」

 

と、愛美はマグマの如き怒りを激しく沸き上がらせた。

 

「マナミの気持ちが十分分かるけど……」

「何よ、あんな目にあってもアンタはまだあいつらに肩入れする気なの?」

 

「違うよ、アタシだってこんな酷いことをしたあいつらにはホント腹に据えかえてるよ。ただ……ゴーラちゃん達が無事かどうかが……」

 

「まあ聞けば……あの子達が同じ仲間に殺されかけたって話だからね。

向こうの事情なんかマナに知ったこっちゃないけどそんな複雑な関係ならなおさら和平なんか夢のまた夢、絶対に望めるわけないじゃない」

 

全くの正論を言う愛美に反論できないエミリア。

 

「けど……マナもあの子だけは絶対に生きててほしいと思う、生きてるって分かっただけでも竜斗が元気になってくれるかもしれないからね」

「マナミ……」

 

「さて、マナ達も今から準備しましょ。次の場所は激戦区らしいから綿密に備えとなくちゃ」

 

「リュウトは……大丈夫かなあ……」

 

「今はそっとしておきましょ、心配しなくてもアイツならいつもみたいに実戦になればちゃんとやってくれるでしょうし、今の内にどんと落ち込ませたほうが後でラクになるから、そうでしょ?」

 

「う、うん。まあ……」

 

「今は自分のことに専念するの。格納庫に行ってゲッターロボの最終調整しに行こ、エミリア」

 

二人は竜斗を誘わず格納庫へ向かっていった――。

 

しかし結局、竜斗はあれから気が晴れることも、何も解決しないままに数日後、シベリアへと向かった。

アメリカように都市内で設備が整った基地らしい基地はなく、シベリアの広大な土地にいくつもの地面や丘に埋め込まれるように作られたトーチカ、無数の各天幕やなどあちこちに張られており、明らかな移動前提の野外駐屯地である。

そして鉄条網に囲まれたエリアには長屋が並ぶようにあり、そこには燃料、弾薬庫や補給庫、SMBの駐機場が設けてある、かなり泥臭い場所だ。

 

「ゲッターチーム、ようこそ極寒の地シベリアへ。お待ちしておりました」

 

「こちらこそ、お迎えありがとうございます」

 

「いえいえ、あなた方はアラスカ戦線での英雄ですからな、大いに期待していますぞ」

 

ベルクラスを近くの平地に着陸させた後、すぐさま総司令官、各大、中隊長と握手を交わす早乙女達。

挨拶が終わると早乙女とマリアは次の作戦内容を聞きに司令部に赴いている間、三人は周辺を見学しに辺りを見回っている。

 

「アメリカの時と違って向こうの先が全く見えないね」

 

「うん……」

 

アラスカでも見なかった地平線の世界に三人は何かとんでもないところに来てしまったなと感じていた。さらに周りの野外駐屯地も泥臭く、そして殺伐としており、エリア51やテキサス基地のような未来的な雰囲気が全く感じなかった。

しかし、それ以上に気になったのがやはり……。

 

「アタシ達、変な目で見られているね……」

 

「…………」

 

近くにいる各隊員達から三人に向こうであったような冷ややかな視線が向けられている。

 

「見る限り、中国人や……ロシア人ばかりのようだけどね――」

 

テキサス基地でもこのようなことがしばしばあったので三人は別に気もしなかったが、ベルクラスへ帰ろうとした時、十人くらいの作業服を来た中国人に囲まれる三人。

 

「な、なんなのこいつらっ?」

 

ニヤニヤしながら、そして珍しい物見たさのような怪しげな視線を三人に集中させる男達。

 

「こいつらが日本から来た例のゲッターチームかっ」

 

 

「どんなヤツかと思えば、ただのガキ三人じゃねえか、ハハハ」

 

十人とも中国語で話すため、何を喋っているか理解できない三人は更に彼らに対して気味悪くなった。

 

「おい、一人だけ日本人じゃない女がいるぜ」

 

「白人か。なんて日本人と混じっているか分からんがカワイイじゃん」

 

男達はエミリアに一斉に視線を向け、本人は血の気が引くほど震え上がった。

中の一人がニヤニヤと不気味な笑みをしながらエミリアへ近づいていく。

 

「え、え……っ」

 

後退るエミリアに詰め寄るように向かってくる男、しかしその時、竜斗がすぐさま男の前に立ちはだかった。

「なんだお前は?どけよ」

 

「おい、エミリアに何する気だ!」

 

「邪魔だって言ってだろうが!」

 

男が竜斗の左頬へ全力の拳で殴りつけた。

 

「リュウト!」

 

地面に倒れこみ悶絶する彼に慌てて二人は駆けつけ優しく起こした。

 

「アンタ達、竜斗になにすんのよおっ!!!」

 

愛美が怒鳴りつけるが彼らには日本語を理解できてないのか「はあ?」、としか言わない。

 

「ちゃんと中国語で喋ってくれねえと分かんねえよ。まあ分かりたくもねえけど」

 

「どうする、こいつら?」

 

「時間はたっぷりとある、たまりにたまったストレス発散として色々遊んでやろうぜ」

 

男達はゆっくり三人に詰め寄りはじめ、逃げ場を無くして追い込んでいく。そんな絶体絶命の中、

 

「やめな!!」

 

全員が後ろを振り返ると作業服姿の若そうな一人の中国人女性が眉間にシワを寄せて腕組みして仁王立ちしていた。

 

「アンタらの今行った行為を隊長やその子らの上官に報告してやるから」

 

「美麗……てめえ」

 

「特にその子らの上官は聞く話ではアタシらの大先輩のようなもんだから、きっとそれを知られたらアンタらはこの子ら以上に痛い目見るかもね」

 

「けっ、日本人なんぞに肩入れしやがって……この非国民が」

 

「あたしからすればアンタらの方が同じ中国人として情けないよ。さてどうするの、このまま引かないのなら直ちに報告しにいくからね」

「ち、行くぞっ」

 

男達が渋々去っていくのを見届けたこの美麗という女性はすぐさま三人の元へ駆けつけ「ダイジョーブ?」と、片言ながら日本語で語りかけてくれたことに驚く三人。するとエミリアは、

 

「あなた、もしかしたら英語で話せますか?」

 

と、試しに英語で語りかけると彼女もちゃんと「日本語は少ししかできないけど、英語はできるよ」と返してくれたので安心した。

 

「私は鈴美麗(りんみれい)、SMB専門の整備副長やっててんの。よろしくね」

 

互いに紹介して、美麗は竜斗の顔を見ると殴られた部分が腫れ上がっていたのですぐさま救急箱を持ち出して手当てをしてくれた。

「けど、美麗さんはどうして英語を?」

 

「アメリカの大学に留学してたからね、ロボット工学専攻で。そこで日本語も少しかじった程度だけど、アンタ達が英語を出来てよかったよ」

 

彼の頬に湿布を張ると治療が終わった。

 

「許してね。あいつらは私と同じ整備員なんだけど最近、シベリアの戦況がさらに悪化して全く手が回らないほどに作業環境が劣悪化しているからストレスが半端ないのよ」

 

「…………」

 

「けどいきなりマナ達に取り囲んだ上にエミリアに迫ったり、挙げ句に竜斗にまでこんな酷い目に遭わせて……こんなの許されるはずないじゃない、いくらストレスがたまってるからってして良いことと悪いことがあるっ!」

 

愛美ただ一人反論する。すると美麗はため息をつく。

 

「その通りね。けど……エミリアちゃんはともかく、あなた達二人のような日本人には辛い場所なのよね」

 

「え……僕達ですか?」

 

「なんで……?」

 

「全員とは限らないけど基本的に中国人は日本人を嫌っているからね。百年以上前の昔にあった日中間の戦争とか色々なことに未だ根に持ってたりするからね。ロシア人からはアンタ達をどう思ってるか分からないけどさ」

 

「…………」

 

「そもそも連合軍として組んでいるはずのロシア人とも仲悪いしね、私達中国人は。

今は爬虫人類と闘うために協力して戦わないといけないから仕方なく組んでるけど、実際は色々しがらみがあったりしてもう大変。かと言ってどうすることも出来ないのも現状なのよね」

 

と、今の二つの巨大な国家間の問題を悲観する美麗と彼女の話を聞いて、ここにはアメリカと違って味方などほとんどいないことを思い知らされる三人だった。

 

「けどさ、三人に分かってほしい。あたしみたいに、日本人や他国の人達を嫌わない中国人もちゃんといることを知ってほしいわ――」

 

と、美麗から頼みには、心の叫びのようなが聞こえてくるような気がした――。

 


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