ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十話「カウントダウン」⑥

ベルクラスから降りた二人の前に迎えの高級車がやってくる。中から黒スーツを着込んだ黒人の運転手が降りて挨拶する。

 

「お待ちしておりました、貴方が石川竜斗様とボディガードの早乙女克己(かつみ)様でございますね」

 

「は、はいっ!」

 

「はい」

 

緊張から声が裏返ってしまった竜斗に隣の早乙女が優しく「落ち着け」と背中をポンと。

 

「誠に申し訳ありませんが本人様の確認のためにパスポートなどの身分証をお見せください」

 

彼は自身のパスポート、そして早乙女のをパスポートを提示し、確認をしてもらうと笑顔を戻してもらった。

 

「失礼をおかけしました。ではお二人様は車内にお乗りください」

 

礼をし二人のために後部席のドアを開けてあげた。

 

「竜斗、君が先に乗れ」

 

「あ、はい」

 

竜斗、早乙女の順に乗り込み出発。ホワイトハウスまでの間、竜斗はこの高級感溢れる車内の雰囲気を味わっていた。しかしそれよりも竜斗はとあることに気になっていた。

 

「司令……」

 

「どうした?」

 

「今日初めて知ったんですが……司令の下の名って克己って言うんですね」

 

「……ああっ、そうだ」

 

どこか、自分の名を言い渋っている早乙女に竜斗は雰囲気的に彼に聞いてはいけなかったかとも感じてしまう。

「す、すいません司令……もしかして気にしてます?」

 

「いや、君らに教えてなかった私が悪い。ただ、ちょっとな……」

 

彼の雰囲気を見るとあまり自分の名に快く思ってなさそうである。

 

「それよりも君はマナーや作法などは大丈夫か?」

 

「はい、一応一通りは頭に叩き込んだつもりですが」

 

「よし。私から言えることは確かに今までとは雰囲気の違う場所だから緊張するのは確かだが、失敗しても慌てないことだ」

 

「はいっ、気をつけます」

 

「それ以外は君のことだから心配していない、冷静沈着を保っていけ。私もそばにいるから安心しろ」

と、早乙女にアドバイスされた。

 

「……それにしても司令はあのニュースを見てどう思いました?」

 

「正直、仰天はしたし色々と疑問もあったがそれはそれで戦わなくなってよかったと思う。君もそれが本望だったろ?」

 

「はい……けど、あまりにも唐突過ぎて」

 

「それはみんな同じことを思ってるさ。さて、話はこれまでにして君は心を落ち着かせておけ」

 

と、言われて彼は瞑想に入る。

 

――正直怖い、不安以外の何事でもなかった。考えられるだろうか。こんなどこにでもいそうな、日本人の高校生だった自分があのホワイトハウスに招待されようとは天地がひっくり返っても考えもしなかったことだ。

向こうに待つ人達はアメリカ大統領、そして世界各国の首脳……果たしてこんな自分が足を踏み入れていいものなのか……そして何とも思われないだろうか。

しかしこれも世界、爬虫人類の友好の架け橋になるため、そして自分と会いたがっている例の人物と再開するため……僕は到着の前に最後の覚悟を決めた――。

 

ワシントンD.C.の中心部のペンシルベニア通りのホワイトハウス、そして世界連本部のある区域に入っていく。

車が止まり、同じく運転手がドアを開けてくれたので竜斗、早乙女は降りてエグゼクティヴ・レジデンス、つまり大統領住居であるメインハウスの前に立つ二人。

 

「な、何度かテレビで見たことあるけど実物はスゴいなあ……っ」

 

竜斗はその特徴的な全体が白色の建物の圧巻さに目を奪われる。恐らく日本の高校生でこんな神聖なる場所に立つのは自分が初めてだろう、と思った。

すると正面入り口から同じくスーツを着こなした白人の男性案内人が彼らの元へ駆けつける。

 

「石川竜斗様、そして早乙女克己様、お待ちしておりました。こちらへご案内します」

 

案内人の後をついていき中へ入っていく。竜斗は緊張しつつも恐らく最初で最後であろうこの超高待遇ぶりな雰囲気を味わっていた。

 

(僕の代わりに、愛美はともかくエミリアだったら極度の緊張でぶっ倒れそうだな……これっ)

 

二人を今の自分と置き換えた時を想像する竜斗だった。

建物内部に入ると日本とは異質のその気品溢れる西洋的で神聖な空間が彼らを迎え入れた。そのまま案内人についていくと大きな木製のドアの前に立ちどまる。

 

「少々お待ちください」

 

と、案内人はドアをノックして一人だけ入っていく。約十数秒ほど待つと扉が開き先ほどの案内人が現れた。

 

「お待たせしました。ではこちらへお入り下さい」

 

彼らが通れるようにそのドアが全開に開かれた。

 

「竜斗、行くぞ」

 

「はいっ」

 

二人は中へ入るとの高価そうな絨毯で敷き詰められた場所であり、中央部横にはグランドピアノが飾られている。そこにいたのはアメリカ大統領、そして、

『リュウトさん!』

 

「ゴーラちゃん!」

 

再開するなり緊張など忘れて二人は駆け寄り手を繋いだ。

 

「やっぱり君だったんだね!俺と会いたがっている人はっ」

 

『はい、今日という日をどれだけ待ちわびたことか……ワガママながら私は思い立ってもいられずあなたにお会いしたくてたまりませんでしたので……』

 

「ゴーラちゃん……ありがとうっ」

 

二人は久し振りの再開に心の底から喜んだ。

 

「ようこそ竜斗君、ホワイトハウスへ。私がアメリカ現大統領を務めているトレントだ」

 

「はじめまして、石川竜斗ですっ」

 

二人、その後早乙女も笑顔で固い握手を交わした。

 

「ゴーラ君の話の通り凄い仲良しそうで本当によかったよ、確かに君は誰とも仲良くなれそうな素晴らしくいい笑顔をしているな」

 

「いやあ……それほどでも……っ」

 

大統領のトレントから誉められてデレデレ状態の竜斗にゴーラ達もいい笑顔をしていた。

 

「今日はパーティー会食があるからぜひ参加していって楽しんでくれたまえ、他の者も君と話したがっている」

 

「こちらこそ喜んでっ」

 

しばらく会話した後、トレントは仕事と、彼らに会話の間を設けてしばらくその場を後にしていった。

 

『サオトメさん、またあなたにお会いできて光栄です』

 

「私もだ、ゴーラ。ついに君達の願いが叶ったなっ」

 

『はいっ、もうリュウトさんになんとお礼をいっていいか……』

 

「けどさ……俺、なにかそんな役立つことをしたのかなあってっ」

 

『あの時、偶然的にあなた達との出会い、そしてお話ししたことが私の思い描いていた戦争終結、そして互いの和平、共存について私の自信と意志を固めることができました。

それから毎日、私はお父様へそれを訴え続けました。

最初は頑固で聞こうともしませんでしたが、その甲斐もあってお父様にも少しづつ届き、そして今日のような日を迎えることができたのです。

だからリュウトさんのおかげと言っても過言ではありません、私はもはや感謝では言い表せません……』

 

 

彼女は感際だって嬉し泣きしてしまい、二人は心は暖かくなった。

 

「俺も君やラドラさんのことを少したりとも忘れなかったし、いつか解決することを夢見て、頑張ってここまで来て、そして今日のような念願の日が訪れた――ゴーラちゃん、こちらこそ本当にありがとう」

 

互いを讃え合い、感謝し、そして喜ぶ二人。

 

『リュウトさん、今は別の場所で待機してますが私のボディガードの一人としてラドラが来ています』

 

「え、ホントにっ?」

 

『はい。あの方もあなたがここに来ることに大変喜び楽しみにしています、後でお会いできると思います』

 

「俺もラドラさんに今すぐにでも会いたいっ」

 

その後、先ほどの案内人と共にホワイトハウスの案内のために内部を歩く三人はエントランスホールに行くと、ちょうどそこに爬虫人類側の代表とそしてボディガード達、そしてラドラが待機していた。

 

『リュウト君!』

 

「ラドラさん!」

 

ゴーラの時と同じく、二人は再開し手を取り合い大変喜び合った。

 

「ラドラさん、もうあなた方とはこれ以上戦わずに済むんですね……僕はこれほど嬉しいことはありません」

 

『ああ。私も君とこういう形でまた会えたことが最高に嬉しいよ。これからは互いに色々大変になるかと思うがよろしく頼むっ』

「こちらこそっ」

 

仲良く楽しく話をしている竜斗、ラドラ、ゴーラを尻目に残りのボディガードは何やらジロジロ見ている。

 

(あれが例のアラスカの第三恐竜大隊を潰したゲッターロボという機体のパイロットか……)

 

(ああ……そうだ――ジャテーゴ様の命令通り――)

 

と何かひそひそ話をしている様子に、早乙女もチラチラと見ていた。

 

――僕はこの日、ゴーラちゃん、ラドラさんと、もう互いに戦わなくて済むことに大変喜び合った。

三人にとってこれほど安堵に浸れる日があるだろうか。

二人に「エミリア達が会いたがってる」と話したら「私も今すぐにでも会いたい」と喜んでそう言ってくれた。

愛美のついても話すと彼女も笑顔で「前の事は全然気にしてません、寧ろそう思ってくれたならそんな彼女と是非打ち解けたい、仲良くなりたい」と言ってくれたので僕は彼女に感謝した。

ラドラさんにも聞いてみると「君と違って全然面識はないし、色々と戦った者同士で向こうは私をどう思うか」と少し渋っていた。けど僕が「なら僕が紹介するので大丈夫ですよ、エミリア達はきっとあなたを受け入れてくれますから」と色々と説得すると彼も照れながら頷いてくれた。

 

もう一度言う、僕達はこの日に至上の喜びに浸っていた、そして真の平和が訪れると信じて疑わなかった、その時までは――。

 

「御来賓の皆様、本日はこのようなパーティーにお越しください、ありがとうございます。

私達人類と爬虫人類の共存、私は今日という日をどれだけ待ち望んだかわかりません。

そして本日、爬虫人類との共存の起点を作ってくれた、遥か海を隔てた日本国からはるばるお越しくださった石川竜斗君を迎え――この素晴らしき日を祝おうではありませんかっ!」

 

その夜、各国首脳陣や外交官、来賓客が集まり盛大なパーティーが開かれた。

そして、雰囲気に慣れた竜斗は完全に落ち着いた態度と多少は固いが気品のある口調で各お偉方達と楽しく話をしている。

そして向こうも竜斗の素直で誠実さ、そして彼の誰でも拒まず受け入れてくれるような柔らかい雰囲気に凄い好印象を持たれており、早乙女はそんな彼を見て「やはりこれは彼の才能だな」と再認識した。

しかし早乙女は何か気がかりなことがあり、腑に落ちない。それは先ほどの爬虫人類側のボディガード達の不審な雰囲気、そしてこの場には先ほどまでいたはずの、ラドラとゴーラ以外の爬虫人類の姿は見かけられないことだ。

 

「……司令、どうしました?」

 

「いやっ、なんでもない。竜斗はもっと楽しんできてくれ」

 

「は、はいっ」

 

竜斗は近くで楽しんでいるゴーラの元へ向かった。早乙女はすぐにラドラに駆け寄る。

 

「ラドラ君、ここにいる爬虫人類のボディガードは君だけか?」

 

『え……っ』

 

ラドラは辺りを見渡すが、確かにどこにもいない。

 

「それに他の君達側の代表陣の姿もいつの間にかいない……どうした?」

 

『そういえば……さっきまでいたと思っていたのに彼らはどこに……っ』

 

早乙女は嫌な予感に襲われた。すぐさまラドラと何かこそこそ話す早乙女――。

 

『リュウトさん、私と踊りません?』

 

ゴーラからダンスの誘いを受けて彼は照れる。

 

「え……俺、踊ったことないからどうすれば……」

 

『大丈夫です、私に身を任せてくだされば』

 

と、彼女と密着して、クルクルと優雅に踊り出す竜斗とゴーラにそれを微笑ましく周りは見ている。

 

「君はなんでもできるんだね……」

 

『いやあ、私もまだまだ上達していないですが……』

 

次第にカチコチだった竜斗も柔和していき、勢いと流れに身を任せながら二人は笑顔で踊っている。その光景はまさに地上人類と爬虫人類が夢にまで見た友好を如実に著していた――。

 

「汗をいっぱいかいちゃった……熱い……っ」

 

夜とはいえ夏場ということもあり、竜斗から汗がダラダラ流れており、さらにこの場は密度が高く暑さに拍車をかけている。だが暑さに強いゴーラは全くと平然としている。

 

『私は大丈夫ですが……じゃあリュウトさん、ちょっとこの場を出て涼みますか?』

 

「その前に司令やラドラさんに外で涼んでくると言っておこう」

踊っていた中央から離れて、二人を探したがどこにもいない。

 

「あれ、どこいったんだろう……それにラドラさんもいない……」

 

『用足しということも考えられますし、離れませんので大丈夫でしょう』

 

 

竜斗とゴーラは仕方なく外に出ていくと何故か、早乙女とラドラが目の前で気の張り詰めた、深刻そうな表情で何か話をしていた――。

 

「ん?」

 

ちょうどその時、一人の来賓客がハンカチを中央付近のテーブル下に落としてしまい、拾おうとした時、テーブルクロスに隠れたその中から「ジジジ」と音が聞こえた。気になりめくってみた瞬間だった――。

 

――その時だった、先ほどまで盛り上がっていたパーティー会場からとてつもない音が中から響いたのは……ドアも吹き飛び僕達はそれごと壁に叩きつけられそうになったがすかさず司令、ラドラさんが僕らを受け止めてくれた、だがそこからは全く記憶になかった。

 

実は地上人類と爬虫人類、互いの運命を狂わし破滅のシナリオへと突入するターニングポイントであったことに――。


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