ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十話「カウントダウン」⑤

――数日後、出席を受け入れてベルクラスでアメリカに向かう竜斗は色々と準備で大忙しだ。

突然のニュースとそして入江からの伝言を受けたあの日、竜斗は、

 

「確かにゲッターロボに乗り戦い抜きましたし僕に会いたい人物が誰なのかも大体見当がつきますが、こんな一介の日本人の高校生があんな大それた場所に……よろしいのでしょうか?」

 

そう質問すると入江は、

 

“招待を受けたのなら喜んで承諾するべきだ。君は爬虫人類、そして世界の友好の架け橋になりうるかもしれん人間なのだからな”

 

「………………」

 

架け橋という、ある意味世界の全てに関わる最重要任務のように言われて更に強張る竜斗。

 

 

“ワハハハ、そう緊張しなくても君のありのままに見せるといいよ。

一佐の話や君の雰囲気を見ると品性の良さそう子だから自信を持っていけばいい”

 

「は、はあ……」

 

“英語は大丈夫かね?”

 

「一応、向こうで習得しましたから基本的な会話なら……」

 

“では大丈夫だ。なあに心配しなくても相手は怪物でもなければ神や悪魔でもない、君と同じ人間だよ”

 

「…………」

 

話がトントン拍子に進み、竜斗達は混乱していた。

 

“もし招待を受けるなら竜斗君のために正装の仕立て屋をこちらから手配しよう”

 

「え、え……っ」

自分のために仕立て屋まで寄越してくれるということに竜斗は段々怖くなり、慌てて断ろうともしたが、段々断りきれなくなっていく……。

 

「幕僚長、彼が怯えてますよ!」

 

“おっと、すまんすまん”

 

見かねたマリアがフォローを入れて入江の暴走が止まった。

 

“すまない竜斗君、一方的な会話は私の悪い癖でな。だが君自身はその会いたがっている人物には会いたくないのかね?”

 

「…………」

 

“それに君はまだ分からないかもしれんが、もし社会に出て会社勤めになれば流石にここまではないが、取引相手などの接待や会席は確実にあるから逃げられないぞ。そのための社会勉強ということもあるんだ。

先にこのレベルを経験しておくことは凄い自信になるし、これから先に様々な面で大きく役立つことになろう。

君も男ならこういうのにも恐れず胸を張れるような度胸と自信を持てっ”

 

と、先ほどは一変し真剣な表情で諭される竜斗は次第に強張っていた顔が溶けていき、凛々しい顔つきとなった。

 

「……確かに幕僚長の言う通りですね、分かりました。招待を受けましょう」

 

と、決意を込めて元気よく承諾した彼にエミリアとマリアは驚いた。

 

“よし、流石は一佐の教え子だ。そしてお礼がいいたい、ありがとう”

 

そして話はトントン拍子に進んでいく。

 

“君にボディガードが必要となるが誰にしようかな……”

 

と、考えているともう一つのモニター画面に早乙女の姿が映り込む。

 

“マリア、ニュースを見たか……おや、幕僚長、それに竜斗達までどうして司令室に?”

 

「司令、実は……」

早乙女に先ほどの話をすると彼は「ウム」とすんなり頷いた。

 

“竜斗なら適任じゃないか、よし行ってこい”

 

と、相変わらずの軽いノリで言いのけ入江以外の竜斗含めた三人は呆れて開いた口が塞がらない。

 

“相変わらずの調子だな。それでボディガードの適任者は……”

 

“では私が引き受けましょうか”

と、なんと早乙女が竜斗のボディガード役に名乗り出たことに周りは「おおっ」と驚きの声を上げた。

 

“私もそういう訓練を受けてますし、何より竜斗も自分なら安心、信頼できるでしょう”

 

すると竜斗は彼がボディガードが出来ると驚きつつも「司令なら僕も凄く安心できます」と答えると入江も安堵する。

 

“では君達のことを向こうに知らせておく、出席日は分かり次第伝える。竜斗君、一佐、頼んだぞ”

と、入江の通信が切れる。その後、竜斗は早乙女とモニター越しで対面する。

 

「司令……ありがとうございます」

 

“君も凄い大役を任されたな。だが君ならやり遂げると信じているよ、私の誇りある『息子』なんだからな”

 

「司令……はいっ」

 

“マリア、その日にちが分かったらベルクラスで竜斗を連れてきてくれ。私達は向こうで落ち合おう”

 

「了解です。司令、無理をなさらずに」

 

“心配するな。ではまたな”

 

彼から通信が切れると竜斗は緊張がとけてその場で崩れ落ちた。

 

「リュウト!」

 

「はは……まさかこうなるなんて……信じられないよ全く……」

 

と、震え笑いをしていたのだ。それから彼は入江の手配したディーラーから彼のサイズにぴったりの正装のスーツを仕立て、そしてお偉い方と対面しても恥ずかしくないように各マナーや向こうの作法を最低限覚えさせられたりと色々と大変であり、この激動の数日後、アメリカに向かっているこの最中である。

 

 

「まさかこんなことになるなんてなあ……」

 

座学室でマナー本と睨めっこしている竜斗は気の重く、ため息ばかりついている。

 

「そりゃあそうよ、こんなのリュウト、いやワタシやマリアさん、誰だって思いもしなかったことなんだからねえ」

 

「しかしまあ、なんか俺達、とんでもない方向にきちゃったよな……」

 

「うん……」

 

もはやゲッターロボに乗る前の一般人だった時と比べたら雲泥の差である。

 

「けどさ、リュウトの努力が実って、和平っていう願いが叶った上にこんな素晴らしい大役が与えられるなんて、彼女のアタシからすればこれ以上に嬉しいことなんかないよ、頑張ってねっ!」

と、目を輝かせてガッツポーズするエミリア。

 

「うん、ありがとう。幕僚長の言ってたようにこれも贅沢な経験と思って行ってくるよ」

 

「あら、なんだかで凄くワクワクしてるみたいじゃないの?」

 

「まあ司令がついていてくれるし、それに……あの子にまた会えるしね」

 

「そうだね。アタシも会いたかったなあ」

 

「多分、また再開すると思うから大丈夫じゃないかな?」

 

「うんっ」

 

その後エミリアは竜斗の邪魔をしないように外を出るとちょうどそこに愛美が出くわす。

 

「竜斗のヤツ、最近大忙しみたいだけど何してんの?」

「それがさあ――」

 

何があったか話すと愛美は重そうに腕組みをした。

 

「へえ、そりゃあ大ハプニングだわ」

 

「でしょう?だからリュウトが今必死なのよ、向こうで失礼のないようにね」

 

「けど、確かに竜斗なら上手くできるっしょ。三人の中で一番しっかり者なんだから」

 

と、早乙女と同じく彼が上手くやれるかどうか心配していない愛美。

 

「ただ問題は……向こうにあの爬虫人類達がいるなら、アイツらに会ったら竜斗が危険に晒されないかしら?」

 

「え、なんで?」

 

「だって竜斗はこれまでたくさんのメカザウルスを破壊したのよ。て、ことはそれだけパイロットも殺したことになるから……この意味分かるエミリア?」

「え…………どういうこと?」

 

「マナ達人類からすれば英雄扱いだけど爬虫人類からすれば間違いなく大量殺人鬼と思われても仕方ないわよ――」

 

つまり彼が向こうから目の敵にされている可能性があり、それにより危害が及ぶことも考えられるのではという彼女の意見である。

 

「それにさ、ただの日本人の高校生だった竜斗が、一般人なら身の毛が抜けるほどのそんな大それた場所に呼ばれるなんておかしいっしょ。向こうの罠ってことも考えられるのよ?」

 

「う……ん、けどリュウトが呼ばれた理由は会いたがっている人がいるらしいの、大体見当はついてるから罠でもなければ危害を加えるつもりでもないと思うの」

愛美にそれが誰なのかを伝えると腕組みしたまま沈黙してしまう。

 

「リュウトだけでなくワタシ達にも会いたいと思う、だってまた会える日を楽しみにしてるってあの時言ってた。

マナミもさ、いくら爬虫人類が嫌いでも一回でも会ってみようよ、凄くいい子だからさ」

 

「………………」

 

「マナミ、どうしたの?」

 

「マナは……その子と会えない」

 

「な、なんでっ?」

 

愛美はその理由を話すとエミリアは「あっ」と思い出した。

 

「マナは爬虫人類を絶対に許せない……けど、あの子自身は何もしていないし、正直あの時は私情に駆られて取り返しのつかないことをしようとしていたから……どのツラ下げて会えばいいのよ……」

「…………」

 

「ともかく、マナは絶対に会えないようなことをしたのは事実なのよ!」

 

と、自負の念に駆られた彼女は走り去っていった。その彼女の後ろ姿を見て暗い表情を落とした。

 

(確かにアタシにはその事にどうすることもできないけど、今のアンタなら絶対に大丈夫だとアタシは思うから……いつかちゃんと笑顔で会えるよ、あの子も分かってくれるからっ)

 

これから先、愛美のその人物と胸を張って会えることを信じて祈ることしかできないエミリアだった。

 

――後でエミリアにそのことを聞かされたが僕はそれでも正直嬉しいと感じた。あの愛美が、爬虫人類全てを敵だと思っていた愛美にもちゃんとそう言う感情があったことに。

確かに僕もエミリアと同じく今はどうすることもできないがいつか愛美のその心の闇をとってあげたい、解放してあげたい、と強く思う。

今から会うその人物もその事を話せば多分、絶対に愛美と会いたい、仲良くしたいと言ってくれるだろうから――。

 

アメリカに到着したベルクラスはすぐにネバダのエリア51に向かい、到着。早乙女を迎え乗せてワシントンD.C.へ向かう。

 

白ワイシャツ上に拳銃用ホルスターを身に付け、その上にさらに黒スーツを着こなすその姿はどこかの凄腕諜報員(スパイ)の姿に似ており見事な様になっている。

そして、蝶ネクタイと黒スーツに着替えた竜斗の姿を見た周りの反応は。

 

「どうかなあ……俺」

 

「リュウト……体格的には似合ってるんだけど……なんでだろう……ヘン……」

「え……?」

 

と、エミリアからそう評価されて何故なのか彼は粗探しする。すると愛美は、

 

「竜斗、アンタは早乙女さんと違って顔が童顔すぎるのよ。ホストみたいにくだけた着方ならまだしも、こんなピシッとしたスーツだと貫禄ないから違和感バリバリなわけ」

 

そう的確に言われてエミリアは「なるほど」と納得されてしまい、竜斗はだんだんと自信を失いかけていく。

 

「竜斗君はまだ高校生なんだから大丈夫よ、貫禄なんて年をとっていけばついてくるんだし。それよりも気持ちが問題よ」

 

「はあ……」

 

「ほらっ、ピシッとして竜斗君。ちゃんと役目を果たして来るんでしょ?」

 

「……はいっ!」

 

と、マリアがすかさずフォローと励ましを入れてくれたおかげで助かった。

 

「さて、もう着くぞ」

 

そんなことをしている内に到着地であるワシントンD.C.のホワイトハウス直前に差し掛かり、近くに設置された待ち合わせの場所である専用ポートに着陸するベルクラス――。

 

「リュウト、成功するようにずっと祈ってるからっ!」

 

「緊張にやられないようにリラックスして楽しんできなさいね竜斗っ」

 

と、二人に激励されて笑顔で手を振った。

 

「では、行くか竜斗」

 

「はい、司令よろしくお願いします」

 

「任せろ、万が一何かあっても君を守り通すからな。君も安心して、胸を張っていって男を上げてこい」

 

そして竜斗と早乙女はベルクラスから降りていった。

 


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