ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四十話「カウントダウン」③

――誰も彼もが自分達の前から次々と消えていく……両親はおろか友達や知り合い、自分達を古くから知っている人達はみんなこの世からいなくなってしまった。

エミリアは完全に絶望しているが僕は……僕はその思いまでも無理やり押し殺して最後の最後まで信念を信じた。

そしてこれから自分達にとって更に思いがけない展開、そして徐々に地上人類、爬虫人類それぞれの運命の歯車が狂い、元に戻れぬ方向へ動き出す『カウントダウン』が始まった――。

 

 

三機の戦闘機のある地下ドッグ。大張り切りのニールセン達と共にこもりっきりで開発作業する早乙女とマリア。

 

「あれから一週間か。二人については大丈夫か?」

 

 

「……エミリアちゃんは凄く落ち込んでます。しかしそれ以上に問題は竜斗君です」

 

「竜斗がどうした?」

 

「あの子、あんなことがあったのに全然落ち込んでるように見えないんです」

 

「それは良いことじゃないか。それがどうして問題なんだ?」

 

「私は今までカウンセリングしてきた身として分かるんです、あの子……凄く無理をしてます。あのままでは絶対に壊れかねません」

 

「…………」

 

「おかしいと思いませんか?竜斗君はあんな現実を知ってもなお無理やりな笑顔で「僕は大丈夫ですから」と一点張りなんですよ、恐らく今はエミリアちゃんやマナミちゃん、そして私達の存在が皮一枚として繋がっている状態です。もしそれが切れるようなことがあれば……」

と、恐ろしいことを告げるマリアに早乙女は。

 

「竜斗に限ったことではないが、確かに彼らは残酷で非情な現実を知りそして、これから先にもそんな未来が待ち受けているかもしれん。

だがそれでも明日を信じて乗り越えてもらえねばならん――私は竜斗達なら乗り越えられると信じている。

何故なら彼らには沢山の人達から受け継いだ信念や遺志、そしてそういう力を潜在的に持っていると疑わないからだ」

 

と、平然と断言する早乙女だった。

 

「という私も全力で彼らをカバーしていくつもりだから心配するな。マリアも大変だと思うが常に彼らを支えてやってくれ、頼む」

 

「もちろんそのつもりです――」

「おい、しゃべくってないで早く手伝いにこんかい!!」

 

「そうじゃそうじゃ、サボリは承知せんぞい!」

 

汗水たらしながら精力尽くすニールセンとキングからのお怒りの声をもらい、「なんでこんな年寄りなのに自分達以上に元気なんだ」と呆れる二人だった。

 

「エミリア大丈夫……」

 

「ごめんミズキ……今は誰とも会いたくないの……ひとりにさせて……」

 

ショックから未だにベッドに寝込むエミリアのお見舞いに来たがやむなく帰される愛美は仕方ないと諦める。

 

(イシカワは大丈夫かしら?)

 

彼の部屋に向かいドアをノックするが反応はない。エミリアと同じく寝込んでいるのかいないのか。

「……水樹?」

 

横を見ると部屋に帰ってきたのか突っ立っている彼の姿が。

 

二人は中に入り、それぞれイスとベッドに座り込む。

 

「アンタ、大丈夫なの?」

 

「うん、なんとかね……」

 

しかし、その言葉と彼の声が全く一致せず違和感でしかないことに愛美でさえ気づく。

 

「……もしかして無理してない?」

 

「無理してないよ、全然」

 

と、やはり一点張りに答える竜斗に彼女はため息をついた。

 

「今のアンタは大雪山の戦いの後のような感じだったけどさ、なんでそうやって頑なに「つっかえ」を取ろうとしないの、エミリアやマナみたいに悲しい時は感情のままにどんと落ち込んだり悲しめば凄く楽だよ」

 

「…………」

 

「けどアンタの場合ははっきり言って危険な状態だとマナは思うのね。そうやって無理やり我慢しているといつか絶対に心がイカれると思う、人間にも許容ってもんがあるのよ」

 

彼女から諭されると竜斗は、

 

「三人の中で唯一の男だからかチームリーダーからか分からないけどさ……なんか悲しんじゃいけないって思うと反射的にそうなっちゃうっていうかさ……」

 

「……まあアンタは学校でマナからいじめられている時もそんな感じだったような気がするわね、ぐっとこらえているみたいな」

 

「…………」

 

すると愛美は立ち上がり、竜斗にくっつくように隣に座り込むとそのまま身体を向けて彼を深く、そして優しく抱いてあげた。

「み、水樹……!」

 

「思えばマナはこれまでアンタにキツく突っぱねたことしかしてないからね。

今日ぐらいはマナをお母さんだと思ってたくさん甘えなさいよね」

 

と、彼の頭を優しく撫でてあげる愛美。

 

「イシカワは常にキツいことばかりで大変だったよね、アンタには心の安らぎが必要なのよ。

マナ達はそれを十分に理解しているから、アンタの頑張りはちゃんと認めてるから……」

 

と、まるで母親のように優しく、そして暖かく包容する愛美に竜斗に変化が。

 

「う……うう…………っ」

 

竜斗の身体はブルブル震え、瞳から大粒の涙が流れていたのだ。そして次第に愛美に強く抱き締めて泣きじゃくる。

「前にマナに一生の友達と言ってくれたからマナも言ってあげる。

イシカワ、そしてエミリアはマナの人生で唯一の大親友、仲間、そして……家族としてアンタ達を支えていきたい、だからこれからもよろしくね」

 

その言葉に彼の、暗い闇で染まり冷えきった心の中は浄化されていき暖かく、そして明るくなっていくような気がした。

 

「水樹……ありがとう……ありがとう……っ」

 

「マナこそお礼がいいたい、アンタ達のおかげでマナが救われたんだからさ……ありがとうね、イシカワ」

 

二人はここで友達以上に、断固な絆を誓う合ったのだ。

 

「水樹、ありがとう。お前のおかげで心が凄く晴れたよ」

 

「いいってこと。それよりもさ、マナはもうアンタやエミリアからは姓で呼ばれたくないのよね」

 

「え……?」

 

「これからはもう下の名前で呼ばない?絆をすごく深めたって意味でさ」

 

「て、ことは俺は『愛美』と呼ぶのか……」

 

「そっ。マナはアンタを今日から『竜斗』って呼ぶからさ。どお?」

 

竜斗は少し恥ずかしがってるようだったが、すぐに頷いた。

 

「分かった。じゃあよろしくな、愛美!」

 

「うん。こちらこそ、竜斗!」

 

――最初は照れくさい思いもあったが、すぐに慣れたようだ。

今思えば僕と愛美は、初めは嫌悪感丸出しの状態だったのに今では互いの名で呼び合うまでに仲が発展したのだから。

エミリアも最初は二人の呼び合いに戸惑い、言うとなれば少し抵抗感があるかもしれないが僕みたいにすぐ慣れると思う。

僕達は実は、そうなることを運命づけられていたのかもしれないと、自惚れのようなことを思ってみたりするのだった――。

 

「え……アタシがアンタに……?」

 

ようやく起き上がれるようになったエミリアに二人の経緯を伝えるとやはり彼女は驚き、戸惑う。

 

「マナはもう下の名で呼んでるし、ねえ竜斗?」

 

「うん。俺も愛美って呼ぶことにしたんだ。この方がチームとしての絆が断固となる証拠だしね。いや、俺達は家族みたいなものだしさ」

 

と、二人で説得するとエミリアも照れながらもコクっと頷いた。

「……分かった。じゃあアタシも下の名前で呼ぶことにする。よろしくね、マナミ」

 

「ありがとうエミリアっ」

 

愛美はエミリアに抱きつき、互いにもの凄く喜び合っていた。

 

「エミリア、そして愛美、これから俺達チームは本当の一心同体として頑張っていこうなっ」

 

「うん!」

 

「モチロンよ!」

 

ついに今、三人の団結力と絆は完全な物と化した瞬間だった。

 

(父さん、母さん、俊樹、英二、いやみんな……俺達が絶対に戦争を終わらせて解決させるよう尽くして、そしてみんなの分まで生きていくから安心してくれ。

そして黒田一尉、ジェイド少佐、ジョージ少佐……俺達はあなた方の遺志をちゃんと受け継いでこれからも頑張っていけそうです)

彼は星になった沢山の人達へその断固な絆を結んだゲッターチームの姿、思いを届けたい思いだった。

 

「……竜斗君も、エミリアちゃんも回復して本来の明るさを取り戻したようです。それどころか三人は互いに名で呼び合っているぐらいに絆をより強めたようで。彼らはもはやチームとして完全に機能するでしょう」

 

「だから言ったろう、彼らはそう言う底知れぬ団結力を秘めていると。しかしまあ、これでひと安心か」

 

「ええっ」

 

「そして、この機体を操る要素の一つを手に入れたようだな」

 

彼らの目線の先にある三機の戦闘機。これらにはどういう性能、機能で、そして早乙女のいう『操る要素』の一つとは一体どういうことなのか……。

 

「二人とも、こっちへ来てくれ」

 

二人はニールセン達に呼ばれて彼らのいる場所へと向かった。

すでにもう世界から訪れた何人かの優秀なエンジニア、そしてテキサス艦の開発スタッフが到着しており、彼らはそこでエリア51で行ったような各異なるエネルギーの実験が行われていたのだが。

 

「お前たち、これを見てくれ」

 

何故か新しいエネルギーの測定器を持ち出してプラグを繋ぎ、準備が整い実験を開始。すると、

 

「こ、これは……」

 

実験が行われて測定開始した瞬間、新しい測定器が「ボン」と針が吹き飛んだのだった。それに対し早乙女、いや他の者が「オオっ!」と驚愕する。

「博士、これは一体……」

 

「前のような複合エネルギーの実験を行っておる。今回はそれの発展系だ」

 

「発展系ですか?」

「ああ、目の前にあるモノがなんなのか分かるか?」

 

前を見るとそこには巨大なガラス管に入った箱型、球型、円筒型の三つの物体が下から伸びる沢山のチューブと連結されている。

 

「これらはもしかして……ゲッター炉心、プラズマ反応炉、グラストラ核反応炉ですか?」

 

「そうじゃ。ワシらは向こうで各エネルギーの実験をしたがもう一つ実験をし忘れていてな。それは三種のエネルギーによる共鳴反応だ」

 

「まさかこれら全てを?」

「そうだ。そして実際に行い、その結果が今の計測器の「ドカン」じゃ」

 

ただでさえ凄まじい出力を生み出していた各複合エネルギーだったが、さらにもう一つの、全てのエネルギーを掛け合わせる方法などとは到底思いつかなかった。

 

「この計測器は最新型でさらに測れる限界値も非常に高くアルヴァインの最大出力値でも充分許容範囲内だった。だがこのエネルギーは一秒も満たないうちにこの有り様だ、つまりこの複合エネルギーの実験は成功ということだ」

 

エンジニア達は驚き、そして歓喜の声を上げる。

 

「ではこのエネルギーの最大出力値は未知数ということですか?」

 

「そうだ。ワシ達が詳しく測ろうとしてもこれを見る限り、少なくとも残りの寿命を使ったとしても計測は不可能だろうな」

 

早乙女とマリアはその驚異的なエネルギー開発の実験が成功したこの光景に息を飲む。

 

「では、もしこのエネルギーを機体の動力源として使えるようになれば――」

 

その意味をすでに知るニールセンとキングは頷いた。

 

「成功すれば間違いなくこの機体はゲッターロボ、SMB、いや人類科学による英知として、そして兵器分野の極致となりうるだろうな」

 

「………………」

 

「そしてこの際はっきり言わせてもらう。もしこのエネルギーを利用した兵器が完成したならば、メカザウルス相手と戦うのには向かないほどの異常に強力な力であり、扱いようを間違えれば平和すら破壊して地球を破滅へと導くような力だぞ」

 

「彼らに、竜斗君達にそんな神か悪魔かの如きこの力を無事に、正確に扱える自信があると言えるのか?」

 

二人に問い詰められ、早乙女は黙り込む。

あれだけやる気のあったニールセン達が実験成功にも関わらず、喜ぶどころか使うのを躊躇うほどのエネルギーである。

そんな、使い方を間違えれば非常に危険過ぎるエネルギーに竜斗達に見事、制御して扱えられるのか……と。

 

「私は……竜斗達三人なら使いこなせると信じます、むしろあの子達でなきゃ扱えきれないと思います」

 

強気でそう乗り出た早乙女。

 

「彼らは世界を滅ぼす悪魔でもなければ私利私欲で使うような人間でもありません。

まだ社会もしらない、成人していないにも関わらずこんな世界を救うためにどんな苦しい目にも、辛い目にあっても乗り越え、明日を信じて戦う健気な子達です。

あの子達なら絶対に使いこなせると私は断言します、それに――」

 

「それに、なんじゃ?」

 

「――私の勘でもありますが」

 

それを聞いて全員が呆れている。こんな危険なエネルギーに勘を使うのかと。

 

「お前なあ……勘で世界が救えると思うのか?」

 

「さあ。ただ私の勘は結構な確率で当たりますのでね」

 

と、普段のノリのように軽く言ってのけた早乙女にニールセン達は。

 

「……やれやれ、相変わらずしょうがないヤツだ。しかしここの設備では開発、完成させるには限界があるのう」

 

「よし、再びエリア51にこれらを持ち込んで全員で開発するか。あそこはアメリカ、世界の科学技術が集結する場所でもあるからな。周りの者はどうだ?」

 

満場一致で賛同して笑顔で拍手するエンジニア。そんな彼らに早乙女は喜びが際立り、感謝の気持ちでいっぱいだった。ここで一旦休憩をとった後すぐにニールセンに礼を述べる早乙女に彼はこう言った。

 

「サオトメよ、お前を言葉を信じるぞい。確かにあの子達の未知なる可能性もあるが……何よりお前はわしの誇る弟子であり、唯一の『息子』でもあるのだからな」

「博士……」

 

「フン、あと彼らにも感謝の気持ちがあるのなら全員に飲み物をおごってやれ。モチロン、ワシらもだが」

 

「喜んでっ」

 

……ついに神の領域に踏み込もうとする早乙女達。

正直彼らには不安でしょうがなかったがこれも人類科学の英知をかけた自分達の誇りと腕、そして早乙女の発言による竜斗達の可能性に全てを信じたのだ。

 


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