竜斗達三人は去年の冬の時のように賑わう街中を歩き、そして今までの鬱憤を晴らすかのようにそれぞれたくさんの買い物をしている。
立ち寄った本屋に入り竜斗は漫画雑誌、エミリアと愛美は料理本コーナーの所に立ち読みしている。
「あとで何か料理を教えてよ、ジョナサンが来た時のために何か作って振る舞いたいしさっ」
「喜んでっ!」
二人は次々に本を取り出してバサバサと縦に重ねていきガヤガヤと盛り上がっていると、そこに竜斗や「ゴホン」と咳をして立っていた。
「少しは周りを気にしろよ二人とも、みっともないよ」
「「あ……っ」」
と、よく見ると周りの人や店員が二人を迷惑そうに見ていたことに気づいてシュンとなり三人は書店から離れた。
「たくう、しばらくあの店に行きづらくなったじゃないか」
「ごめん……」
と、反省しシュンとなるエミリア達だった。
「けどまあはしゃぎたい気持ちは分かるよ、これまでは遊ぶどころじゃなかったからなあ」
「でしょ、イシカワもそう思うわよね」
「じゃあ、心おきなくはしゃげる場所にいきましょうよっ」
と、エミリアの提案に二人が同意して向かった先は近くのカラオケ店。中に入り、それぞれの持ち歌を熱唱するエミリアと愛美。
「ワオっ、ミズキうまいね!」
「当たり前でしょ、マナも学校終わってからほぼ毎日行ってたんだからっ、それにしても石川は強張りすぎよ!」
「あ、うん……っ」
初めて愛美を誘って、そして彼女の歌声の実力を披露され、自分の歌声を披露するのに自信がなくなった竜斗に席から愛美は立ち上がると彼にねっとり絡みつく。
「しょうがないな、じゃあマナも一緒に歌ってあげるから♪」
と、まるで自分は恋人のように恥ずかしげもなく抱きつきベタベタに触ってくる愛美に更に固まる竜斗、そして、
「アンタな、なにやってんのよお!!」
やはりエミリアはいても立ってもいられず立ち上がりすぐ駆け寄る。
「離れなさいミズキ、リュウトはアタシのよ!」
「ただ一緒に歌ってあげようとしてるだけじゃないっ、もし嫌ならマナを引き離してみなよ、ムフフフフフ♪」
二人は竜斗を挟んで争っているがじゃれあっているようで楽しそうであるが彼からしてみれば、この隣同士の女子の豊潤な胸がぶつかっていることに『興奮』が高まりすぎて我慢がならなかった。
「もういいかげんにしろお!!!」
――と、なんやかんやしている内に時間が過ぎ去り、三人ともバテて店から出た時にはすでに夜暗くなっていた。
「はしゃぎすぎて疲れたな……」
「う、うん…………」
「カラダがアツい……っ」
彼らは帰る途中、夏の夜風を浴びるように駐屯地まで歩いていく。
「思ったけどこれから俺達、どうなるんだろう?」
「司令はしばらくメカザウルスが襲来などで出動する以外は自由にしてていいって言われたけど、なんかコワいね」
「うん。かといって今のマナ達にどうすることもできないのが現状ね」
アラスカ戦線が終わり、これから先どうなっていくのか不安感に襲われる三人だった。
「ところでさ、ニールセンのおじいちゃん達はなんで日本に来たの?」
「早乙女司令の頼みだって聞いたけど詳しいことは知らない。エミリアは何か知ってる?」
「アタシも知らない、だって司令達は今溜まった仕事を片付けるのに大変だから聞けないのよ」
「ふーん。けどあの二人と早乙女さん達のことを考えると何かまた開発するんじゃない?」
「多分そうだろうけど……一体何をするのかな。ゲッターロボや武装はもう足りてると思うし」
彼らのやろうとしていることについて、全く聞かされてない三人にとって謎が深まるばかりだ。
「ねえ、空見てよ」
三人はふと夜空を見上げると快晴なためか星空が沢山散りばめられており、まるで宝石のようである。
「流れ星っ」
「ホントだ!」
彼らの魔の前に落ちるように流星が一瞬だけ写り、驚くと同時にせっかくのチャンスに願い事を言えずに悔しがる。
「ああ、マナ願い事あったのに言えなかった~っ!」
「ミズキは何を言おうとしてた?」
「そりゃあお金やマムチューのぬいぐるみがたくさん欲しいし、あと欲しいブランドのバッグとか服とかあったのにい!」
それを聞いて「欲張りすぎだ」と笑う二人。
「じゃあ二人は今、何が欲しいの?」
「アタシは……まあしいていうなら最近また痩せたいなあと思い始めてて」
すると二人から「なら食べる量を減らして動け」と即座に突っ込まれて小さくなるエミリアだった。
「リュウトは?」
「俺?」
「そうよ、アンタは今、何が欲しいのよ?」
竜斗はそれについて考えると彼は空をまた見上げる。
「……リュウト?」
「どうしたのイシカワ?」
「…………」
――僕の今の願い事……偽善、非現実的かもしれないけど、やっぱり今の戦争がなくなって欲しいと真っ先に思い浮かんだ。
自分達、そして全世界の人達の命、そしてゴーラちゃんやラドラさん達爬虫人類の人達がこれ以上血を流すことなく早くこの暗闇から明日という光がまた来てくれることを……今はそれだけ願うのであった――。
「ねえリュウトどうしたの?」
「あ、いやっ、何でもっ」
「もしかして願い事にえっちぃこと考えてたりしてた?例えばエミリアと色んなプレイしてみたいとか」
「はあ?なんでそうなるんだよっ!」
「ホレホレ、とぼけないで言いなさいよ。分かってんのよマナはっ」
「ちょ、まさかリュウトそんなこと考えてたの!!?」
二人に問い詰められた彼の答えは……その場から一目散に駆け出していった。
「あ、逃げた。エミリア追うわよ!」
「うん!」
全速力で逃げる竜斗は後ろを見ると、沢山の荷物を持ちながら鬼気迫るような顔で追いかけてくる二人にさらに慌てた。
「なんでこうなるんだああああっ!!」
そして二人の底力の前に追いつかれてしまった竜斗――三人は息をゼイゼイと乱しながらもその顔からは曇りのないいい笑顔で溢れていた。駐屯地に帰り、ベルクラスに戻り二人と別れた彼はシャワーを浴びて着替えて寝転がり、今日の疲れと満足感から大きく息を吐いた。
(そう言えば……今みんな何してるんだろ?)
彼はふと、地元の友達や知り合いを思い出した。その時から、また会いに行きたいなと強く思うようになった。
(あとで司令に聞いてみようか――)
と考えていたその時、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
誰かと思い、開けてみるとにっこり顔のエミリアだった。
「遊びにきちゃったっ」
「いいよ入ってっ」
笑顔で彼女を迎え入れて中に入る。
「今日は凄く疲れたなあ」
「うん、けどすごく楽しかったよ。ノドがカラカラ」
「初めて聞いたけど水樹が歌うまいのには驚いたよな」
「うん。けどゲッターロボの操縦といい、なんであんなに多芸なのかしら?」
「多分、あいつの才能だよ」
「あ~あっ、ワタシにも分けてほしいなあ、それかワタシの不器用をミズキに分けてあげたいよ」
エミリアはイスに、竜斗はベッドに座りながら楽しく雑談を繰り広げる。
「なあエミリア、久々に俺達の地元に帰りたくないか?」
と聞くと彼女も感銘を受けて頷いた。
「うん、けど何も言わずにいきなり姿を消したアタシ達だからちょっと怖いなあ……」
「ああ、確かに……」
「けど久し振りに会いに行きたいのはアタシも同じだよ」
「明日辺り、司令に言ってみようか。もう一度地元に帰ってみたいって」
「うんっ」
二人ともそれに同意し、ウキウキになる。
「向こうに電話とか繋がる?」
「いや、実は前からちょくちょくやってるんだけど繋がらない」
「…………」
「まあまだ回線が繋がらないだけかもしれないしね」
そうしばらくして話していると突然エミリアは、
「ねえリュウト、横に行っていい?」
「え、ああっ」
承諾を得ると彼女は竜斗の隣に座り込み、身体を寄せる。
「ああ、時間がある限りリュウトとずっとこうしていたいよお……」
「エミリア……」
自分にそう言ってくれる彼女にほっこりとなる彼は彼女の頭を優しく撫でてあげる。
「けど今はそんなことを言ってる場合じゃないし、単なるアタシの願いが叶うような現実じゃないしね」
と、彼女は暗い表情を落とした。
「……見栄張って司令達に頑張るっていったけど、いざアラスカの戦いとなったら結局自分は弱い人間だって思い知ったよ。
あの悪魔みたいなヤツにみんなやられているのにワタシ……怖くてそこから動けなかったし、ダダこねたり、テキサス艦から逃げ惑う人達に向かってウエって吐いちゃったし……」
「…………」
「アタシ、またみんなに迷惑をかけるかもしれない……そう思うと胸がギュッと苦しくなったりする時があるの……」
彼女がそう自分の持つ悩みを竜斗に打ち明けた。
「お前は人のために頑張ろうとして無理するタイプだからな。
もし、もう乗りたくない、戦いたくないと思うなら俺は止めないしむしろ、その方がお前の安全が確実になるからそうしてほしいかな。
水樹にだってそう思う、いくら才能があってもアイツもお前と同じ女子なんだから――」
と、彼も二人に対しての気持ちを伝えた。
「……もしそうなったらリュウトはどうするの?ひとりでやっていくつもり?」
「うん、みんなを守るためにたとえゲッターチームで一人だけになろうとやっていこうと思う。
今までただ過ごしてきたこんな俺がここまで決意を決めて取り組むのは初めてだし、それに世話になった人達の恩を仇で返したくないからさ――」
と、伝える竜斗にエミリアは。
「……なあんてね。少なくともアタシはチームをやめるつもりはないよ、アタシだって司令やマリアさん、ジョージ少佐とか色んな人達から生き残っていくためにお世話になったからにはアタシだって恩返しをしたいし、リュウト、ミズキにだけ危険な目に合わせたくないから……」
「エミリア……」
「リュウトはエラい!そこまでちゃんと考えてるならアタシも喜んで最後まで付き合うつもりだから安心して」
彼女は目を輝かせてそう告げた。
「みんなが必死で頑張ってるのに自分だけ投げ出すのは絶対にイヤ、だからワタシもチームとして一緒に苦しみや痛み、楽しさや幸せを共有していくつもりで頑張るから、ちゃんとついていくからこれからもよろしくね」
「……ありがとう、エミリア」
二人はその場で深い口づけを交わして互いに誓い合った――死ぬときも一緒、だと。
次の日、竜斗は早乙女の所に行き、久し振りに自分達の地元に帰ってみたいと聞いてみると仕事が全て片付くであろう一週間後ならいいと、すんなり承諾を得た。
それを二人に伝えるとエミリアは喜ぶが愛美は渋っている。
「もう親もいなければアンタ達以外に親しい友達がいないから帰る意味がない」と彼女が言うと、竜斗は「なら、俺やエミリアの友達を紹介するよ」と二人でそう言うと彼女も悩んだ末に承諾した。
そして一週間後、彼らは前と同じく早乙女の自家用車で彼らの地元へ向かった。前のような誰もが暗いどんよりとした旅路と違い、非常に賑やかなに雑談しながら道中を行く。
「あれ……っ、前に通った時より建物がなくなってる気がする」
「ほんとだわ……なんか爆撃を受けたような……なんでかしら?」
と、ちゃんと街としての光景があった場所がいつのまにか廃墟ばかりと化している。すると早乙女が彼らにこういった。
「私達が日本からいなくなって以降もオーストラリアからメカザウルスに襲撃されたらしくてな、そのせいかもしれん」
それを聞いた三人は次第に嫌な予感が襲ったのだ。それは……。
「司令、まさか僕達の地元も……!」
「分からん、早く行ってみよう!」
早乙女はスピードを上げて彼らの地元を急いでいく。廃墟ばかりの光景が続き、その不安が次第に現実と化すのではと、さらなる不安に襲われた――誰もが無事であってくれと祈った。そしてやっと到着した彼らの地元の光景は……。
「そ、そんなあ……」
「う、ウソでしょ……」
「…………」
以前はちゃんとあった学校や仮住宅は全て爆撃で破壊されて廃墟と化しており、無数のバラバラとなった白骨、または腐りかけた、焼け焦げた、原形を保った綺麗な屍が山積みとなっている光景が彼らの目に入った。
「なんてことだ……っ」
早乙女でさえその光景に唖然となる。どうやら爆撃を受けたのは最近のようにも思われるほどに真新しかった。
「俊樹達も……知り合いも……っみんな、みんな……っ」
「エリコもリエも……そ、そんな……っ」
不安が現実になったその証拠の光景についに竜斗達は絶望からその場で阿鼻叫喚の絶叫を上げた……。その哀れな彼らを目の当たりにした愛美は言葉を失う。
(イシカワ……あんたはこんな目に遭っても、それでもアイツら爬虫類の人間と仲良くなりたいと思う……?)
彼女は心の中で彼にそう問いかけた。