ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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◆エクセレクター編
第四十話「カウントダウン」①


ベルクラスは太平洋のど真ん中を進み、徐々に日本の本土が見えてきている。

 

「久々の日本ですね。朝霞駐屯地にあたし達が去って以降、何事もなければいいんですけど」

 

「そこは大丈夫だ。日本の状況も幕僚長から色々聞いている」

 

亡命に手を貸した疑いでひどい目に合っているのではと心配していたマリアはそれを聞いて安心した。

 

「さて、これからやることが山積みだな、手伝ってくれマリア」

 

「ええ、もちろんです」

 

「ありがとう……おや?」

 

モニターを見ると、本土からなにか空を飛ぶ黒い物体の群れが向かってきており、レーダーでも反応している。モニターで拡大すると、どうやらBEETである。接近するとパイロットから通信が。

“お帰りなさいませ一佐達。お迎えに上がりました”

 

かしこまった言われ方に二人は複雑な表情を浮かべる。

 

「ありがとう。しかし我々も偉くなったものだっ」

 

「え、ええ……っ」

 

早乙女が入江から聞いた話だと、アラスカ戦線での、ゲッターチームの功績にもはや、大半の人間が疑念を持っていた日本政府も彼らを認めざるえなくなったと言う話であるが、そう言う心変わりが良いも悪いも人間だなと実感する。

 

「さて、そろそろ着艦準備に入るか。みんなに放送で伝えよう」

 

BEETに付き添われて日本に入っていくベルクラスはそのまま朝霞駐屯地内のまで飛んでいき、艦専用地下ドッグの頭上に到着するとゆっくり降下していく。

「これからベルクラスは着艦態勢に入る。艦内の者は衝撃態勢をとれ」

 

徐々にゆっくりと降りていき、そして多少の衝撃と共にドッグ内に収まり着艦した。

 

「日本についたか」

 

「さて、降りるかのう」

 

ちょうどそこにニールセンとキングが現れて彼らと合流。後は竜斗達が来るの待つだけであった。

 

「……きませんね、彼ら」

 

約十分経っても姿を現す気配のない三人、何しているのかとマリアが見に行こうとした時、竜斗が慌てて駆けつけてくる。

 

「竜斗君、二人は?」

 

「それがあいつら今ケンカ中なんですよ!」

 

全員が「はあ?」と声を上げて、早乙女とマリアは竜斗に連れられて何故か女子トイレ前に連れていかされた。そこでは、

 

「ふざけんじゃないわよアンタ!マナがどんだけ苦しい思いしているか分かんないのっ?」

 

「アタシは――て言っただけじゃない、それでなんでそんなに怒るのよお!」

 

二人は何か激しく痴話喧嘩をしているようだ。

 

「ちょってやめて二人とも!」

 

マリアがすぐに二人の中に入り、仲介する。

 

「一体何があったか教えてっ」

 

すると水樹がプンプンした顔でこう言った。

 

「マナ、最近ベンピで苦しんでるのにエミリアは『アタシは毎日快便だから♪』って誇らしげに自慢してきたんですよ!」

 

「別に誇らしげに言ったわけじゃないわよ!」

 

「うるさい、少しはこの苦痛を味わってみなさいよこのブリブリウンコ女!!」

 

「なんですってえ!!!?もういっぺん言ってみなさいよこのカチグソ女っ!!」

 

……あまりにも下品で且つ下らない喧嘩に竜斗と早乙女、マリアはもはや呆れに呆れて頭が痛くなる。

 

「そんなくだらん喧嘩をしてる暇があるなら早く降りる準備をしろ!どれだけ人を待たせてるんだお前たちは!!」

 

と、怒鳴る早乙女に愛美はキッと早乙女に睨むような視線を向けた。

 

「ハァ?女の子にとってベンピはどれだけ大敵か分かってんですかあ!ウンコが出ない苦しみが分かるんですか!!」

 

「そんなの知るか!!」

 

ついには早乙女にまで突っかかり、巻き込まれていく様子に入り込む隙など全くない竜斗はホトホト困り果てている。

 

「マリアさん……これどうします?」

 

「……任せといて。竜斗君は男性用トイレ内にいた方がいいわ」

 

嫌な予感がした彼はすぐさま隣の男子トイレに入り、彼女は深く深呼吸した瞬間、「いい加減にしろお!!」とまるで地獄の閻魔大王のような聞くものすべてを意気消沈させるほとに恐ろしい怒号が艦内に響き渡った。

 

「「ぴいっ!!」」

 

「ま、マリア…………」

 

三人の見た彼女は今まで見たことのない、そしてまさにこの世の者とは思えない程の恐ろしい形相であり三人は、彼女を怒らせてしまったとに後悔し始めていた――。

 

「何があったんじゃ?」

 

「さあなっ」

 

ニールセン達はやっと帰ってきた彼ら全員の何か恐ろしいモノを見たかのような恐怖に染まった雰囲気に不思議がっていた。

何はともあれ、やっと艦から降りた彼らに待っていたのは久々の再開と無事に花束を持ち、笑顔で迎え待っていた沢山の駐屯地の者達であった。

 

「お帰りなさい早乙女一佐とマリアさん、そしてゲッターチーム!」

 

半年以上ぶりの再開と出迎えに暗い表情だった竜斗達も一気に明るい表情で彼らと喜び合った。

 

「皆さん、よくこれまでご無事で!」

 

「君達が日本から政府から色々調査受けたりオーストラリアから幾度かのメカザウルスの襲来などあったがなんとか持ちこたえたよ。君達ゲッターチームとゲッターロボがこれから日本にいればもう安心だなっ」

 

 

「いやあ……っ、ハハハ」

 

「エミリアと水樹久しぶりねっ。向こうでちゃんと元気にやってた?」

 

「はい、こっちも色々とありましたが」

 

「それはもう、色々とねっ――」

 

互いにあった出来事で話題にして、楽しく触れ合っている彼らに早乙女達も先ほどとうって変わり、暖かい表情で見ていた。

 

「日本に、駐屯地に帰ってきたとやっと実感できたな」

 

そして彼らの前に駐屯地の各中、小隊長達が現れて握手を交わして挨拶していく。

 

「一佐、そしてマリア助手、よくご無事でっ」

 

「皆さんもよくご無事で。大変だったでしょうに」

「確かに色々ありましたが皆で力を合わせて頑張ってきました、アラスカ戦線まで攻略した知らせには我々もどれだけ歓喜したことか」

 

「これでもう日本政府はこれ以上手だしは出来なくなったのは事実です、これからは安心して仕事が出来ましょう」

 

「ええっ」

 

――これから一週間は身の周りの整理と溜まった雑務と報告書の作成に明け暮れる早乙女、同じくマリアは彼を手伝いながら暇な時間を見つけて駐屯地外で新しい部屋探し、引っ越しに忙しくなった。

 

「日本の夏はジメジメして暑苦しいのう、だが専門分野の仕事で汗かくのは気持ちいいぞいっ」

 

「のうっ」

 

その間、ニールセンとキングはベルクラスを仮住居として自分達の専門である駐屯地の整備工場に赴き、見回りながら整備員達の手伝いや的確なアドバイスをするなどの仕事をし、その豊富な知識と技術に驚く者も少なくなかった。

 

「やはりわしらにはこれしかないなっ」

 

「ああっ、生涯一だ」

 

その時の二人は老人とは思えぬくらいに精気で溢れていた。

 

「――思い出してみれば、あの日か」

 

「あ……そうですね……」

 

仕事中、早乙女達は何かを思い出した。それは今竜斗達がいる場所に一番関係していた。

彼らはしばらくは自由にしていていいと言われたので、久々の日本ということで駐屯地外に三人仲良く外出していたのだが、今いるのはここから離れた場所の集団墓地のある霊園。

 

(ちょうど一年か……僕達がここまで生きてこれたのはあなたのおかげです)

 

今は初夏に入り、むし熱くなり始めているこの季節、その端にある墓に三人は、水を掛けて線香を焚いて、花を捧げて拝んで黙祷している。

この墓はそう、黒田の墓であった。

 

 

「もうあれから一年経つのね、あの対馬海の戦いから……」

 

「うん。天国で黒田さんがマナ達の成長ぶりに少しでも安心してくれていればいいんだけどね」

 

「そうだな……んっ」

 

彼らは横を見ると一人の成人女性が立っており、水の入った桶と花を持っていた。竜斗は誰なのかすぐに思い出した。

 

「あなたはもしかして……」

 

「彼の婚約者だった者です。あなた達は確か一年前に駐屯地にいた子達ですよね?」

 

「は、はいっ」

 

「どうもユウセイのことを忘れずに弔ってくれて本当にありがとうございます」

 

ご丁寧に挨拶する彼女は黒田の墓に立ち、黙って拝む。

「あのう、黒田一尉のご家族の方は?」

 

「明日来るそうです。私は明日は仕事でこれないので先にと思って」

 

「なるほど……」

 

非常におしとやかで健気そうであり、確かに黒田と合いそうな女性である。

こんな人を残して死んでいった彼、そして残されたこの女性は非常に残念であろう、そう考えると三人に悲壮感が襲う……。

 

「黒田さんを亡くして……辛くないんですか?」

 

自分が婚約者がもういないのに悲しむ素振りはおろか気丈そうに表情、振る舞う彼女に対して質問する愛美。

 

「……実はユウセイや周りから聞きました、あなた達は高校生でありながら世界を救うために自衛隊の巨大ロボットに乗って戦っていることを、あなた達は彼の教え子のような子達であると――」

 

「は、はいっ」

 

すると彼女は彼らに悲しませまいと思っているのか優しい微笑みを見せた。

 

「私は思うんです、ユウセイはただ死んでいったのではない、あなた達に全てを託したのだと――だからあなた達の存在がある限り、私は気丈にいられると思うんです」

 

その言葉の意味に三人は悲しくも、だが暖かみも感じていた――そして彼女と別れ、霊園を後にする三人は先ほどの悲しそうな顔がなくなっていた。

 

「あの人の言っていたこと……俺、分かるような気がするっ」

 

「うん。アタシ達はクロダ一尉の遺志を受け継いでいるってことよね」

 

「そう考えると、マナ達はイヤでもこれから世界のために何とかしないといけなくなるわねっ」

 

「そうだな。俺はジェイド少佐の分もあるし、そしてゴーラちゃん、ラドラさんの約束もあるから凄く大変だけどそれでも叶えるために死ぬ気で頑張っていこうと思う。

これ以上、爬虫人類の人達と無駄な殺し合いをしないためにも――」

三人はそれぞれの決意を快晴の遥か空へ飛ばし、それが世界に広がりそして叶うよう、願っていた――。

 

「サオトメよ、お前の言っていたという頼みとはこれか?」

 

「ええっ」

 

ニールセンとキングが早乙女に連れてこられた場所は地下にある専用ドッグにある三種の戦闘機の形状をした灰色のマシン。

これは早乙女曰わく『ゲッター計画の完成系』である。

 

「これらをどうしようと言うんじゃ?」

 

「それはですね――」

 

彼から計画の全貌と真意を聞くとニールセン達は「なに?」と耳を疑った。

 

「そんな夢物語のことが現実に出来るのか?」

「そうじゃぞ、理論的にもプロセス的にも凄く非現実的過ぎて成功率が限りなく低いわ」

 

流石の二人も難色を極めているようだが一体どのような計画なのか。

 

「だからこそ、あなた達の技術が必要なのです。

それに何の根拠や理由もなくこんな無謀な頼みを言ったのではありません、あの機体の装甲を直に確かめてくれませんか?」

 

二人は早乙女に連れられて三種の機体に接近してベタベタ触り、そしてコンピューターでこの戦闘機について詳しく調べる。

 

「なんじゃこれは、こんな金属は初めてだぞ……」

 

「リクシーバ合金より遥かに高い柔軟性を持ち、形状記憶性が凄まじいことになっとる……お主、これをどこで見つけたっ?」

 

二人は初めてみる戦闘機に使われている装甲材に驚いている。

 

「私もこれに関しては偶然の産物なんです。遊び心でリクシーバ合金に多量のゲッター線を浴びせた時にそれは起こったんです。

まるでゴムのように金属がグニャグニャになりまして、しかも重量が凄く増えていることに」

 

「重量が増えてる、どういうことだ?」

 

「その金属を分析した結果、原理は不明ですが金属を構成する分子が浴びせる前よりも増加していたんですよ」

 

その事実に二人は「何だと?」と驚愕する。

 

「そんな馬鹿な話があるか……と言いたい所だがこれまでにもゲッター線に関して不可思議なことばかりあったからのう、否定的にはなれんわな」

 

「ますますワケが分からんエネルギーじゃのう、ゲッター線は……」

 

これまでの経験もあり、『これもゲッター線の成せる現象か』と二人は納得せざるえなかった。

 

「あと、この金属にはもう一つ特徴的なことがありまして。エネルギーの吸収、浸透率が凄まじく高いことが分かりました、つまりこれを兵器として利用すれば――」

 

「なるほどな、確かにこんな金属が現実にあるのならサオトメの計画は実際に行えるかもしれんな」

「だが流石にワシらだけで開発はキツくないかのう?」

 

「ワシもそう思っていた。ではテキサス艦の開発スタッフ、いやロシアや中国からも総結集させてお前の一大計画をやり遂げてみるか」

 

「ほ、本当にいいんですか……?」

 

「ああ、ワシがいますぐにでも来いと言えば間違いなく来るじゃろうし、計画自体が恐らく神の領域とも言えるじゃろう、完成すれば間違いなくこれからの科学技術に大きな影響を及ぼすに違いない。エンジニアとしてこれ以上の興奮、腕の鳴ることはなかろうて。なあキング」

 

「そうじゃなっ、ワシらが生涯をかけてきた兵器開発技術の集大成とも言えることだ、命をかけるつもりで取り組むぞい」

 

やる気満々な彼ら、そして非現実的で成功するはずもないと思われていたこの計画が、全世界の優れた技術者が集まる、つまり人類科学の粋を集めた一大計画になると言う事実に早乙女はこれ以上の嬉しさなどなかった。

 


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