ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第五話「朝霞戦」③

――朝霞駐屯地南、近海上約一五○○メートル上空。

弾幕とマグマによる灼熱の業火が渦巻くこの空域。

ベルクラスは、ラドラの駆る『メカザウルス・ゼクゥシヴ』とガルマと上級恐竜兵士の駆る『メカエイビス・タウヴァン』二機の集中砲火の前に窮地に陥っていた。

 

『メカエイビス・タウヴァン』は首長竜のような縦長の外見でほぼ全身を銀色の外装甲で覆われた胴体。

巨大な蝙蝠の羽を広げるその怪物は全長四十メートル以上はある。

まるで重爆撃機を思わせる姿。口から吐き出す大口径マグマ砲、外装甲に内蔵された無数のミサイルによる大火力攻撃。

 

だがそれ以上にラドラが搭乗する『メカザウルス・ゼクゥシヴ』は、空戦型ゲッターロボ以上の機動力を持った機体でベルクラスに搭載された無数の機関砲で弾丸をあたり一面にばらまくも、翼とブースターを駆使したトリッキーかつ変則的な軌道を描きながら空中回避し、携行するマグマ弾を高速に発射するライフルで艦橋へ精密射撃を行ってくる。

早乙女とマリアは驚いた。今まで野蛮で凶暴な行動しかとらなかったメカザウルスにこんな知的の行動ができるとは……。

 

このメカザウルスの中に誰かが操縦している、それも知能が発達しており、それも戦闘経験に熟練している人物が搭乗している――二人は予想は的中している。

 

「たわいないぞ、情報を頼りに用心していたがこの程度か!!」

 

“調子に乗るなガルマ!”

 

「す、すいません。しかしこの浮遊艦は大したことありませんね。

バリアだけが取り柄で武装が貧弱ではただの木偶の坊ですな、ハハハハハッ!”

 

歯ごたえのなさに高笑いしているガルマに対し、ラドラはレーダーで周囲を確認しながら操縦している。

 

(……ゲッター線駆動の機体がこの宙域にいない)

彼は気づいていた、この空域にゲッターロボの姿がないことに。

 

“司令、このまま浮遊艦を撃沈させますか?”

 

他機に乗る上級恐竜兵士の通信に、ラドラはコクッと頷く。

「報告と情報を頼りにどれほどのものか、偵察にきただけだがどうやら検討違いだったようだ。

脅威はいなくなることには良いに越したことはない。このまま戦闘続行し撃沈させろ”

 

ラドラからそう命令が下った……。

 

「大型プラズマシールド、エネルギー消耗率79パーセント。このままでは本当に保ちません!」

 

「――待て、竜斗だ!!」

 

モニターに映るには今やっとこの宙域に到達したゲッターロボの姿があった。

 

“どうもすいません、地上のメカザウルスをやっと掃討しました……っ”

 

「報告は後にして、今はこの状況を打開することを考えるんだ。こちらもこれ以上被弾すると危ない」

 

竜斗と黒田はモニターに映る、自分の約二倍以上はある巨大な怪鳥二機と例の人型大トカゲメカザウルスを目視し、息を飲む。

 

「これが奴らの新型機……」

 

「ファンタジー物語の世界かここは……っ?」

 

ラドラも突然現れたゲッターロボに目を輝かせる。

 

「やっと来たなゲッター線駆動の機体。貴様の強さを調べさせてもらう。ガルマ達はあの浮遊艦の方を頼む!」

 

“了解!”

 

彼らはそれぞれ行動開始。

竜斗はベルクラスを破壊させまいと、近くの『メカエイビス・タウヴァン』の方へ向かう。

ライフルを胴体に向けて発射するも、頑強な外装甲を前にいとも簡単に弾かれてしまった。

そしてヤツらもゲッターに気づき口をグワッと開け、大量のマグマをゲッターロボに向けて吐き出した。

竜斗はすかさずレバーを引いてひるがして避けるも少し増加装甲にかすり、その部分がジュワッと溶けてしまう。

 

“竜斗、一刻も早くヤツらを撃墜しろ。背中の『大型プラズマソード』を使え。

それでヤツを、外装甲ごと真っ二つにできるハズだ”

 

ゲッターロボは背に手を回し、折りたたみ式大型実体剣『プラズマソード』を取り出し、すぐに展開。

身の丈以上に長く幅広のこの大剣の柄を両手持ちし高く掲げた時、ゲッタートマホークのような眩いほどの蒼白光のプラズマ刃を両刃に発振した。

竜斗はプラズマソードをぐっと振り込み、前方のメカエイビス・タウヴァンめがけて突撃。

向こうも近づけさせまいと外装甲全体から無数の発射口を出現させて大量のミサイルをあたり一面にばらまいた。

 

辺り一面を爆炎に染めるも竜斗は臆せずに、そして巧みに避けながらぐんぐん向かっていく。

 

「なっ!!」

 

上級恐竜兵士が気づいた頃にはゲッターロボは首を根元から切断。長い首ははるか下の海へ落ちていきマグマが噴き出すが、竜斗は止まらず勢いでそのまま尻尾まで横一線に両断した。

 

「お許しをラドラ司令…………き、恐竜帝国、バンザアーーーイ!!!」

 

動力炉のマグマリアクターが真っ二つに斬られたことにより大量のマグマが溢れ出し、内部の機械に誘発して内部から大爆発を起こす。

 

「なっ……クソォ!」

 

ガルマは部下の乗る機体を完全撃破されて憤怒する。

 

“……ガルマ、冷静にいろ。今は任務を遂行することに専念しろ!”

 

「く……っ」

 

ラドラの駆るゼクゥシヴはすぐさまゲッターロボを追跡、そして姿を見つけると携行するライフル『マグマ・ヒートライフル』の照準をつける。

 

「我が部下の無念、晴らさせてもらう」

 

ゲッターロボへマグマ弾を高速発射し、その卓越した命中精度でゲッターロボの増加装甲へ次々に穴だらけにされていく。

 

「まずあいつを何とかしないと……!」

 

ゼクゥシヴへ再びプラズマソードを振り上げて向かっていくゲッターロボ。

 

「ほう、私と真剣勝負か。よかろう」

 

ライフルを腰に下げて、背部から細身で両刃の長剣を取り出した。

柄を両手で握ると刃全体が真っ赤に発熱したのだった。

 

「この『マグマ・ヒートブレード』の切れ味、試させてもらうぞ!」

 

――従来のメカザウルスの動力源であるマグマは有限であり、さらに性質上冷えてしまうと出力ががた落ちし、交換を受けないと単独による継続戦闘時間が短い。

つまり長期戦闘はできないと言う欠点があったが、それを解決するためガレリー率いる恐竜帝国兵器開発部門の造り上げた、このラドラの乗るゼクゥシヴに搭載された新システム『アルケオ・ドライヴシステム』とそれに対応する新型動力炉『ヒュージ・マグマリアクター』である。

なんと無尽蔵にマグマを生み出すことができ、ほぼ永久稼働することができるという恩恵を受けることができるようになり、マグマの許容量の増加と、体内へ循環する効率を強化した『ヒュージ・マグマリアクター』により初めて成り立つシステムである。

大型化、もしくは口から固定式しかできなかったマグマ兵器は本機の『マグマ・ヒートライフル』のようにライフル状に小型化を実現。取り回しが良くなり戦術に幅を広げることができるようになった。そしてこの『マグマ・ヒートブレード』もその産物であり、剣内部にマグマを直接循環させることにより、全てを溶断する超高熱を帯びた剣と化すものである――。

 

ゲッターロボとゼクゥシヴの二機は激突。

ゲッターはプラズマソードを大きく縦に振り切るも、見抜かれていとも避

けられてしまう。

 

「隙が大きい。いくら切断力があろうと当てなければ意味がないぞ」

 

さすがはキャプテン・ラドラ。余裕でゲッターロボの動きと剣筋を見切り、軽々と避けていく。

 

「この機体の操縦者は素人か。

そうか、これまでの勝利は機体の性能によるものか」

 

ゼクゥシヴは次々に空振りするゲッターの隙をついて、的確にそのマグマ熱で赤く染まった剣刃を当ててくる。

そして増加装甲がいとも容易く溶断される。しかし奥深くまでは切り込まず、外装甲だけでとどめているが……。

「くそっ、今までのメカザウルスとワケが違う……まさか!」

 

「誰かが乗ってるのか……!」

 

竜斗達も気づいた。このメカザウルスの特異性を。剣の扱いに長けた何者かがこれを操縦していることを。

 

……次々に増加装甲を焼き切られて本装甲が露出していくゲッターロボ。

 

「……もういい、そろそろ葬ってやろう。私ができる対戦者への最大の礼儀だ」

 

ゼクゥシヴはぐっと剣を握りしめ腰をどっと低く据えた構えに入る。

これは次から本気で叩き斬るという意味だ。

 

「このままやられる……のか?」

 

竜斗の操縦にも疲労が見え始めてキレがなくなってきていた――彼もこのままでは一方的になぶり殺される、そう悟る。その一方では、ガルマの駆る『メカエイビス・タウヴァン』による攻撃を未だ受け続けていたベルクラス。

艦橋内で艦の操作を行う早乙女とマリアの後ろでモニター越しから見守っていたエミリアは青ざめた表情だった。

 

「リュウトっ!!」

「くう、艦のバリアが消えかかっています、もう保ちません……っ!」

 

「…………」

 

早乙女はすぐさま竜斗に通信を行う。

 

“竜斗、聞こえるか!”

 

「早乙女司令、このままではゲッターロボがこのメカザウルスにやられます!」

 

“こちらもシールドが消滅寸前まできている。

いいか、ベルクラスを攻撃している怪鳥を優先的に撃墜しろ。なんとしてでも被害を抑えるんだ”

 

「しかし……この剣がもうエネルギー切れを起こしてます。このままであの怪物を斬れるんですか!?」

 

プラズマ兵器は基本的に機体内のプラズマ反応炉からのエネルギー供給式であり、特にこのプラズマソードは凄まじくエネルギー消耗が激しく、刃を形成する刃部の光の眩さが無くなり消えかかっていたのだった。

 

“心配するな、プラズマソードの別形態を発動する。そうすれば現形態以上の切断力が生み出せる”

 

「別……形態……どうすれば?」

 

 

「両腰にある二本のゲッタートマホークを――まずそこから離れろ、援護する」

 

竜斗はものすごい不安感

になったが早乙女の言葉を信じ、すぐにゼクゥシヴから離れる。

 

「逃げる気か、この臆病者!」

 

同然ラドラも追いかけるも、ベルクラスは再び左右の前舷、側面の機関砲全門で弾幕を張り、近づけさせない。

ゲッターは弾幕に当たらない、そしてゼクゥシヴから離れたベルクラスの艦橋付近に到着する。

 

“よし竜斗、プラズマソードの柄の両側面の部分に何かをはめ込むような窪みがあるだろう。

そこに二本のトマホークを下からスライドするように取り付けるんだ”

 

竜斗は言われた通りにトマホークを一本ずつ展開し、プラズマソードの柄の窪みにピッタリはめ込んでいく。

すると今度はゲッターエネルギーによるエメラルドグリーン色の光のビーム刃へと発振した。

 

“これぞ、プラズマソードの第ニ形態『ビーム・ソードトマホーク』。竜斗、わかってるな!”

 

「了解!」

 

新たな武装と化したこの『ビーム・ソードトマホーク』を振り込み、もう一機のタウヴァンへと全力へ飛び向かっていった。

一方、ガルマの乗るタウヴァンはベルクラスに猛攻を続け、シールド破壊寸前にまで追い詰めていた。

 

「この攻撃でこの浮遊艦は撃墜も同然。地上人類共よ、部下の恨みだ。覚悟――」

 

“ガルマ、気をつけろ!あの機体が向かってきてるぞ!”

 

彼はモニターを見ると、ゲッターロボが大剣を携えてこちらへ一直線に向かってきている。彼は慌てて攻撃目標をゲッターに変更、すぐにマグマ、ミサイルの集中砲火を浴びせる。

「ヤバい……このままではたどり着く前に……」

 

いつ被弾するやも知らないこの状況に竜斗は弱音を吐いてしまう。が、

 

「竜斗君と言ったな。諦めるな、自分の感覚を信じろっ」

 

後ろでしがみつきながら見守る黒田に激励された竜斗は、気合いを入れて、自分の操縦を信じてレバーを押し出す。

 

「うあーーーーーーっっ!!」

 

何発か被弾し、外装甲が剥がれていくも諦めずに直進、シールドを張り続け接近、そして――。

 

「なんだとーーっ!!」

 

ビーム・ソードトマホークの剣先がタウヴァンの頭部に突き刺さるが、それでは終わらずまるでプリンをナイフで切るが如く、そのまま体内へ縦に真っ二つにしながら斬り進んでいった――。

ゲッター線の作用か、タウヴァンの爬虫類の肉質を溶解していき、胴体内部のコックピットを見事に貫通、ガルマはゲッター線の光を直接浴びて一瞬で溶かされてしまった。

 

 

 

「が、ガルマァーーーっっ!?」

 

ラドラは慌てて彼に通信するが反応せず……。

ゲッターロボがタウヴァンを真っ二つにし、マグマが噴水のように溢れ出しそのまま空中で爆散を遂げたのだった。

 

「くう……っ、他のメカザウルス隊は……」

 

通信をかけるも全く返答なし。それは全滅を意味していた……。

 

「なんてことだ……全員すまぬ……私の責任だ……だが!」

 

ラドラは戦意喪失し、戦闘続行不可能と判断、すぐさま一人北海道方向へ逃げ帰っていく。

 

「に、逃げた!まて――」

 

追跡しようとするが、黒田に肩を叩かれた。

 

「これ以上深追いするな、危険すぎる」

「しかし――」

 

“竜斗、黒田の言うとおりだ。ゲッターロボもベルクラスも限界がきてる、これ以上は無理だ”

 

「…………」

 

日が落ちはじめ、暗くなっていくこの大空にポツンと浮かぶゲッターロボとベルクラス。

 

「竜斗君、君の操縦にセンスを感じたが、やはり乗り込んて日が浅いのか色々荒過ぎる。

今日は運がよかったが、これではまた奴や同等の敵と出くわしたら次はないぞ」

 

「…………」

 

その筋で先輩である黒田に見抜かれていた。

 

“では黒田。これからは竜斗の操縦訓練の教官になってくれ。君なら彼の才能を引き出し伸ばせるだろう。上には私が言っておくから安心しろ”

 

「その前になぜ、彼がゲッターロボに乗るようなことになったのか教えていただきましょうか」

 

“分かった。竜斗、ベルクラスに帰艦しろ”

 

そしてゲッターも母艦であるベルクラスへ戻っていく――。竜斗にしても、ラドラにしても、とても苦々しくもそして何か手応えのある日となった――。

 

「ふ~んっ」

 

この壮絶な空中戦を愛美は呑気にも食堂でゆったり座り、アップルジュースを飲みながら観賞していた。

 

「………………♪♪」

 

彼女はクスッと笑う。また何かを企んでいるのか……。




五話終わりです。

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