竜斗に続いて一斉に介入していく西側の部隊。同じく駆けつけたアーサーはすぐさまラセツへ一点突撃していく。
「ルネ……お前まで……っ」
常に無表情だったアレンでさえギリッと歯ぎしりを立てていた。
彼は元フランスの外人部隊出身であり、そこで一緒だった戦友ルネの死に激しい怒りを顕わにして攻撃を始めた。
「……キサマだけは絶対に許さん!」
アーサーは超高速機動からの斬撃を繰り出してラセツへ反撃の隙を与えない。
「ほう、なかなか骨のあるヤツだ。私を楽しませてくれるか?」
久々に手こずらわせる好敵手に、先ほどの苛立ちはどこへいったか胸を踊らせるラセツ。
両手から発振した二振りのプラズマの刃が休みなく空を斬る、まるで舞いをしているような高速の攻撃を繰り出す一方で、ラセツは敢えて向かい立ち、同じ俊敏さを駆使して余裕で回避していた。
「フハハハ、いいぞ!お前から籠もったその憎しみが私を存分に楽しませてくれるぞっ」
彼は笑っている。端から見れば完全に狂人と思われても仕方ないほどに高笑いしている。
「だがな――!」
アーサーが大振りしたその一瞬の隙にその右腕をラセツは剣を振りこみ、切り飛ばした。
「ちいっ!」
右手を失ったアーサーは抵抗して左のプラズマ刃を振り込むも易々と避けられて、続いて左腕を切り飛ばして、さらに下半身まで切断した。
「ぐあっ!」
脚部の主部スラスターがなくなり空を飛べなくなったアーサーは地上へ墜落して叩きつけられてもはや動けず。
「くぐ……っ」
叩きつけられた衝撃で意識が朦朧するアレンの視線の先には剣を振りかざしてこちらへ向かってくるラセツの姿が。
「こい、化け物…………私はこれで終わらんっ」
コンピューターキーの端についた赤いボタン。所謂自爆スイッチに指を置いてラセツが接近するのを待ち構えた。
「ルネ…………俺もお前の所に――!」
指に力が入りボタンを押そうとした瞬間、
「中尉っ!!」
その横からアルヴァインが左手のトマホークを全力で振り込み、ラセツはそこから素早く離れたが竜斗は休まず彼を追う。
「もう誰も死なせやしない、そしてもうお前らの好きにやらせないからな!」
「おのれえ、貴様らゲッター線は何から何まで私達の邪魔ばかりしおってぇ!!」
全て吹っ切れた竜斗とラセツの激しい攻防戦が繰り広げられる。
ビーム・ブーメラン全てを取り出して投擲、飛び交うブーメランで攪乱する竜斗。
「これでも食らえ!!」
アルヴァインは飛び交うブーメランのどれかに右肩のキャノン砲を向け、エネルギーの出力を上げてビームを発射。
ブーメランに直撃してリフレクタービームとして四方八方に拡散し、ビームの雨が周囲一帯に隙間なくほどに降り注がれた。
「くっ!」
流石のラセツもこれにはたまらず必死で避けて、逃げるように地上へ降りていく。
「行くぞ!」
「はいっ!!」
地上に降りた瞬間、左右から挟み込むようにルイナスとシヴァアレスがラセツへ突撃してくる。
「シーカー、シュートゥ!」
「ドイツ軍の力を思い知らせてやる!」
ルイナスからシーカー全機、シヴァアレスからミサイルポット、バルカンファランクスで弾幕を張りながら突進してくる。
ついにラセツもこの逃げ道の隙間もない飽和攻撃に焦りの表情が見え始めて空中へ逃げようとするが、そこにはアルヴァインがエリダヌスX―01から取り外したセプティミスαを持ち構えて狙撃態勢に入っていた。
「絶対にお前を逃がさないぞ!」
竜斗はラセツのみに一点集中でプラズマ弾、散弾で降り注ぐ。
そしてラセツの元に到着したルイナス、そして間合いを取りながら円を描くように二人を囲み廻るシヴァアレス。
それは完全にラセツがその場から脱出できないような状況を持ち込んだのだった。
「アタシは少佐達を、いや大切なみんなを死に追いやったアンタ達を絶対に許さないんだからあ!!!」
「絶対に逃がさん、覚悟しろ!」
「このお、私をなめるなああああっ!!!」
彼らの無念、恨みを込めて回転するドリルをラセツへ振り回すルイナスと回避に必死なラセツ。
「ミズキ、準備はいいっ?」
「いつでもいいよっ」
そこから数百メートル離れた、段差のある場所の下では寝撃ちの姿勢でエネルギーチャージ済みのエリダヌスX―01を構えるアズレイの姿が。
「ルネさんの……いややられたみんなのためにマナが絶対アンタをぶっとばす!」
ファーサイトシステムをフル活用して透視、サーチしてラセツ一人へ狙いを合わせる。
「消し飛んじゃえーー!」
照準が重なった瞬間、トリガーをぐっと押した時、独特の甲高い音が鳴り響いだ。
「!?」
瞬間移動のような速さで向かってくるエネルギーの弾丸にはラセツでも避けることはおろか、関知すらできずに見事直撃、その等身大の身体は一瞬で蒸発してついにこの世から消え去った――。
「俺達、ついにあの化け物を倒したんだ……っ」
「は、反応がもうなくなっているから……多分」
「や、やったあ!!」
ついに東側の部隊を全滅寸前に追い込んだ人気の姿をした悪魔、ラセツを撃破したことに全員は喜び合う。
「……なんだかかんだで生き残ってしまったか……しかしルネ、彼らがお前の仇をとってくれたからもう安心してくれ……っ」
「ヒュー、さすがはゲッターチームだ、ベリーナイスなコンビネーションだったネ!」
「ええっ!!」
そしてなんとか生き残ったアレン、ジャック、メリーも彼らへ賞賛を贈るのであった。
「や、ヤシャ様、ラセツ様とも反応が消えました……っ」
「お、おのれえええ、よくも私の可愛い二人をォ!!!」
だが、それはドラグーン・タートルでは絶望、そしてジャテーゴの怒りからの喚き声がこの中を無情に響かせた。
「もはやメカザウルスの数はほとんどなく艦を護衛につかせてもまるで意味も成しません。それでもこのままでは援軍を待ちますかっ?」
「援軍を待たずにドラグーン・タートルは直ちに発進。
南下して目の前にあるもの全てを破壊し、追ってくる者は艦砲射撃で全て撃ち落とせ!」
ついに地を這うように動き出したドラグーン・タートル。目の前にある木々や多少の障害物を体当たりで破壊し始めていった。
その様子をベルクラスから見事捉え、各員に通信を通して伝えた。
「各員聞いてくれ。暗号名タートルは南へ向かって移動し始めた」
その事実に全員は驚愕する。
「それにだ、敵艦の周りに大雪山戦役でも確認されたあのバリア発生装置らしきものが飛び交っているのを確認した。
そこで竜斗、水樹の二人は直ちにエリダヌスX―01を駆使してテキサス艦がこちらに到着する前にバリア発生装置を破壊してくれっ」
それを聞いて二人は通信モニター越しで互いに見つめ合った。
「行こう水樹!」
「ええっ、力を合わせて破壊するわよ石川!」
互いにやる気を感じ合い、二人はすぐさまタートルへそれぞれ空中、地上から接近を開始した。
「二人とも頑張ってえ!!」
エミリアからの応援を受けて、さらに気合いを入れる二人。
「タートルに接近する反応二つあり。共にゲッター線反応を確認!」
「破壊しろっ!」
マグマ砲、ミサイル管を一斉に展開し開門、全弾全てアルヴァインとアズレイに向けて撃ち尽くし、隙間のない弾頭のスコールが襲いかかる。
「水樹、避けろ!」
「言われなくても分かってるわよっ!」
彼ら二人の恐ろしいまでに卓越した操縦技術が今ここで爆発。
それに追従される機体の機動力が合わさった挙動はあまりにも凄まじくそれぞれ空中、地上をあたかも自分達が支配しているかの如く地形や位置を把握し、尚且つ一寸も狂わない操縦からのコンパクトで隙のない機敏さ、そして韋駄天とも想わせる凄まじい移動速度を駆使して弾の雨を全て余裕と言わんばかりにかいくぐる。その様子は敵味方それぞれに驚愕、そして恐怖と尊敬、歓喜を与えていた。
「全然攻撃が当たりません!」
「ぐぬう……、なんてヤツらだっ!」
ジャテーゴさえも彼らの実力を認めざるおえないくらいであった。
「あまりもう時間がないわ、行くわよイシカワァ!!」
「よし、攻撃開始だ!」
二機はすぐさま高速移動しながらエリダヌスX―01を構えてファーサイトシステムを発動。
「これがタートル……なんて巨大でこんなにキモいの……っ」
「水樹、今はそれよりもバリア装置の破壊が先決だよ!」
目の前に立ちはだかる、後ろが全く見えないほどに巨大な基地、ドラグーン・タートルの周りに飛び交っているバリア発生装置、リュイルス・オーヴェをサーチし、照準を合わせてトリガーを引いた。甲高い独特の発射音が響いた瞬間にサーチされたリュイルス・オーヴェが次々に爆発していく。
「リュイルス・オーヴェが次々に破壊されてます!」
「なんだとお!?」
「このままでは艦のバリアが消滅し、艦は完全な無防備状態になります」
苦汁を飲まされたような表情のジャテーゴ。
「もう少しだ、頑張れ水樹!」
「イシカワもねっ!」
もはやこの二人を止められるものはおらず、ついには最後のリュイルス・オーヴェさえも破壊されて艦を覆っていた光の膜は消え失せて解除されてしまう。
「やったあっ!」
「待ってイシカワ、後ろからメカザウルスの残りが!」
その時、二人の後方から残り少ない数のメカザウルス達が二人を食い止めようと不意打ちを仕掛けてくるが、
「邪魔させないわよ!」
「往生際が悪いぞ!」
「各機、この場にいる残りのメカザウルスを全て破壊しろ!」
同時にベルクラスを初めとするルイナスやシヴァアレス、そしてテキサスマック他の味方機達が次々に介入してヤツらの掃討を行っていく――。
「もう形勢は我々に傾いている。もう少しでテキサス艦が到着するが、敵増援も踏まえて最後まで油断するな!」
「ウオオーー!!!」と全員の雄叫びと共に彼らはもはや勝利すること以外は考えず、士気は頂点に達した。
(少佐、見てますか……僕達、なんとかいけそうですっ!)
竜斗はもう天国に着いているであろうジェイド達へ勝利が見えてきたという吉報を心から伝えようと、いや伝えたかった。
――度重なるかけがえのない人達の犠牲、そして劣勢の中で何度も絶望を味わい、勝ち目がないと諦めかけていた僕達だが、今やっとこの暗闇の中に光が差し込み、明るさが増す。
それはすなわち僕らが勝利として収め、アメリカ史上に残るであろうこの大決戦の終わるということの表しである。
誰もがもう少しの辛抱でこの戦いに終止符が打たれることを願い、僕達は最後の最後まで希望を持ち続けて戦い抜いたのだった――。