ドラグーン・タートルにて、ジャテーゴは近くで待機するあの二人を呼び寄せる。
「ラセツ、ヤシャ。お前たちの出番が回ってきた、直ちに出撃しろ」
「「はっ!」」
「遠慮はいらん、調子に乗るサル共に裁きを、一人残らず八つ裂きにしてこい」
「お任せを、ジャテーゴ様」
「必ずジャテーゴ様に期待に添えるように全力を尽くしてきます」
「うむ、期待しているぞ」
ついに出撃命令が下されてる二人だが果たしてその実力は――。
「ラセツ、お前はどこを攻めるつもりだ?」
「私は東側に行く、お前は西側の連中を頼む」
「よし、任せとけっ」
どちら側に行くか決め合った二人は去っていくのを黙って見届けるジャテーゴは、
「要請した本隊からの援軍の到着は?」
「あと一時間程度のこと」
「よし、それまでにラセツ達二人が持ちこたえてみせよう。いや、援軍はもしやいらないかもな、フフフ」
と、二人に絶対的な自信を持つ彼女だが、一体どんな根拠があるのだろうか。
「そろそろドラグーン・タートルも南下を開始する。各員配置につけ!」
「はっ!」
こちらも発進する号令が下り、ドラグーン・タートルの動きが活性化する――その中でクルー二人がこそこそと話をしている。
「……なあ、ラセツ様とヤシャ様についてだがあの二人は一体何者なんだ?」
「さあな。俺達にはジャテーゴ様の忠実で有能な側近という情報しか教えられていない。それ以外は全くの謎だ」
「今まで思っていたが二人の雰囲気が爬虫人類とは違うような気がする……いや、寧ろ生き物かどうかも分からん、とにかく不自然な感じだ」
「ああ、全くだ――」
「おいそこ!何を喋っている、私語を慎め!」
ジャテーゴに叱咤され、焦る二人は直ちに仕事に取りかかるのであった。
「テキサス艦からたった今発進したと通信が入った!」
「よし。各員、テキサス艦がこちらに到着するまで全力で持ちこたえよ!」
西側と東側、各部隊は予想以上に戦果を上げてメカザウルスの数をどんどん減らしていっており、無謀としか思えなかったこの作戦にも本当の勝利への道が切り開き始めていた。
「こちらアラスカ空軍基地所属の各部隊。これより参戦して援護に入る」
増援も加わったことでさらに戦況は有利になり、あとは発進したテキサス艦がこちらへ到着してタートルと一騎打ちするまで持ちこたえることに専念するのみである。
――西側。高性能SMBとそのパイロットのおかげか、最初から安定した戦闘で優位に進める。
「約六八○機撃破――」
「七○二機目!」
アーサー、そしてジェイド機のように一貫して空中戦闘を取り続けて敵を落としていく機体、地上に降り立ち、または入り組んだ谷間の中に入り隠れたり、隠密行動しながらリチャネイドやライフルで空中のメカザウルスを狙撃するステルヴァーやマウラー、中には、
「よしよし、追いかけてきてるな」
敢えて戦闘機状態で入り組んだ渓谷に突入してそのまま突き抜ける機体の後ろにメカザウルスが逃がすかと、追いかけてきている。
「ヴァリアブルモード!」
行き止まりにさしかかった瞬間、変形して人型になり各肢体に内蔵したスラスターを使い、直角的に上昇した。
「なに!?」
行き止まりに気づいたメカザウルスは当然スピードを止めることが出来ずに壁に激突した。
「へ、マヌケめ!」
と、それぞれ持つ高度の操縦技術を生かした多種多様の戦術でメカザウルスの戦力差を埋め合わせていく。
「うおあああっ!!」
中でも突出しているのはやはり竜斗のアルヴァイン。彼だけですでに二千機以上破壊しており、さらには一度も被弾はおろか、触れさせずに敵味方両方から驚愕されていた。
(絶対に勝つんだ!)
それだけの一心で、戦闘に全神経を集中させる彼はゲッターロボのデザインと相まって完全に鬼神と化していた。
ジェイドは戦う最中でそんな彼の勇猛ぶりをちょくちょくと観察していた。
(竜斗君はもうすでに私を超えているのかもしれんな)
と、素直にそう認めた――。
「ん、ちょっと待て。タートル方向よりこちらに接近する新たな反応を確認した。しかし数は……たったの一つ」
「なに?」
誰もがその方向にモニタリングして視線を集中させる。するそこには……。
「なんだあれは……っ」
「爬虫類の人間……だと……」
目線の先にあるのはなんと、重厚感のある鎧を着込んだ等身大の爬虫人類の大男……だが、空中に浮遊しており誰もがおかしいと理解する。
「ヤシャ様!」
恐竜兵士、キャプテンも彼に釘づけになり、その場にいる敵味方全てが戦闘を止めてしまった。
「ジャテーゴ様が大変お怒りだ。あの方に代わり、この俺とラセツ自らが貴様らサル共を駆逐する」
するとヤシャは懐から、何か注射器のような形をした器材を取り出し、突然それを首筋に突き刺したのだ。
中に入った謎の液体が血管内に入り、身体中に行き渡る。
すると心臓の鼓動が激しく波打つようになり、痙攣を起こしたかのように身震いしている。
「!?」
誰もが目を疑う。突然ヤシャの身体中の筋肉全てが二倍、三倍、いや何十倍にも膨れ上がり巨大化したのだ。
等身大の人間から……メカザウルス、SMB、それ以上のまるで百メートル以上はある高層ビルのような凄まじい高さの巨人と化して立ちふさがったのだ。
「なんだこいつは……」
「ヘラクレスか、はたまかサイクロプスよおい……」
まるで神話上に登場する巨人に出会ったのような、お伽話の世界に入り込んだような錯覚に陥る全員――。
それは東側でも同じであった。戦いの最中に現れた謎の等身大の男は巨大化しないものの、その異様な光景に敵味方問わずに注目していた。
「なにあれ……」
「人間……じゃないよね?」
エミリア、愛美の二人も、明らかに浮いているその一人、ラセツに完全に視線を注がせていた。
「私達二人を赴かせるとは大したものだが、その快進撃もここで終わりだ」
脇差しの長剣を取り出して天にかざすと信じられない現象が巻き起こる。
なんと雲行きがおかしくなり、雷鳴がなり響きそして至るところに無数の雷が降り注ぎ、各機に直撃させた。
「ウギャアアアア!」
コックピット内では高圧電力が流れ込み、感電どころではなく一瞬で燃え上がり機体ごと爆散させていった。
さらには嵐が巻き起こり、暴風が吹き荒れるこの東側には理解不能の現象ばかりが起こっている。
まるで魔法か何か、不可思議な超常現象を引き起こしていくラセツに誰もが茫然となる。
「くそお、ここはファンタジーの世界かよ!」
「各員、あの巨人を包囲して一斉攻撃だ!
西側でも巨大化したヤシャへ一斉に集中攻撃を攻撃を仕掛ける各部隊だが、その強固な鎧には傷一つもつかない。
「効かぬわあっ!」
ラセツ同様に脇差しの長剣を取り出して襲いかかり、各機はそこから退避するが、こんな巨大な体躯でありながら戦闘機型のステルヴァーが追いつかれるほどの機敏であり、すぐに握り掴まれてしまった。
「直ちに助けるんだ!」
各機がリチャネイド、ライフルを構えて一斉射撃を行うがまるで効果がない。その間にヤシャの握力に力が入り、掴まれたステルヴァーは徐々にメキメキと潰されて、無論パイロットも潰されていくコックピットと共に……。
「た、助け……っ」
「す、スティーブン!!!」
――完全に潰されて鉄くずと化した「ステルヴァーだったもの」を地面に叩きつけ、それだけで飽きたらずに右足で体重をかけて踏み潰す蛮行をやらかした。
その無残な光景に全員が茫然、そして絶望を味わい先ほどまで高かった戦意は一気に消え失せた。
「さあ、次にこうなりたいヤツはどいつだあ!」
ヤシャの殺意の籠もったぎらつく視線が各機に向けられた――。
「はあっ!!」
その頃、ラセツも自身の持つその巨大な力を揮い、地上人類の部隊をたった一人で、しかも生身であるにも関わらず圧倒していた。
握り込む長剣の刃が突然炎に包まれ、さらに遥か天にまで炎が伸びていく――。
「燃え尽きろ!」
全力と横一閃に振り込むと辺り一面に強力な熱波が拡散して木、雪、そして各機の、その周辺にある何から何までの物が炎に包まれ、火の海に変えた。
「あ、悪魔が、アクマが現実に現れたよおっ!!」
「バカ言わないでエミリア!けど何なのアイツはあ!!?」
渓谷に入り込み、難を逃れて凌ぐ彼女達はその自然を操る魔法のような強大な力を目の当たりにして混乱し、怯えていた。
「何としてでもあの正体不明の敵を倒せ!」
各戦闘機、マウラー、ジャンヌ・ダルク、シヴァアレスはラセツを包囲して一斉射撃を行うが、小さくそして素早う空中を飛び交うために全く当たらない。
「私の実力はとくと見よ!」
何とその場で彼が突如、分身したように同じ姿をしたようなモノが増えだし、それらが一気に辺り一面散りばめられて襲いかかる。
「そらそらそらあっ!!」
剣を振り込むと真空波を引き起こして各機の胴体を真っ二つに斬り裂き、炎や雷、さらには冷気、果てには吹雪まで巻き起こしていくこの魔法のような力を自由自在に操るラセツに手玉を取られ、そしてなすすべなく破壊されていく。
「突然現れた二つの反応に味方の数が激減しています!」
「…………」
「それに東側の気候が突然おかしくなったりと、何が一体どうしたんだ?」
中立地帯に滞空するベルクラスでは、優秀な三人でさえこの事態と現象が全く理解できず頭を悩ませていた。
「ここにずっといるわけに行きません、私達も援護に向かいましょう!」
「わかった、ベルクラス発進だ!」
彼らもここばかり留まるわけにはと、ついに艦を発進させて援護に向かった。
ラセツとヤシャ、戦方は全く違うも二人に共通しているのはメカザウルスなどに乗らず生身で戦う、この戦線において明らかに異質の存在であることだ。
「ぐはあっ!」
ヤシャが深呼吸して肺に息を溜め込み、全力で吐き出すと口から風ではなく全てを焼き尽くす、マグマと同等かそれ以上の熱量を持った巨大な地獄の業火。
範囲内にいた沢山の戦闘機、マウラー、ステルヴァーは炎に包まれてドロドロに溶かされていく。
(メカザウルスでもなければ……かと言って人間でもなさそうだけど何なんだこいつはっ!)
竜斗のアルヴァインが上空から急接近してセプティミスαを構えて、その巨体でありながら激しく、そして素早く動き回るヤシャへ照準を合わせる。
「これでも食らえ!」
最大出力からの複合エネルギー弾をライフルから発射、ヤシャの右肩に直撃し貫通した。
「……お前はあのゲッター線を使う例の機体かっ」
「ああ…………」
目が合い、その憎しみの込めた睨みをアルヴァインに向けるヤシャにその強烈な威圧感に圧倒されて身体が強張ってしまう竜斗。
「我々の天敵であるお前を今こそ俺の手で破壊してくれる!!」
右手のひらに巨大な火球を形成したヤシャはアルヴァインへ直接腕を突き出した。しかし竜斗は強張ったままで全く動けず、ただ迫ってくる火球を持った手のひらの張り手に直撃するのを待っていた。
「竜斗君!!」
だがジョージの乗ったステルヴァーが急接近して割り込むようにアルヴァインを全力で押し飛ばして彼と入れ替わった瞬間、勢いのついた火球付きの手のひらがステルヴァーに直撃して一瞬で消し飛んだのだった。
「じ、ジョージ!!」
「ウソだろ……お前まで……」
彼から何の返答、生命反応が無くなったことに全員が沈黙し静寂と化した。
「し、少佐……なんで……」
自分を庇ったばかりに代わりに犠牲になったジョージに竜斗は顔面蒼白と化した。
しかし敵の勢いが収まるハズはなく、寧ろ邪魔されたことに更に憤怒して力を溜め込むヤシャであった。
「貴様ら全員アラスカから生きて帰さん、地獄で苦しむ覚悟しとけよ!!」
優勢かと思われたが、正体不明の二人によって、さらにはやアニメや漫画の中としか思えない能力を持って、大部隊相手に圧倒的な強さで立ち回るラセツ、ヤシャ。
誰もが「一体何者なんだ」と考えて、憶測が飛び交い、そして錯乱した。