ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」⑦

「各部隊、アラスカの敵戦地にてメカザウルスと交戦開始しました」

 

テキサス基地の地下。発進態勢に入っているテキサス艦内ではリンク達各クルーが恐怖と不安、そして期待の心情がまざりつつまだかまだかと待ち焦がれていた。

 

「どうやらおっ始まったみたいだな」

 

リンクの元に、乗り合わせていたキングが現れて横に並びアラスカの様子を映し出したモニターを見上げる。

 

「さて、冥土の土産代わりに向こうの奮闘ぶりをこの目に焼き付けようか」

 

縁起でもないことを呟くキングにリンクはため息を吐く。

 

「……博士、あなたはこれでよかったのですか?」

「何をだ?」

 

「あなたはニールセン博士と共にベルクラスに乗り合わせなくてよかったのですか?」

 

質問すると彼は黙り込んでしまう。

 

「博士、あなたはこの艦で行う攻撃内容を見通して乗艦しました。人生に疲れたなどとおっしゃいましたが本当の理由なぜですか?

ベルクラス、いやサオトメ一佐達と一緒にいれば恐らく生き残れるでしょうになぜ自ら死を?」

 

沈黙するキングは次第に物悲しい表情となっていく。

 

「正直な話、これまでにワシはニールセンの野郎を超えるつもり気でいたのだ」

 

「超える、ですと?」

 

「確かにワシはアイツとは同じ飯を食ってきた仲であるが、エンジニアとして互いの技術を競ってきたライバルでもある。

あやつは生まれもったまごうなき天才で若い頃から富と名声を手に入れ、周りにもてはやされ……あやつは年は取るにつれて技術とセンスは衰えを知らずに増してきておる。

それに対してワシは凡人であり思い出せば頭が痛くなるほどの膨大な苦労と努力をして認められたのが五十超えた辺りからだ。

だがそれでもいつか、あやつを超えることに執念を燃やしていたが年には勝てず衰えを感じてきてな、もはやあやつを超えることなど到底叶わなくなった。

分かるか、技術者として超えたくても結局超えられず二番手を軽んじられてきた男の気持ちが――」

 

――嫉妬。今のキングからその感情が滲み出ており、リンクは十分なほどに感じ取っていた。

「ワシらの世界ではトップに二人もいらない――それを悟った瞬間に生きていく意味を全て失った気がしてのう、今まで溜まりに溜まった気疲れが大爆発したかのようにな」

 

「………………」

 

「――以上が情けなくなった老いぼれの男の内訳だ。

これからのことは全てあやつに託すことにする」

 

まるで天国行きの順番を待っているかのように、キングから生きたい気持ちを感じさせるような表情と精気は消え失せていた。

 

「ジャック君とメリー君はどうするんですか?」

 

「あの二人はついては陽気で生粋の自由人だから、ワシの亡き後も問題なく生きていくじゃろうから心配ない」

 

するとリンクは、

 

「このアラスカ戦線以降は恐らく恐竜帝国との総力を上げた全面戦争となるでしょう。

そうなった場合、我々と向こうには雲泥とも言えるほどに戦力差があるのは誰でも分かります。

それでも戦力差を埋め合わすには、人類が平和を勝ち取るためにはニールセン博士、そしてあなたの力は必要不可欠な存在となります、そしてサオトメ一佐も」

 

「…………」

 

「先ほど天才は二人もいらないなどとおっしゃいましたが、あなたは人類存続のために何が何でも生きていかなければならない、それほどの『力』を持つ人間だと私は思います」

 

「………………」

 

「それに、あなたはジャック君達について――と答えましたしたが、それで二人は喜ぶと思いますか、とても肉親とは思えない発言ですね」

 

「リンクめ……このワシに説教する気かっ」

 

「説教だろうが何だろうが、私は思ったままに告げただけです。

あなたは本当にこれでいいのかよく考えるべきです――」

 

気まずい雰囲気になるこの場――彼らの会話を聞いた周りのクルー達は気を逸らそうと自身の仕事に専念する。

そして二人もそれ以降はただ黙ってモニターに映るアラスカでの各戦況を見守っていた。

 

「信号弾だと!」

 

――アラスカ戦線の東側。拠点で待機している各機が陽動隊からの緊急事態を知らせる信号弾の発光、そして陽動のはずなのにすでに発砲音や発砲音でドンパチ戦闘をしているような騒音を彼らはしっかり確認していた。

「な、何があった、陽動隊に連絡を取れないか!?」

 

「無理です、先ほどから何度も連絡しようにも何かに妨害さるて遮断されてしまいレーダーも異常をきたしてます、どうやらジャミングされているようです」

 

「敵のワナにハマったか……っ」

 

その事態に各人がどよめきだし、狼狽する。それは愛美も同じであった。

 

「我々も迅速で向こうと合流しよう、各機移動準備。移動経路にどんなワナが待ち構えているか分からん、空から移動するぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、マナはどうするんですか!?」

 

戦闘機形態になれるマウラー、そしてジャンヌ・ダルクに対して陸、海戦用機であるアズレイには飛行能力など備わっていない。するとルネの機体であるジャンヌ・ダルクが前に飛び出る。

 

「ジャンヌ・ダルクなら彼女の機体を牽引していけますので私に任せて下さい」

 

「ありがとう、では頼むぞ少尉。では各機発進だ」

 

マウラーはその場で戦闘機型へ変形次第、次々とジェット推進で浮上して前進していく。そしてジャンヌ・ダルクもその場で白鳥型飛行機に変形して浮上。アズレイの真上に来て腹部から牽引用のアンカーを吊り下げて胴体に巻き付かせた。

 

「あ、ありがとう……けど、どうして?」

 

先ほどまで嫌がっていた自分を自ら引っ張っていってくれるルネに、彼女はそう聞くと彼女は嫌々ではなく寧ろ清々しい表情をしていた。

 

「感情抜きで困った時はお互い様だからね。それにゲッターチームのあのコが今、向こうでヒドい目に遭ってるかもしれないから早く駆けつけたいと思わない?」

「…………」

 

「あたしだってあなた達ゲッターチームに色々と期待してんだから何も出来ずにやられてしまうのはイヤなんだからねっ」

 

と、こんな状況下でも光明のような笑みを絶やさないルネに愛美も次第に彼女の印象がいい方向へ変わりつつある。

 

「ホラ、無駄話はそこまでにしていくわよ!」

 

「……うんっ!」

 

そして白鳥型と化したジャンヌ・ダルクは出力をフルにして羽ばたくように空へ上がると、アズレイもアンカーのウインチに吊られてゆっくり空へ上がっていく。

 

「アズレイが空を飛んでる……すごいねこの機体!」

 

こんな華奢な体躯とは裏腹に、もう一つの機体を引っ張っていけるような恐るべきパワーを持つこのジャンヌ・ダルクに驚愕する。

「フランスの聖乙女の名を冠した機体は伊達じゃないわよっ」

 

そして全機は地上から空へ上がり、急いで取り残された陽動隊の方へ飛び向かっていった――。

 

「はあっ!」

 

陽動隊とメカザウルスは、それぞれ持つ近接武器のぶつかり合い、火花を散らしている。

狭い空間内を細かく動き回りながら各火器でド派手に砲撃する機体もあり、この場はまさに火中となっていた。

 

「シーカー、シュート!」

 

ルイナスのガーランドG、ライジング・サンから各シーカーが空中に飛び出して 小型ドリル器機を高速回転で突撃し穿ち、ゲッタービーム弾を雨のようにメカザウルスに降り注がせて、そして自身も同じく左腕のドリルで一気に殲滅していく。

しかし、それでもメカザウルスの恐るべき数の前には減っているような感覚は全くなく、まるで無限の数の敵を相手にしているようだ。

雪崩れ込むように次々に押し寄せて来るメカザウルスには流石のエミリアも気が狂いそうになるも、

 

「大丈夫かエミリア君!」

 

「は、はいっ!」

 

「キツいがみんなも今同じ気持ちだ。ガンバレ!」

 

タッグを組むリーゲンの掛け声に本当に助けられており感謝していた。

彼の機体、シヴァアレスはその重装甲と重火器を生かした突撃、及び砲撃戦法を行い、メカザウルスを圧倒している。

 

両側面に搭載した二連装プラズマビーム砲で敵を撃ち抜き、装甲内に搭載したミサイルポットとバルカンファランクスで弾幕を張り、そしてシヴァアレスの象徴とも言える中央部に設置された折りたたみ式の巨大な砲身。展開して真っ直ぐに伸ばして射角を水平に合わせた。

「吹き飛べ!」

 

700ミリという超大口径から発射させた弾頭は、射線軸に固まったメカザウルス全てを貫通し粉々に粉砕、さらにその通過時の余波で周辺メカザウルスを言葉通りに遙か遠くまで吹き飛ばした。

その凄まじい威力に味方は歓喜し、敵は恐れをなした。

 

(スゴイけどこれ、ミズキが大雪山の時に使ってたあの兵器に似てる……)

 

エミリアはその大砲に何かピンと来て思い出す。

そう、大雪山戦役で海戦型ゲッターロボに装備されていたドーヴァー砲に似ていることに気づいたのだ。

数が少ないが高性能のSMBを駆使して何とか持ちこたえるエミリア達に更なる追撃が襲いかかる。

脚部の車輪をフル稼働させて動き回るマウラー付近の地面がまた大爆発して機体と共に粉塵が巻き上がり、地面に叩きつけられた。

 

「地雷か何か埋められているのか!」

 

「分からん。だがこれでは無闇に動き回れんっ!」

 

「私が今、調べてみるからその間前線を頼む!」

 

リーゲンが仲間と入れ替わり、すぐさまモニターを地雷除去モードに変更してこの周辺全ての地面をエックス線透視して調べる。だが地雷と思われる物体が周りには何もない。

 

「ん、これはっ」

 

その代わり、前方の地中深くにいくつかの何か反応があるのが分かる。

しばらく監視していると、そこから熱源反応のある細長いモノが、飛び出してこちら側の地上へ近づいてくるのが分かった。

 

 

「左側にいる機体全てはその場から離れろ!」

 

彼の叫ぶような指示をしてそこにいたマウラーが一斉に離れた瞬間、その位置の地面が先ほどのように大爆発してちょうどいたメカザウルスまでも巻き込まれて、全て吹き飛ばされたのだ。

 

「気をつけろ、地中に魚雷のようなモノを発射する兵器と思わしき物体がいくつも埋め込まれている!」

 

「なんだと!?」

 

その事実を知った各人は驚愕し、そして顔をしかめた。

 

「なるべく固まって移動せず止まらず動き回れ、狙われるぞ!」

 

そこから各人はタッグを解き、バラバラで動き回りながらライフルやミサイルなどの射撃戦で進めるが、限られたこの狭い空間では各機は思うように自由に動き回れず、何より分散したために確実な決定打がなくなったことにより各機の戦闘力は激減。

自由に動き回れず、だが動き回らないと地中魚雷に狙撃される、そんな過酷な状況下に誰も彼もが悲鳴を上げ、そして彼らは追い込まれていく。

 

「こ、これじゃあ全然追いつかないよお!」

 

「くそお、本当に袋小路だ。早く援軍はこねえのかよ!」

 

「諦めたらそこで終わりだっ、最後まで希望を持って諦めるな!」

 

互いに励まして気を保とうとするも押し込まれ、そして次々にマウラーがメカザウルスの波に呑まれて破壊されていく。そんな悪戦苦闘の戦況にその場にいるほとんどの者が平常心を失っていた時だった。

 

「いや、ついに来たぞ!」

 

後ろの夜空を見上げるとそこには無数に飛来する戦闘機の姿が。

「やっと気づいてくれたかっ!」

 

後方で待機していた東側部隊全てであり、駆けつけてくれたことにやっと彼らは希望を見いだせた。

「エミリア!」

 

「地上に降下したいがこれでは……っ」

 

真下で繰り広げられている陽動隊の過酷の状況に一刻も早く彼らと合流したいが、彼らと合流する地上に降りられるようなスペースがなく、さらには地中には魚雷発射装置があるなどの情報交換で通信を取りたいのにジャミングされているのが最大の難点である。

 

「各機、爆撃用意!着陸するスペースの確保、どこかにあるジャミング装置を探し出して破壊を最優先だ」

 

戦闘機型マウラーの大軍は腹部付近に内蔵した対地爆弾で空爆を開始、広範囲に渡って埋め尽くすメカザウルスもろとも地上を爆炎と硝煙に染め上げる。しかし妨害電波は一向に解除されず、各人は困惑する。

「地上に降りてきたければ早く来いよ。最も、何も知らずにモグロゥの魚雷の餌食になりたいのならな」

 

埋め尽くすようなメカザウルスの遙か後方の数キロ離れた渓谷の谷間に隠れるようにただ一機、そこで重鎮している暴君竜型メカザウルスのパイロットである第四十三恐竜中隊司令官、キャプテン・シルジェはまるで高みの見物をしているかのように不敵な笑みをしながら傍観している。

 

「ジャテーゴ様に敵対する愚かなサル共よ、電子戦に長けた我々中隊の恐ろしさを見せてやる」

 

彼の乗る、一見普通に見えるメカザウルス『メルフォリ』を基点に離れた所の空中に浮遊する、夜の闇に紛れて見えないほどに非常に小さく丸い金属球体四つから「ピピピ」と奇妙な機械音が放たれている。

それがジャミング装置であることに、彼らは気づくはずが全くなかった。

 


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