パラシュートで地上に降り立ったルイナスとアズレイは脚部の各推進ユニットを展開し、マップを見ながら東側の合流ポイントへ雪しぶきをあげながら高速滑走していく。
「凄くでこぼこしてる、途中で転びそう……」
以前にもこの地域で戦闘があったのか、平地でありながらクレーターと傾斜だらけであり、移動中コックピット内がグラグラ揺れる。
そして何より崖や渓谷、クレバスがあちこちにあり、非常に戦いにくそうだと感じる二人。
「穴に落ちたりでもしたら一巻の終わりね……気をつけなくちゃっ」
「こんな時にメカザウルスに待ち伏せされてたら危ないわね、出くわさないことを祈って早くみんなと合流しましょ」
愛美、エミリアの順で縦列になり狭い谷間を走り抜けた先に広場がありそこにたくさんのSMBが集結している。どうやらここが合流ポイントのようだ。
「お、あれはゲッターチームか!」
周りは彼女達に気づいて迎え入れる。
「みんなお待たせ!」
「ゲッターチーム只今到着しました、よろしくお願いします!」
「うむ、君達を期待しているよ。では全員集まった所で先に機体の不備がないか調べてくれ」
西側の部隊のように、東部隊のリーダーはそれぞれ各パイロットに機体の最終チェックを行わせる。
「我々はこの場を拠点としてメカザウルスの方へ何割かの機体で出向き、メカザウルスが我々の存在に気づかせて逃げるように退散、こちら側にまで陽動してくれ。戻ってくる際は不審がられないように命中させなくていいので、牽制攻撃を行いあたかも必死で逃げているような演技をしてくれ。問題は誰を行かすかだが――」
「アタシ行きます!」
なんとエミリアから突発で申し出たことに誰もが驚く。
「ルイナスなら地上を速く走れるしシールドがある分その途中で、多少被弾しても大丈夫です。
それにメカザウルスはゲッターロボが苦手で天敵らしいので見つかれば真っ先に破壊しようと疑いなく追いかけてくると思います」
彼女の最もな理由に「なるほど」と誰もが納得し、頷いた。
「では君を陽動メンバーとして行かすとする。では他には?」
「では私も行くか」
次に名乗り出たのはドイツ軍のリーゲンだ。
「私の機体も装甲が厚い上に、そこそこ速く地上を移動でき、でこぼこなどの影響を受けないから囮には適任だ。それに彼女の護衛を含めてだ」
と、主張する彼。
「分かった。ではリーゲン大尉、彼女を頼んだぞ。他には?」
「では俺もいく!」
「私も!」
便乗して次々と名乗り出てしまい、必要以上の数が候補に上がってしまい困惑するリーダーだが何とかやりくりして選抜していく。
「リーゲン大尉、よろしくお願いしますっ」
「いやいやこちらこそっ」
挨拶するエミリアに対して、彼は父親のような優しい笑みを返した。
「あのう、偉そうにでしゃばってしまいしたが、アタシ自身が操縦が下手なので色々と迷惑がかかるかもしれませんが……」
「気にしないでくれ、女性を大事に扱うのは紳士の役目だし、むしろ真っ先に名乗り出るような勇敢な君を守れるなんて光栄と思うよ」
そのほめ言葉に嬉しく思い、顔をほっこり赤くして照れるエミリアだった。
「なかなか思い切ったことをしたわね、エミリア」
「アタシもこれまでの自分とは違うとこを見せたかったの。ミズキはここで待ってて、ちゃんと役目を果たしてくるからっ」
「分かった。けど無理しちゃダメよ」
そして約百近くの機体で編成した陽動隊は隊列を固まるようにメカザウルスのいる方向へ駆けていった。
「エミリア、気をつけてね――」
と、彼女へ期待と心配を思う愛美――の隣にとある機体が並んだ。
「へえ。あのコ頼りなさそうに感じてたけど意外と勇気があるんだね、見直したわ」
「そりゃあ、マナ達はここまで実力で勝ち残ってきたから……えっ?」
横を見るとそこに立つのはフランス軍のSMBであるジャンヌ・ダルク、そしてそのパイロットとは昨日、自身が逃げ回っていた同性愛者の女性、ルネだった。
「昨日は逃げられたけど今日は一緒にいられるね、よろしくっ♪」
瞬間、愛美から「ギャアアアッ」と、阿鼻叫喚の叫び声がアラスカに響きわたったのだった――。
「何かミズキの叫び声が聞こえたけど気のせいかしら?」
エミリア、そしてリーゲンを先頭にした陽動隊は険しい道なりを通り、メカザウルスの密集地へ接近していく。
自分と平行して移動するリーゲンのSMBが気になって仕方ないエミリア。
(大尉のSMBは今まで見たことのないデザインね……)
二足歩行の人型ではなく装甲で身を固めた巨大車両であり、SMBというより戦車に近い形状をしている。しかしタイヤやキャタピラのような車輪はついておらず、ホバーしているのか車体が地面から少し浮いて走っていた。
「リーゲン大尉の機体は周りと比べて変わった形をしていますね、これは一体……?」
と、彼女が不思議そうに聞いてみると本人は「ハハハ」と笑う。
「これはSMBというより、SMBの要素を組み込んだ戦車車両だよ。ドイツ軍は戦車に誇りを持っているからね。私達は『シヴァアレス』という愛称をつけているよ」
「なるほど、確かに重量感のあるデザインですね……」
「ではもう話は後にしてメカザウルスの密集地にすぐそこまで迫っている、注意だ」
入りくねった谷間の道をいくつも抜けるとその先には想像を絶する数のメカザウルスの大軍団が待ち構えており、向こうもすぐにこちらへ気づく。
遂に鉢合わせとなった両軍は気を引き締めた。
「アタシが先に出てメカザウルスを引きつけてきます」
「私達も行こう、いくつかの各機も後に続いて彼女を援護、残りは脱出経路の確保を頼む!」
ルイナス、シヴァアレス、そして数十機マウラーが前に前進し、残りは後方の確保に入る。
「敵のサル共が来たぞ!」
「返り討ちにしてくれるっ」
近づいてくる彼らに対抗するように、咆哮を上げてまるで大津波のような怒涛の勢いで迫ってくる大量の地上型メカザウルス、その数は軽く見積もっても十倍はいる。多勢に無勢をそのまま再現しているかのようである。
(このまま正面から戦うのはさすがに無謀だけど、今はただ陽動するだけだもんね!)
メカザウルスからマグマ弾やミサイル、機関砲が降り注ぐも各機は車輪ユニットの杭を巧みに打ち込み急速旋回、コンパクト且つジグザグで変則的な蛇行走行でかいくぐっていく。
(アタシも成長した所を見せてやるんだから!)
彼女も実力を積んだ成果か、雨のように降り注ぐ弾幕の中を回避しながら勇敢に突き進んでいく。
SMBはその以上先は行かず距離を保ちながら動き回り、ライフルなどの武器に持ち構えて牽制射撃を始める。
「ゲッター線反応確認、あの機体はもしや!」
「例のゲッター線を使用する機体を発見。各兵士、キャプテンは最優先で破壊せよっ!」
ルイナスからのゲッターエネルギー反応を関知したメカザウルスは目の色を変えて牽制攻撃に臆せずに向かってくるが、陽動隊は後退しながら接近されないように距離を保っていく。
「ワオ、アタシの言った通りにルイナスに向かってきているっ」
「確かに奴らはエミリア君の機体へ向かってきているな。よし、このまま奴らを向こうへ誘い込むぞ」
こちらの陽動にまんまと乗り、仲間が待機する方向へ押し寄せてくるメカザウルス達を順調に引き寄せていく。
「よし、ではここから撤退するぞっ」
攻撃を止めてすぐさま奴らに背を向けて後方へ走り出した――だがその時。
「なにっ!?」
脱出経路の確保で後方で待機する仲間の地面が盛り上がった瞬間、突然強烈な閃光を放ち大爆発。
凄まじい衝撃波と爆炎が拡散した。治まった後、前を見ると仲間が盛り上がった地面と共に跡形もなく消し飛んでおり大きくそして深い直下大空洞が発生、そしてなんと、脱出経路までもが崩れて塞がれてしまい、自分達の逃げ場がなくなっていた。
「そ、そんな……っ」
皮肉にも助かった彼女達は、後戻りもできなくなったこの事態に一気に顔色が青ざめていく。
「バカなヤツらだ、罠を仕組んでいたことに気づかないとは」
こうなることをを計算したかのようにメカザウルスに乗り込む各パイロットは高らかに嘲笑いをしていた。
エミリア達が振り向くとすでにメカザウルス達がすぐそこまで迫ってきており、逃げる場所はおろか、動き回れる余裕の空間は少しずつなくなりつつあった。
「こうなったらもうヤツらと正面から戦うしかないな、後方の味方に状況を伝えろ!」
「な、何か妨害電波のようなモノが散布されて通信が遮断されてます!」
「まさかジャミングか!何か待機する部隊に連絡を取れるものはあるか?」
「一応、緊急用の信号弾なら何発かありますが駆けつけるのにどのくらいの時間がかかるか……」
「かまわん、打ち上げろ!」
マウラーが背後の腰から信号弾を取り出し、ライフルのバレル下部に付属する発射器に入れて真上に撃ち込み、緊急事態を意味する赤い閃光が周辺の空を照らした。
「これで気づいてくれるといいが……」
その間に完全に袋小路になってしまった陽動隊に余裕を与えず着々と追い込んでくるメカザウルス。
「こうなれば方法は一つしかない、各機は援軍が車でそれぞれ散開してメカザウルスへ攻撃を仕掛けるぞ!」
リーゲンが覚悟を決めて各機にそう伝える。
「そんなのムチャですよ、こんな無数のメカザウルスをアタシ達だけで相手にするんですか!?」
「向こうが駆けつけるまでの辛抱だ。このまま追い詰められて何もできなくなるくらいなら一機でも多く倒して前に進むしかないっ、分かったか!」
「は、はいっ!」
各機はそれぞれの携行火器を持ち構えて半円を描くように移動、配置する。
「各機は孤立せず必ず二、三体一組になり攻撃を開始しろ。
そして各攻撃はドンパチ騒ぎの如く行え、向こうにいる待機している味方に少しでも異常を知らせるためだ」
「了解!」
「各人、こんな状況下だが絶対に味方が駆けつけるまで持ち堪えるぞ。
我々には勝利の神がきっと守ってくれる、行くぞ!」
「そうだ、どの道ぶつかることになるんだ。なら先に俺達から派手におっ始めようぜ!」
「ああ、地雷か何かのトラップでやられた仲間の弔い合戦も含めてな!」
そしてそれぞれタッグを組み、迫り来る無数のメカザウルス軍団へ立ち向かっていった。
「残った地上人類軍の集団がこちらに攻めてきます」
「特攻するつもりのようだが信号弾のようなものを打ち上げたようだから恐らく向こうから本隊が来るだろうな、その前に残りを血祭りに上げて奴らの仲間に絶望を与えさせてやれ」
「はっ!」
「モグロゥの地中魚雷の再度発射スタンバイ――」
明らかに天地ぐらいの戦力差である上に向こうにはこれまでのデータにないメカザウルスの存在と妨害電波、そして地面が爆発するような地雷か何かトラップが仕掛けられているこんな状況での突撃はもはや無謀としか言いようがない。
だがこのまま黙ってやられるくらいなら、それに仲間が気づいて駆けつけてくることを信じて、残った陽動隊は決死の覚悟で挑んでいった。
(お願いミズキ、早く気づいて助けに来て!)
ルイナスのドリルをフル回転させて全速力で突っ込んでいく彼女は心からそう願っていた――。