ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」⑤

ただ一人、西側へ進む竜斗はすぐに隊列を組む空戦用SMBの各部隊と合流した。

 

「来たか竜斗君!」

 

「ついに到着したか、日本からの若いホープっ!」

 

全員が暖かく、そして期待を込めて歓迎してくれたことに彼は喜ぶ。

 

「皆さん、今回もよろしくお願いしますっ!」

 

「ああ、こちらからもよろしく頼むよっ。では我々西側の部隊が全員合流を果たした所で、これより西側のメカザウルス全てを我々に引きつけて殲滅するぞ」

 

西部隊のリーダーを務めるジェイドは各員に機体の不備のチェックを行いさせ、竜斗へ通信の周波数の統一とモニター設定を指示し、彼はすぐに行う。

「なあ、いっそのこと俺が先にオールストロイで一気に近づいて敵中心部に核をぶっ放してこようか?」

 

と、ジョナサンが冗談かどうか分からない提案をし出すもジェイドは呆れる表情を見せた。

 

「お前なあ……核は奥の手と言っただろ。それにいきなり核なんか使ったら敵がそれ以降警戒してこちらへ引きつけられないだろうが」

 

「ちぇっ、その方が一気に殲滅できると思ったんだけどなあ」

 

と、悔しがるジョナサンに周りの仲間はゲラゲラと笑い出した。

 

「そんなに核が好きなのかお前はよお!」

 

「だったら今度から一緒に抱いてベッドで寝ろよなっ、ワハハハっ」

そんな彼らの異常なノリについていけない竜斗、そして常に寡黙なイギリス軍SMBアーサーのパイロットのアレン。

 

「す、凄いですね。このノリ……っ」

 

「良いも悪いも、アメリカ人だな」

 

表情を変えず淡々とした口調のアレンに対しても竜斗は「掴みにくい人だな」と感じてしまうが一応挨拶を言おうと声かける。

 

「今日はよ、よろしくお願いします中尉」

 

「こちらこそよろしく、期待してるよ石川三曹」

 

と、やはり本気で言っているのかどうか分からないような淡々とした口調で返されるも「まあ、この人の性格なんだ」と考えて自身で納得した。

「もう無駄話は止めにして作戦開始するぞ――」

 

一部のステルヴァーはヴァリアブルモードで人型に変形し、携行してきた従来とは別の形状をした大型ライフルを手にもち、そして回り込むように西へ移動していった――。

 

 

ドラグーン・タートルから西側は平地が多いが、丘や渓谷など傾斜があり、でこぼこで入り組んだ場所である。

しかしこの地域の殆どのメカザウルス、エイビスは空中に浮遊しているために地形の影響を受けておらず、警戒、哨戒に当たっており敵がいつ来るか待ち構えていた――その時、突然飛び回っていた数機のメカザウルスの胴体が吹き飛び肉塊となって地上へ落下していった。

 

 

「な、何が起こったっ!?」

 

突発的な出来事に周りの仰天し、緊張が走る恐竜兵士とキャプテン達。しかしモニターには敵の姿がなくレーダーにも反応しない。

だが見る見る内に次々とメカザウルスの胴体に大穴が開いていき撃墜されていく。どこから攻撃を受けているのか分からない。

 

どうにか検索しようとした時、彼らの前に黒く鋭角的な姿をしたメカザウルスではない人型の機体、ステルヴァーの集団が知らない内に突如、前に姿を現した。

 

「敵が来たぞっ!!」

 

各メカザウルスは待ってましたと言わんばかりにすかさずステルヴァーへそのギラついた敵意丸出しな視線を向けて一斉に襲いかかった。

しかしステルヴァーそのまま後退しながらライフルを構えてプラズマ弾で攻撃を始める。

 

「そおら、こっちへ来なっ」

 

ステルヴァーのパイロットはおびき寄せるために散開しながら牽制としてわざと攻撃を外し、あたかも敵から必死で逃げようと見せかけている。

そうとも知らずに策にはまり、メカザウルスはステルヴァーをひたすら追いかけていく。そして数キロ先まで後退した時だった。

 

「全機、メカザウルスを掃討せよ!」

 

「いくぜえっ!」

 

戦いのゴングがついになった。周辺の岩陰や窪み、崖に隠れていた各SMBが飛び出してメカザウルスを取り囲むように包囲、一斉に怒涛の攻撃を開始された。

 

 

「奴らのワナかっ!」

 

時すでに遅し。メカザウルスのほとんどはすでにタートルから西側に引き離されており、その域で逃げ場のない混戦状態と化した――。

「何だこいつら、爬虫類でもないのに姿を消すだとっ!」

 

一部のステルヴァーが突如、周りの風景と同化して見えなくなり、さらにレーダーにも反応しない。

何が何だか分からず頭が混乱するメカザウルス、乗り込む恐竜兵士やキャプテン達。

しかしそのすぐに機体が真っ二つにされ、撃ち抜かれて爆散し、その儚い命を散らしていく彼らが最後に見たものは、再び姿を目視できるようになった敵機だった。

 

「ヒューっ、さすがはニールセン博士の作品だぜ!」

姿を消せるステルヴァーの特徴は、その従来のプラズマ・エネルギーライフルとは違った大型ライフル『オールストロイ』を携行していることにある。

 

特殊鉱物で造られた弾薬により強力な光学色彩効果を持ち、相手の視界から光を湾曲させるクローキング・フィールドを発生させる新型ライフルであり、それとステルヴァー本来の機能であるジャマーと併用することでまさに機体名の通り、完全な「ステルス」になれるのであるのだが過剰な動的エネルギーの発生、つまり銃撃すると解けてしまうのが難点である。

 

「やべえ、弾切れかよっ!」

 

マガジンの弾薬が尽きた瞬間、効果が切れて姿を露呈してしまうジョナサン機。

 

「そこにいるぞっ!」

 

 

発見したメカザウルス、エイビスがチャンスと言わんばかりに一斉に襲いかかり万事休すか、と思われたがとっさに複数のステルヴァーとマウラーが現れてすかさずハンドダガー、ナイフで深く突き刺して、そのまま勢い首を切断した。

 

“弾の無駄遣いに気をつけろよジョナサン!”

 

“始まったばかりでまだくたばるんじゃねえよっ”

 

「わりぃ、助かったぜ」

 

弱点があろうともステルヴァーのパイロットはライフルの特性を上手く活用して、機体色が黒ということもあり機体そのものを「完全なる夜の闇」と化して次々とメカザウルスを葬り去っていく。

しかし姿を目視できないにも関わらず、味方機同士の衝突がないのは、各機の熱源反応を示すサーモグラフモニターとジャマーに左右されない強力レーダー機、そして各人の卓越した操縦技量が成せることだろう。

 

「ヴァリアブルモード!」

 

ステルヴァー、マウラーはその場で戦闘機型に変形し、この混戦状態の中の狭い隙間をかいくぐりながら敵の包囲を脱出し、急旋回してミサイルやプラズマ弾、そして各機関砲で応戦する。

 

「いくぞ!」

 

その中でも、本気のジェイドが操縦するステルヴァーは、網目のように入り込む隙のない空間内でも彼の高速且つ隙のない華麗なマニューバはもはや別次元、神業とも言えるほどに芸術の域に達しており味方、敵とも魅力させていた。

 

「いつも以上に凄まじいなジェイドはっ」

 

「もはやあいつの独壇場だな、活き活きしてるぜ」

 

今ここに彼最大の力が一瞬たりとも止まずに発揮されて、まさに飛行機乗りの極致とも言える域にまで辿り着いていた。それはまるで悔いの残らないように、せめてこの夢の一時を楽しみたい、今のジェイドはそういうまるで童心に帰ったような表情であった。

 

 

その一方でジェイドのように凄まじく力を発揮しメカザウルスに底なしの驚愕、そして恐怖を味あわせている機体が存在した。

それは竜斗の駆るゲッターロボ、アルヴァインである。

 

「うああああっ!!!」

 

常に音速域による超高速飛行しながらのライフルからの複合エネルギー弾による射撃、トマホーク、ビーム・ブーメラン、そして右肩のキャノン砲を駆使して、千機近い数を瞬く間に撃破する彼とゲッターロボはまさに味方では希望の光だった。

 

「あいつはまさか例のゲッター線を使用する奴か!」

 

「なんてしてでもあの機体を優先して撃破するんだ」

 

自分達の天敵であるゲッターロボの破壊を最優先に次々に雪崩れ込むが、もはや完全状態のアルヴァインとそれを一心同体のように操る竜斗相手では触れることすら叶わなかった。

 

(もうメカザウルスが全部止まっているように見えるっ!これならっ!)

 

調子に乗った竜斗はもはや誰も止められず、メカザウルスやエイビスはただ黙ってやられるのを見ているだけである。

しかしその中でも、運がいいのかそれても予測していたのか、一気のメカザウルスが後退するアルヴァインの後ろに待ち構えており口を大きく開けてマグマを吐き出そうとしていた。

が、その時メカザウルスの首は横一閃に真っ二つになり機能停止して地上へ落ちていった。

そこにはアレンの乗るイギリス軍SMB、アーサーが右腕からの強力なプラズマエネルギーの光刃を振り切っており、彼に気づいた竜斗は慌てて機体を止めた。

 

「敵に待ち伏せされていた、気をつけろ」

 

「す、すいません中尉!」

「……だが確かに、見ている方も興奮するような素晴らしいファイトをしていた。この調子で頼む」

と、そう誉め言葉をかけて自分の戦場へと去っていくアレン。彼特有の淡白な口調だったが竜斗は不思議と嬉しく思い、さらに勇気づけられた。

 

「………………」

 

こんな休む暇や安全圏などない密接状態の戦闘であるにも相変わらず表情を崩さずに、黙々とメカザウルスの掃討を行うアレン、そしてアーサー。

機動力を重視した結果、一撃でも被弾すればバラバラになりかねないその必要最低限の装甲で構成された細い体躯、武装が両手からのプラズマエネルギーの刃のみという飛び道具ばかりの敵味方において、あまりにも異色且つ不利な機体でありながら、そのハンデを感じさせないほどの凄まじい実力を発揮している。

身体の至るところに内蔵した高性能アポジモーター、スラスターを駆使したバーニアによる変則的な動き、さらに残像が見えるぐらいの凄まじい瞬間加速、速度を乗せた斬撃で次々にメカザウルス達を切り落とし、そしてアルヴァインと同じく一発の被弾も許さなかった。それよりも一番凄いのがそんな機体を表情一つも変えずに、そして一寸たりとも狂わずに余裕で操縦する本人である。

 

(アレン中尉の確か、アーサー……だっけ。戦うとこ初めて見たけど恐ろしく強い人だな……っ)

 

竜斗、いやその場にいるほとんどの者も彼の底知れぬ実力に驚いていることだろう。

 

そういった中で次々に撃ち落とされて見る見る内に戦力数が減っていくメカザウルスだが、こちらもただ黙ってやられていくこともなく、ならこちらは数で物を言わせる、所謂人海戦術での決死の反撃を与える。

 

「メカザウルスに囲まれた、脱出できないっ!!」

 

 

アルヴァインやステルヴァー、アーサーとは違い、強力な武装や機能を持たないマウラーや変形できない従来の戦闘機が格好の餌食であり、百単位の数でメカザウルスに四方八方から包囲されて逃げれずにそのまま覆い尽くされて、まるで肉食動物の餌食のように食いつかれてしまう機体、死角からの捨て身の体当たりをかまされてバラバラになる機体、マグマ弾、ミサイルなどの味方を無視した無差別攻撃を受けてしまい大破する機体……少なくなればタートル側からなだれ込んでくる、その驚異的な戦力数を利用したその戦法を駆使して圧倒してくる敵部隊。

 

「……ちい、いくらなんでも多すぎるぜこりゃあ!」

「あらかじめ理解しているつもりだったが、実際相手にしてみると想像を絶していたぜ……」

 

千五百という味方の戦力数は徐々に減りだし、相手は七千という圧倒的数を相手にし、次第に敵の物量戦法の恐ろしさが目に見えてきていた。

オールストロイの特殊弾薬が枯渇し、もはや姿を隠せなくなったステルヴァーは銃身を逆手に持ち、鈍器として近くのメカザウルスに叩きつけて、標準装備のプラズマ・エネルギーライフル、リチャネイドへと持ち替えて戦い始める。

 

「くそ、終わりが全然見えねえぜ……っ」

 

「これじゃあテキサス艦がこちらに来る前に俺らが先にやられそうだぜ……」

 

そろそろ弾薬やエネルギーの残量が心配になりつつあり、無限地獄の陥ったような先の見えない状況に弱音を吐く者も現れてきた。その時、

 

「甘ったれてんじゃねえよお前ら!」

 

ジョージから叱咤の声が通信を通して全員の耳に行き届いたのだ。

 

「ここまで来たらテキサス艦が来るまでどうにかして持ちこたえる以外に選択肢はないんだぞ。

全て倒さずとも敵を引きつけることを考えろ、竜斗君やアレン中尉が今も決死で戦っているのにお前らがそんなことを言っているとブラック・インパルス隊の名が廃るぜっ!」

 

「ジョージ……」

 

「俺だって敵の数に凄くキツいと感じるが、相手は無限ではなく有限だ。終わりがある以上は絶対に勝てると信じている、いや勝つ以外になにもない。

だからお前達もそれを信じて今だけでも辛抱しやがれ!」

 

彼からぶっきらぼうに通信が切れると、彼らもジョージの叱咤でおかげか、頭を横に振って気持ちを入れ替えた。

 

「そうだな、まだ始まったばかりだ。俺たちは諦めるわけにいかねえんだ」

 

「俺らとしたことが不覚だったわ」

 

「よし、これから心機一転していくぞ。武器がなくなっても攪乱すりゃあいい!」

 

彼らの動きは再び勢いよく活性化して下がりがかった士気が再び上がり始めた。

 

『終わりがある以上は絶対に勝てる』

 

 

これ一心に決めてそれぞれが命を燃やしたのだった。

 


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