夜間のアラスカ――依然と雪が残り、文明物などは少なく広大な自然でシーンと静まり返っている……はずのだが、むしろ逆の状況だった。
宴のような無数の恐竜、メカザウルスの雄叫びが四方八方からこだまし、その地域だけが完全に白亜紀のような光景と化しており、動力源であるマグマ熱により異常な程に高い気温と湿度になっており、雪などは既に溶かされている。
地上、そして空に蠢くメカザウルスの大軍の中心部で殻にこもっている敵の巨大移動基地ドラグーン・タートルはすでに各駆動、エンジンが入っておりいつでも南下できる態勢に入っている。
「ジャテーゴ様、大陸中央部からこちらへ北上してくる無数の反応を確認、モニターに映します」
ブリッジ中央部のスクエア状巨大モニターが変わると無数の戦闘機、輸送機、そしてベルクラスの姿が映し出される。
「その数は確認できる範囲では数千、恐らく増援も予想されます」
「ふん、そんな少ない数でいても経ってもいられず自ら攻めてきたか。身の程を知らぬ愚かなサルどもめ」
「どうしますか?」
「ではこちらからも誠意を持って出迎えてやろう。
左右舷前部、各長射程マグマ砲スタンバイ。各恐竜中隊戦闘配備、一機残らず破壊せよ――」
指示を出している彼女の元に側近であるラセツ、ヤシャが颯爽と現れて膝をつく。
「ジャテーゴ様、ついにヤツらとの戦いが始まりますか」
「私共にぜひ出撃命令を。愚かな地上人類どもを一人残らず殲滅してまいります」
しかし彼女は彼らに振り向かずにモニターを見上げたままだ。
「ラセツ、ヤシャ、お前たちはこの戦いをどう見る?」
と、二人にそう質問を仕掛ける。するとヤシャは思いがけない質問に困惑の表情を浮かべる一方でラセツだけは相変わらずの忽然な態度だ。
「私としては、いかに地上人類とてただ闇雲に攻めてくるような馬鹿ではない。この少ない戦力で攻めてくるということは奴らにも勝算があってのことでしょう」
「そう、私も同じことを考えていた。戦争が始まって数年間の間、臨戦態勢が続いていたが今になって初めてこちらへ進撃してくるのは恐らく我々に対する切り札を投入するのだろうな」
「では、どうなさいますか?」
「二人はとりあえずここで私の指示があるまで待機。しばらく敵の手中を見るとしよう。だがいつでも出撃するように『ウォーミングアップ』しておけ」
「「はっ!」」
「ではまずヤツらが無事にアラスカの地に踏み込めるかどうか見物だな、フフッ――」
ドラグーン・タートル左右舷甲板が開き、中から約二十門程の沈胴型大口径艦砲が出現、全てが南側上空へ向けられる。
「目標、南方向七百キロメートル先上空の敵部隊――」
「マグマ砲、撃てっ」
砲口から紅蓮のような巨大なマグマ弾が真っ直ぐと遥か南上空へ飛び向かっていく。
「前方より、何か強烈な熱源反応確認」
「これは……マグマっ!?」
遥か北のアラスカへ向かう各部隊のパイロットはちょうど前方から何か赤い何かが多数、こちらへ向かって来ていることに気づき、モニターを拡大するとそれはまさにマグマの塊だった。
「各機は直ちに回避行動をとれ!」
「くそ、俺達を近づけさせないつもりかっ!!」
各機は散開し、高速のマニューバを取りながら前進、次々向かってくるマグマ弾を紙一重に、そして華麗に避けながら遥か先のアラスカへ急行する。
「ここで少しでも戦力を減らしたくない、絶対に当たるなよ!」
「もうヤツらの近くまで迫っているってことかっ」
ドロドロで燃えたぎる巨大なマグマの塊が次々と雨のように振ってくる空を必死でかいくぐり、猛進していく。
「天国への特急便かよ!」
「いや、地獄だなっ!」
まだ向こうと接触、いやアラスカにすら到着していないのにすでにもう始まっていたのだ。
「マリア、プラズマシールドを展開しろ」
ベルクラス全体に青白いプラズマの膜に覆われ、ちょうど迫ってきていたマグマ弾が膜に直撃した瞬間に消し飛んだ。
「司令、このマグマ弾の発射元はやはり、アラスカ地区のタートルだと判明しました」
「やはり長距離砲を持つか。シールドを改良したものの、いつまで持ちこたえられるか――」
ドラグーン・タートルではどんどん迫ってくる地上人類の部隊をモニターに完全に捉えて、マグマ弾の雨を次々に避けてきている彼らへジャテーゴは楽しげな顔だ。
「ほう、牽制のつもりだったがなかなかやるではないか。
だがこれはまだ小手調べだ」
「ジャテーゴ様、このままだと敵部隊はあと二十分前後でこちらへ到着しますが、さらに攻撃を続けますか?」
「いや、あの様子だとどの道こちらへ到着するのは時間の問題だ。艦砲の無駄撃ちはこれくらいにしてあえて迎え撃とう。
タートルはいつでも南下できるように移動態勢と各武装、そしてリュイルス・オーヴェを展開しておけっ」
「了解」
「では楽しませてもらおうぞ、貴様ら地上人類の少ない戦力がどこまで我々に通用するのかをな――」
突然とタートルからの攻撃が止んだことにほとんどの隊員が不審がっている。
「急に攻撃がやんだがどうしたんだ?」
「ワナでも仕掛けてるのか……」
「いや、ワナだろうがどうだろうが俺達のやるべきことはさっさと向こうに到着するだろう」
「そうだな、もう攻撃をしてこないのならそれだけ安全にアラスカへ近づけるということだ!」
各機は台風の目に入ったような一時をチャンスと言わんばかりに全速力で大空を駆けていく。
ベルクラスも少しでも戦場で使うエネルギーを温存するためにシールドを解除し再度攻撃が始まらないことを祈っていた。
アラスカではすでに一万五千を超えるメカザウルス、そしてメカエイビスの大軍団が南側に向いて近づいてくる獲物をまだかまだか、と待ち構えて咆哮を上げている。
対する地上人類の各部隊は徐々に西側、東側へ枝のように分かれていく。
勝つのが当然のように余裕綽々と待ち受けるジャテーゴ率いる第三恐竜大隊、背水の陣の如き鬼気迫る勢いの連合軍――どちらに勝利の神、そして死神が微笑むか、夜の広大なアラスカの地を激震させる一大決戦の秒読みが始まった――。
「アラスカ領空圏内に突入、直ちにモニターに映します」
モニターに映し出された光景に、早乙女とマリアは、地上と空を埋め尽くして景色が見えないほどに未だかつて経験したことのない数のメカザウルスの大軍に息を飲み、衝撃を受ける。
「ワシもこんな数を見たのは初めてだのう。まるで虫どもの集まりじゃな」
「覚悟はしていましたが直で見るとやはり驚愕ですね……」
「しかしそれでもやらねばな。さもなくば人類に未来はないぞ」
「その通りです。では――」
早乙女はすぐに竜斗達へ通信を入れて、出撃準備を告げる。
“今回も竜斗から先に発進しその後、二人を地上に降下させる。
竜斗は発進次第そのまま西側の部隊と合流してくれ。二人についてはベルクラスが東側の合流ポイント付近に移動してそこから降下させる”
「了解です。ついにアラスカに到着したんですね……」
“今の内に伝えておくが、君達はあまりにもののメカザウルスの数とその光景に必ず面食らうことになる。私達でさえそうなったからな”
「「「………………」」」」
“だがそれでも我々はやらねば、勝たねばならない。人類の未来がある限り、ここで全てフイにするわけにいかない。
私達ベルクラスは君達の力を信じて最後の最後まで戦う、だから君達もゲッターロボという絶大な力を最大限に奮ってくれ”
早乙女からの激励に三人も「戦士」としての頼もしそうな表情で応えた。
“では健闘をいのる、ゲッターチームいくぞっ”
通信が切れた後、完全武装、最終調整を終えたフルスペックのアルヴァインの乗せたテーブルがいつものように外部ハッチ前に移動、カタパルトと連結した。
“気をつけてねリュウトっ!”
“イシカワ、思う存分やってきなさいよねっ!”
「ありがとう、二人も気をつけてっ」
通信越しで二人から力強く応援されて笑顔でグッドポーズを取った。
ハッチが開き、夜空が露天すると膝を軽く曲げて発進態勢を取り――、
「アルヴァイン、石川竜斗発進しますっ!」
カタパルトが射出されて空に出た直後にゲッターウイングを展開してすぐさま西側へ進路を取り、向かった。
「竜斗君が今発進しました。私達もすぐに東側の合流ポイントに向かいます」
「さすがは完全調整されたアルヴァインじゃのう。動きが物凄く滑らかになっとる、これは期待せざるえないな」
早乙女達はモニターで夜空を一瞬で駆けていくアルヴァインを見えなくなるまで見届けた後、東へ飛んでいく。
(死ぬなよ、竜斗――)
そして東側の部隊と合流するポイント付近に差し掛かった時、二人に早乙女から再び発進準備の通信が入る。
“君達二人については地上戦ということで相手がどんな攻撃を、そして罠を仕掛けているかわからないので孤立だけは絶対にするな、互いに、もしくは味方機から離れずに行動しろ。
そしてマリアが言っていたように入り組んだ地形を有効活用することも忘れるな”
同じく完全武装してフルスペックと化したルイナス、アズレイのテーブルも降下用ハッチの真上に移動した時、ハッチが開き下から冷たい風が吹き上がる。
「行くよエミリア!」
「うんっ!」
二人の機体は同時にテーブルから滑り落ちるように地上へ降下していった――。
「全機発進しました」
「よし、我々も定位置に向かうぞ」
竜斗と同じく二人を見届けた後、ベルクラスは後退していった。
「なんだこの数…………っ」
「アタシ達、あれだけのメカザウルスを相手に……」
「信じらんない……」
三人がモニター越しで見たその光景に対し、早乙女が言ったように面食らい、雷のような強烈な刺激が走った。
エリア51、テキサス基地の……今までとは比ではない、ゾッとする数のメカザウルスが広範囲に渡って蠢きそして醜い雄叫びを撒き散らしているその様子に彼らに一瞬で思い浮かぶ共通の一言とは、
「地獄かここは……」
――であった。
――そのメカザウルスの数と光景を一度目にした時、僕はあれだけ勇気づけたのにも関わらず本当に攻略できるのか、無謀ではないのかと本気でそう思ってしまった。
それほど敵戦力は僕達の想像を絶するのだった。恐らくエミリアと水樹も全く同じことを考えていることだろう。たがここ来たからには逃げ出すわけにもいかない、やるべきことのは自身へ勝利のために無理やりにでもそう思いこませて前進、これのみ――。
この広大で自然溢れるアラスカ全土が、見る影もないような焦土の荒野へと、そして血が血で地面を紅く染める大惨劇のカウントダウンがもう僅かに迫っていた――。