午後七時前。空がすっかり暗くなりはじめた頃、基地内の各SMB格納庫では各部隊が集まり最終的な作戦内容を確認している。
各EU連合軍、アメリカ軍の各部隊、そしてブラック・インパルス隊は広大なアラスカ周辺地図の敵の現在地を映したモニターを凝視している。
「こりゃあすげえや……っ」
「これまでの戦闘とは比じゃねえなあ……」
モニター上中央に映るドラグーン・タートルと思われる一回り大きい物体の反応とその周りには広範囲に散らばるように群がり、まるでアリのように動きモニター全体を覆い隠さんとしている小さな反応……メカザウルスの大軍団が映し出されていた。
未だかつてないそのおびただしい数を前に、何人かの隊員は口を開いたまま呆然となっている。
「我々ブラック・インパルス隊は西側のメカザウルスを引き寄せて殲滅することになる、理由は空戦型メカザウルス群は西側に傾いているからと言われている。
こちらにはいくつかのマウラー、戦闘機の混成部隊、イギリス軍からアレン中尉のアーサー、そしてゲッターチームから石川三曹のゲッターロボと共同戦闘を行う。つまり我々西側の部隊は空中戦に優れた高機動力編隊として機能することになる。
我々西側の総戦力数は千五百と少ないが、それはステルヴァーやゲッターロボ、アーサーなどの高性能SMBで固めているからで残りを東側に回すという指示だ。
各機の通信機の周波数、呼称については――」
ジェイドが前に立ち真剣な顔で説明している。
「何か質問はあるか?」
するとジョナサンがすかさず手を上げる。
「なあジェイド、今回は核弾頭等、特殊兵装は使用は?」
「使用を許可されているが確実に敵味方が混戦する以上は使いどころに難しいだろう。
だが奥の手として携行していったほうがいいな。ジョナサン、核の扱いについてはお前に全てに任せるぞ」
彼はグッドポーズを取り、奮い立つ。
「おいジョナサン、興奮してバズーカから花火打ち上げるのはいいが、仲間まで巻き添えにすんなよなっ」
「俺達のキ〇タマまで吹き飛ばして子孫絶やさせることしたら許さねえぜ」
「うるせえ、てめえら全員去勢させてその過剰な性欲なくさせるチャンスだぜ」
と、全員が正気とは思えない異常なテンションで下品な冗談まで飛び出して笑い声を上げている。
「あと今回、リチャネイドもそうだがオールストロイも使用する。
各機の姿が見えなくなり味方の衝突を避けるためにレーダーの最大活用とモニターをサーモグラフモードにしておけよ。他二人にも言っておくから安心してくれ」
一通り説明が終わり、これから各人が機体に搭乗することになるが最後の最後にジェイドが全員を集めこう言った。
「我々ブラック・インパルス隊は非常に個性の強い者の集まりでこれまでに様々なトラブルやいざこざも沢山あり、それで抜けていった者もいたがそれでも一丸となって戦いここまで来た。
そして今回の作戦は今まで以上に非常に過酷であり全滅する可能性が高く、そうでなくても私含めて全員が見事生きて帰れる保証など全くない――」
彼からの言葉は重く、メンバー全員にのしかかる。
「しかし我々は人類の命運を分ける戦場に立とうとしている、ここで勝利出来れば間違いなく戦況はこちらに傾くだろうと私は信じてる。
そのために全員、今一度聞く。命を懸ける覚悟は出来てるか?」
大声を張り上げて全員に質問するとメンバーは臆することなく不敵な笑みを見せる。
「当たり前じゃねえか、ここまで来て引っ込むようなチキン野郎なんかブラック・インパルス隊にはいねえぜ」
「ああ、俺達は人類の未来を守るために、そして誇りを持って死ねるんだ。これ以上の喜びなんかあるかよっ!寧ろ向こうが降参したくなるって言わんばかりの大打撃を与えてやるぜっ」
全員を死の恐怖を感じ出さず、寧ろやる気に満ちた表情で平然とそう言い切ったのだ。
「敵に思い知らせてやろうぜ。人間様の底力をナメんなよってなっ!!」
“オオーーーーっっ!!”
『絶対に勝つ』、心を一つにした彼らの雄叫びを聞きジェイドも満足して、キッと戦闘態勢の表情へと変わった。
「よし。では我々は直ちに機体に搭乗、最終チェックをして発進まで待機だ」
気合いと健闘を祈るように互いに手をタッチを交わしてそれぞれ各機に乗り込んでいく。
「ジェイドっ」
そして仲の良い二人、ジョージとジョナサンが彼の前に立つ。
「またよろしくなお前ら」
「ああ、任しとけ。お前には妻子がいるんだからなんとしても生き残らねえといけねえぜ、戦死して哀しませるようなことはするなよな」
「ジョージ…………」
「ジョナサンはマナミ君については大丈夫なのか?」
「心配すんな、俺らはもう昨日の時点で気がすむまで分かり合ったからもう未練はないぜっ!」
満足げな彼の言葉の意味に二人は「全くこいつは……」と呆れとそして安心し、微笑した。
「よし、では行くか!」
「「おうっ!」」
互いの拳を打ちつけ、そして彼らもまた各機に向かっていった――。
「各駆動機関、エンジン、武装、システムの状況は?」
「今の所、全て異常なしです」
そして今作戦の要であり決戦兵器でもある、全長四キロメートルという巨大さを誇るテキサス艦にはすでに千人近くの多くの乗組員が乗艦しておりそれそれ機関の配置についており、内部の広い艦橋(ブリッジ)でも艦長を務めるリンクを始めとする、オペレーターや操舵士、通信士が各席についており、初でもある艦浮上の時に誰もが期待をこめて暫く待っていた。
「アラスカの敵部隊、そしてタートルの現状は?」
「タートルは今のところ不審な動きはありません、しかし無数のメカザウルスがタートルを中心に全広範囲に渡って配置されています」
「リンク艦長、先ほどアラスカ空軍基地から連絡があり、こちらからも少ないながらも増援を出すとのことです」
「よし。では各クルーに最終的な作戦内容をもう一度確認しておく。
我々テキサス艦は作戦開始の九時ちょうど、先遣隊が先に発進した後に向こうの状況を確認し次第、浮上を開始する。
これはなるべく敵側に本艦の存在を知られないようにするためである。
もし早く知られたなら向こうも厳重な警戒、守りを固めるだろう。そうなれば間違いなくタートルの攻略はより困難となる、ここぞという時まで存在を知られるな」
“了解っ!”
「数年前に始まった恐竜帝国との世界大戦の山場であり非常に厳しい状況を強いられることを予想されるがそれでも私は勝利を信じている。各員の健闘をいのる」
その場のクルー全員が立ち上がり、リンクに真剣な視線を送りながら敬礼し彼も同じく敬礼で返す。今作戦における互いの健闘と期待、信頼感を感じ取っていた。
「ではいよいよ始まるか、史上最大の作戦が――」
……正直な話、ほとんどの隊員が圧倒的戦力差を前にして今作戦は無謀、絶望的、勝ち目が薄いと感じている。
だがそれでも人類の未来がかかっている、一握りの希望を信じてやらねばと、勝利をただひたすら信じて、絶望を覆さんと自ら言い聞かせて思い込ませている。
そして、運命の夜九時ちょうどを迎え、リンクは大きく深呼吸をした――。
「これより作戦を決行する、各部隊出撃せよ!」
彼の命令が基地内全域に伝わった。多数の滑空路から戦闘機、マウラー、ステルヴァー、陸戦用SMBを積んだ輸送機が隊をなすように次々と離陸していく。
「ではベルクラス、発進するぞ」
「了解っ!」
専用ポートからベルクラスも浮上を開始し、夜空へ飛翔していく。
「ホハハ、生涯最大のショータイムの始まるか。楽しみじゃのう♪」
艦橋にてニールセンは戦争屋の本能か、これから始まる最大の決戦に呑気にも心を踊らせていた。
「ところでキング博士は?」
「あやつはテキサス艦に乗り合わせておる。何でも生まれ育った土地の名を冠する艦と運命を共にするらしくてのう」
「………………」
早乙女は何故かそれに対する返答がなく、不審がっていた。
「どうしたんだ?」
「博士、実は作戦の内容からとあることが思い浮かんだんですけど、まさか確実に勝つ方法とは――」
自分の予想を伝えるが彼は無表情のままで眉一つも動かない。
「……おそらくそういうことになるかもな。しかしあやつが選んだ道だ、もはやどうすることもできんじゃろうて」
「しかし……」
「あやつは最近疲れたなどと弱音をよく口走っていたからな。もしかしたら死に場所を求めていたのかもしれん」
「…………」
「まあ、まだわしらの予想の範囲内でもしやそれ以外の方法があるやもしれんし。まあ言えることは全ては戦況次第ということじゃな」
「…………」
その時、通信機から着信が入りマリアはすぐにそれを確認する。
「リンク艦長から通信が入ってます――」
格納庫。ゲッターロボに乗り込みいつでも発進できる態勢して待機する三人の元に早乙女から通信が入る。
“三人ともよく聞け、アラスカの戦地では各部隊は西側と東側で分かれることになった。竜斗は西側、エミリアと水樹は東側で配置することになる”
大雪山のように再び分かれて戦うことになると知り、三人に緊張と不安が入り混じる。
“西側に飛行型メカザウルスが集中しているらしいのでアメリカ軍の戦闘機とマウラー、ブラック・インパルス隊、イギリス軍のSMBの空戦型SMBで編隊を組んで戦うことになり、東側にはアメリカ、フランス、ドイツ、そしてエミリア達女性陣二人だ。
なお西側には高性能の機体が多いのでその分、戦力数を多少少なくして残りを東側に回すらしい。何か不満等はあるか竜斗?”
「いえ、特にありません」
“よし。アラスカ空軍基地からも増援が来るという話だから多少は楽になると思う。
そしてベルクラスはどちら側でも対処できるようになるべく後方中央部で停滞、維持して援護射撃を行おうと思う。
武装を追加して戦闘力は上がっているので安心してくれ。これで以上だが質問はあるか?”
するとエミリアから「はい」と返事が上がり全員が注目する。
「敵本拠地のタートルの詳細ありますか?」
“……我々の分かる範囲では全長十二キロメートル以上は裕にあり、形状は亀、いやどちらかというとゴキブリに近い姿をしており前方部には首ではなく触手のようなものが沢山うねってるみたいだな”
「ゴキブリ……しかも触手がうねうね……」
その姿を想像して気味悪くなり顔色が暗くなる三人だった。
“各武装、機能については不明だがアラスカ基地へ、遠く離れたタートルから巨大なマグマの塊が降り注いだという報告があり、恐らく強力な長距離砲を有すると思われる。そのためタートルの動きにも常に注意して行動しろ”
「りょ、了解ですっ」
“では我々はアラスカへ発進する。到着まで一、二時間ぐらいだがいつでも発進できるようにな”
通信が終わり、三人は未だに感じたことのない極度の緊張と不安に襲われていた。
メカザウルスの数もあるが何よりも本拠地、タートルの情報による不気味なイメージと未だ謎めいた未知数な戦闘力……そして十二キロメートル以上と言う途方もない巨大さを持つ相手に約四キロしかないテキサス艦がどう打ち勝つのか不思議で仕方なかった――。
「にしても、またアタシ達はまた分かれて戦うことになんて……」
エミリアがそうボソッと口にする。
「しょうがないよ。そう指示を受けたんだから。けどエミリア達の所は味方が多いし大丈夫だよ」
「リュウトは大丈夫?そっちの戦力は少ないらしいけど……」
「俺は心配ないよ、少佐達がいるしきっと何とかなるっ。それよりも二人は無理するなよ、すぐに片付けて駆けつけるから」
愛美を見ると、何故かため息をついてヒドく落ち込んでいる。
「どうした水樹、元気ないけど?」
「マナ、フランスのあのレズの人と一緒だなんて……実は昨日、「明日悔いのないようにアタシと気持ちいいことしよっ♪」ってしつこく誘われて逃げ回ってたのに……っ」
……昨日、確かに合流した時に顔色が酷く悪かったような気がしたがそんなことがあったのか……愛美に同情を禁じ得ない二人だった。