ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」②

次の日、この基地内は何故か一般の人達も入り混じって賑わっていた。

白人や黒人、アジア系、ヒスパニック系、ラテン系の様々な人種の老若男女が隊員達と触れ合い楽しい一時を過ごしていた。その様子を司令室から早乙女とマリアは眺めていた。

 

「各隊員の家族や友人達か。凄い人だかりだな」

 

「ええ。明日のこともありますので今日ばかりは全員、家族団欒で過ごしてくれとのことで呼び寄せたようです」

 

「もしかしたら明日以降は――だからな」

 

二人は微笑ましさ、そしてもの悲しさが入り混じった複雑な心境だ。

 

「我々も人事ではないな。明後日という日は訪れないという結末も考えられる」

 

「司令、もしもですが勝利してあなた、いやゲッターチーム全員が生きて帰れたらその後どうしますか?」

 

「生き残れたら、か。まあすべきことはある」

 

「それは?」

 

「恐らくこれ以降の戦闘は間違いなく向こうも黙っちゃいないだろうから総力戦を仕掛けてくる可能性も高くなる。

向こうの総戦力はまだまだあり、こちらは圧倒的に不利だ。そうなれば戦略兵器を投入するしかなくなる」

 

「戦略兵器……水爆でも撃ち込む気ですか?」

 

「さあな、私は『ゲッター計画』の最終段階に入ろうと思う。朝霞駐屯地地下に眠るあの未完成品を仕上げるとするか」

 

「まさかあれを……完成できるんですか?」

 

「やるしかないだろう。幸い戦闘データは十分あるし、技術面でもニールセン博士達と総力を併せれば……資金もこの際なんとかしよう。

ただ問題は、完成したとしてもそれを竜斗達に使いこなせるかどうかだ」

 

「…………」

 

「まあ今はそれよりも目の前に迫った作戦に集中しよう。話は無事終わってからだ――」

 

一方、今日一日自由時間をもらった竜斗達も外に出て賑わう基地全体を歩きまわっている。

 

「スゴい、まるで街みたいだ」

 

「うん。司令が言うには今日だけここを開放して隊員の家族や友達と触れ合ってほしいらしいね」

 

いつもと違う基地内の空気に彼らは驚いていると同時に、その活気さに和んでいた。

 

「ねえ、一端ここで各人自由行動をとらない?集まる場所をここにしてさ」

 

愛美がそう提案すると二人もそれに同意し、三人はそれぞれ別れて別行動を取った。

 

(そう言えば少佐は今、どこで何してるんだろう?)

 

竜斗は観光するついでにジェイドを探そうと歩き回る。

竜斗は何となく前に彼と一緒に訪れた飛行機の飛ぶ様子がよく見れる休憩所にいくと結構な人数の隊員、そしてそこにちょうど、幼い黒人の子供を抱き上げている私服のジェイドと同じく黒人の女性が隣に居合わせていた。

「少佐っ!」

 

「来たか竜斗君っ」

 

呼ぶと彼は竜斗に気づいて笑顔で迎えた。

 

「前に画像で見せたがもう一度紹介しよう、妻のアマンダだ」

 

「はじめまして、石川竜斗です。少佐から沢山お世話になっています」

 

丁寧に挨拶すると、彼女は優しい笑みでお辞儀した。

 

「妻のアマンダです。あなたについては夫のジェイドから色々話を聞いています、なんでも個人的に期待している有望な日本人の男の子がいると」

 

「い、いやあ……有望だなんて……」

 

その言葉に照れて、顔を赤めらせた竜斗はジェイドに抱きついているまだまだ甘えん坊そうな幼い男の子に注目した。

「少佐、もしかしてその子は」

 

「息子のロイだ」

 

彼はロイを地面に下ろしてあげると竜斗も肘をついて笑顔で対面する。

 

「こんにちはっ、君はロイ君だね」

 

初対面からか恥ずかしそうな仕草をしてすぐに「パパァ」と言い、ジェイドの足にしがみついた。その年相応のあどけなさが彼の心を和ませる。

 

「少し人見知りする子だから気にしないでくれ」

 

「いやいや、スゴく可愛いお子さんですね」

 

「ありがとう、私の命以上に大切なものだよ。無論妻もだが」

 

普段の生真面目さから一転してこういう微笑ましい父親な姿の彼からは家族愛を感じられる一面だった。

竜斗は笑顔でロイの頭を優しくなでてあげると、なついたのか明るく可愛い笑みを見せてくれる。

 

「ロイ君は今いくつになるの?」

 

と聞いてみるとゆっくり小さな親指を折り曲げて指四本を見せ、竜斗達は「おおっ」と喜ぶ。

 

「ロイ君はエラいなあ。俺はリュウトっていうの、よろしくね」

 

「……リュウ……ト?」

 

と舌足らずに名前を言うロイにさらに彼は歓喜した。

 

「リュウト……リュウトっ」

 

「凄い、もうちゃんと名前を言ってくれた」

 

すっかり慣れたのかロイ自らジェイドから離れて竜斗の方へ向かう。

 

「おおっ、もう竜斗君になついたのか。凄いなあ」

 

試しに抱き上げてみると意外にも嫌がらず、寧ろ笑みをこぼしたその様子に、彼はすごく満足し、喜んだ。

 

「あなたの言うとおり、本当に優しい子ね」

 

「だろう?」

 

それはジェイドやアマンダも同じであった。この後、竜斗とジェイドは二人きりになり近くの滑空場で話をする。

 

「――子供っていいですね、可愛らしくて。僕もスゴく欲しいです」

 

「けど世話とかあるしお金もかかるし色々大変で苦労するよ。まあそれ以上に愛情と充実感、そして責任感が生まれるけどね――」

 

「少佐はもしこの戦争が終わったらどうするんですか?」

 

そう質問すると彼は何故か口ごもってしまう。

 

 

「……私は恐らくもう空に飛べなくなるかもしれんな」

 

「えっ、それはどういうことですか?」

ジェイドは空を見上げてもの悲しい表情をとる。

 

「実は私には昇進の話が出ていてね、つまり私は少佐から中佐になるかもしれないんだ」

 

「そ、それはスゴく名誉なことじゃないですか?」

 

「確かにそれはスゴく嬉しい。だが、次に昇進すると、それから私は指揮する立場になると言うことだ」

 

「つまりそれは……」

 

「仕事がほとんどデスクワークとなりパイロットではなくなるということだ。ブラック・インパルス隊とは別の部隊所属になる」

それを聞いた竜斗は耳を疑う。

 

「ブラック・インパルス隊は君達ゲッターチームと同じで独立した遊撃隊、リーダー格はいるが正式な上官はいないし中佐以降は指揮系統の仕事につく仕組みなんだ。だからもうステルヴァーいや、SMBパイロットではなくなる」

 

「少佐…………」

 

「私は飛行機乗りになるという夢は叶った、出来れば死ぬまで大空を好きなように飛び回りたいと思っていたが……それはただの願望でしかない。家族もできたことだし、ここは身を引くしかないのが現実だ」

 

と、寂しそうに語るジェイド。彼にとってこれほどやるせなくなることはない。夢、願望は叶えるとは出来ても現実の前にはそれを維持するのがどうしても叶わないことがあるのを実感する竜斗だった――。

「竜斗君はどうする?」

 

「僕は……今はとりあえずまだ高校生なんでまた学校に戻れたらいいなと思います。できるかどうか分かりませんが」

 

「そうか。君には何かなりたいとかしてみたいとか、将来的な夢は持ってるか?」

 

「夢…………」

 

そう聞かれると彼は返答に困る。

将来の夢と言うのは小学生の時、七夕や授業中の時間で子供ゆえの単純な考えで「お金持ちになりたい」ということを紙に書いたぐらいで本気でこうなりたいとかこうしたい、という明確な夢はなかった。

一応、その時の七夕には「エミリアをお嫁さんにする」と書いたが、職業的なことについては何になりたいのかは全く考えてなかった。

 

 

「……よく考えたことはなかったですね。それに比べて少佐は素晴らしいです。夢を持ち、ちゃんと叶えることができて――」

 

「だがここまで来るのに苦難の連続だった。死ぬほど努力してきて決して楽というのは少しもなかったよ」

 

「………………」

 

「現状況でこれはスゴく不謹慎で言いづらいことだけど、私はこの戦争が終わらない限り、ずっと空を飛びつづけられると思っている。

決して戦争がこれ以上続いてほしくないの本心だ、だが……このまま出来るだけ夢が覚めないでいてほしい気持ちもあるよ」

 

 

――その時の少佐は寂しそうだった。この戦争が終われば自分はもう空に飛べなくなるかもしれない、しかしどうしようもなく受け入れるしかない、という空虚な気持ちを十分に感じた。

ちゃんとした夢を持たない僕が、複雑な心境を持つ少佐にどう言葉をかければいいか全く思いつかなかった――。

 

「まあこんなことを言っても始まらないな。とりあえず明日の作戦に集中しないとな。

竜斗君、今作戦もよろしく頼む。君達ゲッターチームの力を期待しているよ」

 

「少佐……僕達からもどうかよろしくお願いします。必ず勝利できるよう全力で頑張りますからっ」

 

「ああっ」

 

二人は握手を交わして互いの健闘を祈った――。

 

その夜の各隊員はそれぞれどんな思いを抱いてたのだろうか。

家族や友人達と最後まで楽しく触れ合う者、部屋でこれまでの人生をまるで走馬灯のように追憶する者、隊員同士で酒を飲みながらワイワイ楽しい一時を過ごす者、誰か宛てに手紙を書くもの、自身の信じる神に祈る者……それぞれが来る明日の夜の大決戦を前に悔いの残らぬような行いをしていた。

 

――そして、次の日の午後六時前。パイロットスーツに着替えた竜斗、エミリア、愛美は司令室に集まり早乙女から指示を受けていた。

 

「戦地となるアラスカは雪が残り平地が多いが同時に崖や渓谷など、傾斜が多く入り組んでいる所も多く非常に戦いにくいだろう、さらに今回は夜間戦闘になるために尚更だ。暗視モニターとレーダーをよく活用して戦ってくれ」

 

「了解です」

 

「分かっていると思うが絶対に孤立するな。味方というのを最大限に生かして戦うのも戦術の一つだ、だが何から何までくっつくのもミスだからそこは臨機応変に対応してくれ。あとエミリア」

 

「は、はいっ!」

「大雪山の戦闘でもそうだったが、途中でまた泣き言を言いそうなら戦闘に参加しなくてもいいからな」

 

彼にそう言われると顔をプンプンさせるエミリア。

 

「ば、バカにしないで下さい、ちゃんとやり遂げてみせますっ!」

 

「神に誓うか?」

 

「もちろんです、ワタシだって前のアタシじゃありません。ちゃんと成長したと言うコトを見せます!」

 

睨みつけるような早乙女に負けないような挑戦的な瞳で対抗した。

 

「……よし、分かった。では成長した君に期待している、頑張れよ!」

 

「はいっ!」

 

「では解散して準備に取りかかってくれ――」

 

すると、何故か竜斗が手を上げてこう提案した。

 

「みんなで気合いをいれるために円陣組みませんか?」

 

「ワオっ、いいねそれっ」

 

「良いこというじゃない、石川!」

 

提案すると二人は賛同し早乙女も頷き、自ら乗り出した。

 

「確かに今までそんなことやらなかったしな。よし、やるかっ」

 

「…………」

 

「照れてるのかマリア?」

 

「え、ええ……こんなこと、あたし初めてですから……」

 

「いいじゃないか。私達ゲッターチームの団結力をさらに深めるのにいい」

 

「は、はあ……」

少し恥じらいがあるのか踏みとどまっているマリアに竜斗が手を差し伸べる。

 

「マリアさん、やりましょう。同じゲッターチームじゃないですかっ」

 

「そうですよ、マリアさんだけやらないと意味がないですよ」

 

「そうよそうよっ」

 

「みんな……っ」

 

「マリアもそんなことで恥ずかしがってないでせっかく竜斗がみんなが頑張れるように提案したんだから君も参加しろ」

 

「……そうですねっ、ごめんなさい」

 

全員から促されたマリアもその気になり、ついに乗り出した。

五人は肩を組んで円陣に作り姿勢を低くした。

 

「今回も絶対に戦闘に勝ち、そしてみんな生きて帰るぞ!!ゲッターチーム、行くぞーー!!」

“オーーーーっっ!!”

 

五人は揃えて大声を上げて気合いと団結力を断固なモノとした。

 

「私からは、危なくなったら絶対に無理をせず後退すること。または岩や窪み、崖や傾斜などの障害物を盾として使うことを覚えておくと役立つわ」

 

「三人共、絶対に生きて日本に帰るために全力を尽くせ、いいなっ」

 

「「「はいっ!!」」」

 

解散して部屋を出た三人はすぐさま格納庫へ走っていった。

 

「意外とノリノリだったじゃないか、マリアも」

 

「ええ、意外にノレますね」

 

「だろ?さて、我々もベルクラスを発進準備するか。各武装、機能の調子は?」

 

「全てオールグリーンです」

 

「よし、後は自分達の実力と運命に身を任せるか――」

 

そして三人も格納庫に付き、各ゲッターロボに乗り込む前に三人は互いに顔を合わせる。

 

「いよいよだな。大丈夫、二人とも?」

 

「うん、今回も絶対に何とかなると思うよ。なっつったってアタシ達は無敵のゲッターチームだからね」

 

「アイツラなんか今回もケチョンケチョンで返り討ちにしてやるからマナに任しときなさいっ」

 

二人の調子具合に彼も安心し、手を差し出した。

 

「エミリア、水樹。司令も言っていたけど絶対に俺達生きてベルクラスに帰ろうな」

 

「うん。また司令とマリアさんに笑顔で会えるために頑張ろうね」

 

「ええっ」

 

互いに手の平を上に重ねて「生きて帰る」と強く念を込めた。

 

「ゲッターチーム、行くぞ!」

 

「「オーーーーッ!!」」

 

 

――ついに始まるアラスカでの、アメリカ史上最大の決戦。向こうはどれだけ強大で、どんな罠をして待ち受けているか見当がつかないがそれでもゲッターロボやステルヴァー他の高性能のSMB、そしてそれらを操る自分達の腕前はどんなに困難な戦況になろうときっと打開してくれると、僕は信じて疑わなかった――。

 


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